軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おい、上から被さるな

「そらよっ、と……」

僕は思いっきり嘆息すると、勢いよくベッドにダイブした。

ふわっ、と。

柔らかな感触が返ってきて、僕は久々にリラックスした気分を味わった。さすがはレイの別荘なだけあって、置かれている家具はどれも一流のものばかりだ。

「アリオス様。お疲れ様です」

ノックの後に現れたのは、メアリー・ローバルト。

僕の専属メイドだ。

薄着に白エプロンを身にまとっているだけの姿は、彼女のボディラインを嫌でも想起させる。

「メアリー? どうした」

「お疲れだろうと思いまして。さっきまで連戦が続いていたんでしょう?」

「ああ……まあね」

アルド家では思いがけない戦闘が何度も続いた。

アルセウス救済党の構成員のみならず、ダドリーやリオン、そしてジャック。

実に色々あったものだ。

別にどこかを負傷したわけではないが、心身ともに疲弊しているのは間違いあるまい。

「ですからマッサージしにきました。アリオス様はそのまま横になっていただいて大丈夫です」

「そ、そうか……」

マッサージか。

そんなこと、メアリーにできたっけ?

料理や掃除などの家事全般は得意だと思うが、マッサージしているところは見たことがない。

「えいっ」

「おおっ」

想定通り……というべきか、かなりぎこちない仕草だった。彼女なりに頑張って背中を刺激してくれているが、これじゃない感が強い。

「…………」

そういえば、アルド家から帰還したとき、メアリーは村の入口で待っててくれてたっけ。

顔もだいぶ疲れ果てていた。

かなり眠かっただろうに、それでも僕を待っててくれたんだ。

ぽとり、と。

僕の背中に 滴(しずく) が落ちた。

それが彼女の瞳から落ちたであろうことは――容易に推察できた。

「どうですか? アリオス様。ご気分のほどは……」

「ああ。メアリーは上手だな。疲れが取れていくよ」

「そうですか。よかった……」

再び、滴が僕の背中に落ちる。

「アリオス様。ご存知の通り、私は《外れスキル》の所持者です。ですからレイ様やエム様のように戦闘に参加することはできません。ですから……アリオス様のお力になれないことが、どれだけ歯がゆいことか……」

「メアリー……」

「アリオス様が強いことはわかっています。私ごときが心配する必要がないことも。――ですが、そうとわかっていても不安は拭えず……。こんな私は、愚かでしょうか……?」

「いや。そんなことはないさ。君が待っていてくれて……嬉しかったよ」

こんなに多くの人に想われているなんて、僕はなんと幸せ者だろう。

「これからも迷惑をかけるかもしれない。だけど君が嫌じゃなければ……ずっとそのままでいてほしい。それで充分さ」

「アリオス様……ありがとうございます」

そうだ。

僕が戦う理由は、ここにもあったんだ。

メアリーの懸命なマッサージを受けながら、再び決意を新たにするのだった。

「そうだ……アリオス様」

「ん?」

「なんだか冒険者さんたちが慌ただしく動いていましたけど……また、なにかあるんですか?」

「ああ、それはだな……」

首を傾げるメアリーに、僕は順を追って説明していく。

まずアルド家の後処理に関しては、ギルドマスターのアルトロが手配をしてくれた。

そしてギルド職員たちが、気を失った構成員たちを次々と拘束してくれていったんだ。

その際、影石は別途で回収済みだ。あれを使われたらどこへ転移されるかわからないからな。

そういうわけで、いま現在は、王都の冒険者ギルドにて構成員たちを拘束している。ラスタール村のギルドとは違い、王都のギルドはかなり巨大だからな。

だが、ここで問題がひとつ。

いままでは、構成員の後始末をすべて王国軍に任せていた。

ルーレ村近くのアジトを制圧したときも、王国軍が後始末を手伝ってくれたしね。

だが――この期に及んで、連中を当てにすることはできない。

アルセウス救済党のトップ3――ジャック・イレーグは王城に潜んでいた。それのみならず、エムそっくりな 人造人間(ホムンクルス) までが大勢いた。

となれば、結論はひとつ。

――王国とテロ組織の癒着。

いま考えてみりゃ、おかしな話だよな。

以前捕らえたはずの構成員がまんまと逃げおおせたのも――このあたりが原因かもしれない。

表向きは《不可思議な力を使われた》としておき、その実は両者とも結託していただけ。

なんとも笑い話だ。

反吐が出る。

だが――だからこそ予断の許さない状況でもあるわけだ。

このままでは、王国軍がなにをしてくるかもわからない。訳のわからない大義名分をひっ下げて、構成員の受け渡しを要求してくる可能性もある。

そしてまた、アルセウス救済党のトップ3が倒れたことで、敵側もパニックに陥っていることは間違いない。

だからおそらく、早いうちになにかしらのアクションを起こしてくるに違いない。それが僕の見立てだった。

もちろん、レイやアルトロたちも同意見のようで。

このため、数時間だけ休んだあと、すぐにラスタール村のギルドにて打ち合わせを開始する。

その手筈になっていた。

「なるほど……そうでしたか」

一通りの説明を聞いたメアリーは、また心配そうな声を発する。

「ごめんな。メアリーには迷惑かけるけど、絶対に生きて帰るから……」

「ふふ。大丈夫ですよ」

「!? おい!」

おい、急に上から抱きしめられたんだが。

「待ってますから。絶対、絶対……無事に帰ってきてくださいね」

「……そういうのを死亡フラグって言うんだが」

「へ?」

「あ、いや。なんでもない」

僕は咳払いをかまし、決意を込めて言った。

「絶対帰ってくる。だからもう、心配しないでくれ」

「ふふ……下敷きにされながら言うセリフではないですね」

「おまえが言うな!!」

こういうところも相変わらずのメアリーだった。