軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おい、これはシャレにならんぞ

しん、と。

周囲は沈黙に包まれた。

あれほど騒がしかった観客も。

僕を熱烈に応援していたレイたちも。

いまこの瞬間だけは、誰も喋らなかった。

「…………」

剣聖候補のダドリー・クレイスは、突きつけられた剣を見て、口をパクパクさせている。

よほど信じられないんだろうな。

自分の敗北が。

外れスキル所持者に負けてしまったことが。

「嘘……だろ……」

目を白黒させつつも、なんとか起きあがろうと足掻くダドリー。

「無駄だ。まだまだ起きあがれないだろう」

「ちくしょう……なんで……」

「見えてるんだよ。僕にはな」

ダドリーの右足のゲージは依然赤色に染まったまま。この状態で動きだすのは困難だろう。

「くそ……ありえねぇ……」

剣聖候補は、諦めたようにそう吐き捨てた。

「やったー!!」

「アリオスさぁん! やりましたね!」

レイとカヤが遅れて声援を贈ってくる。

「はは……あの二人は……」

戦闘中も妙に騒がしかった二人の喜びようは、僕まで嬉しくなるほどだ。

――終わった。

僕を縛り付けていたマクバ家の因縁も、これで。

一方その頃。

剣聖リオン・マクバは、目玉が飛び出るほどの衝撃を覚えていた。

呆けたまま会場を見つめている自分はさぞ情けないだろうが、それすら気にならないほどに。

「信じられん……ダドリーが、負けた……!?」

万が一に備えて、いつも懇意にしている最高の魔術師を用意した。ダドリーの各種能力を、最大限に上げられるように。

剣聖候補たるダドリーに対し、アリオスは外れスキルの所持者。

準備は万端なはずだった。

なのに。

「なぜ。なぜだっ……!」

「――リオン殿。君は何度、私に嘘をつけば気が済むのかな」

「――ッ!! レ、レイファー殿下……!」

「君は勝てると言ったね。この決闘に」

「は、はい……」

「だったら これで(・・・) 終わらせるな。さもなくば――わかっているね?」

「し、承知しました……!」

第一王子レイファー・フォ・アルセウス。

次期国王の器と評されるだけあり、その風格はリオンでさえ恐縮してしまうほど圧倒的だった。

「か、必ずやダドリーに勝たせます。しばしお時間をください!」

「うむ。間違いのないようにね」

このとき、リオンは気づいていなかった。

レイファーが、人知れず笑みを浮かべていることに。

「ふぅ……」

僕は大きく息を吸い込むと、眼下で這いつくばるダドリーを見下ろす。

勝負は完全に諦めたようだな。

もう抵抗する様子さえない。

終わったんだ。

これでなにもかも。

そう思いながら、僕は剣を鞘におさめる。

「うっ……!?」

――身体が妙に重くなったのはそのときだった。

突然重いものにのしかかられた感覚に襲われ、僕はその場に這いつくばる。あまりの重力に、まともな身動きすら取れなくなる。

――馬鹿な。どうして。

実際に重い物が乗っているわけではない。なのになぜ――!?

コロン、と。

倒れた衝撃で、懐に抱えていた《漆黒の宝石》が僕の元を離れた。ころころ地面を転がっていく。

その球体は――光っていた。

かつてレミラが魔力を流し込んだときと、まったく同様の現象だ。

……おい。

いやいや待てよ。

なぜ魔力が飛んできてるんだ?

よもやダドリーの仕業ではあるまい。いままでの戦いでわかった通り、こいつは魔法が使えない。

であれば、残る答えはひとつ……

「ダドリー! いまだ! やれ!」

瞬間、剣聖リオンの叫び声が響きわたった。

「アリオスはいま、ダドリーの 能力(・・) に苛まれている! やるならいまだッ!!」

――やはり、そういうことか。

剣聖リオン・マクバ。

この戦いをどうしても勝ち抜くために、なんとも姑息な手を……!

「な、なんだ、勝負はもう終わったんじゃないのか……?」

「なんかアリオスの様子、おかしくね?」

「リオン様もなにか異常な感じだが……てか、ダドリー様にあんな能力ないだろ? なに言ってんだ?」

さしもの観客たちも違和感を抱いている様子。

だが、事態はそれどころではない。

――フォォォォォォォォオオン……

魔術師たちの魔力にあてられてか、漆黒の宝石がいままで見たことのないほどに輝きを増す。

――おそらくじゃが、この宝石は一定の魔力量を注ぎこむことで回路が活性化し、力を発揮するのじゃろう。そこまでは一般の魔導具とさして変わりない。じゃが、それだけで魔物を呼び寄せるなんぞ、常軌を逸しておる――

魔導具師レミラの言葉が思い出される。

まずい。

そんなに大量の魔力を注ぎ込んだら……!

「リオンっ……! いますぐやめさせろ! 取り返しのつかないことになるぞ!」

「ダドリー! やれ! アリオスを倒すんだっ!」

僕の叫び声は、しかしリオンには届かない。勝利を求めるあまり、我を見失っているように見える。

「へ……へへへ……これなら足が動かなくても関係ねぇや」

頭上からダドリーの嫌らしい声が降ってくる。と同時に、奴が剣を握っている気配も。

「反撃のときだ。さっきのお返し、たっぷりとやらせてもらうぜ……!」

「やめろ。そんなことをしてる場合じゃない!」

「へへへ、負け惜しみを――」

瞬間。

世界が、変わった。

心なしか薄暗くなった空を背景に、巨大な《漆黒の影》とでもいうべき魔物が出現する。人型さながらに手足があり、目の部分は紅く光っている。その大きさは、人間とは比べるべくもないが。

「…………」

魔物についてそれなりに知識のある僕でも、こんな魔物は見聞がない。

だが、これだけはわかる。

こいつは、いままで戦ったどんな魔物よりも強いと――

「え…………」

さっきまで勝ち誇った表情を浮かべていたダドリーが、ぽかんと口を開ける。

「な、ななななな、なんだよこいつ!」

「ゴォォォォォォォォオ!!」

漆黒の影は、ダドリーに向けて右腕を振り払う。

それだけで大ダメージだったのだろう。

「ぷげぽっ」

ダドリーは情けない悲鳴をあげながら吹き飛んでいく。しかも立ち上がる気配もない。壁面に激突したまま、白目を剥いて倒れている。

僕とても、あと数センチ差であの腕に持っていかれるところだった。

くそ、言わんこっちゃない……!!

「お、おいおいおいおい! なんだあれ!」

「アリオスの奴、さっきリオン様になにか叫んでたが、まさかリオン様が……?」

「いやいや、まさかそれは……」

観客たちも、それぞれどよめきを発していた。