軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おい、後で絶対に説教してやるからな

「………………っ‼」

翌日。

目を覚ました僕は、目の前にありえないモノを見た。

――アンの胸部である。

「で、でかい……っ!」

って、そうじゃなくて。

なにがどうなってるんだ。

昨夜、僕とアンは距離を置いて寝床に着いたはず。

アンはベッドで、僕は床上で。

ベッドは大きいし、寝ようと思えば二人で寝られるが――

万が一にも間違いがあったら困るからな。念のため、距離を置いて寝ることにしたのだ。

なのにいま、アンの胸部が目の前にある。

なんだ。

なにがどうなっている……⁉

「ふふふ。アリオス様ぁ~」

「…………っ!」

駄目だ。

下手に動いたら逆にまずいことになりそうである。

「な、なんで僕はいつもこうなるんだ……」

レイといいエムといい、この状況にはデジャブしかないんだが。

次はもう、仕切り板でも買うしかない気がする……

結局僕は、アンが寝返りを打つまでぴくりとも動けないのであった。

「アリオス様ー、おはようございます」

数十分後。

無事(?)に僕から離れた位置で起床したアンが、実に呑気な挨拶をかましてきた。

「あれ? アリオス様、どうしてもうそんなに疲れてるんですか?」

「……ああ、なんでだろうな。まったく……」

結局、僕はあれから一睡もできなかった。

下手にアンに手を出したことになってしまったら、のちのち面倒なことになりかねないからな。またアンが近寄ってくることがないよう、鋼の意志で起きているしかなかった。

――まあ、問題ない。

睡眠の時間自体はたっぷりと取れたし、活動そのものには支障ないだろう。

「ほんとにどうしたんですか、アリオス様? 顔、赤いですよ?」

「もういい。おまえは黙っとれ……」

僕はため息まじりにそう答えると、気分を切り替えて言い直した。

「そんなことより、今日から改めて聞き込み調査を開始するぞ。はやく出発の準備をしてくれ、アン」

「はーい!」

朝一から快活な返事をするアンだった。

さて。

今日は午前中、僕とアンで“聞き込み調査”を行う予定だ。

かの剣士Fは、この港町ポージが「すべての始まりになる」と言っていたからな。

もちろん、あいつの言葉をすべて鵜呑みにするわけにもいかないが……

あそこまで言われた以上、なにも調べないわけにはいかないだろう。

ここ最近、港町ポージでなにかしら異常が起きてないか……アンとともに調査する予定だ。カーナには軍の情報網を活用し、世界各地における異常事態を調べてもらう手筈になっている。つまりは当分、別行動になるということだな。

「……アリオス様、本当にその姿で行くんですか?」

港町ポージ。

その町並みを歩きながら、アンがジト目で見つめてきた。

「もちろんだ。仕方ないだろ」

「仕方なくないですよ! 私はかっこいいアリオス様が好きなのに……っ!」

「……そんなこと言われてもな。“普通の姿”じゃ調査がしにくいんだよ」

そう。

僕はあらかじめ、宿のなかでチートコードの《性転換》を使用していた。

これもあってか、昨日みたいに人だかりができることはない。

準元帥アリオス・マクバはいろんな意味で有名になってしまったからな。静かに行動したいときには、このように姿形を変えるのが最も手っ取り早い。

異世界人も間違いなく僕を警戒しているだろうしね。

だからしばらくは、折を見て《性転換》もしていく予定だ。

「あのー、すみません」

まずは近くにいた少年に声をかける。

年齢はたぶん16,17くらいか。いまから運動でもするつもりなのか、そそくさと準備体操にいそしんでいる。

「え、あ、ハイ!」

いきなり話しかけてびっくりしたのだろう。少年は僕を見つめるなり、顔をめちゃくちゃ赤くした。

「あの……お訊ねしたいことがありまして。ちょっとお時間いいですか?」

「えっ、あ、ハイ! もちろんですハイ!」

なんだろう。

妙に顔が赤い気がするが、いったいなぜだろうか。

「あら……」

そしてどういうわけか、アンがすごく面白そうな表情を浮かべている。

いったいなにを考えているのか不明だが――まあいい。

いまは調査のほうに集中しなくては。

僕は改めて少年に顔を向けると、さっそく本題に切り出した。

「もし見覚えがあったらでいいんですけど。最近、町の様子がなにかおかしかったり、不審な人物を見たり……そういうことはなかったですか?」

「不審な人物……ですか」

少年はそこで数秒だけ考え込むと、声を絞り出すようにして告げた。

「そうですね……不審な人物といえば、灰色の鎧をまとった人影は見た覚えがあります」

「灰色の、鎧……」

そこで僕とアンは同時に顔を見合わせた。

「ええ。といっても、この霧なんでよくは見えなかったんですけど……。なにか、急いでいる様子に見えました」

「急いでる……」

灰色の鎧といえば、まず間違いなく剣士Fのことだろう。

あの剣士Fが、なにかを急いでいた……?

もちろんこの情報だけではよくわからないが、初手から思わぬ収穫を得られたな。

「他に、その人影についてなにか気になることはありませんでしたか? なんでもいいんですけど……」

「ええっと、そうですね……」

少年はそこで顎をさすると、少し恥ずかしそうに告げた。

「実は俺、 ある人(・・・) に憧れてて。その人に少しでも近づけるよう、毎日剣の修行をしてるんです」

「剣を……。そうなんですね」

うん。

それは一目見たときから思っていた。

彼の身のこなしはかなり清廉されているし、まだ若いのにあまり隙がないからね。

「だから、わかるんです。剣士Fが、あのアリオス準元帥と少し似ていたことが」

「は……?」

なんだ。

いきなりなにを言うかと思えば、剣士Fと僕が似てるだって……?

「もちろん、似てるっていっても雰囲気だけです。身のこなしとか、気配の消し方とか……ちょっと似てるなぁって……。でも微妙に違うので、ご本人ではないと思うんですけど」

そりゃそうだ。

僕は剣士Fじゃない。

こんなところで同一人物と思われたら困る。

「でもあなた……すごいですね?」

ふいにアンが会話に割って入ってきた。

「アリオス準元帥の《気配の消し方》までわかるなんて……。相当なファンなのかしら?」

「ええ、それはもちろんです!」

くわっと少年が目を見開いた。

「ダドリー・クレイスとの決闘は、見てて痺れました! 今までは惰性で修行してたんですけど、あの試合を見て、もっと頑張らなくちゃなって思ったんです!」

……な、なるほど。

あの試合を見たからこその《ファン》か。

「だ、そうですよ?」

アンがいたずらっぽい目で僕にウィンクしてきた。

「アリオス準元帥、かっこいいですからね。私が取り入る隙もないくらい♪」

「そ、そうね。おほほほほ……」

こいつ……あとで説教してやる。

と。

そんな僕らの様子を見て、少年が疑問を投げかけてきた。

「そ、そういえば、あなたたちはいったい……? こんなことを聞いてくるなんて……」

「あ、そうですね。えっと……」

やばい。名前を考えてなかった。

僕は速攻で思考を巡らせると、自分でも呆れるほどのネーミングセンスを発揮して答えた。

「アリコと申します。アリコ・クレイス……。訳あって、この町の調査をしてまして……」

やばい。

咄嗟に考えたからか、あのダドリーの家名と被ってしまった。

「アリコさん……ですね。わかりました」

ふむふむと頷く少年。

よかった。納得してくれたようだ。

「あの……俺の名前はレニアス・アーベルンといいます。どうか、えっと……」

「? どうかしましたか?」

「あ、いえ! やっぱりなんでもないです! 失礼しました!」

少年――もといレニアスは、なぜか深々とお辞儀をしたあと、走り去っていった。