軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たなる日々へ

「こ……これは予想以上ね……」

王城。そのバルコニー。

そこに訪れたカヤは、思わず目を見張った。

とんでもない人通りだ。

さっきの大通りもなかなかの人混みだったが、ここはその比ではない。人がぎゅうぎゅうに押し詰められ、立っているだけでも体力を持っていかれる。

そんな状況でも、人々がここに集まる理由はひとつ――

かつて《バトルアリーナ会場》においてダドリーを倒したばかりか、ヴァニタスロアを退治した英雄。

レイファー第一王子とアルセウス救済党の結託を察知し、二人の陰謀を阻止した超人。

アリオス・マクバ。

彼が準元帥となることに、多くの人が期待しているのだ。

「アリオス様、もういらっしゃるかな……!」

「推しの勇姿をこの目に収めないと……!」

驚くべきことに、女性ファンも相当数いるようだ。そこでアリオスは《推し》となっている模様。

「なに言ってんのよ。私はアリオスさんが有名になる前から凄さに気づいてたんだから」

「カ、カヤ? どうしたの?」

「あ。ほ、ほほほほほほ。なんでもないわ」

エリサに突っ込まれ、作り笑いを浮かべるカヤ。

思わずやばいことを口走ってしまった。

反省反省。

「でも、そっか……。アリオスさんもレイも、こんなに大きくなったのね……」

片や剣聖の息子、片や王族。

もともと有名な二人ではあったけれど、こうして大勢の人々から指示されるほどの功績を収めたわけだ。

そこは素直に賞賛せねばなるまい。

「おめでとう、二人とも……」

本当によかった。

特にアリオスは将来について悩んでいたようだし、落ち着くところに落ち着いた形だろう。

よかった。本当に……

と。

「わーー!!」

「きたきたきた!!」

「アリオス様ー!」

「レイミラ王女殿下、すごくお綺麗になられて……!!」

歓声がひときわ高まり、カヤは思わず目を細めた。

視線を王城のバルコニーに上向けると、そこには二人の影が。

アリオス・マクバ。

そしてレイミラ・リィ・アルセウス。

コーディネーターに指示されたのか、二人ともいつになく豪勢な服を身にまとっている。

いや――それだけじゃない。

二人の首にかかっているアクセサリーに、カヤは見覚えがあったのだ。

「あ、あれは……」

思わず両手で口を覆ってしまう。

まさかあのアクセサリーは。

でも。

あれは私が一方的に押しつけたもので、戦闘にはなんの役に立たないもので。

なのに、二人は。

「カヤ。あなたは振られたわけじゃないと思うわよ」

もう高いところに行ってしまった二人を見上げて、エリサが小さく笑う。

「アリオスさんは、あなたのアクセサリーを受け止めてくれた。もちろん一人で多くの人を愛するわけにはいかないから――ああいう形で、カヤの気持ちを受け止めてくれたんだと思う」

「アリオスさん……」

本当に遠くにいってしまったな。

昔は私が慰める側だったのに、いつの間にあんな遠くへ。

この上なく切ない反面――いまのカヤには、また別の感情も浮かんでいた。

「頑張ってください、アリオスさん。私は、ずっとずっとあなたを応援していますから……!」

王城。そのバルコニー。

眼下では、多くの国民たちが僕たちに黄色い目を向けていた。憧れの目を向ける者、歓声をあげる者……その数、先日のバトルアリーナ会場よりも多いのではなかろうか。

それだけ、多くの人たちが僕たちに期待してくれているということだろう。

「うはぁ……こりゃすごいね……」

レイが珍しくも緊張の表情を浮かべていた。

「なに言ってるんだ。レイは王族だから慣れっこじゃないか?」

「そ、そんなことないよ。私はずっと虫取りとか川遊びとか……って、言わせないで!」

ぽかっ。

おい、いきなり殴られたんだが。

「まったく……おまえは昔っから変わらないな……」

「アリオスは緊張しないの? こんなに人がいるんだよ?」

「そうだな……緊張するといえばするけど。でも、これが僕の目指してた道でもあるしな」

「目指してた道……」

そう。

僕がレイの盾となり、剣聖として彼女を護衛し続けること。

まだまだ真の剣聖には届かないけれど、それが、僕の目指していた夢だったから。

「だからやり抜くさ。なにがあっても」

そう言いながら、僕はカヤからもらったアクセサリーをさする。

「アリオス……うん。そうね」

それが僕の答えだ。

カヤの想いに応じるためにも、みんなの期待を裏切るわけにはいかない。

と、ふいに。

わああああああああっ、という歓声が沸き起こった。

ふと横に見れば、アルセウス王国の現国王――ユーフェス・シア・アルセウスの姿。

「お、お父様……」

「ふふ、立派ですよ。レイミラ」

国王は優しげに微笑むと、どこか懐かしそうに王都の風景を眺めた。

「一介の父として嬉しく思います。あなたがここまで成長したことを」

そして国王はさらに一歩前に進み出ると、大きく声を張り上げた。なんらかの魔法を用いているのか、ちょっとした発声で眼下の国民全員に届く声量となっている。

『国民の皆様、おはようございます! 第七十六代国王、ユーフェス・シア・アルセウスです。この度は、多くの国民の皆様にお集まりいただいたこと、非常に嬉しく思います!』

国王は形式的な挨拶を述べたあと、ついに本題に切り出す。

『レイファー・フォ・アルセウスの失脚により、国民の皆様におかれてはさぞご不安を感じたでしょう。私も国王として、深く反省し、あのような惨劇を起こさぬよう気を引き締めて参ります。……そしてこの度、我が国を守るために、二人の有望な若者が立ち上がってくださいました!』

国王の視線がちらりとレイに向けられる。

「…………!」

レイは緊張した面持ちで頷くと、最後に僕を見つめてきた。

「頑張れ」

「うん……!」

小さく頷くと、王太女は少しずつ歩を進めていく。

果たして国王の隣に並ぶと、大きく息を吸い込み――王女さながらの、毅然とした態度で声を張った。

『ご紹介にあずかりました、第二王女レイミラ・リィ・アルセウスです。この度、国王陛下の命を受け、王太女の任を授かることとなりました』

おおおおおおおおっ!

という歓声が再び沸き起こる。

やはりレイに対する信頼はかなり厚いみたいだな。

知略もレイファーに並ぶし、魔法の腕も申し分ない。僕から見ても、次期女王の座にふさわしい王族といえよう。

『そして』

やや沈黙を作ったあと、国王が僕をちらりと見ながら続ける。

『そんなレイミラ王太女を支えるべく、もうひとりの若者が声をあげてくださいました。かつては《外れスキル所持者》と呼ばれていたようですが、いまもなお、彼をそのような名で呼ぶ者はいないでしょう』

……とうとう出番か。

僕は大きく息を吸い込むと、一歩、また一歩と前に進む。

そのたびに観客の歓声が大きくなり、より強い熱気に包まれる。国民みんなの視線が一斉に集まり、かつてないほどに胸が高鳴る。

「うわぁー!」

「アリオス様ぁー!」

バルコニーの柵に到達した僕を、多くの国民が見上げていた。

……アリオス様、か。

感慨深いよな。

実家を追放されたときは、それこそこうやって多くの人々尊敬されるなんて思ってもいなかった。

胸のうちに込み上げてくるなにかを抑えつけながら、僕は予行演習通りの言葉を紡いでいく。

たったそれだけで僕の声が大きくなり、周囲に拡散された。

『……ご紹介にあずかりましたアリオス・マクバです。この度は皆様にお集まりいただいたこと、嬉しく思います!』

「アリオスさぁぁぁぁーーん!」

と。

ふいに大声で呼びかけてくる者がいた。

そちらに視線を向けると、なんとそこにはカヤ・ルーティスの姿。

涙目ながらも、ぶんぶんと片腕を振っているのがわかる。

「頑張ってください! 私、私、ずっと、ずっと応援してますからーーーー!」

……その姿に心打たれない者がいるだろうか。

――カヤ。

本当に、ありがとう。

うっすら目に滲んできた滴を振り払い。

僕は続けて言葉を発した。

『国王陛下の命を受け、この度、準元帥の名を拝命することと致しました! どうぞよろしくお願いします! そして……』

僕はちらりと後ろを振り向く。

実はもう一人、ここに立つ人物がいるのだ。

僕が小さく手招きをすると、その人物はおそるおそるといった様子で歩み寄ってくる。

『準元帥の補佐として、彼女――エムも動いてくれることとなりました。彼女は第0師団の師団長として動いてもらいます!』

『よ、よろしくお願いします……!』

僕の言葉に続いて、エムがぺこりと頭を下げる。

第0師団。

それが、僕の準元帥の就任にあたって新たに設立した師団だった。

一言で表すならば、《実験体N》と呼ばれていた者たちの集団である。

アウト・アヴニールに眠っていた少女たちをどうするか……そう考えた末に行き着いた結論がこれだ。

もちろん強制させるつもりはないのだが、驚くべきことにみんな喜んで引き受けてくれた。人の役に立てることが嬉しいらしい。

そんな少女たちの先頭に立つのが、エムというわけである。

今後、エムや実験体Nとともに協力しながら動いていくことになるだろう。

「アリオス様ー!!」

「頑張ってくださいーーっ!」

眼下では、僕らに大きな期待を寄せている国民たちが、いまもなお声援を送ってくれている。

「アリオス殿ー、ワシは信じておったぞー!」

「アリオス様、素敵です!!」

そのなかには、カヤのみならず、メアリー、ユウヤ、アルトロ、ラッセンもいた。

みんな僕を応援してくれている。

「ありがとう、みんな……」

誰ともなしに呟くと、僕は右手を前に突き出しながら、大声を張った。

『我が国はきっと守り抜いてみせます! アルセウス王国に永久の平和を!!』