軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゼーグ島~1日目~

「オリビアは?」

オリビアの寝室。

ベッドの傍らに立って天蓋カーテンを纏めていたミナに、室内に入ってきたシリウスが声を掛けた。

「まだ就寝中です」

「そうか」

昨晩はシリウスの仕事の都合で夜半過ぎにこの島に到着した為、オリビアはいつもより睡眠時間が短かった。

だからだろう。

いつもならカーテンを開ける音で目覚める彼女だったが、今朝は珍しくぴくりとも動かずにシーツに包まったまま深い眠りの中にいる。

シリウスはそんなオリビアの側まで歩くと、口元に柔らかい笑みを浮かべたまま手を伸ばし、頭を優しく撫でた。

このままにするか、それとも起こすか。

予定では、今からきっかり2刻後にブラックレイとの顔合わせがある。

ミナはシリウスの指示を傍らでじっと待っていた。

すると、程無くしてオリビアの長い睫毛がふるふると震える。

目覚めが近いのだろう。

ミナは傍らに立つシリウスに一礼してベッドから下がると、オリビアの為に紅茶を蒸らし始める。

「ん…」

微かな声と共にオリビアの瞼がゆっくりと開き、軽く寝返りを打つ。

視点の定まらないその瞳は、どこか遠くをぼーっと見つめている。

その瞳はまるで夜空の流星を思わせる様に瞬き、見慣れているはずのシリウスでさえ息を飲んだ。

きっちりと首まで詰まった夜着と、シーツの上に流れる様に広がる艶やかな髪。

唇はまるで口付けをねだるかの様に無防備に開き、寝起きでありながらハッとする妖艶さを醸し出している。

ここ数年、オリビアの外見は大きく成長を遂げていた。

可愛らしかった外見は誰が見ても思わず跪きたくなる程の人間離れした美貌へと変化し、栄養が行き届いていなかったせいでガリガリだった身体も、今や見事な曲線を描いている。

オリビアは常にシリウスの指示で露出を出来る限り減らしたドレスを着ているのだが、それが却って彼女の素晴らしい体型を強調させていると、ミナを含めて周りの者達は常々思っているのだが、その辺りは突っ込まない事にしていた。

「おはよう、オリー」

シリウスは屈み込んで顔を近付けると、とんでもない甘い声でオリビアの耳元に囁く。

いつもの事なのでミナは無表情でスルーしているが、もし年若い女性が初めてこの声を聞いたなら、間違いなく卒倒するだろう。

「おはよ…」

オリビアは瞳に映り込むシリウスの顔をぼーっと見つめていたが、無意識に両手を広げて彼の首に手を回して子猫の様に擦り寄った。

シリウスは最高に機嫌良さそうにオリビアの頭や頬、鼻先に唇を寄せると、仕上げとばかりに朝から濃厚な口付けを贈る。

オリビアは未だ完全に覚醒していない様で、特に抵抗する訳でも無くされるがままにその行為を受け入れていた。

シリウスはしばらく寝起きのオリビアを堪能すると、ベッドから抱き上げて立ち上がる。

「起きるかい?それとももう少し眠る?」

シリウスの優しい問いに、オリビアは目を擦りながら首を左右に振る。

「…お、きる」

「そう、えらいね」

シリウスはオリビアを抱いたまま近くのソファーに腰を下ろすと、ミナから差し出された紅茶をソーサーごと受け取りオリビアに差し出す。

「ありがと…」

オリビアはカップを持って、適温に調整された紅茶を一口飲む。

「おいし…」

吐息と共に出たオリビアの呟きにミナは嬉しそうに微笑むと、彼女の前に朝食を並べ始める。

「ゆっくり食べるといい。その後支度が出来たら執務室に来てほしい。紹介したい者達がいる」

「うん。シリウスは食べないの?」

「すまない。先に済ませた」

シリウスはオリビアの前髪を指先で弄びながら答える。

「そっか。分かった」

「それじゃあ、また後で」

シリウスはオリビアを膝から下ろすと、頬に優しく口付けを贈った後に部屋から出て行った。

オリビアはしばらくシリウスが出て行った扉をぼーっと見ていたが、朝食を用意しているミナの存在に気付いて我に返る。

「あ。おはよう、ミナ」

「おはようございます。オリビア様。本日の体調は如何でしょうか?」

「うん。少し眠いけど元気だよ」

「そうですか」

ミナは微笑みながら朝食を並べ終わると、バルコニーへと続く扉を全開にする。

瞬間、オリビアの頬を暖かい風が撫でる。

「あ…南の島だった」

途端にオリビアの瞳が輝きを増す。

「オリビア様、まずは朝食を。その後はシリウス様がおっしゃった通りに執務室に行きますので、島内散策は午後からになります」

「あ、はい」

今直ぐにでも飛んで行きそうなオリビアをミナは諫める。

「あなた達もですよ」

ミナは、オリビアの背後にいつの間にか現れたスノウ達に厳しい視線を向ける。

するとスノウ達はあからさまにがっかりしたように、地面に着地する。

「ふふふ、怒られてる」

オリビアは笑いながら、用意された朝食を食べ始める。

この数年で成長したのはオリビアだけでは無い。

現在ミナは、家付きの侍女からオリビアの側仕えに戻っていた。

「この子達には、1人くらい煩く言う人間がいても問題ありません」

ミナがスノウ達をジロリと睨む。

精霊は好奇心旺盛で悪戯好きだ。

自分のテリトリー内で面白い事があると、直ぐにオリビアを連れ出して一緒に遊ぼうとする。

ミナは最初、精霊との接し方や距離感に戸惑いっぱなしだったが、余りの振り回され具合にいい感じにキレてしまい、最終的にはスノウ達に説教する事が出来る関係にまでになっていた。

今や意思の疎通でさえ、ミナはスノウ達の表情を見ると大体分かるようになっている。

「流石にあれだけ注意されたら、勝手に抜け出したりしないよ」

朝食後の紅茶を飲みながら、オリビアは苦笑する。

「そう言って頂けると安心です」

「それでもどうしても黙って抜け出さなきゃいけない事があったらミナにはちゃんと報告するし、何だったら付いてきてもらう」

「例えば?」

「う~ん。夫婦喧嘩の時とか?」

「まあ!」

オリビアの答えにミナは驚く。

「ほら、実家に帰らせて頂きます!てヤツ」

「ええ……」

「あれ?もしそうなったらミナは付いてきてくれないの?」

「それは勿論付いていきます。私はいつだってオリビア様の味方ですので」

「ふふふ、やった~!ミナ大好き」

オリビアは嬉しそうに笑うと、それにつられた様にミナも微笑むのだった。