軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

寿月の始まり

ゼーグ島。

常夏であるこの島の中央には荘厳な教会が建っており、それを囲むよう街道が敷かれ、建物が計算された様に美しく建ち並んでいる。

いつもは人通りもまばらでのどかな雰囲気の島内なのだが、ここ数日人の出入りが多く活気に満ちていた。

この島は一番近い大陸からでもおよそ船で20日程度かかる為、かつては罪人の追放先として使われていた。

商人だったゼーグという男も、平民でありながら貿易で多額の利益を得て貴族から反感を買ってしまい、財産を取り上げられて冤罪によりここに追放された1人だった。

このゼーグという男こそが、4財閥の初代である。

彼は追放された身でありながら、持ち前の商才と口の上手さで何も無かったこの島を発展させ、その後貿易商として名を馳せる。

後にこの島は彼の子孫である4財閥の長によって買い上げられ「ゼーグ島」と名付けられる。

そして外部からの干渉を一切無くす為に、敢えて地図上からその存在を抹消させられたのだった。

それ以降、この島は4財閥にとって特別な場所の1つとなり、彼の功績を称え、初心を忘れない為に主だった行事や催しは全てこの島で執り行われるようになる。

勿論、10日後に控えた4財閥の1つであるホワイトレイ家当主の結婚式も例外では無かった。

街頭にはホワイトレイの紋章の旗がたなびき、街のいたる所に鈴蘭の花が飾られ、白と銀の布で街中が美しく飾り付けられている。

行き交う人々の表情は柔らかく、道先で配られている鈴蘭の花を受け取ると、各々が嬉しそうに髪や胸ポケットに飾っていた。

これら鈴蘭の花は暑さに非常に弱い。

その為、熱にやられないよう一輪一輪しっかりと氷魔法が付与されている。

触れるとひんやりと冷たく、花弁の先が僅かに凍っている。

花を纏う冷気が外気の熱に溶かされて水滴となって虹色に輝き、わずか一輪の花でさえ、見る者の目を存分に楽しませていた。

ーーー

「今日から40日程度、ここで警護の任に就いてもらいます」

ゼーグ島のとある屋敷のロビーで、シルは目の前に立つレオ、シロ、クロに告げる。

常夏のこの島で黒い軍服を着ている彼等4人の姿は、この場で非常に浮いている。

「あ~シル様。その前に色々と説明して欲しいんだが…」

レオが戸惑いながらシルに言う。

「どうかしましたか?」

「いや、どうかしましたか、じゃないんだよ」

シルの問いにレオは首を左右に振りながら溜め息を吐くと、隣に立っていたシロとクロも同意した様に頷いた。

彼等3人は今朝いつも通り出社したのだが、行先も告げられずに何故か突然シルに転移でここに連れて来られたのだ。

「ここがどこだか分かりますか?」

「いや、全く分からん」

レオは間髪入れずに答えると、辺りを観察する。

吹き抜けのロビーから眼下を覗くと、のどかで美しい街並みが広がり、更にその先にはエメラルドグリーンの海がどこまでも続いている。

しかしよく見ると、島を覆うように張られた強固な結界が見える。

この距離でこれほどしっかり見えるとなると、それはかなり頑丈に作られているモノのはずだ。

「あ~南国のどこか、とか?シロ分かる?」

「いや、流石に…」

クロとシロが首を傾げる。

「ここがどこなのかは兎も角として、あんな強固で分厚い結界を張ってるのに、俺達は一体何から誰を守るんだ?」

レオは不審に思いながらシルを尋ねた。

「ここはゼーグ島です」

「……………え?」

「うそ…」

「まさか…?」

シルの言葉に3人は絶句する。

ゼーグ島と言えば4財閥の初代が作り上げた幻の島であり、その島に足を踏み入れる事の出来る者は、直属配下であっても非常に限られていた。

「ここはゼーグ島です。2日程したら主達が寿月の為にこの島に到着します。その際我々が護衛として同行する事になりました」

「え?!」

「は?!!」

「うそ!!!」

3人は目を見開いて驚く。

「本当です。ブラン王国での我々の働きが認められたようです。辛く苦しい仕事でしたが頑張った甲斐がありましたね」

シルがしみじみと言う。

「やばい…どうしよう…緊張してきた」

「ここに来られただけでも凄いのに…」

「名前、覚えてもらえるように頑張ろうっと…」

興奮した3人が思い思いに呟く。

「そうそう、忘れない様に皆さんにこれを渡しておきます」

シルはそう言うと、3人に名刺サイズの光沢のあるシルバーのカードを手渡した。

「なんだ?これ」

レオはカードをしげしげと観察する。

「そのカードはここでのあなた方の身分証明書になります。ちなみにそれを見せれば、この島内の施設や売っている物が全てが無料になります」

「は?!」

「え?」

「…うわ」

「寿月の間の30日間。正確には前後10日を合わせた50日間は、この島を訪れる方々の費用は全て主催者であるホワイトレイ家が持つ事になっています」

「はあ~」

「まじか」

「あなた達は主が到着するまでこの街に慣れておきなさい。島内の簡単な地図は後程タブレットに送りますのでくれぐれも取り扱いには注意して下さい。集合は2日後の朝。ただし多少前後するかもしれないので、その心積もりで」

「了解」

「承知しました」

「はいっ!」

シルは、終始驚き落ち着き無くそわそわしている3人に向けて早口で告げると、そのままロビーを後にした。

寿月。

財閥の長が婚姻した日から30日間とその前後の10日、気心の知れた仲間のみを招いて夜通し行う宴や儀式の総称である。

いわゆる当事者達にはハネムーン期間なのだが、彼等は生粋の商人でもある。

日頃溜め込んだ金を大いに使って皆をもてなす事により、新たな金の流れを作り出す目的もあった。

シルは広い廊下を早足で歩く。

頬に温かい風を感じて息を吸い込むと、僅かに潮の匂いを感じて足を止めた。

振り返ると、自分を通り過ぎていく風が背後の廊下をすり抜けていく。

瞬間、全ての時間が止まったかの様な静寂が辺りを包む。

騒がしい場所から遠く離れた海に浮かぶ孤島。

ここはまるで別世界のようだ。

シルはふっと口元に笑みを浮かべる。

どうやら自分が思う以上に舞い上がっているようだ。

全てのブラックレイにとって、主の側に仕える事こそが悲願。

ひとまず自室に戻って落ち着こう。

シルはそう思いながら、用意された自らの部屋に急ぐのだった。