軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ブラックレイ研究所~新人研究員の日常1~

ブラックレイ研究所に隣接する独身寮内。

2年目の新人研究員ビーンの朝は早い。

朝日が昇らない内からベッドから起き出し、手早く作業着に着替えると直ぐに寮の端にある厩舎へと小走りで向かう。

ブラックレイ研究所は地下にあるのだが、在籍する研究員達の精神衛生向上の為に多くの動植物を育てている。

その為太陽光や外気を取り入れた人工的な森や湖も敷地内に多く点在しており、ビーンが今から行く場所もその1つであった。

霜の降りた草木と霧にけぶる林。

ビーンはふと足を止めて大きく深呼吸をすると、冷たい空気を肺いっぱいに満たす。

人の喧騒も無く、小鳥たちの歌声だけが聞こえるこの時間がビーンは一番好きだった。

ふと、前方で馬の嘶きが聞こえる。

ビーンはゆっくり息を吐くと、再び厩舎に向かって走り出した。

「おはよう!!ジョン、アリ、ランス、ボルド、カミュ、ノリー……」

厩舎の扉を開け、元気いっぱいに馬達の名前を呼びながら挨拶する。

「昨日はよく眠れた?」

ここは研究所の厩舎の1つであり、新人がローテーションを組んで世話をしていた。

ビーンは10頭近くいる馬全てを優しく撫でていく。

彼は自他共に認める生粋の動物好きで、馬を撫でるその瞳は喜色に輝いていた。

「昨晩は雷がすごかったみたいだけど、大丈夫だった?」

彼は慣れた手付きで新しい藁と水を用意し、掃除に取り掛かる。

そうして鼻歌を歌いながらあっという間に掃除を終わらせると、余った時間で1頭ずつ丁寧にブラッシングしていく。

「ああ…癒される…でももう時間か…」

ビーンはチラリと腕時計を確認し、名残惜しそうに馬から離れる。

「ノリー、明日はお前からね」

時間が足らずにブラッシング出来なかった馬を軽く叩くと、道具一式を片付けて馬用のゲートを開ける。

すると、それを合図に馬達が一斉に外に走り出した。

「また明日ね~」

ビーンは力強く敷地内を走り回る馬に両手をぶんぶんと振りながら寮へ戻ると、熱めのシャワーを浴びて白衣に着替える。

研究所の独身寮はその名の通り、独身で主に5年目までの新人が多く利用している。

それ以外の研究員は転移魔法で通勤しているか、自身の研究室で寝泊まりしている者が殆どだった。

ビーンは鏡に向かって白衣の前ボタンをしっかりと留め、寝癖を両手でしっかりと押さえる。

「直れ直れ直れ直れ」

暫くして髪が落ち着いたことを確認したビーンは、リスの様な大きな目を細めてニヤリと笑う。

「今日も完璧!!」

現在朝の7時。

ビーンは鼻歌を歌いながら朝食を取る為に食堂へ向かうのだが。

「くしゅんっ」

くしゃみと同時に、髪がぴょこんっと跳ねる。

せっかく整えた髪がくしゃみによって寝起きそのままの状態へと戻ってしまったのだが、ビーンは全く気付かずにご機嫌で1階の食堂へと向かった。

「あっさごはん~あっさごはん~」

寮の1階にある研究員専用の食堂は、明るく開放的な作りになっている。

人もまばらなこの時間の食堂に、トレイを持ったビーンが受け取りカウンターへと辿り着く。

「リタさん、おはよ~」

「あら、おはよう。ビーン君」

調理場の奥で鍋を混ぜていた年配の女性料理人リタが、にこやかにほほ笑む。

「今日の献立は?」

「ハムとチーズのサンドイッチと、野菜たっぷりウサギのスープだよ」

「うおおおおおお」

ビーンは嬉しそうに、その場でぴょこぴょこと飛び跳ねる。

「ビーン君はまだまだ成長期でしょ?おまけでこっそりチーズとハム追加しとくよ」

「ありがとおおおお!!リタさん!!」

現在16歳のビーンは比較的小柄で、女の子に間違われる事が未だにある。

しかし本人はまだまだ成長する気満々なので、特に気にしていなかった。

リタはビーンのトレイに具が追加されたサンドイッチと、肉多めのスープが入った皿を置く。

「大きくなるんだよ」

「ありがとう!!」

ビーンは嬉しそうに受け取り、トレイを持ってそそくさと席につくと、直ぐに手掴みでサンドイッチにかぶりつく。

「うむむむむ」

ビーンが朝食の美味しさに浸っていると、目の前に人の気配を感じた。

「おはよう、ビ~」

ビーンはパンを咥えたまま顔を上げると、そこには大先輩で指導員のキララがトレイを持って立っていた。

ビーンはごくんと口の中の物を飲み込む。

「おはようございます。キララ先輩」

「ああ~小動物が一生懸命エサを食べる姿って、何でこんなにきゅんきゅんするのかしら~!!」

キララは見悶えつつ、当然のようにビーンの前に座る。

キララは現在20歳の上級研究員だ。

主に新人教育を担当しており、どの部署にも顔が広い。

勿論寮には住んではおらず、自身の研究室で寝泊まりしているのだが、寮の食事が美味し過ぎてわざわざお金を払って食べに来ている。

金髪に青い瞳の長身で、すらっとした体型であるが何故か胸が異様に大きく、着ている白衣の前ボタンがはち切れんばかりになっており、男の子のビーンはいつも目のやり場に困っていた。

「いつもの仕事が終わったら、私の研究室まで来てくれる?ちょっと手伝ってほしい仕事があるのよ」

「分かりました。お昼前になりますが大丈夫でしょうか?」

「勿論全然大丈夫。待ってるわ」

キララは嬉しそうに、パンをいっぱい入れて膨らんだビーンの頬をつんつんと指でつつく。

「先輩、セクハラです…」

「あら、ごめんなさい」

ペロッと舌を出したキララは朝食を食べ始めた。

8時きっかりに中央会議室で朝礼が始まる。

新人のビーンは朝礼に参加した後、すぐにいつもの仕事に向かう。

ちょこちょこと廊下を早足で歩く姿は、ふわふわの髪の毛と相まってまるで小動物の様である。

男性研究員が身長180オーバーばかりの中、160に満たない身長で、子リスの様なまんまる目の男子が1人。

ビーンがこの研究所に配属されて2年。

癒し不足の研究員達の間で、あっという間にマスコットとして定着してしまっていた。

そんな事とはつゆ知らず、本人は颯爽と地下3階にある通い慣れた部屋の前まで辿り着く。

ドアの横には『被験体保管室<レベル0>』と書かれたプレートが張られている。

通常被験体はレベル1から順に区分され、数字が大きい程貴重な物となる。

数に限りがある為、レベルによっては使用に部門長の承認が必要となる場合もあった。

しかし、それに比べてレベル0は影で研究員に『玩具』と呼ばれており、勿論研究に使用するのは大原則なのだが、多少乱暴に扱って壊してしまっても特に問題にはならなかった。

ビーンは首から下げた専用カードを扉にかざすと、それに反応してドアが音も無く左右に開く。

そして彼はいつも通り、薄暗い室内に足を踏み入れた。