軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その後

新拠点の執務室。

ブラン王国から完全にブラックレイを撤退させた後、財閥の長達に軽く現状を説明したシリウスは通信を切った。

「やられました…想像の5倍以上です。状況を見るに、国の3分の2は消え去りましたね。いや、それ以上かもしれません。安全が確認でき次第、直ぐに現地に調査員を派遣致します」

リシューは眉を顰めながらタブレットを指で弾く。

「珍しく苛立っているな」

シリウスは可笑しそうに笑う。

「いえ。しかしあの状況では、実験場建設の目途が立て辛くなるかと…」

「更地にする手間が省けただろう?折角だ、実験場と言わず新しい国でも作ればいい」

「ブラックレイが、ですか?」

リシューの声が、僅かに弾む。

「ああ」

リシューの配下は圧倒的にブラックレイが多い為、どちらかと言えばカッシーナよりもブラックレイを贔屓している。

今回のカッシーナの失態で、それがより顕著になった。

勿論、仕事に私情を挟む程リシューは愚かではないし、本人は頑なに否定している。

だが、付き合いの長いシリウスにはそれが簡単に見て取れた。

だからだろう。

シリウスの言葉に、リシューの瞳が喜色に染まる。

「畏まりました。それでは早速…」

「ただし」

シリウスは続ける。

「はい」

「カッシーナの様にはなってくれるなよ」

きっちり釘を刺しておく。

「勿論です。全く問題無いかとは思いますが、しっかり監視しておきましょう」

「ああ」

シリウスは頷く。

「しかし、今回は完全に赤い鳥が霞んでしまいましたね」

リシューは今回の結果に、あれを作った恋人の心情を慮り残念そうに眉を下げて軽く息を吐いた。

「問題ない。 あ(・) れ(・) ら(・) から結構な数の発注が来てる」

あ(・) れ(・) ら(・) とは、財閥の長達である。

「それは幸甚」

リシューはその言葉に、にっこりと微笑む。

「だが本命はあの黒い魔石の方だ。研究に加わりたいと言ってきた」

「はぁ……やはり…」

リシューは片手で顔を覆う。

「正直あの規模の魔石を使う事など今後起こり得ないだろうが…探究心と好奇心だろうな」

そもそもあのクラスの魔石など、この世界にいくつも存在するのだろうか?

「でしょうね……探究心2、好奇心8と言ったところでしょう」

「どう思う?」

シリウスはリシューに問う。

「問題は無いかと思います。共同研究開発となると、今までと違った環境になりますので研究員達も歓迎すると思います」

「では話を進めておく。期限は設けない。研究の過程で何か面白い物でも作るといい」

「そのように伝えておきます」

「ああ」

「それにしても…」

リシューが大きく息を吐く。

「シェラ様のお力。想像を遥かに上回っておりました」

「ああ」

ほんの些細な動作で、あらゆる物を消滅させる事の出来る力。

200年前、気まぐれにブラン王国に降り立って枯れ果てた大地に恩寵をもたらしたと言われているのだが。

「大地を豊かにする、つまり何かを生み出す事が出来るのならば、消す事も出来る、か…確かに当然の原理だな」

「言われてみればそうですね。しかし…闇の精霊、レクイエム、創造神、悪魔……この世界には、まだまだ知らない事が多くあるのですね」

ミナから送られてきた情報に、リシューは苦笑するしか出来なかった。

シリウスはふとタブレット画面から顔を上げて、窓から見える美しい景色に目を細める。

オリビアが与えた恩寵は大地の隅々まで行き渡り、草木は輝かんばかり、いや、実際光を受けて輝いていた。

遠い異国での喧騒などまるで嘘の様に、心地良い太陽の元、小鳥が囀りながら番となって空を飛んでいる。

室内へと入ってくる風は暖かく柔らかで、花々の甘い香を運んで頬を優しく撫でていく。

シリウスは無意識に、大きく息を吸い込んだ。

闇の精霊とは何か。

何となくではあるが、通常の精霊と呼ばれるものが何かを生み出す存在なのだとすれば、闇の精霊はその逆、つまり消滅させる力を持つものなのではないかとシリウスは考えていた。

どちらにしろ、あの国の王は精霊の恩寵を享受しつつもその源に牙を剥き続けたのだ。

奪われるのは当然の結果だろう。

精霊のいなくなったあの国は、遅かれ早かれ確実に滅んでいた。

それが少し早まっただけなのだ。

大した問題ではない。

シリウスはオリビアがあの国で受けた屈辱を思い出し、胸に込み上げてくるどす黒い怒りを息と共にゆっくりと吐き出した。

「グレオの死体は確実に回収しておけ」

思いの外、低い声が出たのもその怒りのせいだろう。

「畏まりました」

グレオのあの姿を見るに、もはや廃人と言っても差し支えないだろう。

死ぬのも時間の問題だ。

これで制裁は完了した。

次に発行される世界地図にはブラン王国の名は抹消され、新しい国の名が書かれるだろう。

「それにしても精霊のいない国ですか。なかなかに前途多難ではありますが、実験場としては非常に面白いですね」

リシューは上機嫌に微笑む。

「オリビアの知識が生かされるな」

「と、申しますと?」

シリウスの小さな呟きに、リシューは片眉を微かに上げた。

「ああ、オリビアはここではない世界の知識、いや、記憶と言うべきか、それを持っている」

「別の世界ですか。それは精霊としての記憶でしょうか?」

「いや、人間の方だ。『前世』という言葉がしっくりくるな」

「人間の前世ですか?それは…」

「魔力の存在しない世界だったらしいのだが、この世界と同じ程度の文明レベルだったそうだ」

「それはブラン王国程度、という事でしょうか?」

「いや、ここと同じ程度だ」

シリウスは指でトントンと机を叩く。

「は?魔力も無く?」

「ああ」

「それはまた……何と…」

リシューは顎に手を添えて考え込む様に僅かに俯くが、その口角はわずかに上がっており、長年付き合いのあるシリウスには何か企んでいる仕草だと直ぐに分かった。

「私のいないところで、オリビアから何かしらの情報を聞くことを禁止する」

「っぐ…、承知しました。ですが大変興味深いお話ですので、後学の為に是非とも質疑応答のお時間を頂ければと考えております」

リシューは一瞬唸るが、何事も無かったかの様に直ぐに立ち直る。

「分かった分かった、リストアップでもしておけ。後で確認する」

「ありがとうございます」

リシューはシリウスに満面の笑みを向ける。

研究者である最愛の恋人へ手土産が出来るとあって、リシューはオリビアへの質問を嬉々としてリスト化し始める。

しかし、その数が優に100を超えてしまい、それを見たシリウスに激怒されるのは暫く後の話である。

恋する男はいつでも愚かなのであった。