軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お引越し

「え?」

どういう事?

目の前の光景に、オリビアは口をポカンと開けたまま立ち尽くす。

5日後。

シリウスと共に再びやってきた件の地には、いつの間にかとんでもない大きさのコテージが建っていた。

湖の畔に建てられたその建物は、全体が落ち着いた木目調の三階建てで、湖に面した場所には広いオープンテラスらしきものがあり、庭も完備している。

「最低限の生活スペースを確保しました。暫くはこちらにご滞在下さい」

「えっと、リシュー…どうしたの?これ」

とても5日で建てたとは思えない。

「いくつかの候補の中から、一番適した物件を転送しました」

「転送?」

「はい。建造物は基本的に別の場所で造られて保管されています。その中で希望の物があれば建築予定場所に転送するのです」

「へえ~、建てる場所で造らないんだ」

「ええ、その場所で造るのは土台だけですね。全て造った場合、材料の運搬等とてもコストがかかってしまいますからね」

「ふえ~」

確かにこの世界には魔石が存在する為、水道や電気を引く、という概念が無い。

「お二人の正式な住居は、全て1から造りますので少々お時間がかかります。材料確保にも暫く時間を有しますので、完成するまではこちらで我慢して下さい」

我慢?

材料の確保…?

え?何それ?

「え、これで十分では…?」

「中に入ってみようか」

隣にいたシリウスが、オリビアの言葉を遮るように抱き上げてコテージの入口に向かう。

するとリシューは直ぐに入口の門を開け、続いて玄関の扉も開ける。

「わ…すご…」

玄関ホールに入ると直ぐに吹き抜けの大きなスペースがあり、新築の木の香漂う居心地の良い空間がオリビアを迎える。

北の拠点と比べるとかなり小さいが、それでもサイファードの屋敷よりは遥かに大きかった。

リシューがタブレット片手に間取りを説明していく。

「湖に面したお部屋はリビングになっております。そこからオープンテラスに出る事が可能です。この廊下を真っ直ぐ行った突き当り奥が使用人部屋。二階はお二人の部屋と寝室及び客室。三階は完全なプライベートエリアです。現在遊戯室、リビングになっておりますが改装も可能です。お荷物は転移前にある程度ご用意させて頂いておりますが、足りない物等あれば都度おっしゃって下さい」

「……」

完璧な事前準備に、オリビアは絶句する。

「気に入らない?」

シリウスは黙り込んでしまったオリビアの顔を覗き込む。

「う、ううん、違う。びっくりしただけ」

オリビアがそう言って苦笑しつつ、キョロキョロと辺りを見回していると、廊下の先から使用人達が早足で近付いて来る。

「予定よりかなり早く到着してしまいました」

リシューは悪びれも無く彼等に言うと、集まった使用人達が素早く壁際に並んで腰を折る。

その中にはミナの姿もあった。

「これはこれはシリウス様、オリビア様、リシュー様」

1人の燕尾服を着た紳士が、代表してこちらに歩いてくる。

「こちらは執事のセスです」

リシューがオリビアに向けて紹介する。

「初めまして、セスでございます。何でもお言い付け下さいませ」

「オリビアです。よろしくお願いします」

オリビアはシリウスの腕の中から、ぺこりと頭を下げる。

「ご丁寧にありがとうございます」

セスは嬉しそうにほほ笑む。

「セスは執事としてここ全てを管理する事になる。困った事があったら頼るといい」

「うん」

シリウスはオリビアに優しく言った。

「それから、後ろの者達はこの屋敷の使用人です。オリビア様の専属侍女はミナでしたね」

リシューは壁際に控えている使用人達に目配せすると、彼等は習ったかの様に揃ってお辞儀をする。

その後、ミナが一歩前に踏み出して再び頭を下げた。

「宜しくお願い致します」

オリビアは嬉しくなって、ミナに小さく手を振る。

それに返すように、ミナも小さくほほ笑んだ。

「基本的にオリビア様のお側には、こちらにいらっしゃる精霊達がつきます」

リシューは、オリビアの背後に寄り添う様に立つスノウ達に視線を移す。

「彼等と屋敷の者との意思疎通は…ミナにお任せします」

「畏まりました」

リシューはミナに丸投げする。

「それではミナ、オリビア様にこの屋敷のご案内を」

「畏まりました」

リシューの言葉に、シリウスはオリビアを下ろしてミナに託す。

「さあ、参りましょうか」

「うん!」

ミナはオリビアの手を引いて廊下を歩き出す。

そんな2人を見送ったシリウスとリシューは、目の前にある扉を開けてリビングに入る。

開放感のあるリビングは、湖からの光が反射してとても明るい。

これならばオリビアも気に入るだろう。

シリウスは心の中でホッとした。

2人は部屋の中央にある重厚なソファーに腰を下ろす。

すると直ぐに、使用人の手で紅茶が運ばれてきた。

彼等はゆっくりと紅茶を飲みながら窓から見える景色を堪能していたが、ある程度腰を落ち着けると話を始める。

「1刻後、全幹部以下にシリウス様の婚約者内定を公表致します」

「そうか」

既に各家の主要な者達には、シリウスの婚約は伝えてある。

しかし、オリビアの身の安全が完全に確保されるまでは、限られた者以外情報を制限していたのだ。

幹部クラス、所謂ホワイトレイ家の者になると、強引に北の拠点に踏み込もうとする輩が出るかもしれない。

「流石に、ホワイトレイの中に馬鹿はいないとは思いますが」

リシューは嬉しそうに笑う。

「お前、何か嬉しそうだな」

「いえ、そんな事はございません。ああセス、もしこちらに何かしようとしてくる者がいたら、身分に関係無く容赦しなくてもいいですよ。駆除後、報告してくれたら結構です」

「畏まりました」

話の腰を折らない様に空気に徹していたセスは、その言葉にしっかりと頷く。

「それと…」

リシューは、持っていたタブレットをシリウスに手渡す。

「赤い鳥が完成したとの事です」

「成程」

シリウスは渡されたタブレットを指で弾きながら、内容を確認する。

「今回は、こちらの私情がかなり入っておりますので、その様な形が望ましいかと」

「…中央に1つ。一気に落とすか」

「はい」

シリウスは暫く画面を見ていたが、思い付いたかの様に顔を上げる。

「中央はひと回り縮小しろ。四方の余りを今後量産出来る魔石を使用。その際、最低4種類の属性魔法を使え」

「成程。確かに絶好の実演販売場ですからね。しっかり映像を上映しつつ保存致しましょう」

「ああ、それと王城は放置しろ」

「それで宜しいのでしょうか?」

「…その方が面白い」

「確かに。1人になると5日と持たないでしょうね。さぞ観察のしがいがあるでしょう。それでいつにしますか?」

リシューはシリウスからタブレットを受け取りながら尋ねる。

「4種の魔石はいつ出来る?」

「既存の物を少し改良するだけですので、1日あれば十分かと」

「今日から3日後を実行日とする」

「畏まりました。関係各所に通達しておきます」

リシューはその旨をタブレットに入力し、送信ボタンを押したのだった。