軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

元の関係

中央庭園に到着すると、庭の一画に使用人達が固まって何やら作業をしていた。

オリビアは何の気無しに、ゆっくりと近付いていく。

「日当たりの良いこの辺りの花を中心に植え替えて」

「畏まりました」

「これはダメ。少し弱ってる」

「はい」

聞き覚えのある声に、オリビアはふと足を止めた。

ミナだ。

使用人達は彼女の指示に従い、庭から鈴蘭を掘り出して小ぶりの鉢に植え替えている。

そうして植え替えられた鈴蘭は、また別の使用人達の手によって次々と一か所に集められていた。

何をしているのだろうか。

オリビアは不思議に思いながらも離れた場所で暫くその様子を見ていると、ふと顔を上げたミナとばちりと目が合った。

「オリビア様!」

ミナはオリビアを見て嬉しそうにほほ笑む。

一方周りの使用人達は一旦作業の手を止め、その場で頭を下げる。

「何してるの?」

「はい。オリビア様の次の拠点に必要かと思いまして、いくつか見繕っておりました。種からではきっと時間がかかってしまいますからね」

「え?!ありがとう」

オリビアはミナの行為が純粋に嬉しかった。

ミナは他の使用人達に作業を続けるように促すと、自身はオリビアの側へと歩み寄る。

「そちらの方々は精霊でしょうか?」

オリビアを守るように、彼女に寄り添う5体の精霊。

「うん、スノウって言うの。新しいお友達」

「スノウ様ですか。美しい方達ですね。どうぞこちらへ」

ミナはどこか寂しそうに笑うと、木陰にあるテラスまでオリビアを促し、引いた椅子に彼女を座らせた。

そして近くに控えている使用人に目配せすると、飲み物と軽食を運ばせる。

「オリビア様は、いつ頃新しい拠点に?」

ミナは手慣れた様子で、オリビアの前に軽食をセッティングする。

「遅くても5日後には引っ越しするって言ってた」

「そうですか」

2人の間に沈黙が訪れ、並べられるカトラリーの音だけが辺りに響く。

「何か色々ごめんね。ミナ」

先に言葉を発したのはオリビアだった。

「え?!」

ずっと笑みを浮かべていたミナの表情が、ここに来て強張る。

「来た時からずっと一緒にいてくれたのに、それなのに怖がらせちゃってごめんなさい」

「な、何をおっしゃいますか。私が不甲斐ないだけです。オリビア様に何の落ち度もございません」

「ううん、それでも。ミナには特にお世話になったのに、こんな事になっちゃって・・・」

オリビアは一瞬俯くが、直ぐにミナの顔をまっすぐ見て素直に謝った。

今も尚、ミナの心の奥には不安と恐怖が色濃く残っているのを感じる事が出来る。

「ち・・・違います!!違います!謝らないでください!!矮小な私が!あの時シェラ様にお会いして精霊の偉大さに恐怖してしまった私が悪いのです!」

「お母様に・・・?」

「あの時、私は苦しんでいたオリビア様を助ける立場の人間でした。それなのにシェラ様が現れ、その余りの偉大さに足がすくんで気を失いかけたのです。私は心底畏怖の念を抱きました。得体の知れない強大な力と存在の前に、私は只々成す術もなくみっともなく地面に転がってしまったのです」

ミナは懺悔するように口にする。

「・・・・・」

ん?

あれ?

オリビアは首を傾げる。

どうやら自分は何か思い違いをしているようだ。

ここに来て、ようやくその事に気が付く。

「このような不甲斐ない私では、オリビア様の側にいる事など到底叶いません。でも、それでも私はオリビア様のお側にいたい……出来れば新しい拠点にもご一緒したいのです。ずっとお側にお仕えしたいのです。しかしこの様な精神状態で、未だ不安と恐怖の心を拭いきれない私がお側にいた所で、オリビア様のお役に立つ事は出来ません。悔しいです……それがとても悔しいのです…………」

俯いて、スカートの裾を握るミナの拳はかすかに震えていた。

「ミナは私の側にいたいと思っているの?」

「当然です!」

顔を上げたミナの瞳は濡れていた。

「そっか・・・てっきりもう、恐ろしくて側にいたくないって思われてると思っていた」

オリビアは苦笑する。

「そんな事はありません!・・・確かに、今でもあのシェラ様との状況を思い出すと身体が震えてしまいます。ご息女であるオリビア様も同じ力をお持ちだと考えると、それは・・・やはり・・全く恐ろしくない、とは言い切れません。でもそれとは別に、ずっとお側にいたいと思うのも本心です」

「・・・・・」

オリビアはミナの顔をじっと見つめる。

そしてミナもまた、オリビアの顔を見つめ返した。

「ま、お母様だしな~仕方ないかな~」

オリビアはぴょんっと椅子を降りてミナに近付く。

「実は私もお母様の事、とんでもなく怖いと思っているの」

「へ?」

「だって考えてみて?お母様、指先一つで世界を消せるのよ?精霊の女王っていうのは、創造神から世界の管理を任されているの。お母様が『もういらな~い』って言ったら全て消えちゃうの。怖くない?」

「・・・・・」

いや、それ怖いどころの騒ぎではない。

ミナは絶句した。

「それにお母様ってば我が儘だから好きな事邪魔されたら倍返しされちゃうし、気に入らないモノはあっという間に消し炭にするし」

「え・・・ええ」

ミナはドン引きする。

「娘の私でも怖いんだから、ミナが怖くたって当たり前だと思うのよ」

オリビアはうんうんと両腕を組んで頷いた後、両手を前に出してミナの震えていた拳を包み込む。

温かい手だった。

ミナはその手に、恐怖や不安など一切感じなかった。

「私はミナがこれからも私の側にいてくれたら凄く嬉しい。でも、怖いんだったら無理強いはしたくない」

ミナはオリビアの手を握り返した。

「側にいたいです。力不足と分かっていてもオリビア様のお側に・・・いたいです」

眉を顰めて答えるミナの声は掠れている。

「嬉しい!」

その返答に、オリビアはミナに抱き付いた。

「でも、そもそも力不足って何?」

オリビアは顔を上げてミナを見る。

「オリビア様に危険が迫った時、恐怖で身体が動かなければお助けする事も出来ません」

「あ~。でもそれってスノウ達がいるから問題ないよ?そもそも私って狙われるのかな?」

「今後シリウス様の伴侶となれば、何かしら邪な思考を持った者に狙われやすくはなるかと」

「ん?もしかしてミナって私の護衛も兼ねてた?」

「はい。何かあってもオリビア様を守れるように、剣術、体術、魔法はある程度叩き込まれております」

「へ・・へえ~」

誇らしく答えるミナに、オリビアは突然不安に苛まれる。

「リシューにこき使われてない?その分ちゃんといっぱいお給料貰ってる?」

「え?・・あ、はい。それなりには頂いております・・・が」

「そう?それならいいんだけど・・・」

オリビアは一抹の不安を感じながらも、

「まずはシリウスにお願いしに行かなきゃ!」

オリビアは、ミナの手を引いてシリウスの執務室に向かった。

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「やっぱり行くんだ?」

深夜、オリビアが寝た後、自室で荷物の整理をしているミナの部屋にバジルが訪れた。

「ええ。オリビア様からのお口添えで、主から許可が貰えました」

「良かったな」

「あなたは行かないのですか?」

「う~ん。今は研究で手一杯。赤い鳥の後に転移の許可証だけでも貰おうかな?」

「それまでに精霊恐怖症が治れば良いですね」

服を綺麗にたたみながら、視線すら向けずにバジルを鼻で笑う。

「それはお前も一緒だろうが」

「私はシェラ様恐怖症なだけです!オリビア様もスノウ様も平気です!」

「チッ」

バジルが舌打ちする。

「私はお前達と違って根っからの研究者なんだよ。肉体や精神なんぞ鍛えていないんだ!」

確かにその通りだ。

あの現場に居合わせた者の中には、自分の不甲斐なさを恥じて部署移動を願い出た者も多数いた。

「ま、とにかく許されて良かったな」

バジルは片手を振って部屋を出て行こうとするが、ミナの言葉に足を止めて振り返った。

「リシュー様が、そんなに甘いと思いますか?」

「え?でも新拠点への転移許可を貰えたんだろ?」

「ええ。貰えました」

「うん?」

バジルは意味が理解出来ずに首を傾げる。

「降格しました。私の身分は一般侍女と同じです」

「はあ?!」

「役に立たない側使いは一般侍女と同じです。そもそもオリビア様には既にスノウ様達がおられますからね」

「お前それで良いのか」

「良いも悪いもありません。やるしかないのです。それにありがたい事にここは完全な実力主義の場。直ぐに元の場所に返り咲きます」

「はあ~~お前らしいっちゃあお前らしいけど・・・」

口元だけ不敵な笑みを浮かべたミナを見て、バジルは呆れて溜息を吐いた。

シリウスの拠点で働く事の出来る者は、ホワイトレイでも非常に少ない。

その中で、彼と直接話をすることが出来る者など更に限られている。

そんな彼等は皆、専門分野は違えどホワイトレイの幹部達なのだ。

「あなたも、ただの研究員にならないように注意しないといけませんね」

「分かってるって!じゃあな」

バジルは手をヒラヒラさせて部屋を出て行った。

ミナはそれを何となく視線で見送ったが、直ぐに荷物の整理に戻るのだった。