軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

赤い魔石

「あれ?リシューいないね」

馬車まで戻って来た2人だったが、そこには御者が待っているだけでリシューの姿は見当たらなかった。

オリビアはキョロキョロと辺りを見回す。

「ああ、急な予定が入ったので先に戻ったんだよ」

「え!そうなんだ。シリウスは一緒に戻らなくても平気だったの?」

「ああ、問題無い」

シリウスはオリビアの頭を優しく撫でる。

「ところでオリビア」

「何?」

「君の周りに漂っているのは、お友達かな?」

馬車に向かって歩いている道中、オリビアの周りにフワフワと白銀の精霊が集まってきた。

ざっと数えて5名。

オリビアが魔力を開放したせいか、姿は見えるのだが身体は透けている。

「ついてきちゃったね」

オリビアは、精霊に向かってのほほんと笑う。

するとそれらは嬉しそうにクスクスと笑い合い、銀色の雪の結晶をオリビアの頭上に降らせ始めた。

「雪の精霊?」

「う~ん、厳密には北の精霊かな?」

「そうか。名はあるのかい?」

「特に無いと思うよ。そうだな~う~ん、スノウ…スノウって呼ぼう」

安易な発想だが無いよりはマシだろう。

オリビアは雪から連想する名をそれらに付けた。

その瞬間、透けていた精霊達の身体がしっかりと形を取り始める。

体温を感じさせない透けるような白い肌と白銀の長い髪。

瞳孔が開いたような銀色の瞳は、明らかに人間のそれとは違っていた。

白い布を羽衣の様に纏わせ、自由自在に宙を舞う。

シャラン

シャラン

時折その動きに合わせて心地良い鈴の音がシリウスの耳に届いた。

「名前を付けたから安定したのかな?」

「へえ…」

嬉しそうに笑いながら、しかし言葉を交わす事も無くオリビアの周りをふわふわと飛ぶスノウ達は、彼女の事を大層慕っているように見える。

「話さないのかい?」

「話してるよ。私にはしっかり伝わってる。でもどうだろう、人間の言葉じゃ無いかも」

「そうか…」

シリウスは頷く。

確かに思い返せば、サイファードにいたシェラの使用人達も一切口を開かなかった。

そのくせ、こちらの言葉はしっかりと理解しているように見えた。

スノウ達と嬉しそうに戯れているオリビアの姿をしばらく眺めていたシリウスだったが、急に不安に襲われて思わずオリビアに手を伸ばして抱き締める。

「?どしたの?」

急に抱き付かれたオリビアは、何かあったのかとシリウスの顔を見上げる。

「いや…」

シリウスは、腕の中に感じるオリビアの体温にほっとする。

シリウスは精霊を否定しない。

ただ、オリビアが人間だったらどれほど楽だっただろうかと最近よく考える。

人間であったならば、何不自由無く生活させる地位も金もある。

欲しい物、行きたい所。

どんな望みだって全て叶えてあげられる。

言い方は悪いが、大抵の人間はそれで満足するだろう。

しかしオリビアにはそれが通用しない。

飽きてしまえばそれで終わり。

そうなると、自分などあっと言う間に捨て去られるだろう。

人間同士の契約なんて、オリビアには何の役にも立たない。

そんな事十分理解している。

出会った時から理解しているはずなのに。

それなのに…。

婚約、そしていずれは結婚。

人間にとっては重要な契約を口約束ではあるが結べた事により、今までには無かった欲が出始めた。

捨てられない為に出来うる限りの努力はする。

しかし、それすらも徒労に終わってしまうかもしれない。

人間に出来る事など、たかが知れている。

シリウスは、肺にたまった重い息をゆっくりと吐き出す。

父上もずっとこんな気持ちだったのだろうか。

シリウスは胸ポケットから指輪を取り出すと、オリビアの前に跪いた。

「婚約指輪。左手貸して」

「え?」

シリウスは無言でオリビアの左手を取ると、そのまま指輪を薬指にはめた。

プラチナ土台に深いブルーの小さい宝石がいくつも散りばめられた美しい指輪。

これは間違いなく、この世界に存在する指輪の中で一番高価な物だった。

「うん、ぴったりだ」

シリウスはオリビアの左手を持ち上げ、指輪を着けた薬指に口付けを贈る。

ここにリシューがいたならば、間違いなく呆れて大きな溜息を吐いただろう。

サイズがぴったりなのは当たり前なのだ。

何せこれは、装着者のサイズに合う様に形が変化する指輪型魔道具だ。

装飾されている青い石は数年がかりで発掘させ、シリウスがその中で一番自分の瞳に近い色の物を選別した。

おまけに指輪本体に付属する高機能の数々。

今後オリビアがどこにいても、シリウスには場所が分かるようになる。

何だったら話している会話すら聞き取る事が出来る。

独占欲丸出しの婚約指輪であった。

取り敢えず、今出来る最善の策を取る事に成功したシリウスは、内心安堵の溜息を洩らす。

離れたくない。

離さない。

絶対に逃がさない。

胸にひたひたと寄せてくる暗い感情に身を委ね、思わず目を細めながら眩しい笑顔で嬉しそうに指輪を見ているオリビアを見つめる。

「シリウスの瞳と同じ色!綺麗、ありがとう!!」

「どういたしまして」

嬉しそうに笑うオリビアに、シリウスは満面の笑みでそうに返したのだった。

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一方、北の拠点、執務室。

ミナとバジルが退出した後、リシューは代わりに執事のセスを呼んだ。

「現在直ぐに用意出来るコテージの中で、ご希望に沿う物は3つです。データを送りました。使用人は最低5名、その他庭師、料理人は既に人選に入っております。新居の間取り、外観に関しての設計を始めております。完成するまで今しばらくお待ち下さい」

傍らに立つセスが、リシューに次々に報告していく。

シリウスとオリビアが湖デートを楽しんでいる最中、リシューは真面目に働いていた。

「ああ、そうですね。それでは2番目のコテージを。中には私達3名の荷物を用意しておいて下さい。完了したら先程送った魔法陣を使って直ぐに現地に転移を」

「畏まりました。使用人に関して問題ございませんか?」

「全員魔力特化の人材ですね。まあいいでしょう。この者達には遅くとも5日の間に移住するように伝えて下さい」

「畏まりました」

「転移は私達とこの者達のみに許可を。それ以外は都度申請とします。承認権限は主です」

「畏まりました…ミナさんとバジルさんは宜しいのでしょうか?」

セスが不思議そうにリシューに尋ねる。

「今のところ必要ありません」

「左様でございましたか」

「ところで、それが例の物ですか?」

「はい」

先程からセスは、両手に銀のトレイを持っている。

その上には、片手に乗る程度の黒いベロアの箱と一通の封筒が乗っており、それをトレイごとリシューに差し出した。

これらは少し前、北の拠点に直後転送魔法で届けられた物だった。

しかし生憎、シリウスとリシューはオリビアを連れて新しい土地を視察に行っており、執務室にはデーター整理をしていたセスと、数人の使用人しかいなかった。

そこに突然届けられた、黒い小箱と手紙。

そもそもこの場に直接物を送る事が出来る人物など、片手で数える位しかいない。

セスは送られてきた物が黒いことから、送り主の予想はある程度出来ていたのだが、確認の為に添えられた手紙をひっくり返して封蝋を見た。

黒と金を使ったカサブランカの封蝋。

成程予想通り。

セスは直ぐにリシューに連絡を取る。

それにより、彼は一足先にここに戻って来る事になったのだった。

「ふむ。確かに先代からですね」

リシューは躊躇する事無く、手際良くペーパーナイフを使って封筒から手紙を取り出した。

しかしそこには、予想に反して一枚のカードのみが入っているだけだった。

『赤い鳥の魔石』

リシューは書かれていた文字を音読すると、今度はベロアの箱を開ける。

そこには、5センチ程の赤黒っぽい石がはめ込まれていた。

「魔石、ですね…」

リシューはそれを取り出して光にかざす。

よく見ると、それは濃いワインレッド色をしていた。

「見たことのない色ですね…これをブラックレイの研究所へ…いえ」

リシューはちらりと時計を確認した後、おもむろに立ち上がった。

「今からブラックレイの研究所に向かいます。馬車の用意を」

「畏まりました」

リシューはその魔石を手に、そのまま執務室を後にした。