軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

のんびりデート

湖の畔を歩いていると、いつの間にかリシューの姿が見えなくなっていた。

オリビアはシリウスに手を引かれながらのんびりと歩く。

「少し休憩するかい?」

シリウスはおもむろに上着を脱ぐと、適当な木陰にそれを敷き、オリビアの肩を抱き寄せてその上に腰を下ろした。

「美しいね」

「うん」

目の前に広がる湖。

キラキラと光る湖面には澄み切った青空が映り込み、時折跳ねる魚が水面を揺らし、波紋が日光を浴びて銀色に輝いている。

それは、先程まで雪と氷に閉ざされていたとは思えない景色だった。

甘い香を乗せてどこからともなく吹いてくる暖かな風が、2人の頬を優しく撫でていく。

オリビアは目の前の光景をぼおっと見ながら、こてんとシリウスの肩に頭を預けた。

「オリー」

耳元で囁かれて顔を上げると、シリウスのドアップが彼女の視界に入る。

「シ…シリウス兄様…」

「兄様っていうの、そろそろ止めない?」

「え?」

「結婚するんだから、呼び捨てで。ね」

「呼び捨て…」

「うん」

「シ、シリウス…」

「何だい、私のオリー」

オリビアは、恥ずかしさの余り真っ赤になって俯く。

何かムズムズする…。

そっか…。

結婚かぁ…。

改めて考えると、滅茶苦茶な展開だ。

勢いって恐ろしい。

でもシリウス兄様なら全然いい。

オリビアは、ほぼゼロ距離のシリウスの顔を改めてじっと見つめる。

光に透ける金色の髪と、深いブルーの瞳が本当に綺麗。

兄と思っていた頃は大して考えていなかったけれど、改めて見ると本当にかっこいい。

ああ、好き。

「大好き」

心の声がポロっと声に出てしまう。

瞬間ひゅっと息を飲む音が聞こえる。

「嬉しいよ」

シリウスはそう囁くと、オリビアにゆっくりと口付けた。

しっとりと重なる2人の唇。

オリビアは、体中が心臓になったかのようにドキドキと脈打ち、恥ずかしさと幸福感に酔いしれ、身体から力を抜いてシリウスに身をゆだねた。

彼女の体重をしっかり身体に感じたシリウスは徐々に調子に乗り始め、口付けを深くしていく。

そしていつしかオリビアは、その場に押し倒されていた。

ここにリシューがいれば止めに入っただろうが、残念ながら今はいない。

「ん~ん~ん~」

息継ぎが上手く出来ずに苦しくなったオリビアは、何とかシリウスから唇を離そうと顔を背ける。

しかしがっちり掴まれて思うように動かせない。

「オリー、その可愛い鼻で息をしてごらん」

シリウスは、少し唇を離してオリビアに囁く。

「んふぇ?」

それから彼女の返答も待たずに再び唇を合わせた。

オリビアは言われた通り鼻で息を吸う。

成程、これで酸欠は免れそうだ。

「そう、上手だね」

シリウスが唇を離した隙に囁く。

「うう…ん」

鼻で息を吸うと、シリウスの匂いが肺いっぱいに広がり、何だか無性に胸が苦しくなってくる。

オリビアは我慢出来ずにシリウスの背中に腕を回してぎゅっと抱き締めた。

「オリー?どうしたの?」

「シ、シリウス…。何だか苦しい。胸がぎゅうってなる」

オリビアは堪らなくなって、シリウスの頬に自分の頬をスリスリと擦り寄せる。

「私もだ」

シリウスもオリビアをぎゅっと抱き締め返して頬に唇を寄せる。

「想い合うって凄い。苦しいけど幸せで、何だか堪らない気持ち」

オリビアは切なさの余り息を吐く。

「ああオリー。愛してるよ」

シリウスは、オリビアのその吐息でさえ逃がさない様に、再び彼女の唇を自分の唇で塞いだ。

---

「そろそろ戻らないと、リシューに小言を言われそうだな」

シリウスはぼやく。

結局あれから離れがたくなり、2人抱き合ったまま木陰でしばらく横になっていた。

勿論服はきちんと着ている。

「うん…」

シリウスはオリビアを抱いたまま起き上がって座り直す。

その際、改めて2人の目がしっかり合うと、オリビアは恥ずかしそうに目を背けた。

「な…何か恥ずかしい…」

「どうして?」

「何となく…」

オリビアはシリウスに見られている事が恥ずかしくなって、彼の胸に顔を埋めた。

「結婚するんだから慣れなきゃね。もっと恥ずかしい事もするんだよ」

「もっと恥ずかしい事…ううううう」

オリビアは耳まで真っ赤にする。

「あれ?もしかして知識あったりする?」

「……」

申し訳ないですがあります。

前世の私は結構な歳だったと思われます。

無言の返答に、シリウスは驚いてオリビアの顔を覗き込む。

「オリビア?」

「……ある」

「そっか~。ねえオリビア」

シリウスはオリビアの脇に手を入れて身体を浮かせると、自分と向き合う様に座り直させる。

「話したい事、実はあるでしょ?」

「……うん」

シリウスはオリビアの両手をしっかりと握って指を絡める。

「教えてくれる?」

「うん」

オリビアはシリウスを暫く見つめた後、しっかりと頷いた。

「前に言ってた、私に入った人間の自我って話、覚えてる?」

「勿論」

「実は、その私には前世って言うか、以前の生きていた記憶があるの」

「へえ~~」

シリウスは興味深そうに片眉を上げる。

「今と全然違う星に生まれて、仕事して生活してた。魔法も存在してなかった」

「え?!違う星?」

「うん多分。そこに生きていた私はバリバリ仕事をしていて、今のシリウスよりも多分年上だったよ」

オリビアの告白に、シリウスは驚いた顔をして暫く考えていたが、納得したように頷いた。

「成程。だからか」

「?だからって?」

「たまに年齢にそぐわない物凄く色っぽい仕草をするんだよ、オリビアって。凄いな~って思っていたけど、成程、年上か」

シリウスは嬉しそうにうんうんと頷く。

「な…何か嬉しそうだね」

「そうだね。婚約にしろ結婚にしろ、きちんと意味を理解して受けてくれたって事だよね。それが純粋に嬉しい」

「そ…それは勿論…」

オリビアはもごもごと口ごもる。

「ふふふ、それにね。北の拠点で生活するようになって、色んな道具を見たと思うけど、何故か何となく使い方や用途を知っているようだったね。それは精霊だからなのかな、とも思ったんだけど、もしかして前世で似たような道具を使っていたから?」

「うん。よく見てるね…」

「まあね。君の事だから」

シリウスはオリビアの額に自分の額をコツンと当てる。

オリビアは純粋に驚いた。

「魔法は無かったけど、電気とかガスとか石油とかで色んな事が出来てた。この世界の文明レベルはよく分からないけど、似たようなものじゃないかな?」

「魔法の存在しない世界か…。その話、リシューを交えて改めて聞かせてもらってもいい?」

「うん。全然いいよ。あ…でも」

「でも?」

「今の私は精霊と身体に思考が強く引っ張られてるから、なかなか上手に説明出来ないかも…」

「そんな事、全然気にしなくていい。別の世界の存在を少しでも教えてもらえるだけで嬉しい」

「…大好き。ありがとう」

オリビアは何となく心に引っかかっていた前世の事を伝えられてほっとすると、ぎゅっと彼に抱き付いた。

「こちらこそ、話してくれてありがとう。愛してるよ」

シリウスはオリビアの頬に唇を寄せた。

「という事は、オリビアは既に大人のアレコレを知っているんだね。それじゃあ遠慮はいらないかな?」

「きゃっ」

スッと腰の辺りをシリウスに触られて、オリビアはびくっと身体を揺らす。

「シリウス!」

「冗談だよ」

冗談じゃないけど。

シリウスはオリビアの両手を掴み、立ち上がらせる。

「そろそろ戻ろうか」

「うん!」

地面に敷いていた上着を手に取って軽く払うと、2人は手を繋いで来た道をゆっくりと戻っていった。