軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔力の放出方法

「あ、そうだ。これ返すね」

朝食後、まったりと紅茶を飲んでいたオリビアは、どこからか取り出した魔石をテーブルの上にコトリと置いた。

「これは、魔石?」

シリウスはそれに手を伸ばすが、

「あ!臭いから気を付けて」

オリビアの言葉に手を止める。

すると、側に立っていたリシューが白い布を使って魔石を包み取り、自らの鼻先に近付けて匂いを確認した。

「別段何の匂いもしませんね」

「え?」

リシューは平然としながら、シリウスに布ごと魔石を手渡した。

シリウスはそれを躊躇無く嗅ぐ。

「確かに、特に匂いはしないな」

「へえ…そうなんだ」

オリビアはその話を聞いて、シリウスの手の中にある魔石に鼻を近付けた。

「うえぇ~」

鼻の奥に、ツーンとした生臭さが入り込む。

やっぱり臭い。

オリビアは急いで魔石から身体を反らした。

その姿を見たシリウスは、慌てて魔石をオリビアから離す。

「大丈夫?」

「…う~やっぱり独特。ドラゴンって生臭い…うへぇ〜」

-

オリビアは鼻を摘みながら顔を顰めるが、彼女の発した言葉に3人は一様に動きを止めた。

「オリビア。これはドラゴンの魔石なの?」

「うんそうだよ。シリウス兄様、私にドラゴンの魔石使った?」

「ああ」

シリウスは答えつつリシューに目配せすると、彼はタブレットでバジルを呼び出した。

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「つまり精霊であるオリビア様の身体には、他の魔力は毒になると」

息を切らせてやってきたバジルは、オリビアの姿に感動するが、再会の喜びはひとまず置いて、一通り彼女の話を聞く。

「毒って程じゃなくて、お腹壊すだけ。吸収出来なくって体内に溜まっちゃうんだって」

オリビアは自分のお腹を擦る。

「つまりあの日、触診で発見したのはこれだったと」

バジルは手渡された魔石をまじまじと観察する。

「そうなの。だからこれからは何があっても私には使わないでね」

「かしこまりました」

バジルは頭を下げる。

「悪かった。私が使う様に指示したのだ。良かれと思ってやったのだが、結果として君を苦しませてしまったのか。ごめん」

シリウスは、オリビアの頭を寂しそうに撫でる。

「え?全然大丈夫だよ」

「ありがとう」

「それよりも私、これから頻繁に精霊界に戻るけど気にしないでね」

「は?」

ガチャンッ

シリウスが肘でカップを倒す。

控えていたリシューが手早く新しいカップに取り換え、温かな紅茶を注ぎ直した。

「戻る時はきちんと報告していくから」

約束した通り。

オリビアはニコニコと笑うが、シリウスは無表情でずいっと顔を寄せた。

「どうして?行く理由あるの?」

「ん?う…うん必要なの」

「何故?」

「え?何故って、駄目なの?」

「理由は?」

無表情でグイグイと迫ってくるシリウスの顔を、何とか両手で突っぱねて、オリビアは声を少しだけ荒げた。

「魔力を!魔力を出さなきゃいけないの!!」

「魔力を、出す?」

突っぱねたオリビアの手を、シリウスは逆にぎゅっと握り返す。

「常に魔力出してないと詰まって爆発しちゃうの。ここにいると自由に魔力が出せないから精霊界に行かなきゃいけないの!」

「魔力が出せない?何故?」

「きっとみんな魔力酔いする。それに近付けないと思う」

その言葉の意味を、ミナとバジルは痛い程理解出来た。

あの日。

シェラと対峙したあの日の恐怖を思い出し、2人の身体には無意識に鳥肌が立つ。

今までオリビアに対して精霊という認識はあったが、何となく人間に近い存在である、と勝手に思っていた。

しかし、彼女の母であるシェラの存在を間近で感じてしまい、その存在の大きさを改めて実感した後では、その娘であるオリビアも同じ様な存在であるという事をしっかりと認識したのだ。

そして、そう考えた2人の潜在的恐怖は、精霊である今のオリビアにはハッキリと伝わった。

「…まさかあの時」

何か気付いたのであろうバジルは、はっと顔を上げる。

「そう。この前、溜め込み過ぎて危うく爆発しちゃいそうになった。もし爆発したら国一つ位吹き飛ぶだろうってお母様が言ってた」

「…」

シリウスは考え込む。

「今は魔力を放出してはいないのですか?」

「ちょっとしてるけど、こんなもんじゃ直ぐに溜まっちゃう」

今は放出していると言うよりは、単に漏れているだけ。

バジルの質問にオリビアは苦笑しながら答えた。

確かに以前と違い、オリビアは常に光を纏って薄く発光している。

「……」

「……」

「……」

考え込む様に皆一様に口を閉ざし、室内を沈黙が包んだ。

オリビアに届くのは、皆の困惑、恐怖、不安の感情。

仕方ないか。

しばらく様子を見ていたオリビアだったが、軽く息を吐いてすっと立ち上がった。

「やっぱりダメかな?」

「え?いや、駄目とは?オリビア?」

シリウスは思考するのを止めてオリビアに手を伸ばすが、すいっとそれを避けられる。

「やっぱり精霊は人間とは相いれない、かな?」

そう言うと、眩い光がオリビアの身体から溢れ出す。

驚いて目を見張る4人に、光の中からオリビアは手を振る。

「色々ありがと~。たまには様子見に来るからね。元気でね~」

オリビアは寂しそうに笑う。

「駄目だ!!」

シリウスが立ち上がり、光の中のオリビアに両手を伸ばしてしっかりと抱き止めた。

「駄目だ、行かないで。悪かった。君の尊厳を無視した。馬鹿な私を許してくれ」

「……」

ぎゅっと抱き締めたオリビアの身体は消える事なく、シリウスの腕の中に残る。

オリビアは彼の瞳をじっと見つめ、内に潜む感情をよむ。

後悔、不安、愛。

「行動を制限したい訳じゃない。ただ考えていたんだ」

シリウスは腕の中のオリビアに語る。

しかし彼女は無表情でシリウスを見ているだけ。

「君がサイファードにいた時、頻繁に精霊界に戻っていたのか、と。どうなんだい?」

「…戻ってない」

不機嫌そうな声で、オリビアは答える。

「そうか。リシュー、近辺の地図を」

シリウスはほっと息を吐き、未だに機嫌の悪いオリビアを腕から逃さずリシューに命じた。

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しばらくして、リシューは用意した大きな地図をテーブルいっぱいに敷く。

シリウスは、オリビアを抱えたままの状態でそれを覗き込む。

「ここがこの前行ったカッシーナ公国。それからここが今の拠点。ここら一帯全てが私の土地だ」

そう言うと、カッシーナ公国から北部分を全て指す。

「え?これ全部?」

驚いてついつい声を出すオリビアに、シリウスは嬉しそうに話を続けた。

「そうだよ。そしてこの辺り。ここは雪に閉ざされてはいるが、湖があってなかなか良い。広さは…そうだな。サイファード領の5倍位か」

シリウスが地図の中、一つの箇所をトントンと指で指し示す。

「5倍…」

「この付近は念の為に転移の魔法陣も置いてある。折角だから午後から現地に様子を見に行こう」

「…うん?」

シリウスが差した場所は、大きな山脈に囲まれた盆地のような場所だった。

一体ここに何があるのだろうか?

いまいち意図が分からず、ピンときていないオリビアは首を捻る。

「ここら一帯を、オリビアにあげる」

「は?」

シリウスの突然の宣言に、オリビアは驚いて彼の顔を見る。

「これからここは君が好きに使ってくれていい。勿論サイファードの様にしてもらってもいい。だが以前とは違い、ここには君から何かを搾取しようとする者なんて1人もいない」

「あ…」

シリウスの意図がようやく分かったオリビアは、彼の首にしっかりと抱き付いた。

「愛しい君の行動を制限したりはしない。ただ、出来れば君と離れたくない私の気持ちも少しは汲んでくれると嬉しい」

精霊界は、私には遠すぎる。

シリウスの言葉に、オリビアはこくりと頷いた。

そして、200年前と同様に精霊が北の大地に恵みをもたらす。

しかし、これを知る者は非常に少ない。