軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

体調不良

ベッドの中。

うつらうつらと視点の定まらないまま見ていた青い瞳が、柔らかく細められる。

「おはよう、オリビア」

「・・・?」

耳元で囁かれた声に驚いて目をしばたたかせると、ようやく至近距離からシリウスに見つめられている事に気が付いた。

「え・・え?え?!」

「おはよう、よく眠れた?」

「え・・・あ、うん。はい。おはよう・・・ゴザイマス」

混乱しながらも、オリビアはきちんと挨拶を返す。

どうやら自分は昨日、彼に抱き締められたまま寝てしまったらしい。

「そろそろ起きなきゃいけないね。このまま二度寝したい気分だ」

聞き慣れない少し掠れた低い声。

そして2人は何故か同じベッドで寝ており、オリビアはすっぽりと彼に抱き込まれていた。

シリウスはくすくす笑いながら、オリビアを引っ張り上げて自分の身体の上に乗せる。

「あわわわわわ」

驚いて彼の胸板に手を置いたオリビアは、その感触に驚いてを慌てて手を引っ込めた。

「・・シリウス兄様・・・服・・・」

シーツから見える彼の上半身は何も着ておらず、初めて直に触れた胸はしっとりと温かかった。

オリビアは真っ赤になって、涙目でシリウスに抗議する。

「大丈夫。下は履いてるから」

「そういう問題じゃないの!」

オリビアがアワアワしていると、扉の外から数回ノック音が聞こえる。

それを聞いたシリウスは溜息を吐くと、腹筋に力を入れて上半身を起こした後、一気にベッドから降りた。

勿論、オリビアを抱いたまま。

突然の動きに驚いたオリビアは、咄嗟に彼の首にしがみ付く。

抗議しようと見上げたシリウスは、いつものきっちりとした雰囲気とは違い、寝起きのせいか若干寛いだように見えた。

通常しっかりと撫でつけられている前髪は、無造作に後ろに流されている。

気だるそうに首を傾け、額に落ちた髪を左手でざっくりかき上げる姿に、オリビアはまるで自分自身が心臓にでもなったかのように、激しい動悸に襲われた。

か・・格好いい・・・。

エッチ・・・。

そう思った瞬間、オリビアの顔がボンッと一気に朱に染まっていく。

「?どうしたの?」

いつもと同じ距離にも関わらず、オリビアは何故か恥ずかしくて直視出来ずに俯いた。

だが彼はそんな彼女を許さず、顎先を持ってクイっと自分と目が合うように顔を上げさせた。

じっと、至近距離で見つめる2人。

オリビアが、顔からぷすぷすと煙が上がる程、混乱した時、

「おはようございます」

タイミングよく、リシューとミナが室内に入って来た。

「お、おはよう!」

オリビアはほっとして、シリウスの腕から降りてミナに駆け寄る。

「残念」

その姿を見て、シリウスはこっそり呟いた。

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ホテルの専用出口に停車した1台の馬車の中、シリウスはシートに座るオリビアの右手をしっかりと握り、跪いていた。

「私達はもう少し仕事があるので、気を付けて帰るんだよ」

「うん。ミナもいるから大丈夫」

「寂しくなったら、いつでも渡したタブレットを使うんだよ」

「うん、そうする」

「絶対だからね」

「うん。あの、時間大丈夫?」

オリビアは、先程から一向に出発しない馬車を不思議に思いシリウスに尋ねた。

「問題無いよ」

「・・・そう・・」

何だろう?

オリビアは、昨夜から何故かシリウスの態度が変わったような気がしていた。

やっている事はいつもと大して変わらないのだが、どことなく一つ一つの言動に熱量を感じるようになり、雰囲気が『兄』から『男の人』に変わったような気がした。

「あの・・シリウス兄様?」

「ん?」

オリビアはシリウスの瞳をじっと観察するが、直ぐに顔を赤くして俯く。

「何でもない・・・。また帰ったらお話する」

「分かった。楽しみにしているよ」

シリウスは彼女の指先に唇を当てて囁いた。

転移魔法を使えば一瞬で移動出来る距離のはずが、何故か今生の別れの様に離れ離れになる事を惜しんでいる車内の2人。

ミナとリシューは車外で待機していたのだが、ふと、思い出したかのようにミナがリシューに耳打ちした。

「リシュー様、リシュー様。あの女に何かするなら、私の分もお願いします。本当は自分が殺りたいんですが、オリビア様の安全が最優先です。どうか宜しくお願いします」

「頼まれるまでもないですよ。私はあの類の害虫を駆除するのが堪らなく好きなので」

首元のホックを締め直しながら、リシューは満面の笑みを浮かべる。

「それは・・・知っています」

ミナが苦笑していると、支配人が馬車に近付いてきた。

「ビンス・カッシーナ様と、カール・カッシーナ様がいらっしゃいましたので、離れにある会議室にお通ししております」

「分かりました。ああそうそう」

話し終えた支配人が戻ろうと踵を返したのだが、リシューに呼び止められる。

「ミランダ・カッシーナが乱入して来ようとした際は、丁重にお通し下さいね」

「かしこまりました」

「またね~支配人」

「はい」

ミナが支配人に手を振ると、彼は嬉しそうにほほ笑みながら去っていった。

「さあ、そろそろ出発を」

リシューが言うと、既に御者台に乗っていた御者達が手綱をしっかりと握り直す。

そのタイミングでようやくシリウスも馬車から降り、代わりにミナが乗り込んだ。

「出せ」

シリウスの言葉に、馬車はゆっくりと動きだす。

窓からオリビアが顔を覗かせ、2人に向かって手を振ると、それに応えるようにシリウスが右手を挙げ、リシューは腰を折った。

馬車の姿が完全に見えなくなると、2人は表情を変え、到着しているであろう2人に会う為に会議室に向かった。

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「はい、あ~んして」

「あ~ん」

拠点に戻ったオリビアは、万全の状態で待機していたバジルに診察を受けていた。

「お腹の辺りがおかしいと?」

「うん。今は治まってるけど、何となく気持ち悪くって・・・」

オリビアは、ぽっこりとした下腹部を擦りながら答える。

「それじゃあ、一度横になってみようか」

オリビアはミナに手伝って貰いながら、言われた通りにベッドに横になった。

「ちょっと触るよ~痛かったら言ってね~」

バジルはオリビアのお腹を軽く押さえていく。

「ぐうっ」

オリビアが唸る。

「大丈夫ですか?バジル!もっと優しくしなさいよ!」

「申し訳無い。オリビア様、平気?」

「う、うん。何か痛かった・・・」

「この辺り?」

バジルが先程の場所をゆっくりと触っていく。

「うん・・」

「何か、石のような物が・・・」

バジルは、オリビアのへその辺りにあるしこりに気付いた。

「少し魔力を当てて、情報を解析してみようか」

バジルはそう言うと、手の平程の大きさの機械を取り出し、オリビアのお腹に当てた。

「少しピリッとするかもしれないが、体に悪影響はありません。それではいくよ」

バジルはそう言うと、スイッチを入れた。

バチッ

静電気のような僅かな痺れが起こる。

「大丈夫?我慢出来る?」

「・・・うん。大丈夫」

オリビアは頷くが、スイッチを入れる度に、自分のお腹への違和感が酷くなっている事に気付いた。

しばらく我慢していたオリビアだったが、余りの苦しさに身体を丸め込む。

「ぐううううう」

そのままベッドから転げ落ちようとしたところを、寸前でミナに抱き止められる。

しかしオリビアはもがいて彼女の腕から這い出した。

「オリビア様!どうされましたか?!」

「オリビア様!」

苦しい・・・。

気持ち悪い。

息苦しい。

オリビアは、過呼吸の様にカフカフと息をしながら喉を掻き毟り始めた。

オリビアの美しい肌が、自らの爪で傷付き血が溢れだす。

ミナとバジルがその姿を見て、声にならない悲鳴を上げて駆け寄ると、彼女の手を掴んでその行為を止めさせる。

「ミナ・・・ミナ、ミナ・・苦しいよお~~~」

オリビアは息も絶え絶えに悶えながら倒れ込み、喉を掻き毟ろうと手に力を入れるが、2人にしっかりと掴まれて動かせない。

代わりに両足を激しくバタつかせる。

「オリビア様、大丈夫です。落ち着いて。深呼吸です。まずは傷の手当てを。バジル!あなた何をしているの!!」

ミナはバジルを怒鳴るが、彼女とて何が原因でオリビアがこうなったのか分からない。

暴れるオリビアを押さえ込み、精神安定剤を手に取った。

ああ苦しい。

お腹が、胸が重い。

何かがせり上がってくる。

喉が焼ける。

ダメダメダメ。

何か来る!!

オリビアの身体が一瞬揺らめいたかと思うと、バジルとミナの眼前から跡形も無く消え失せた。

「な!」

「オリビア様!」

慌てて辺りを見回す2人だったが、どこを探しても室内にオリビアの姿は無い。

「どこに・・・」

「そんな!オリビア様!!どこに行かれたのですか!?」

2人は悲痛の叫び声を上げながら、拠点全体に響かせる緊急音を鳴らした。

「オリビア様を探すのです!!」

すると階下の護衛からすぐさま連絡が入る。

何故か屋敷の前のロータリーに突然オリビアが現れ、そのまま倒れ込んだ、と。

護衛に保護するように伝えると、直ぐさま2人はロータリーへと向かった。

「うううううう」

シリウス兄様・・・。

苦しいよう・・・。

助けて・・・。

お母様・・・助けて・・・。

粉雪の降る中、オリビアは行く宛ても無く匍匐前進の様にずりずりと身体を引きずりながら進んでいく。

背後から自分を呼ぶ声が聞こえるが、今はそれどころではない。

何とかしてここから離れなければ。

オリビアは、何故かその事だけは直感的に理解出来た。

ここから離れてどこか遠くへ・・・。

でも身体が重くて言うことを聞かない。

それでもオリビアは、必死にこの場を離れようと身体を動かす。

オリビアはふと目の前に影が差したかと思うと、温かい腕に抱き上げられた気がした。

懐かしい匂い・・・。

温かい・・・。

お母様・・・。

オリビアは安心して、意識を手放した。