軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

機工界編 たった一文字、されど一文字!

『んんーーーーっ!!?』

くぐもった悲鳴が木霊する。過去の浩介君が悶絶していた。

過去の魔王にお腹を銃撃されて。

「「「「「『『エッ!?』』」」」」」

思わずバッとハジメを見やるジャスパー家の子供達&ミンディさん。

無理もない。過去のマザー&G10だって驚天動地の様子だもの。過去と現在で驚愕の声がハモるくらい。

一方、龍太郎や優花達は驚きを通り越して、半ば展開を予想していたのか「ほんとにやりやがった……」みたいな顔になっている。

だが、そんな驚愕もドン引きも、過去の非情な現実はあっさり置き去りにした。

息つく暇もなく浩介君の苦難、第二弾!!

『ひぎぃーーーー!?』

再び上がる断末魔を彷彿とさせる絶叫が木霊する。

過去の勇者に腹をかっさばかれて。

悪意ある存在に異世界召喚されても実力で凌いでほぼ無傷だったのに、そんな浩介君に最も深刻なダメージを与えたのは味方。しかも、過失じゃなく、言い訳の余地もない完璧な故意とはこれいかに。

エミリーちゃん達が見たら、もうやめてあげてっと滂沱の涙を流しそうな状況だが、現実はやっぱり非情だった。

まだだ。まだ終わらんよ! と言わんばかりに、その傷口に飛び込む蜘蛛型ゴーレム。『んぎょへぇ!?』なんて、人体が出そうもない奇声が鼓膜を不快感たっぷりに刺激する。

子供達が青ざめながら思わずといった様子で腹を押さえた。うずくまる子も。

「もうやめたげてよ! 遠藤が何をしたっていうの!」

エミリー達の代わりにと言わんばかりに、心優しい優花ちゃんが相変わらず萌え袖のまま涙目で訴えるが、当然ながら過去は変わらない。

いろんな意味で刺激強すぎな光景を前に、ユエが気遣いからモザイクをかけるが……

「いや、逆にグロくない?」

「完全にR18指定のスプラッタ映画だよね……」

奈々と妙子も過去一のドン引き顔になる凄惨な光景が。

『リアルエイリ○ンはいやぁああああああっ!!!』

『イ゛ィ゛イ゛イ゛イ゛ッ゛(爆弾取ったどーーーっ)!!!』

血まみれの蜘蛛脚が浩介君の腹からわしゃわしゃと這い出てくる。

モザイクのせいで逆に想像を掻き立てられ、より冒涜的な光景に見えてしまう。愛子がすかさず〝鎮魂〟しなければ、子供達の幾人かは気絶していたかもしれない。

それくらい猟奇的で正気を削る光景だった。

実際、精神安定を受けてなお青ざめ、目を逸らし、あるいは嘔吐しそうになっているし。

「流石はおと―― 兄(あに) さん。助け方にも容赦がない。見習わないと」

「フッ、聞いて驚けなの。パパはユエお姉ちゃんすら容赦なく撃ったことがあるの。最愛の恋人の頭皮だって容赦なく削っちゃうの」

「くっ、兄貴やミンディお姉ちゃんの頭皮を削る……か。俺にはまだ無理だ……道のりは遠いな」

ハジメの両足にしがみつくようにして寄り添う少女二人が、なんか恐ろしい会話を繰り広げている気がする。

後できっちり話をしなきゃ。教育よ! 教育! とレミアママ&ミンディさんが決意の眼差しを交わしている。

ハジメパパはハジメパパで「もう時効にしてくれよ……」みたいな顔になり、隣のユエから「……じゃあ、もう撃たない?」と問われて、

「いや、撃つが?」

「……」

と即答してポカポカパンチを貰っている。

というのはひとまず置いといて。

「さっきの戦いはあんなに格好良かったのに……」

「登場シーンがいちいち奇妙でも、本気で戦う姿はヒーローだったのに、な」

「どうしてこう……格好いいままでいられないのかなぁ? 基本的に不憫というか存在が冗談じみているというか……」

過去の浩介が、常人なら普通にショック死しかねない暴挙を受けておきながら、元気にキレ散らかしている光景を見て、子供達が未だに青ざめたままながら、なんとも言えない表情になっている。

意地でも脱衣を強行する深淵卿と、何がなんでも服を着せたいマザーの死闘(?)を見学した後、ハジメ達は改めて召喚装置破壊のための死闘を見届けた。

臆さず、退かず、超人的な戦いを魅せる姿。自爆という「ノガリちゃーーーんっ」な展開に本気で悔いる仲間想いの姿、そして託された役目を全うする姿。

どれをとっても子供達の瞳を輝かせ、アビスゲートはやはりヒーローなのだと納得するに十分な光景で。

合流一番、「変態だぁああああああああっ!!!」と思わず叫んでしまったリスティでさえ、しきりに「これが、おと―― 兄(あに) さんが右腕と認める存在……流石だ」と掛け値なしに感心するくらい。

それほど、召喚装置を破壊せんとする深淵卿の姿は格好良かったのだ。

なのに、次の見学地――ハジメ&光輝と浩介が再会した場所に来て過去視してみれば、初っ端から再び変人全開。かと思えば素に戻ってキレ散らかし、そしてこの有様である。

子供達の心は、ある意味、一つだった。

「「「「「わけが分からないよ……」」」」」

見ているだけで、見ている者の感情をジェットコースターに乗せてしまう男。それが深淵卿。

「皆さん、深く考えないことですよ! そういう生き物だと流しましょうね!」

「シアさんが言うと説得力ありますね」

ハウリアの身内ですものね、と微妙な表情のリリアーナ。

「身内を〝そういう生き物〟と割り切って見るのもどうかと思うがのぅ?」

「ティオが言うと説得力がないね?」

「どういう意味じゃ!?」

抗議したそうなティオだが、〝うちの姫様は、もうそういう生き物になったんだと思わねば……〟と身内から割り切られているので、確かに香織の言う通りである。

「というか、光輝の奴……これを見ると改めて思うな」

「変わっちまったな……って?」

「そう」

そっくりな苦笑を見せ合う龍太郎&鈴。以前の正義感だけで突っ走っていた頃よりずっと良いのだけど、ちょっと魔王の影響、受けすぎてない? と思わなくもない。

雫も同じような表情で頷く。

「一昔前なら、躊躇いなく仲間のお腹を斬り裂くなんてあり得なかったものねぇ」

『な、なんという非道……血も涙もない……』

良いタイミングでマザーが皆の心を代弁してくれた。

人類を己の支配欲のためだけに何百年も玩具にしてきた血も涙もない最悪のAIに、ここまで言わせるとは。

もちろん、主な対象は魔王ハジメなのだが、猛抗議する浩介に〝綺麗に斬れば大丈夫!〟みたいなセリフを悪びれた様子もなく言っちゃう勇者も十分にヤバい。

「光輝お兄さん……こんな人だったんだ……」

ほら、たぶん光輝に憧れていたのだろう女の子がショックを受けちゃってる。

『マザー! お前が行ってきた数々の悪行、断じて許し難い! 俺の大切な友まであんな有様にするような相手に、たとえ益があろうとも俺がなびくと思ったら大間違いだ!』

「「「「いや、遠藤をあんな有様にしたのは南雲 (っち)(くん)……」」」」

『いや、俺をこんな有様にしたのはお前……』

過去の浩介と、現在の淳史、 昇(のぼる) 、奈々、そして妙子のツッコミが重なった。ほんとにその通りだね、と子供達も深く頷いた。

だが、妙に芝居がかった過去のハジメは、浩介の抗議なんてまるっとスルーして絶好調に口を回す。

『人の命とはこの世で最も尊きもの! それを弄ぶ貴様の蛮行、見過ごすことなどできるものか! 俺は戦う! 世界のために! 人々のために――』

「ど、どうしよう、ユエさん! 南雲が壊れちゃってる! まるで天之河みたいになってるわ!」

『どうしよう、天之河! 南雲が壊れた! まるでお前みたいになってる!』

またも、過去の浩介とハモった。今度は優花ちゃんだ。ハジメのあまりに異常な姿に、思わず正妻様に涙目で助けを求めちゃう。

「……確かに、こんなハジメは見たくないっ」

「まさか、天之河が南雲の影響を受けてるように、南雲も天之河に感染して――」

「二人揃って、重病人を見るような目を向けてくるのはやめてもらおうか」

思わず半眼になって、ユエと優花の頬をダブルでムニィ~~ッするハジメ。

ユエと優花が仲良く揃って「「いひゃい、いしゃいっ」」と涙目になる。……が、仲良く揃ってちょっと嬉しそうなのはなんなのか。

それはそれとして、過去の中でも浩介が『ならまさか、天之河って感染するのか!?』と戦慄していた。

それくらい、勇者っぽい魔王は強烈な違和感を放っていたということだろう。

現実のユエと優花のように、いや、かわいげは欠片もないが、過去の浩介も光輝に指先で傷口を『えい』と突かれて悶絶している。

勇者としても、大変遺憾な解釈らしい。

だが、そんな喜劇みたいなやり取りもここまで。

『もう結構。ならば、四肢を切り取り、記憶を改竄して従順な被検体にしてあげましょう。そこのガラクタに与したこと、後悔しなさい』

『後悔などするものか! 俺は、俺は必ず――』

一拍置いて響き渡るのは、

――お前を殺す

むしろ、とても静かな声音だった。俳優の如き朗々とした語りはなんだったのかと思うほど静かで、落ち着いていて、そして過去最大に怖気を震う一言だった。

子供達から「ひっ」と首を絞められたような声が上がった。

ハジメの本気を知る龍太郎達でさえ思わずヒュッと喉を鳴らして背筋を正し、過去の勇者と深淵卿すら身を固くしているそれは、聞いた者を絶望の淵に落とすような鬼気と殺意に満ち満ちた、まるで呪言の如き宣言だった。

ユエ達が「ああ、これこそ敵を前にしたハジメ……」と頬を染める。

過去のマザーが動揺をあらわにしている。辛うじて捨て台詞を吐くので精一杯の様子だ。

「ハァハァッ、良かった……おと―― 兄(あに) さんがおかしくなったのかと思った……」

「過呼吸になるほどなの? 確かに、パパにはまったくちっともぜ~~~んっぜんっ似合わないと思うけど」

少女達からも大変不評だったようである。勇者ハジメは。

そ、そこまでかよ……と若干落ち込むハジメパパ。

「発電施設の確保っていう本当の目的から意識を逸らすために、あえて打倒アピールしたんだ。ほんとだぞ? 嘘じゃない。まして天之河なんて感染してないからな? そりゃあ参考にはしたけど、あくまで参考で――」

しっかり(必死に)弁明もしておく。娘のカエル化だけは絶対に阻止せねばならない!

もちろん、ミュウがパパに幻滅するなんてあり得ないことだが。

「ふふ、分かってるの」

実際、どこか必死さが滲むパパの様子に、ミュウはくすりと笑みを浮べた。無邪気な笑みではなく、理解者故の、そう、それこそ趣味に没頭するハジメにユエが見せるようなお姉さんスマイル……

七歳の娘に微笑ましく思われる……逆に心にくる……

ユエ達が父娘のやり取りを「あらまぁ」みたいな微笑ましそうな表情で見てくるので余計に。

「リスティ、覚えておくといいの」

「何をだよ」

「〝嘘じゃないけど本当でもない話〟で扇動したり意識誘導したりするのもパパの得意技だということを!」

「! つまり……頭も使えということだな! おと―― 兄(あに) さんみたいになりたければ!」

「今のも、電力確保から意識を逸らすための威圧ではあったけど、同時に本気でもあったの。エンドウを召喚できた時点で、パパはマザーの必殺を決めた。ミュウ達を召喚し得る存在を、パパは絶対に許さないから!」

「本気の宣言だったからこその、あの迫力だったわけか。それはマザーもブラフだと気が付けないわけだ。参考になるっ。やっぱり 兄(あに) さんは流石だ!」

「お、おう。それは、うん、良かった……」

愛娘の完璧な理解。そして、扇動と虚実の使い方を学びそうなリスティに、ハジメはなんとも言えない表情になる。

ドヤ顔とチラ見を向けてくるミュウに、先程感じたユエ味はもうない。ちょっと安心しつつ、褒めて欲しそうなミュウの頭を優しく撫でてあげる。

それを見たリスティも、

「おと―― 兄(あに) さん、俺、頑張る! 頑張って嘘も脅迫も上手くできるようになる! 騙し討ちも闇討ちも完璧にやってみせるから!」

「……なんかごめんな」

極めて物騒な、少なくとも十歳の女の子からはあんまり聞きたくない宣言をキラキラの眼差しと共に告げてくる。

ついでに、ミュウだけずるいと言わんばかりに、甘えるニャンコの如く頭を擦りつけてきた。

ミュウと同じように撫でてあげつつ、思わず謝罪の言葉を口にするハジメ。

だって、ミンディさんが凄い目つきでこっちを見てくるから……

というリスティの情操教育上の懸念はさておき。

「こ、これはまた凄い迫力ですね……」

「あらあら……映像で見るのとは、やはり違いますね……」

リリアーナとレミアの戦くような声音が響いた。

大量の流体金属――天機兵が一つの大きなうねりとなる。

統合天機兵――天機兵の集合体だ。その姿は、まさに生ける津波。

「けど、これは胸熱だろ!」

「 魔王(キング) に 勇者(エース) 、それに 深淵卿(ジョーカー) 、G10やノガリさん達も合わせて、まさに最強のロイヤルストレートだな!」

俺、めちゃ上手く言ったくね? とドヤ顔の淳史だったが、生憎と誰も反応してくれなかった。ちょっとしょんぼり。

実際、昇の言った通り胸熱展開だったからだ。誰もがワクワクした様子で、それこそアクション映画のクライマックスを見るかのような雰囲気で過去映像に釘付けである。

「三人の共闘……なんだか感慨深いわね……」

「全体で見れば協力したことはたくさんあるけどね。同じ現場で、同じ敵を相手にってなると……」

「これが初めて、ですよね?」

『ふははっ、勇者と魔王が共闘する舞台で踊れるとはなんたる僥倖! 滾るッ、滾るぞぉっ、実にエキサイティンッ!!』

トータス時代の光輝の在り方に、ハジメに向ける感情に、一番憂慮していたのは雫だろう。だからこそ肩を並べて戦う姿は、何度も見ても嬉しいに違いない。

そして、そんな雫を知っているからこそ、香織とリリアーナは優しい表情になってしまう。

目の前で激しい戦闘が繰り広げられる。大きく力を制限された三人にとっては、一歩間違えれば即死の極めて危険な戦場だ。

けれど、雫達からすれば、むしろ心温まる光景に感じられるのかもしれない。

「すっげ。南雲の錬成みたいだなぁ」

「ほんとSFだよな。ロボット軍団に、ビーム砲が乱れ飛ぶ戦場とか」

『フッ、我が深淵を前に光など無意味である! なぜなら深淵とは全ての光を呑み込み滅する絶対の闇であるからして!!』

統合天機兵の一部が砲塔を形成し極太のビームを放つ。標的はハジメ。薙ぎ払われるそれを、しかし、止めたのは光輝だ。

まるでハジメをカバーするように、〝伸びる刀身による抜刀術〟で砲塔を豆腐のように軽々と斬り落とした。

指向性を失い狙い撃ちできなくなった隙に、ハジメが即座に砲塔周辺のコアを精密射撃する。狙い通り、集束していたエネルギーが暴発。統合天機兵の一部がごっそりと消し飛んだ。

「連携……って感じじゃねぇな。やっぱ」

「偶然って感じでもないけどね」

「その通りじゃよ。二人共、戦闘における最適解を実行した結果、連携のようになっているだけじゃ」

龍太郎と鈴の感想に、ティオが感心の滲む声音で答える。

なぜか、ミュウがフッと笑う。卿の雰囲気に当てられているのだろうか? パパ的に「フッはやめなさい」と注意したくなっちゃう。

「ティオお姉ちゃん、つまり、なの! これが――〝我々の間にチームプレーなどという都合の良い言い訳は存在せん。有るとすればスタンドプレーから生じるチームワークだけだ〟というやつなの!」

「お、おう? また何かの作品のセリフかの? そんな渋い声、どっから出したんじゃ……しかし、うむ。秀逸な言葉じゃな。その通りじゃよ」

『――ククッ、つまり十二分ということであるなっ!!』

ノガリやエガリも負けてはいない。記録映像はアラクネ視点なので動きが分かりづらかったが、こうして客観的に見ると二体の活躍も尋常ではなかった。

殺到する機兵達を、卿のサポートをしながら蹴散らしている。同じ機械的存在でも格が違うんだよぉ! と見せつけるかのように。

記録映像では映っていなかったが、天井付近にある監視カメラや機兵のモノアイに向けて、脚先をチッチッチッと振ったり、お尻をフリフリしたり、変なポーズを取ったり……

明らかにマザーを挑発するような動きもちらほら。

一方、魔王&勇者も猛攻を凌ぎながら、結果的に挑発になっていそうな雑談タイムを繰り広げている。

『地球が意外にファンタジーでな、それが遠藤を追い詰めた結果なんだ』

悪化している深淵症を見て、お前が原因だろ! と冤罪(?)をふっかけた光輝に、ハジメは心外だと真実(?)を説明。

『嘘だな』

『あいつ今、ラナの他に三人、恋人がいるからな? 天才美少女博士と凄腕オタク美人捜査官とドジっ子最強エクソシスト』

『嘘だろ!?』

「「「「「嘘だ……」」」」」

『お前がいない間に、人が怪物化したり、地獄の悪魔が地球を支配しようとしたりしてたんだよ』

『嘘だと言ってくれ!』

ちなみに、途中に挟まった「嘘だ……」はジャスパー家の子供達だ。愕然としていらっしゃる。

地球って楽園じゃなかったんだ……普通にやべぇところだったんだ……というショックも当然あるのだが、それ以上に、だ。

「いや、確かに装置を壊した時は格好良かったけど……」

「でも、脱ぐのよ? それはもう確固たる意志を以て敵の前で脱衣するのよ?」

『任せよ! この深淵卿が一肌脱ごうではないか!!』

「待って、よく考えると恋人さん達の肩書きも大概よ!」

「そうかっ、謎は解けた! 似た者同士なんだ!」

「そういうことか! きっと世界でも数少ない人種なんだろうな」

「それは惹かれ合ってもおかしくないわね!」

『やはり我等は運命の赤い糸で結ばれていたようダァッ!! この気持ちッ、まさしく愛であるぅっ!!』

深淵卿に複数の恋人がいるという事実こそが衝撃だったようだ。自分達なりに解釈して納得しないとモヤモヤした気持ちで夜も眠れなくなりそう。特に男子達は。

エミリーが聞いたら鬼の形相で猛抗議しそうな納得の仕方だが。

異世界の子供達の間に広がる誤解。

ミュウが「ヒナちゃんセーフなの!」と心の中でサムズアップしつつ、エミリーお姉ちゃん達への誤解を解こうと口を開きかける。

が、動揺する子供の中には、当然、この子も含まれているわけで。

「あ、あのへんた――アヌスゲートに恋人が……そんな、に?」

「リスティ! 一文字、違うの! よりにもよって、そこを間違えちゃダメなの! あと、それだと門って二回言ってるの! 大事なことじゃないのに!」

厨二好きにとってラテン語は神域の言語。南雲家から英才教育を受けるミュウが知らぬはずもなく! いや、そんな言語は知る必要ないのだけど!

パパの部屋にある分厚いラテン語辞典は読破しちゃてるもんだから!

「いや、ミュウ。名前はともかく、そこは突っ込まなくても――」

「……ハジメは、ティオの そ(・) こ(・) に突っ込んでますけどね。なんちゃって、ふふふっ」

「ユエよ、何を上手いこと言ったった! みたいな顔しとるんじゃ。事実じゃが時と場所を考えてくれんか?」

『身を以て知るがいい! 深淵は常に遍在する! 時も場所も選ばぬぅ!!』

ほら、地球組の女子達がちょっと頬を赤らめて明後日の方向を見ているではないか……と、もじもじしちゃうティオお姉さん。

ジャスパー家の子供達には意味が通じていないようで幸いである。

「つーかよぉ、リスティちゃん。今、遠藤のこと変態って言おうとしなかったか?」

『我は深淵ッ! 深き闇が変じ、実態を持った存在! 汝らの攻撃など通じぬと知れぃぇええいっ!!』

言い間違い以前の問題である。と龍太郎が困り顔で言う。

「頼むから本人の前ではやめてやってくれよ。あいつ、また泣き崩れるだろうからよぉ」

「む? 分かった。もう言わな…………前向きに検討する」

「なんで言い直した!? あ、さっそく〝嘘じゃないけど本当でもない〟話し方を練習してやがるな!?」

「純粋さまで失わないで、リスティ!」

『これぞ純粋なる闇! 何者も逃げること叶わぬと心得よ!!』

龍太郎に続き、ミンディお姉ちゃんも必死。お願いですから、リスティを悪い道に連れて行かないで! みたいな視線が 悪い大人(ハジメ) に飛ぶ。

が、まぁ、それはそれとして、だ。

『フハハハハッ!! 無駄無駄無駄無駄無駄ムダッァッ!! 闇と光、そして深淵。我等三人が立つ戦場に敗北はない! なぜならばぁっ、我等こそ――』

「「「「「さっきからうるさぁーーーいっ!!」」」」」

優花、奈々、妙子、そして子供達の幾人かが、この場の全員の心の声を代弁してくれた。

皆揃って思っていたけれど、映像の中のハジメ達と同じく「気にしたら負けなんだ、スルーしよう!」と暗黙の内に了解し合っていたというのに。

というか、今更ながらに気が付く、エガリ達の映像記録の秘密。

あいつら、アビィの妄言を編集して七割くらいカットしてやがる! と。

たぶん、あの二体からしてもうるさかったのだ。三人の共闘という珍事に、いつにも増してハイテンションな卿は。

「微妙に、こちらの会話と噛み合ってる感じがうっとう――ごほんっ。困りますね! どうしても気になってしまって!」

「あ、あらあら……愛子さんが、元とはいえ生徒さんに鬱陶しいって……」

まぁ、でも気持ちは分かる、と誰も思った。

存在感皆無のくせに、こんな時ばかり無視しようとしてもぬるりっと意識の中に入り込んでくるのだから。その鬱陶しさ、筆舌に尽くし難しッッ。

だが、それも幸い(?)なことに、ここまでだった。

統合天機兵がいよいよ本気を出してきたのだ。

一向にハジメ達を捉えられず、痺れを切らしてのオーバードライブ状態へ。一気に動きが変わる。強烈な放電攻撃で三人を麻痺させた直後、質量攻撃に転じた。

その動きは、まさに生ける激流だ。

そして、狙いは統合天機兵の弱点解析に機能の全てを割り振って停止状態になっているG10だった。

戦局は、G10を守り抜くことへ移行した。

「あっ、おと―― 兄(あに) さん!!」

リスティが思わず声を上げる。

ハジメが天井に叩き付けられた。神話決戦以降で、おそらく初めてまともに受けたダメージだ。

記録映像で知っていたユエ達でさえ、改めて見てもハッと息を呑んでしまう。

「魔法が、ううん、魔力が霧散するってこんなに厄介なんだね」

「だな。俺等も気を付けねぇと。やっぱ無意識に頼っちまうからな」

「え? 坂上は元々拳でごり押しだろ? むしろ、拳に頼り切りだろ? 脳筋上等って感じで」

「お前がまともに魔法使ってるところなんて見たことねぇけど? 拳一つで猪突猛進! がお前のスタイルじゃん?」

「た、玉井ぃ、相川ぁ。俺だって魔法くらい使えらぁ! そりゃあ、ちと苦手だが……最近だって鈴に教わりながら手札を増やしてんだからな! 将来のことも考えて!」

「はははっ、むりむり! 絶対途中で〝めんどくせぇ! 殴った方が早い!〟って匙を投げるだろ!」

「それな! 魔法は谷口に任せとけって!」

「玉井さん! 相川さん! 騎士団長は一芸だけでは務まらないんです! せっかく他の技術にも目を向けようとしているんですから、水を差さないでください!」

龍太郎くん、怒りで目元がピクピク。同時に、恐怖で口許もヒクヒク。

友人二人の「無理すんなよ!」という善意の表情が逆に腹立たしいが、王女様の表情も恐ろしい。なんというか、こう、あれなのだ。

将来のことを考えるなら検討してくださいね! とか、絶対に逃がしませんよ! とか、そういうのを通り越して「え? 坂上さんは騎士団長なので当然ですが何か?」みたいな表情に見えるのだ。

「これ、旅行が終わったら内定確定するかもね。王国中、ううん、知名度的にトータス全体にお触れくらい出るかも」

「こえぇこと言うなよ、鈴。どれくらい冒険者やるかも決めてねぇのに……」

「え? 何か言いました?」

直ぐ近くで会話しているのに、急に難聴になる王女様。

龍太郎が「鈴、帰ったらもっと魔法を教えてくれ」と必死な様子で囁いている。たぶん、その魔法、逃亡用だ。冒険者は自由を求めるものだから!

ハイリヒ王国騎士団長リュウタロウ・サカガミ! 頑張れ! と、ハジメ達が心の中でエールを送っていると、過去映像がクライマックスに入った。

互いをカバーし、しかし、己の身を厭わずG10を最優先に。流体金属の激流をかいくぐってG10を守り、守り切れないと見るや否や針の穴を通すようなパスを繋いでいく。

並の人間なら一秒と経たず呑み込まれるだろう戦場で、惚れ惚れするような連携を魅せるハジメ達。

その命懸けの時間稼ぎに、G10もまた機能の限界を超えて応えて魅せた。

『解析完了。統合コアの位置、投影します!!』

きっかり三百秒。本来かかる時間の半分で暴き出された敵の弱点。

防御を固めるために、統合天機兵は巨大な球体に集束・硬化した。

その強固なボディを、熱したナイフでバターを切るが如く、光輝が削ぎ落とす。

赤い十字線が統合天機兵に重なった。

その中心を、

『マザー、聞いてるな? ――今、そっちへ行く』

真紅の閃光が貫いた。

残心するように両手で銃を構えたままの過去のハジメの前で、統合天機兵がどろりと崩れ去っていく。

「よっぉおおおっしっ!! やった!! おと―― 兄(あに) さんかっこいい!」

「激アツの戦いだったの!!」

ハジメの足下で思わず万歳しながら歓声を上げるミュウとリスティ。顔を見合わせ、一拍。ニカッと笑い合って「「いぇーーーーいっ!!」」とハイタッチを交わす。

スポーツ観戦で最高のシーンを見れば、犬猿の仲でも笑顔で共感し合える。そういう現象だろうか?

何はともあれ、手を取り合ってぴょんぴょんしながら感想を言い合う少女二人の姿には、ハジメ達もにっこりである。

それに当てられてか、どこか圧倒された様子だった他の子供達も一拍遅れて歓声を上げ、興奮した様子で口々に感想を言い合い始めた。

「結果は分かっていたけど、やっぱり過去再生だと違うね。ドキドキしちゃった」

「そうね。これ、誰か一人欠けても危なかったんじゃないかしら?」

「そうですね。その場合、ハジメ君なら別の方策をとったでしょうけど……シアさんなら、どうでした?」

香織、雫、愛子も頬を上気させている。召喚されたのがシアだったなら勝ち確だったというハジメ達のセリフを思い出した愛子が、シアに話を振った。

シアがう~んっと顎に手を添える。

「正直、アビスゲートで良かったんじゃないですかね? 人型マザーとの戦いならともかく、統合天機兵とは相性が悪そうです。私は物理特化ですからねぇ。流体はちょっと……」

「拳を振っただけで衝撃波を出すウサギさんが何か言ってるわね……」

優花ちゃんの的確なツッコミ。ユエ達は揃って頷いた。

むしろ、流体だからこそシアは天敵かもしれない。ガトリングガンの如く乱れ飛んでくる拳圧、ドリュッケンさえ取り出せれば、その衝撃力は対地ミサイル級のレベルに。

触れることも叶わず、四散しまくる天機兵の姿が幻視できてしまう。

川に拳を打ち込んでも意味がない? なら地形ごと粉砕すればいいじゃない! を素で実行した場合、マザーはどんな様子になったのか。

ちょっと気になりつつも、ハジメは苦笑を浮べた。

「むしろ、そのマザー戦でこそいてほしかったよ。……ボッコボコにされたからなぁ。正直、かっこ悪いからこの先は見せたくないくらいだ」

記録映像で既に説明済みなので今更ではある。なので、見学に異論はないが気は進まないらしい。

「……そんなことない。むしろ、あんなにギラギラのハジメは久しぶりだったからたまらない。ぬれ――興奮した」

「あんまり誤魔化せてないが?」

「地球に戻ってからの夜は激しかったですね!」

「余計なこと言わなくていいが!?」

ぺろりっと舌舐めずりしちゃうユエさん。良い笑顔でサムズアップするシア。その他、頬を赤らめて、しかし、強く共感しているっぽい香織達。

いつの間にか子供達がしんっとしていた。お互いに視線を向け合い、感想を言い合っているふりをしているがめちゃくちゃ聞き耳を立てている。

子供達がいるんですよ! とミンディさんから厳しい眼差しを頂戴してしまう。が、そんな彼女の顔も真っ赤だった。瞳の奥で興味が津々しているっぽい。

「ミュウ、〝夜は激しかった〟ってなんだ? それと、ユエの姉さんが言いかけた〝ぬれ〟って、何を言いかけたんだ?」

「言わせんな、恥ずかしいの」

「恥ずかしいことなのか!? いったい何が恥ずかしいんだ!? 一人だけ分かった顔してずるい!! 早く教えろぉ!」

純粋なリスティちゃんの問い詰める声がやけに木霊する。なぜ、ミュウは理解できているのかは言わずもがな。一緒に暮らしていれば、そりゃ分かる。

フッ、リスティはまだまだ子供なの。みたいな顔で髪をファサッとしているミュウと、そんなミュウの肩を掴んで「なぁ! 何が恥ずかしいんだよぉ! 教えろよぉ!」と揺さぶっているリスティ。

なんとも言えない空気が漂った。

痺れを切らしたリスティの顔がぐりんっとユエに向く。ユエは後悔した。己の言動を。

こんな場所で自分の発言を幼子に説明しなければならないのか! と。

しかし、リスティの視線は直ぐに、ハジメ、シア、そしてミンディにも向く。

吟味してる。ユエの様子から言いにくいことらしいと察した勘の良いリスティちゃん。その勘を更に働かせて、誰に聞けば誤魔化しなく教えてもらえるか考えている!

ハジメ達の視線が高速で交わされた。説明役の押し付け合いが意識下で繰り広げられる。それはもう、統合天機兵戦もかくやというイメージ闘争だ。

「……ミンディおね――」

「!!?」

よりにもよって私なの!? と動揺するミンディさん。

いろんな意味でピンチ! というその時だった。

『しくしく……しくしく……』

心の底から傷ついていそうな悲しげな泣き声が。

思わず、一斉に視線を転じるハジメ達。そこには、機兵の残骸に埋もれるようにして三角座りしている青年がいた。『ココロがイタいよぉ……』と微かに聞こえてくる震える声音、丸まった背中から漂う哀れな感じがすごい。

過去映像の中で、ハジメと光輝が揃って盛大に溜息を吐く。

「ど、どうしたんだ、あの人。なんかすっごい……その……」

「哀れ、ね」

「ヒーローっぽさが……消えた?」

「あの人の感情、どうなってんだよ……もう、なんかコワイよ……」

『もっと優しくして!』

やっぱり、微妙にリアルの感想と噛み合う過去の卿、否、浩介のセリフ。

魔王と勇者が、卿の成れの果て(?)の腕を掴んで容赦なく引きずっていく。足を投げ出したまま、水揚げされたマグロみたいに引きずられていく意気消沈気味の浩介。

先程までのノイズの権化みたいなハイテンションが嘘のよう。

リスティがポツリと呟く。

「ほんと、なんなんだ、あの人」

「それは誰にも分からないの。まさに深淵なの」

何はともあれ、リスティの意識は逸れたようである。

なので、リスティの戸惑い気味の言葉に誰もが共感している中、

「ありがとう、アビスゲートさん……」

ミンディだけは、引きずられていく浩介にヒーローを見るような眼差しを向けていたのだった。