軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

星霊界編 わざとじゃないです、本当です…byユエ

翌朝のことだった。

昨日の昼食時と同じ、崖の向こう側が一望できるテラスへ朝食をいただきに来たハジメ達は、揃って目をこすった。

寝ぼけているのかな? と自分を疑って。

「……っ」

メイドさんが一人、増えていたから。

そう、優花ちゃんである。ダリアさんが目を見開いて、上から下までしげしげと眺めているのは、きっと珍しかったからだろう。

自分以外にメイド服を着ている人を初めて見たからというのもあるだろうが、それ以上に、だ。

確かに、誰が見ても、疑いようなくメイド服を彷彿とさせる衣装なのに、あまりにも自分のそれとは違っていたから。

クラシックタイプのダリアは露出がほとんどないのに対し、優花のそれはミニスカ&ニーソ、肩剥き出しのノースリーブタイプだったのだ。なんなら胸元も大胆に開いちゃってる。

いわゆる、アキバにおわすようなミニスカメイド系だ。

「あ、あの、優花様。そのご衣装はその……メイド服かと推測いたしますが……」

「違いますけど?」

いや、違わねぇだろ……と、誰もが思った。

確かに、よく見ればメイド衣装そのものではない。白と黒を基調にしたワンピースだ。ただ、たっぷりのふわふわフリルやリボンによって、エプロンを付けているように見えるだけで。

とはいえ、それで普段着と言い張るのはちょっと無理がある。

何より、だ。

「あの、優花お姉ちゃん。頭にホワイトブリムが乗ってるの……」

意識してるよね? メイド服。と、証拠を突きつける探偵の如きミュウの指摘に、優花は「うっ」と言葉に詰まった。

「優花ちゃん……ついに、覚悟を決めたんだね?」

「……園部優花。ここからはフリーダム。行きますっ」

「なんのことか分かりませんけど! 別に誰かの好みとか意識してるわけじゃないから!」

語るに落ちてる……と誰もが思った。

香織とユエが、長年の戦の雌雄を決す時が来た敵軍の将みたいな表情で頷いている。

それで、ようやく正気に戻った(?)のか、急に羞恥心メーターが振り切れたのか、真っ赤な顔でホワイトブリムをむしり取る優花ちゃん。

「へへんっ、どうよ? 南雲っち」

「こんなこともあろうかと用意しておいたんだよねぇ」

奈々と妙子だけが、この場で唯一ドヤ顔だった。

いったいどんな状況を想定してたんだよ……と鈴がなんとも言えない表情になり、龍太郎や淳史達はハジメの趣味か……と生暖かい目に。

「ハジメったら、メイド好きだからって優花にまで……」

「ヘリーナとも妙に仲が良いですしね!」

つい最近、深夜のメイド喫茶でメイドさんした(意味深)雫が呆れ顔になっている。リリアーナは完全に、ハジメを無類のメイド好きと信じて疑っていない様子だ。

愛子がこそこそとレミアに話しかけている。優花の衣装を指さしながら。

たぶん、あれだ。現職デザイナーのレミアに、似たような衣装を用意できないか相談しているに違いない。レミアもハジメをチラ見した後、妙に乗り気っぽいし。

「な、なんてこった。なんてこった!」

「聖装〝メイド〟……あの方も纏うことを許された方だったとは。だがしかし、だがしかしっ」

「あ、ああ。なんだこの込み上げる気持ちはっ」

「だ、ダメだっ。あんなの……あんなのエッチすぎるっ」

「聖なる装いだからこそ、背徳感がががががっ」

実は、スキンヘッドおじさんを筆頭に、昨日の五人の戦士の男達もこの場にいたりする。

優花のミニスカメイド風フェミニン衣装は、そんな彼等の心の中の新たな扉を開いてしまったらしい。動じていないのはスキンヘッドおじさんだけだった。流石はスキンヘッドおじさん!

「わ、私、やっぱり着替えてくるっ」

そんな彼等の声が聞こえたせいもあって、優花の羞恥心はついに決壊してしまったようだ。顔を真っ赤にして、胸元を片手で隠し、スカートの裾を手で押さえながら走り去ろうとする。

「え?」

「え?」

最初の「え?」は意外にもハジメだった。

思わず立ち止まって振り返る優花。ハジメと目が合う。ちょっと残念そうに見えなくもない……

どうやら、ハジメ的に〝あり〟だったらしい。ユエ達の「ふ~ん?」と意味ありげな視線が刺さったので直ぐに真顔に戻ったが。

「それを脱ぐなんてとんでもない! ガチで似合ってるよ、優花っち!」

「ほら、上着。これ着ればメイド服感が少し薄れるでしょ?」

「うっ……ありがと。……着替えるの、やめる」

もじもじしつつ、妙子から上着を受け取って羽織る優花。口元がもにょもにょしているように見えるのは、にやつきそうになるのを必死に堪えているからか。

そんな恥じらった仕草が、戦士達には余計にクリティカルヒットしたらしい。

「すんませんっ、ボーンズさん! 俺、朝メシはいりませんっ」

「オレもだ! ちょっと訓練してくるぅ!」

「消えろっ、オレの中の邪念ッッ! ウォオオオオオオオッ」

「お、おい、お前等!」

なんて叫びながら、彼等は揃って訓練場へ走り去っていった。気持ちは分かるぜ……と龍太郎、淳史、昇の三人はビシッと敬礼した。

「なんじゃご主人様よ。感想は言ってやらんのか?」

早速、優花に絡みにいったユエ&香織、その歯止め係に雫達が寄っていくのを眺めながら、ティオがからかい気味にささやいてくる。ハジメは軽く肩をすくめた。

「直接褒めたら絶対、逆に着替えちまうだろ」

「ほほ~~ん♪」

ティオはそれ以上、何も言わなかった。ただ、ニヤニヤした顔がちょっとばかし腹立たしいハジメだった。

と、そこでちょうど昨日も世話になった料理長さんが朝食を運んできてくれた。皆それぞれ席についていく。

ハジメも自分の席に――というタイミングで、こそこそと駆け寄ってくる男達。

「なぁ、南雲。いや、メイ 道(どう) の大先生!」

またおかしなこと言い始めたぞ……とハジメがジト目を向ける。 昇(のぼる) が非常に畏まった様子で、しかし、真剣な眼差しを向けてきていた。

「なんだ……?」

「自分っ、 柳(リーウ) さんにもあんな衣装を着て欲しいのでありますっ。どうしたらいいか、ご教授くださいっ」

ガバッと頭を下げる昇。必死だった。大先生が必要だというなら十万円の壺を買うことだって辞さない覚悟が透けて見えた。

なので、ハジメは頷き――

「そこの人~! 早くこれ引き取って~」

「すんませんねぇ。今、連れて行きますんで。ほら、朝飯が冷めちまうぞ~」

「や、やめろぉ! 俺は今、大事な話を――」

淳史に連れて行かれる昇を横目に、今度は龍太郎がこそっと。

「なぁ、南雲――」

「皆まで言うな。ってか、あれ用意したの宮崎達だろ。なんで俺に頼むんだよ」

「ばかやろう、女子に頼めるわけねぇだろ! こういうのは男同士の秘密だろうが! お前なら対価さえ出せばなんだって用意できる。そうだろ?」

嫌そうなハジメに、龍太郎が力説&懇願する。

で、力説すぎて声が響いたようで。

「ふぅ~~ん? 龍くん、ああいうの好きなんだ?」

「!!?」

当の彼女さんが直ぐ後ろにいた。じっとりした目をしていらっしゃる。

「あ、いや、そのだな……」

「もう、言えばいいのに」

「え?」

「……だから、直接言えばいいでしょ」

ちょっと頬を染めて視線を逸らす鈴。龍太郎が求めるならなんだって着てあげるという言外の言葉が伝わる。龍太郎もまた照れたのか、頬を染めながら頭を掻く。

「なるほど。これが桃色結界というやつか。確かに居たたまれないな」

「「!?」」

よく注意される現象を実感して頷いているハジメに、一時、その存在を忘れて二人の世界に入っていた龍太郎と鈴はますます赤くなって、いそいそと朝食の席についたのだった。

「準備はいいか?」

朝食の後、訓練場の中心にハジメ達は集まっていた。

否、集まっているのはハジメ達だけでなく里の大半の人達もだ。見送りである。

実は昨日のうちに今日の予定は決めてあって、里の人達にも通達されていたのだ。

すなわち、ダリアが救世主一行と共に一時帰国する旨を。

具体的には、ハジメ達の観光に世話係として随行しつつ、兼ねてより計画していた各国の状況確認もついでにしてくるという話を、だ。

なので、今の準備確認もダリアに向けたものだった。

「ええ、大丈夫です、陛下。――ボーンズ、後をお願い致します。二、三日で戻りますから」

「各国の状況確認に絶好の機会とはいえ……本当に誰もついていかなくて良いんですかい?」

癖なのか、スキンヘッドおじさんが片手で頭をつるりと撫でる。困り顔だ。

「あら、救世主一行と同道しますのに、どのような不安が?」

「それを言われちゃあなんも言えねぇんですけど」

ますます困り顔になるボーンズ。見送りにきた者達の中にも、少し不安そうな表情がチラホラ見える。

おそらくだが、彼等・彼女等が心配しているのは、ダリアの身の安全だけでなく〝帰ってくるか〟ではないだろうか。

信用していないからではない。見捨てられるなんて思ってはない。

けれど、多くの人が〝聖女〟を求める気持ちも、ダリアの優しさも、誰よりも理解しているから、向こうで何かあれば見捨てることができなくて、結果的に帰ることができなくなるのではないか……

そういう気持ちが、どうしても湧き上がってしまうのだろう。

「あらら、ダリアさんってば慕われてますねぇ~」

「みんな、ダリアお姉さんがいないと寂しいの!」

「ふふ、もう皆様ったら……」

シアとミュウの指摘が的を射ていることは、ボーンズ――ではなく、スキンヘッドおじさんの苦笑が何より明白に物語っていた。

ダリアが思わずといった様子で優しげに目を細める。その慈愛に溢れる表情は、もはや〝聖女〟というより〝聖母〟のようだ。

「陛下、少しお時間をいただいても?」

「ああ、急ぎじゃない。ゆっくり話してくれ」

「ありがとう存じます」

一礼し、里の者達に何かを話しに行くダリア。あっという間に人の輪に囲まれる彼女を、香織や優花達はハートフル系の映画でも見ているようなほっこりした表情で眺めている。

その間に、ユエがこそっとハジメの手を引いた。人混みから少し離れた場所に連れだし、腕を組むようにして顔を寄せる。

「……で?」

たった一言だが意図は明白だ。何せ、この中で唯一の共犯(強制)であるからして。

「上々だ」

ハジメはドヤ顔で頷いた。ユエの耳元に顔を寄せ返してこそっと話す。少しこそばゆそうに悶えつつも更に体を寄せるユエ。

香織や優花を筆頭に何人かがチラリと視線を向けてくるが、人の輪から外れて身を寄せて合っているハジメとユエの姿に「そう言えば、今朝はまだイチャついているとこ見てないな」「なんだ、ただの日課か」みたいな納得した顔で直ぐに視線を戻した。

不信感も好奇心も湧かせないバカップル式内緒話。またの名を本家〝桃色結界〟。

それが意図してのものか否かはユエの満足そうな微笑から押して知るべし。

「計画通り、ダリアを神官に任命させた。各種アーティファクトの貸与許可も得られたから、秘密の神官兼禁足地の里長の二足のわらじを履いてもらうことになる」

内緒話の内容は、夕べの女神ルトリアとの交渉だ。ダリアを〝名前はまだない例の組織〟に引き込むための、最初にして最大の難関である。

どうやら上手くいったらしい。

「……ルトリアがよく認めた」

「種々の条件はつけられたけどな。というか、ダリアには首輪もついた」

「……条件? 首輪? どんな?」

他の世界に愛しい人の子を連れ出されたくないからという理由で、どんな状況でも勇者選定さえしなかった愛情激重の女神様である。

ハジメが交渉したなら決裂はないと確信していたが、だからこそ条件は気になる。特に首輪といえば、ハジメもまた某皇帝一族の命を握るような首輪を作った経験があるからして、なおのこと不穏だ。

「なに、そんなに重くはない。少なくとも俺達からすればな」

曰く、条件は〝秘匿〟らしい。

神官に任命されたこと、聖域や異界へ行き来できること、その手段として貸与された 異界の道具(アーティファクト) の存在、その使用、異界で得た知識や技術に関して、この世界の人間には一切を秘匿すること。

また、異界にいてもダリアの全てを把握できる女神の秘術を魂に刻むこと。

「……か、過保護。GPSで常に子供の位置を確かめてるお母さん?」

「ま、まぁ、そうだな。ダリアは〝世界を越えても、いつでも見守ってくださるなんてっ〟みたいな感じでめちゃ感動してたけど」

本人がいいなら、まぁ、いいか……と苦笑をこぼし合う二人。ついでに、息をするように自然にキスまで。唇の位置が近かったのだから仕方ない。

ダリアが何やら演説を開始した。里の人達の不安を払拭する仕上げに入ったらしい。

それに妙に感心しているのは愛子とリリアーナだ。何やらメモまで取っている。人心掌握術の参考にしているのか。

リリアーナはともかく、愛子よ……みたいな表情になっている。ティオとか雫とか。

教師のスキルとして有用なんだね、愛ちゃん先生! みたいな感じで、奈々と淳史もスマホで録音を開始。人心掌握を考える教師って……みたいな感じで引いている。優花とかレミアが。

「あと、神官任命にあたって霊素も戻してもらったぞ。一人くらいならユエがするまでもなかったな」

「……まぁ、女神だし」

「まぁな。その秘匿も条件の一つだ。で、破ったら――」

「……どうなる?」

少し心配そうなユエ。なんだかんだ、割とダリアのことを気に入っているらしい。

「霊素剥奪の上、異界に永久追放だとよ」

「……そんなっ……そんな……ん? 軽くない?」

「な?」

ノリで悲壮感を出してみたり、ヒシッとハジメにしがみついたりしてみたけれど、よく考えれば「あれ?」と小首を傾げてしまう。

だって、霊素剥奪は既に受け入れていることだ。

永久追放も、責任感の強いダリアにとって、背負うと決めた今の責務を強制放棄させられる行為なので辛くはあるだろうが、将来の夢は異世界への移住なのだ。

「世界が滅ぶ寸前まで、人の暴挙を受け止め続けた女神だからな」

「……ああ、基本的に自分の世界の子には甘いと」

そういうことなのだろう。もっとも、ダリア的には〝女神から見放される〟というのは死罰より辛いことだったようで、真っ青になった後、覚悟と決意に満ちた神妙な表情で誓いを立てていたが。

「ダリアと直接、話をさせたのも良かったんだろう。今までの軌跡やら信条やらを読み取ったみたいでな。ルトリアの奴、えらく感動してたよ」

「……結局、決め手はハジメの交渉じゃなくて、ダリアの誠実な生き様だったと?」

「そうなる」

苦笑するハジメに、ユエも「ふふっ」と笑みを向けた。ついでに、これまた水が高い所から低い場所に落ちるが如き自然な動きで首筋を甘噛み。ちゅっ、ちゅっ。

「……それじゃあ、んっ、特に何事もなく、あむっ、上手くいった? んっ」

「ああ、そうだな」

「……それにしては遅かったけど? もしかして、メイドさんとメイドしてたの(意味深)」

「アタッ、してないしてない。アーティファクトのレクチャーに時間は使ったけど……」

ゲートや認識干渉系はもちろん、簡易版アワークリスタルの使用や、老化防止のアーティファクト等々、秘匿しながらの二重生活には多くのアーティファクトが必須だ。

とはいえ、そのレクチャーに朝方までかかり、こうしてこっそり報告を聞く状況になるかと言えば……

ちょっと強めのカプチュー。牙を突き立てチューチューする。ついでに傷口もぺろぺろ。

さっきとは逆にくすぐったそうに悶えるハジメに、言葉とは裏腹に疑いなど微塵もなく、ただからかうようにぺろぺろちゅーちゅーするユエ様。

逃がさないようにか両腕をがっちり首に回して、片足も巻き付けている。

二人は話に、あるいは二人っきりの世界に夢中で気が付いていない。いつの間にか喧噪が止んでいることに。

「ほんと、特に何事もなかった。まぁ、強いて言うなら、ヒステリックな天人の女がダリアに決闘を申し込んだり、結果的に敗北して発狂したり、それで仕方なく殺害&蘇生を繰り返して落ち着かせたり、あとソアレが鬱陶しいから爆破解体したり――」

それでもソアレがあまりにしつこいので、エミリー特製の幻覚剤ぶち込んでシアとの夢の生活を体験させてやったり。

その結果、ソアレがお花畑の中で無邪気に蝶々を追いかける少女みたいになってしまったり。

心が折れたのを通り越して、一気に闇落ちしそうになっている王女神官をダリアが決死の第二ラウンドしながら諭したり。

どうにか闇落ちから救ったものの、ルトリアから神官の任を解かれそうになって廃人になりかけた王女神官が、ダリアの必死の弁明で解任を免れたり。

代わりに罰としてダリアの従者になることと、異界への同行を命じられて絶望のあまり自害しかけるも、ルトリアに自害できない魂の縛りをかけられて、遂には幼子のようにギャン泣きしたり。

そんな王女神官にダリアが聖母して慰めたり、王女神官の異界での処遇に関してもハジメとルトリアの間で種々の交渉をすることになってしまったり。

「……え? じゃあ、その天人の王女も?」

「ああ、ダリアの従者として異界行きになった。隙あらば自害しそうな情緒不安定ぶりだから、ヘリーナにもよく言っとかねぇと」

それから、とハジメは続けた。もはや自分の腰に両足を巻き付けて、対面抱っこ状態になっているユエのお尻に手を回して支えながら。

しかし、さっきからなんだろう。むせているような、咳き込んでいるような音がよく響いている。誰か風邪でも引いたのだろうか?

「アルフレリックへの紹介状を持たせた。ダリアを弓術の弟子として迎えてもらえないかと思ってな。俺の知る限り最強の弓使いだと言ったら、是非にと懇願されたんだ。異界の知識はヘリーナに、弓術は森人の長に学んでもらおうと思う。しばらくは留学みたいな感じになりそうだな」

「……ハジメ。それは十分に〝いろいろあった〟だと思う。」

「そうか?」

「……ん、そう」

見つめ合い、一拍。噴き出すように笑い合う。

そして、抱きかかえられているがため少し上から見下ろすような状態のユエは、ハジメの頬を両手で優しく包み込むと蕩けるような眼差しで、

「……ハジメ、お疲れ様♡」

愛情が溢れ出ているような声音と共に、それはもうきっとマリアナ海溝くらい深そうなキスをしようと――

「「「「そこまでーーーーーっ!!!」」」」

「「!!?」」

制止の怒声を響かせたのは、シア、香織、雫、そして優花だった。

ハッとして、ようやく意識を そ(・) ち(・) ら(・) へ(・) 向けるハジメとユエ。

「「あ」」

とっくにダリアのお話は終わっていたらしい。シア達どころか、里の人達までこちらに注目していた。

穴が開くほど凝視している者達もいれば、両手で顔を覆っている者も、「あらまぁ♪」とニヤついているご婦人方もいれば、「いいぞ! もっとやれ!」と囃し立てる者達、「ちくしょうがっ、俺に寄ってくるのは虫と進化体だけだってのに!」なんて血の涙を流しそうな者達もいる。

「あ、陛下。どうかお気になさらずっ。一時間、いえ、二時間ほど出発を遅らせましょうっ」

ダリアが真っ赤な顔で、しかし、両手で握り拳を作ってふんすっしている。

夕べのことで夫婦の時間が作れなかったせいだと考えたらしい。素晴らしい気遣いだ。時間の生々しさは勘弁してほしいが。

「いや、そんな気遣いいりませんから!」

と、大声で否定するシアに、香織達が一斉に頷いた。とても激しく。

「なぁ、南雲。さっき俺と鈴に言った言葉、そっくりそのまま返すぜ」

「ほんとにね! 見てるこっちが悪いことしてるみたいな気分だよ!」

ついでに龍太郎と鈴も呆れ半分からかい半分で、さっき投げつけられた言葉のボールを投げ返してくる。

「……うっ、ごめんなさい。ちょっと今朝のハジメニウムが足りなくて」

流石のユエ様も、これは恥ずかしいらしい。これほど大勢の人に見送られながら「じゃあ、ご厚意に甘えて」と部屋に消えるわけにはいかない。

頬を染めながら、そろりとハジメから降りる。

トコトコと、ミュウが代表するかのように前に出て来た。そして、両手を腰に当てて、むんっと真剣な表情を作ると。

「パパ、ユエお姉ちゃん。ミュウは最近、大事な言葉を覚えました」

「お、おう?」

「……ん、ん?」

一拍、すぅ~っと息を吸って、ミュウは大事なことを教えてくれた。

「 時(T) と 場所(P) と 場面(O) は弁えましょう! なの!」

ド正論が剛速球で飛んできた。ハジメパパとユエお姉ちゃんにクリティカルヒット。

なので、二人は、

「「はい、すみませんでした……」」

そう言うしかなかったのである。

旅行三日目の朝は、大人二人が大勢の前で幼子にマジ叱りを受ける光景から始まった。

「……少し遅れているか?」

「落ち着いてください、陛下。まだ誤差ですよ」

ひっそりした森の奥、廃墟というより建物の残骸が散らばっているだけといった様子の場所に、エリック達の姿はあった。

霊素が消えて、ある程度の時間を教えてくれる道具がなくなった今、太陽の位置が時間を示す最たるものだ。

森の奥でも開けた場所なので、まだ浅い角度でもなんとなく太陽の位置は分かる。

それをそわそわした様子で確かめているエリックに、ルイスが「気持ちは分かりますが」と苦笑しながら諫めていた。

「……懐かしい」

「そうだね。一年に一度は自分達の戒めのために来てるけど……」

グレッグが呟くと、ルイスが苦笑交じりに頷いた。ここに来れば、否応なく思い出す。五年前の、あの劇的な瞬間を。

この世界の命運を決めた、あの懐かしくも決して色褪せない光景を。

今や伝説の地となり、新たな聖地にも認定されて三国混合部隊が常駐する保護区域にもなっているこの場所こそ、かつてシアが召喚された場所だ。

なので、実のところエリック達以外にも、この場には多数の兵士達がいる。誰も彼も、どこか緊張した様子で、しかし、期待と高揚を隠しきれない様子で佇んでいる。

「……彼等のうち何人が、救世主ではなく聖女目当てなんでしょうね?」

「ククッ、兵士達にも大人気だったからな、あいつは」

ルイスが悪戯っぽく呟くと、エリックもまた同じような表情になった。

「昨日あった連絡の限りでは元気にやっているようだ。本当に良かった……が、まさか禁足地に村を作って住んでいたとは……まったく、たくましい奴だよ」

「ええ、本当に」

グレッグとルイスも聞こえていたのだろう。顔を見合わせて笑みを浮べている。ダリアとの再会が楽しみで仕方ない様子だ。

と、その時、不意に廃墟の一角に輝きが生まれた。

「来たか!」

「狼狽えるな! その場を動かず、神妙にせよ!」

グレッグが近衛騎士団長として声を張り上げる。ざわめいた兵士達が背筋を伸ばした。

輝きが楕円の形に拡大する。人が数人通れるほどの大きさだ。

そうして、

「そろそろ吐いちゃいましょうよぉ、ダリアさん」

「あ、あのシア様、わたくしは別に……」

「……シア、ダリアを困らせないで。というかくっつきすぎ。ダリアの精神が持たないから、ちょっと離れて」

目撃した。

聖女が、救世主と絶世の美女に腕を組まれるようにして密着しながら出てくる姿を。

まさに両手に花状態。

その後ろからは聖装メイドに酷似した、しかし妙に男心をざわめかせる衣装の優花がぴったりついてきている。

実はあの後、ダリアがうっかり「自分のせいで夕べの夫婦の営みが!」的な謝罪を口に出してユエにしちゃったものだから、勘違いが爆誕してしまったのだ。

優花が「やっぱり! そういうことだったのね! 南雲の浮気者! メイドスキー!!」と昨夜の密会を涙目で言っちゃったこともあり、勘違いは加速。

里はざわめき、香織達はジト目に。本当に手を出したとは全く思ってないが、どうせまた何かロマン的なあれこれのために裏で動いていたんだね? と。

よく分かっていらっしゃる。

で、ハジメがあれこれ誤魔化して、一応の納得は得たものの……

ハジメとダリアが一晩中一緒だったこと、なんかダリアの忠誠心が更に高まっているっぽい雰囲気を感じ取ったシアが、ハジメというよりダリアの気持ちを確かめようとして迫っているわけだ。

優花が真後ろをウロウロしているのはもちろん、「ほんと? ほんとに何もなかったの?」と気になって仕方ないからである。

そして、だいたい悪いのはハジメ(のロマンを求める精神)なので、ユエが助け船を出しているのだ。

当然ながら、そんな事情などゲートのこちら側では知る由もなく。

愕然。

そんな雰囲気が兵士さん達の間に駆け抜けた!

「う、噂は本当だったんだ……」

「美女同士があんなに密着して……あ、なんか急に扉が開くイメージが浮かんで――」

「種が……俺の中の種が割れるッ」

「ダリア様は、まさかシア様だけでなくあのような美女まで? なんというお方だっ」

「それは世の男共になびかないはずだっ」

「待て、待ってくれ。これはある意味、〝あり〟では?」

「あ、ああ。ありだ! 大ありだ!」

「どうせ手の届かないお方だと思っていた。どうせ、どこかの権力者と結ばれるんだと……だが、だが、ここに正解があったなんて!」

「美しい女性同士……いい、とても! 男なんていらなかったんだ!」

「ああ、これが正解だ! これが正義だ!! 真理の扉は今、開いた!!」

「ちくしょうっ、心を持っていかれたっ」

更に駆け抜ける新たな概念。彼等はまだ知らない。これが〝尊い〟、これが〝てぇてぇ〟という概念であると。

後の世に、その概念の名を伝えた者を歴史書はこう記している。正体不明の尊き推し活伝導師〝サウスクラウド〟と。

閑話休題。

ちょっとばかし、何を世の男が羨みまくるポジションについてんだよっと思ってしまって体内時計を止めていたエリック達だが、兵士達ほど動揺は激しくない。

いち早く復帰し、第一声をかける。

「ダ、ダリア」

「あ、エリック……それに皆も」

シアがすっと離れた。ユエも離れて脇に退く。後からぞろぞろとハジメ達が出てくる。

だが、声をかけたりはしない。まずは、幼馴染み達の再会を見守ると決めていたから。

「久しぶりね。突然いなくなってごめんなさい」

すっと頭を下げるダリアに、エリック達は一度顔を見合わせ、直ぐに駆け寄った。

「謝らないでくれ。悪かったのは俺達だ。世界の立て直しにばかり目がいって、大事な仲間の立場を思いやれなかった」

「陛下の仰る通りです。ダリア、申し訳ありませんでした」

グレッグとフィルもそれぞれ自分なりの謝罪を口にする。ダリアは困り顔になって首を振った。

「みな、必死だったのよ。新たな時代を生きるために」

「……そう、だな。だが、俺は王だから」

「わたくしにとっては、やんちゃで暴走しがちな困った幼馴染みよ」

「これでも少しは成長したつもりなんだが?」

「そうかしら? ふふ、それじゃあ、それも確かめさせてもらわね。そのための〝訪問〟なのだから」

「〝訪問〟……そうか……。では、〝おかえり〟は言わぬ方がいいな」

少し寂しそうに、けれど、ダリアの凜とした雰囲気と柔らかな微笑を見て、エリックもまた穏やかに笑った。

一歩引いて、国賓を迎えるような畏まった態度で片手を胸元に添える。

「ようこそ、禁足地の里長殿。今の世を存分に見ていかれるが良い。その結果、両者の間により良き未来があらんことを、心から願う」

「歓迎、感謝いたします。バルテッド王国の、 き(・) っ(・) と(・) 偉大な国王陛下」

合わせて、ダリアも息を呑むほど美しいカーテシーを決める。

けど、言葉には親しみとユーモアがあって、エリックは思わず「あ、相変わらず手厳しいな」と引き攣り、ルイスとフィルは思わず噴き出した。仏頂面がデフォのグレッグまで、顔を背けて震えている。

二年の歳月を感じさせない、幼馴染みらしい雰囲気がそこにはあった。

「なんか良い感じじゃん?」

「まぁ、元々仲違いしてたわけじゃないしね?」

奈々と妙子が囁き合う。ほっこりした表情で。それはハジメ達も同じだった。

「陛下、お時間をいただきました。感謝いたします」

「ああ。というか、今更だが陛下はやめないか? 目の前に本物の陛下がいるわけだしな」

「……本当に今更だな。この五年、ダリアが俺を陛下と呼んだことはないんだ。まぁ、子供の頃に戻ったようで嬉しいからいいんだが」

エリック陛下のジト目がハジメに突き刺さる。

ダリアが誰を主として見ているか明白で、兵士達が再びざわっざわっ。

「だが、兵士達の手前もあるだろう? 観光する中で国民が聞いたら混乱しそうだし」

「では、(シア様の) 旦那(だんな) 様と呼ばせていただきます」

「いや、それあんまり変わらない」

確かに、バルテッドの王が変わるのか? みたいな混乱は避けられるだろうけど。と、困り顔で頬を掻くハジメ。

というか、〝旦那様〟は新たな誤解を生みかねないのでは? という視線が優花達から。

実際に、兵士達から「男っ、ダリア様に男!?」「男はいらないと言ったが?」みたいなざわめきが。

香織が「まずいね。この世界にユニコーンさんが増えるかも」と呟き、隣のリリアーナが「え? 精霊獣さん達は聖域から出ないのでは?」と返している。まだまだ〝こっち側〟の勉強は足りないようだ。

ダリアは人差し指を頬に当てて、少し考える素振りを見せた。そして、

「では、当主様でいかがでしょう?」

「普通に名前で呼べばいいと思うが――」

「そんなご無体なっ」

「なんでだよ」

ダリア的に譲れない点らしい。エリック達から「なんかもう面倒臭いし話が進まないから好きに呼ばせてやれよ」的な視線が飛んでくる。

なので肩を竦めるハジメ。言外の許可にダリアの表情がパァッと輝いた。

そして、新たな扉を開いたばかりの多くの兵士達の表情はどよ~んっと沈んだ。

「あ~、ごほんっ。いろいろ積もる話はあるだろうが……」

「あ、ああ。それは落ち着いてからでいいだろう」

なんとも言えない空気感を払拭するように、ハジメとエリックが殊更声を響かせる。

「せっかく救世主殿一行と聖女が我等の国を、今の世を見に来てくださったのだ。改めて、このバルテッドの王――エリック・ルクシード・バルテッドが歓迎する!」

王らしいよく通る声だった。唖然とした雰囲気も、新たに開いた扉の中身に翻弄されていた者達も一気に気を引き締めた。

一拍おいて、凄まじい歓声が響き渡る。

練習でもしたのかと思うほど種族も国も関係なく、救世主と聖女の名が綺麗に揃って叫ばれる。

なぜかミュウや奈々達が揃ってドヤ顔している中、エリックが改めてハジメ達の傍に寄ってくる。

「シア殿の召喚された地を見たいとの要望に沿い、こちらまで迎えに来たが……すまないな。天人の襲撃を受けた時のまま、修復はしていないのでこの有様だ」

確かに酷い荒れようだ。遺跡らしさが残っていれば、それはそれで観光にも辛うじてなっただろうが、ほとんど瓦礫の山である。

「いや、いいんだ。むしろ、迎えに来るのも大変だったろ。距離がそれなりにあるようだし、昨日の今日だからな。仕事もあったろうに」

「昨日も言ったが、今は救世主一行の歓迎こそ国王としてやるべき最優先事項だ。気にしないでほしい。こちらの要望も聞いてもらったことだしな。迎えは当然だ」

「要望? ハジメさん、何かお願いを聞いたんですか?」

ひょこっとシアが肩越しに顔を出した。エリックが答えようとするが、ハジメが軽く首を振る。意図を察して肩を竦めるエリック。

シアのほっぺが「むぅ」と膨れた。今度は、というかいつの間にかエリックとも内緒話をしていたらしい。思わず、ウサミミの先端をハジメの頬にぐりぐりと押しつけてしまう。

「悪いな、俺のわがままだ。必要なら後でいくらでも謝るから」

「なんなんですかぁ、もぅ」

なぜか、ハジメは酷く優しい眼差しで見つめてくる。そうなると、シアとしては困ったことに、「しょうがないなぁ」と引き下がるしかない。惚れた者の弱みとでもいうべきか。

「あまり当てつけないでくれ。居たたまれないだろう?」

「おっと、悪い」

エリックから苦笑交じりに言われて、自然とウサミミへ伸びていた手を引っ込めるハジメ。シアがちょっぴり残念そう。

「それで、どうする? しばらく見て回るか? それとも直ぐに出発するか?」

周りに見るものはないと思うが……と見回しながらも確認してくるエリックに、ハジメが答える――前に。

「ねぇねぇ、パパ。早く、見たいの!」

「あらあら、ミュウ。パパのお話を邪魔しちゃだめよ?」

痺れを切らしたミュウが袖を引く。レミアがエリック達に会釈しながらミュウを抱っこする。その姿を見て、「ふ、ふつくしい……」という声がちらほら。

というか、兵士さん達の視線があっちにふらふら、こっちにふらふらしていらっしゃる。

聖女と、彼女を挟むシア&ユエに意識を捕らわれていたが、改めて見れば美女揃いなのだ。救世主一行を目の当たりにできたという興奮と、その家族や友人も美人揃いで若干以上に浮かれ気味になっているようだ。

特にメイド風衣装の優花には大変注目が集まっていて、なんとも居心地が悪そう。

その傍らでは、

「りゅ、龍くん、前に立たれたら見えないよ」

「……」

「あのねぇ、私への視線なんか遮らなくても注目なんかされないって」

「いや、何人か興味津々の目を向けてる奴がいた」

「絶世の美女揃いの中に紛れてる一般人が珍しかったんでしょ」

「ばか、ユエさん達にだって負けてねぇよ、お前は。むしろ、俺からすれば一番かわいい――」

「ああーーっああ~~~っ分かったから、もういいって!」

龍太郎の至極真面目な物言いを自分の声で掻き消そうとワタワタする鈴。耳が真っ赤だ。「ばかっ」と言いながら、びくともしない龍太郎の背中をベシベシする。

大変ごちそう様なやり取りに、直ぐ後ろにいた愛子と雫がほっこりしていらっしゃる。同時に、淳史と昇は今にも龍太郎をドスドスッと渾身の力でぶん殴りそうな雰囲気だ。

「というわけで、エリック。この地を集合場所にした目的を果たさせてもらうな」

「? どういうことだ?」

「もちろん、観光さ。救世主の過去を辿るオプション付きのな」

「過去?」

過去視を知らないエリック達が首を傾げる中、ハジメはユエに目配せした。

「……任せて。話に聞く、シアの格好いい召喚シーン。完璧に再生して見せる! とくとご覧じろ!」

「いや、ただの過去再生にそこまで意気込まんでも」

ティオの苦笑などなんのその。張り切って袖捲りまでしたユエが手を突き出した。

黄金のオーラが迸り、兵士達の間に再び喧噪が巻き起こる。エリック達も何をする気かと目を見開いている。

「わくわくっ、ドキドキッ」

「ふふ、ミュウちゃん、楽しみだね?」

「みゅ! すっごく! シアお姉ちゃんの格好いいところ早く見たいの!」

「い、いやぁ、そんな大したものじゃあ……。天人さんをぶっ飛ばしただけですし」

「召喚時の対応も気になるわね? 私達の時はただ呆然としてたけど……」

「シアさんの伝説の始まりですね!」

香織とミュウが好奇心でニコニコだ。照れた様子のシアを前に、雫と愛子も自分達が召喚された時のことを思い出し興味津々の様子。

それは優花達も同じで、この世界の転機となった瞬間を見逃すまいと注目し、

「……んっ、ここだぁ!」

時間差のせいで正確な過去の時点が分からないので、だいたいの時間軸を探り当てたユエが、まるでタイミング系のゲームでもしているみたいに過去再生を発動した。

そうして、映し出される。まだ健在だった頃の建物と、過去のシアやエリック達の姿。

おぉーーっとどよめきが広がり、エリック達も「そういうことか」と驚愕半分納得半分の表情で注視する中、過去のシアは英雄らしく凜とした雰囲気で宣言した。

『――私は、我が身可愛さにあなた達を見捨てます!』

しんっとした空気が漂った。

照れていたシアの表情が固まる。ユエから「あっ」とやっちまった感のある声が漏れた。

一拍。

――え、えぇ?

という困惑の声が兵士さん達からも優花達からも。

「シ、シアお姉ちゃん?」

「ち、違うんです。これは、そのっ」

「言ってないの?」

過去視だけど、もしかしてユエお姉ちゃんの悪戯だったり? とミュウが上目遣いに確認してくる。

兵士さん達がバッと視線を向けてきた。優花達もマジマジとシアを見つめる。

シアの視線が回遊魚の如く泳ぎ出した。汗を滲ませ、非常に言いにくそうにもごもごしつつ、でも正直者だから。

「い、言いました」

自白した。

なんとも言えない空気が漂う。エリック達が、いや、それより早くダリアが釈明しようと前に出る。

だがその前に、格好いいところを、決然としたところを見せたかったのに……と涙目でユエを見やったシアは、あたふたしているユエに言った。

「ユエさん…………やりました?」

「ち、ちがっ、ちょっとタイミングがっ」

まぁ、直前の張り切り具合からしても、これは本当にうっかりミスだろう。

とは思うものの、

「まんま、〝悪意のある切り抜き動画〟みたいだもんなぁ」

ハジメの苦笑気味の感想に、香織達も優花達も同じような表情で頷いたのだった。

必死に弁解しているユエと、涙目で詰め寄っていくシアを眺めながら。