軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クリスマス特別アフター スキー旅行

とあるスキー場の上級者コースの中腹に、ぷるぷると震える二人の姿があった。

「あ、愛子さ~~ん! 大丈夫ですかぁ~」

「お、おおおお、お股が裂けそうですけどぉ、大丈夫……じゃありませ~ん! リリアーナさんは~大丈夫ですかぁ~~!」

「あ、ああああ、足が攣りそうですけどぉ、大丈夫……じゃありませ~ん!」

スキー板を限界まで八の字にして、滑るというよりずり落ちている二人は、愛子とリリアーナだった。

ブレーキをかけて止まりたいけど止まれないのか、それとも一応スキーしているつもりなのか。

いずれにしろ、八の字にし過ぎて足が震えまくっている二人は、どう見ても上級者コースに来るべきではないスキー素人そのものだった。

ちょっと滑れるようになって、調子こいて上級者コースに来てみたら、「なにこれほとんど崖なんですけど」と面くらい、しかし「登ってきちゃったし、リフトで降りるとか恥ずかしいし……」とプライドが邪魔して滑り出し激しく後悔するという〝あれ〟だ。

さて、状況から分かる通り、本日の南雲一家はスキー旅行に来ているのである。

といっても、菫と愁は不参加だ。二人は今頃夫婦水入らずで温泉デートでもしている頃だろう。シアが商店街のガラガラクジで当てたペアチケットを、日頃の感謝を込めて二人に贈ったのである。

菫は、それなら自腹切って全員で行けばいいと言ったのだが、「せっかくペアチケットをくれたんだし、一年に一回くらい二人っきりでもいいだろ?」と愁が言うと、もにょもにょしつつ了承した。

そして、照れ隠しなのかなんなのか、自分達が温泉旅行を堪能している間、息子一家が家で待機とか心苦しいからどっか旅行に行ってこい、ハジメは家族サービスしてきなさい! と提案(?)し、こうしてスキー旅行と相成ったわけである。

閑話休題。

愛子とリリアーナがとうとう涙目になり始めた、そのとき、

「やっふぅうううううううう!!」

「こういうのも悪くないのぅ!」

ブレーキ? なにそれおいしいの? と言わんばかりに、シアとティオが凄まじい勢いで通り過ぎていった。

スノーボードを華麗に操る姿は熟練のそれ。二人で左右対称の美しい8の字を雪面に刻んでいく。その姿は、今日始めたばかりなのに、まるでプロのスノーボーダーのよう。

「……」

「……」

ぷるぷるしながら、瞬く間に小さくなっていくシアとティオの背を見つめる愛子とリリアーナ。

「……ん。香織、おっそ~~い」

「さっきリフトから落とした恨み! 忘れないんだからぁあああああっ!」

「ちょっと香織! それスキー板! ボードじゃないから! 細いから分かるでしょ!? 待ちなさいってば!」

シャ! シャ! シャ! と、ユエ、香織、雫の順に通り過ぎていく。ユエ様は後ろを向いたまま、香織は何故かスキー板の片方の上に乗って、雫はスキー板の片方と香織のスノーボードを抱えて、やっぱり凄まじい速度で滑っていく。

「……」

「……」

さっきより、三メートルくらいは落ちた。否、滑った。ずりずり、ずりずり。愛子とリリアーナの広げすぎた足は既にぷるぷるを通り過ぎてガクガクしている。

誰か、助けてください……

そんな心の声が聞こえてきそうな有様の二人。

こんなとき、必ず現れてくれる彼女達のヒーローは……

確かに、今回も現れた。

「お~い、二人共。禁断症状でも出てるのか?」

彼の声だ! 助かった! 言葉の内容は非常にツッコミを入れたいところだったが、今は強制開脚状態になりそうな危難の真っ最中。細かいことは気にしていられない! と、愛子とリリアーナは喜色を浮かべて声の方へ視線を向け、

「もっと速く! もっと速く! ミュウは風になるの!」

「ミュ、ミュウ! も、もう少し抑えて……」

「大丈夫だ、レミア。しっかり掴まえてるから」

ミュウ、レミア、ハジメの順で仲良く一つのソリに乗りながら、やっぱり凄まじい速度で通り過ぎていった。

ミュウはとても楽しそう。ミュウとハジメの間に座るレミアは、速度に少し怯えているものの、ハジメにしっかりバックハグされてほんのり頬を染めている。

とても、ほっこりする家族の光景だった。

一瞬で通り過ぎていったが。

完全に取り残されたが。

「もう無理……」

「あ、愛子さぁ~~~~~んっ」

上級者コースの中腹に悲鳴が響き渡るのだった。

その後、コースの端の目立たない場所で、白目を剥く愛子がリリアーナに股間への回復魔法をかけられる姿が見られたのだが……

一般人から見ると、物陰で、若い女の子がもう片方の女の子の股間をずっと触っているという光景にしか見えず、どうにか麓に降りた二人はその後、好奇の視線に晒されたのだった。

「ん? 今、悲鳴が聞こえたような?」

背後から悲鳴が聞こえた気がして、ハジメは思わず背後を振り返る。

「あなた? 何かありました?」

レミアが肩越しに上目遣いで尋ねてくる。本日のレミアは、いつもの微笑み聖母な雰囲気が皆無だ。雪山という初めての環境と、自分が全く滑れなかったことと、ミュウが出すスピード狂の如き速度に終始ビクビクしている。

ハジメは「いや、なんでもない」と苦笑いしつつ頭を振った。そして、改めて抱き締める力を強める。レミアの体から少し力が抜けた。

「へいへいへ~~い! なの!」

「ミュウ、ノリノリなのはいいがレミアが怖がってるぞ?」

一応、注意するが、ミュウは並み居るスノーボーダーをぶっちぎることに夢中で気が付いていない。

上級者コースを、親子三人乗りのソリで、猛スピードで下る……。

追い抜かれたスノーボーダー達が揃って目を点にするのも無理はないだろう。何人かは驚きのあまり体勢を崩して「ア~~~~ッ!!」と転がり落ちている。

そうこうしているうちに麓が見えてきた。そろそろ減速しないと人も多いので危ないだろう。

そう思って、ハジメがミュウにブレーキをかけるよう口を開きかける。最初から最後まで、ママとパパを乗せてミュウ自身が操縦したいと言っていたので、止まるのも一応任せるのだ。

が、その前に、

「パパ! あっちでなんだかすっごく楽しそうなことしてるの!」

「ん? ああ、ハーフパイプだな」

見れば、上級者コースから直接行けるようになっているハーフパイプがあった。スノーボーダー達が、それぞれ技を披露している。

飛び上がって技を決める光景に、ミュウの好奇心と冒険心は鷲掴みにされたらしい。お目々がキラッキラに輝き、ソリの手綱を握る手にグッと力が入る。

「パパ! ママ! ミュウ達もやるの!」

「できるか? ミュウ用のボードも用意してるが――」

「ミュウの技を見ろ! なの!」

ミュウが一気に体重を傾け手綱を引いた。ソリは操縦者の命令に従い一気にコースを変える! 向かう先はもちろん、ハーフパイプだ!

「あ、こら、ミュウ! ソリで行く奴があるか! 一度止まれ!」

「止められるものなら止めてみやがれ! なの!」

「こいつ! シアの悪い影響を受けてやがる!?」

微笑み聖母のレミアさんがめちゃくちゃ引き攣り顔になっている。必死に、胸元のミュウをギュッギュッと抱き締めて制止しようとするが、テンションが上がりすぎてハイな状態になっているミュウは止まらない!

ハジメパパは足を出して強制的に止めようとする。

ここで一つ。実はこのソリ、ハジメがミュウのために作ったアーティファクトだったりするのだが、ハジメは乗り物にロマンをオプションでつけないと気が済まない 質(たち) だ。

それは、たとえば武装だったり、変形だったり……

今回、ミュウ専用ソリにつけられたロマンは……推進装置だ。

平面でも推進力あるから滑れるよ! やったね、ミュウ!

「ブーストぉ~~~~~」

「こら! ミュウ! いい加減に――」

「オンなの!」

グンッと一気に加速! ハジメパパの足は雪に溝を作るだけでブレーキの役割を果たさない!

そして、別の手段で強制停止させる前に――

ソリはハーフパイプへ突っ込んだ!

「やふぅううううなのぉ!」

「ふあぁああああああああっ」

一瞬でアール部分を駆け上がり、そして……お空へカッ飛ぶ南雲一家。

地上で、三人家族のソリが空を舞う光景に唖然呆然となる観客やボーダー達。

ミュウの歓声と、これまた珍しいレミアの悲鳴が響き渡る。

一瞬の滞空。ソリに押しつける遠心力が失われ、ハジメ達はふわりとソリから投げ出された。

レミアママのふんわりニット帽が舞う。本人は白目を剥きかけている! 観客達は我に返り、リップ部分から五メートルは飛んだ一家の末路を想像して悲鳴を上げる!

「はぁ……後でお仕置きだ」

空中で反転。ミュウとレミアをそれぞれ片腕にキャッチし、腕に座らせるような形で掴まえる。二人は反射的にハジメの首筋にギュッと掴まった。

ハジメは、反転の遠心力を利用して空中回し蹴りの要領でソリを足に引っかけると、向きを調整して上に乗りつつ、レミアのニット帽を口でキャッチ。

後は落下。アール部分に着地する瞬間、膝を利用して完全に衝撃を殺すと、そのまま二人を抱っこしたまま滑り、反対側に飛び出すと同時にソリを蹴り飛ばし、そのままスチャッと着地した。

賑わっていたハーフパイプの周辺がシンと静まった。

が、それも少しの間。

次の瞬間には大歓声が上がった。「なんだ今の!?」とか「やべぇ、あの高さで二人キャッチして着地したぞ!」とか「つか、なんでソリ!?」と、興奮に彩られた声が次々と上がる。

そんな中、

「ふわぁ。楽しかったの!」

無邪気に笑うミュウ。ハジメパパはミュウだけ静かに降ろすと……ベチンッとデコピンを炸裂させた。

「~~~~~~ッ!?」

痛みに身悶えするミュウ。レミアとお揃いのふわふわなニットなど何の防御にもならない衝撃。両手で額を押さえて蹲り、涙目でぷるぷると震える。

「ミュウ。確かに、平地でも遊べるようにとソリに推進装置をつけたパパも悪い。だが、遊ぶ前に言ったよな? パパかママ、お姉ちゃんの誰かが止めなさいと言ったことはしないと。約束を破ったな」

「あぅ……で、でも……」

「見ろ。ママが凄く怖がってたぞ。ミュウはママを困らせてまで、自分が楽しみたいのか?」

未だハジメに抱っこされたままのレミアママ。パパに叱られるミュウの姿に、レミアは普段の「あらあら」を口にしつつ、ハジメと同じようにメッと叱る。

それを見て、ミュウはしゅんとなった。涙目涙声で「ごめんなさいなの」と口にする。

「よし。ちゃんとごめんなさいできたな」

「あらあら、ミュウったら。ほら、もうパパも怒ってないから。顔を上げて?」

パパとママから頭をナデナデされて、ミュウは目元をゴシゴシした後、にへっと笑った。

何故か、周りから「おぉ」と声が上がる。ちょっとした家族ドラマに、いろいろ感慨深いものを覚えたらしい。

というか、それくらい注目の的だった。

ようやく恐怖体験から精神的に復活したレミアは、それ故に周囲の状況にも気が付き、そして今の自分の状況を思い出してポッと頬を赤らめた。

「あの……あなた? もう大丈夫ですから、そろそろ降ろしてください……恥ずかしいです」

「うん? あぁ、そうか。はいよ」

そっと降ろされたレミア。改めて、周囲の人間から感嘆の声や、うっとりしたような溜息が漏れ出す。ブロンド髪の紛う事なき美女なのだ。しかも、今は羞恥心やらなんやらで頬を染め瞳を潤ませており、妙な色気が溢れ出ている。

同時に、周囲の――主に男から嫉妬の視線が槍衾のように放たれた。ミュウの存在と、その呼び方を考えれば、どういう関係かは明白だ。

だが、当然のことながら、そんな視線如きで萎縮するハジメさんではない。

まるで自分とミュウと、そしてレミアしかここにはいないと言わんばかりに有象無象をスルーすると、脱げていたレミアの帽子を手に取り、まるでガラス細工でも扱うような丁寧な手つきでレミアに被せる。

髪の位置を調整するのに、ハジメの指先がレミアのおでこや耳の辺りを撫でる度、レミアはくすぐったそうな、あるいは気持ち良さそうな表情を晒す。

それを見て、男連中はますますやさぐれた。

「チッ。金髪外人妻とか……どうやってものにしたんだよ」

「ナンパすら上手くいかないのにな」

「言うなよ。泣けてくるだろ」

「待て、お前等。ソリだ。ソリを使うんだよ。ソリでハーフパイプ滑れば……」

「「「金髪外人美女と結婚できる!?」」」

ハーフパイプ・ソリ――新しい競技が生まれた瞬間だった。

「ハジメさ~~ん! 何してるんですかぁ~」

「……ハジメ。私も抱っこソリして。レミアみたいに。レミアみたいに」

「ソリは……ちょっと恥ずかしいかな」

「そうね……でも、あれって平地でも滑れるし人気のないところなら……」

「むしろ、妾をソリにしてほしい」

シアがぴょんぴょんと先頭を走り、その後ろをユエ、香織、雫、ティオが続いた。ちなみに、本日のユエさんは十代後半バージョンだ。

当然、現れた美女軍団に人々がざわつき出す。しかも、今、金髪美女とイチャイチャしつつ、これまた可愛らしい娘を抱き上げて、画に描いたような家族の光景を見せつけた男のもとに寄っていく。ざわつきはどんどん増していく!

「シア。お前、俺に内緒でミュウをドライブに連れ出してるな?」

「……ちょ、ちょっと何を言っているのか分かりませんね」

「ウサミミがビックンビックンしてんぞ。動揺しまくってんじゃねぇか」

一般人には見えないウサミミも、ハジメ達には普通に見える。ウサミミは激しく動揺していた。ギルティらしい。

シアのほっぺをむにょ~んと伸ばし、涙目にさせるハジメ。そんなハジメの周囲にユエ達が集まる。

「ハーフパイプ・ソリ……やべぇ。ここまでの威力を発揮すんのか」

「俺、ちょっとソリ借りてくる」

「待て、俺も行く」

この日、ハーフパイプではソリで滑ろうとしてぶっ飛ぶか、派手に転がり回る者達が続出し、スキー場は一時混乱に陥ったとか。

全く未知の方向へ盛り上がっていくハーフパイプを後にし、何故か内股気味の愛子と疲れ切った様子のリリアーナも戻ってきたので、休憩がてら、ハジメ達は麓にある施設辺りをぶらぶらしていた。

すると、少し離れた場所に人だかりを発見する。なんだなんだと、ハジメ達も近寄ってみれば、

「へぇ、雪合戦か」

「……ん。特に大会というわけじゃなさそう」

「自由に参加できるみたいですね。え~となになに……三人チームで出られるみたいですよ。お、一応、勝利チームには記念品が贈られるみたいですねぇ」

シアが近くの看板を見ながらそう言えば、やはりミュウの瞳がキラキラする。

三人チームというのは三人家族から参加できるようにという主催側の配慮らしく、目論見通り、家族で参加して、三人家族VS三人家族で戦っている人達も多いようだ。

コートは三つあるのだが、誰も彼も真剣に勝負するというよりは、イベントの一つとして楽しんでいるようである。

なお、雪玉は自作。防壁は三つあり、制限時間は五分。最後まで生き残った人数の多いチームの勝利らしい。

「つまり、殲滅すればいいということなの!」

理解の早いお子様。どうやら出場する気満々のようだ。

ハジメパパが「ふっ、俺の出番か」的な笑みを浮かべている。愛娘のチームに選ばれない可能性を微塵も考えていないらしい。

その隣で、ユエが同じような笑みを浮かべていた。「……ふっ。殲滅戦をお望みか?」と、殲滅級の魔法が得意な吸血姫様も、自分が選ばれることを微塵も疑っていないらしい。

「ティオお姉ちゃん! シアお姉ちゃん! 一緒に出よう!」

「ほぇ? 私ですか? ふふ~ん、いいでしょう! ミュウ司令の期待に応えてみせますよ!」

「ほぅ、妾を選ぶか。ミュウよ、中々の慧眼じゃな。妾の天職は〝守護者〟。ミュウのことは完璧に守ってみせようぞ」

ハジメパパと吸血姫お姉ちゃんが崩れ落ちた。二人揃って「馬鹿な……」と呆然自失状態だ。

「え~と、ミュウ? どうしてパパじゃないの?」

崩れ落ちているハジメに代わり、レミアが尋ねてみる。ミュウは、何を当たり前のことをと言いたげな表情で選抜基準を口にした。

「まず、必要なのは物理的な火力なの。なら、攻撃役はバグウサギなシアお姉ちゃん一択なの」

ただのイベントなら誰でもあまり変わりはなさそうだが、しかし、筋は通っている。中々の選抜基準だ。

「もう一人は、投擲が得意な雫お姉ちゃんにしようかと思ったけど……」

ハジメパパと吸血姫お姉ちゃんは、最初から眼中になかったらしい。二人は揃って地面にのの字を書き始めた。

「敵に攻撃が得意な人がいた場合に備えて、防御力を確保しておくべきだと思ったの」

「ミュウよ、よく戦術というものを学んでおるの」

雪玉に当たった時点でアウトなので防御力はあまり関係なさそうだが……雫を筆頭に、香織も愛子もリリアーナも微笑ましそうな表情になる。

次の言葉を聞くまでは。

「というわけで、にくか――頑丈なティオお姉ちゃんを選んだの!」

「待つのじゃ、ミュウ。今、お主、肉壁って言いかけなかったかの? ティオお姉ちゃん、ここ数年で一番動揺しておるんじゃが! 可愛いミュウに肉壁お姉ちゃんと思われていたとか、どう処理してよいのか分からんのじゃが!?」

どうやら、ハジメパパの悪影響もしっかり受けているらしい。

動揺しまくりで「嘘だと言ってよミュウ~」と迫るティオに、ミュウもまた動揺して視線を泳がしつつ……意を決したようにキリッとした表情で言った。

「良かれと思って!」

「良かれと思って、肉壁お姉ちゃんと思っておったのか!?」

「ティオお姉ちゃんなら喜ぶはずなの! むしろ喜ばないティオお姉ちゃんなんて、ただの美人なお姉ちゃんなの!」

「それで良くないかの!?」

「あいでんてぃてぃ~の消失なの! きゃらそうしつ~なの!」

「ぬぐぉ~、言い負かされそうな自分がおるぅ~~」

肉壁お姉ちゃんと言われて喜ぶべきか、喜ばないべきか。そこが問題だった。

悩むティオの手を取り、苦笑いするシアを引き連れて、ミュウは勢いだけで出場の申し込みをしに行った。

未だに落ち込んでいるハジメとユエをそのままに。

そんなこんなで始まったミュウの雪合戦。相手は大学生くらいの女子チームだった。ミュウ達も女だけのチームで、双方容姿が整っているので中々の盛り上がりを見せている。

ミュウは、左右にシアとティオを控えさせ、腕を組んだ状態で〝でんっ〟と構えていた。仁王立ちである。口元には不敵な笑み。まるで誰かさんを彷彿とさせる。

相手チームの女性達が、ミュウを見て「見て見て、あの子! すっごい可愛い!」「わぁ、すっごい張り切ってる! かわいい!」とキャッキャしている。

「今のうちに楽しんでおくがいいの。直ぐに地獄を見せてやるぜ、なの」

「ハジメさん、人のこと言えませんよねぇ。一番影響してるのハジメさんですよ」

可愛い顔をしてギャングのようなことを言うミュウに、シアは苦笑い。

「ティオお姉ちゃん。試合が始まったら前に出てほしいの。雪玉で牽制しつつ、どうしてもミュウが避けきれない玉が来たら防いでほしいの」

「やっぱり肉壁役だったんじゃな」

ミュウ司令は些細なことを気にしない。

「シアお姉ちゃん。時間はかけたくないの。シアお姉ちゃんの得意技でお願いするの」

「得意技ですか? う~ん、あ、そういうことですね。合点承知です」

そうして始まる雪合戦! 審判役の人がミュウを見て微笑ましそうな表情をしつつ、「はじめ~」と緩い感じで開始を合図する。

同時に、相手チームの女性達が、せっせと作ったゆるゆるの雪玉を「え~い!」と実に緩い感じで投げた。狙いはてんでバラバラで、ほとんど明後日の方向だ。

ティオが肉壁する必要性はないっぽい。最前列の自陣防壁に隠れながら牽制の雪玉をぽ~いぽ~いと投げているティオは微妙な表情だ。

「シアお姉ちゃん」

「アイアイ、準備OKです!」

「了解。目標、敵陣最後尾防壁! てぇっ!!」

「月までぶっ飛びなぁっ! ですぅ!」

超握力で超圧縮された雪玉が、ひゅごっと空気におかしな音をさせて放たれ――

「あばぁあああああっ!?」

「あ……」

「みゅ……」

盛大にフレンドリーファイヤをかました。背中に生じた突然の衝撃に、ティオは海老反り状態で目の前の自陣防壁に激突。そのまま防壁を半壊させ、上に乗りかかる形で、

「これが……妾の、アイデンティティ~」

そんなことを恍惚の表情で呟き、ぱたりと動かなくなった。

歓声が止んでいる。シンと静まり返っている。さっきまでキャッキャしていた女性達が真顔でティオを見ている。

そんな中、

「だ、弾着確認! 修正射! てぇ!」

「りょ、了解ですぅ!」

ミュウ司令は動じない! そして、忠実なウサギは今度こそしっかり雪玉を持って投擲! 狙い違わず、相手チームの脇を超速で通り抜け、その背後の防壁を爆砕した! その有様は、まさに砲撃!

「弾着確認! 目標命中! 効力射~、う――」

撃てぇ! と言いたかったのだろう。が、その前にミュウの肩がガッされたため命令は阻まれた。振り返れば、そこには審判さんの姿が。

「失格」

「ア、ハイなの」

有無を言わさぬ迫力が、審判さんにはあった。レミアママを筆頭に、愛子達がペコペコと頭を下げて逃げるように撤収していく。

一拍して、背後から悲鳴やら歓声やらが響き渡った。

ゴロゴロ、ゴロゴロと雪玉を転がしながら、香織は隣で同じようにゴロゴロ、ゴロゴロと雪玉を転がしているユエに話しかけた。

「……雪だるま作りって、なんだか心が落ち着くね」

「……ん」

ゴロゴロ、ゴロゴロ。無言で雪玉を成長させ続ける二人。珍しく争う様子がない。

ここはスキー場から離れた広場だ。立ち並ぶホテルや旅館に近い場所で、小さな子供達を雪で遊ばせるような、言ってみればのんびり用の公園である。

雪だるまなどを作って残してもいい場所(飾り付け用の品を管轄の売店で買い、許可を得た場合だけ)なので、大小様々な雪だるまやオブジェがあった。

もう数時間もすれば夕方の燃えるような光が長い影を作り出すだろう。

そんな場所で、何故、ユエと香織が黙々と雪玉を成長させているかというと、

「ちょっとはしゃぎすぎたね」

「……ん」

やたらと口数の少ないユエ様。

香織がチラリと隣を見れば、若干、涙目のユエが……

「……ハジメに怒られた」

「だね」

雪合戦の後、再びぶらぶらしていた一行は、雪の彫像イベントと遭遇した。主催者側が固めた雪の塊を用意してくれて、それを削って雪像を作るというものだ。

ここで、いつものようにくだらないことで喧嘩を始めた二人は、売り言葉に買い言葉でこのイベントで決着をつけることにしたのだが、二人は揃って雪像のモデルをハジメにしたのである。

それだけなら、ハジメが羞恥心に耐えるだけでよかった。

たとえ、香織が双剣術・大型のノミバージョンなどというとんでも技を出したり、ユエが削るフリをしつつ氷属性魔法で造形したり、反則的で非常識な方法を取っていたとしても、そのせいで会場がざわつきまくっていたとしても、まぁ、楽しそうだしとハジメはスルーしただろう。

だが、二人の喧嘩が互いの造形非難に及び、何故かダビデ像の如き裸身像へとシフトし、それがエスカレートして、股間の造りにこだわり出した時点で、ハジメの羞恥心は振り切れた。

美少女二人が、一人の男の股間の造形を、公衆の面前で熱く語り合っているのである。加えて、デリケートな部分だからと道具を使わず手で造形し出すのだ。雪像のその部分を。

イベントに参加している親御さん達は、当然、子供達に「見ちゃいけません!」と目を覆い、親父さん達はニヤニヤ笑いをハジメに向け、若い男連中は殺人的な目を向け、女の子達は頬を赤らめてユエ&香織とハジメの関係を邪推し出した。

なので、ハジメは雪像をぶん殴って粉砕。抗議の声を上げる二人に拳骨を落として襟首を掴み、ぷら~んと脱力する二人を問答無用で引きずりながら退場したのである。

そんなわけで、ちょっと自重して、静かな場所で雪だるまでも作ろうということになったのだ。香織など、思い返して顔から火が出る思いだった。

少し離れた場所では、ハジメが二メートルくらいありそうな雪玉を転がし、その上をミュウがバランスを取りながら歩いている。

別の場所では、雫と愛子が雪だるまの顔部分をあーでもないこーでもないと楽しそうに議論しながら可愛くデコっている。

シアとティオは、二人で幾つもの手頃なサイズの雪玉をせっせと作っていた。

更に、雪だるま設置予定の近くにはかまくらがあって、その中でレミアとリリアーナが暖を取っている。二人共、割と寒いのが苦手らしい。

作っている雪玉の大きさに、まばらにいる家族連れやカップルがにわかに注目する中、ハジメは確認の声を上げる。

「お~い、そっちはどんなもんだ?」

その言葉に、デコレーション担当の雫がにこやかに返事をする。

「うん、こっちは大丈夫よ」

「材料も揃えてますよ~」

リリアーナとレミアが、かまくらからもそもそと這い出しつつ飾り付け用のあれこれを掲げる。

おっ、遂に飾り付けか? と、広場にいた人達が集まり出した。

ハジメ達の構想では、真ん中にでんっと特大雪だるま――全長四メートル三段重ね――を造り、その周囲に小雪だるまを九個並べる形だ。

と、そこでハジメがふと気が付いた。

「あ、そういや脚立を忘れたな……」

ハジメが「しまった」という感じで呟く。小雪だるまはともかく、特大雪だるまの胴体と頭を乗せるには大きな脚立がいる。

宝物庫にはしまっているのだが、あらかじめ出しておかなかったので、注目が集まる中では出しづらい。

ここは素直に、店に借りに行くか……と、ハジメが考えたそのとき、

「お~い、君達。これ使うかい?」

「ん? あぁ、それは助かりますが……」

見知らぬおじさんが立派な脚立を担いでやってきた。ハジメが目を丸くしていると、そのおじさんはにこやかに笑って言った。

「いやぁ、随分と立派な雪だるまを作ろうとしているみたいだったから、良かったら記念に参加させてもらえないかと思ってね」

「なるほど。そういうことですか」

見れば、おじさんの後ろには隠れるようにして男の子がいる。

ハジメは少し笑うと了承の意を示した。男の子の表情がパァと輝いた。

それを皮切りに、自分達も是非! と、他の家族連れやカップル達が参加をお願いしてくる。

小雪だるま用の雪玉をせっせと転がしていたシアやティオ、ユエや香織は少し驚いた様子だったが、ハジメを見れば小さく笑いながら頷くので、同じように笑いながら一緒に転がし出した。

次々に参加者が増えるのを巨大雪玉の上から見ていたミュウがむんっと胸を張る。

「ミュウがリーダーなの! みんな、頑張って! 春まで残る雪だるまを作ろうなの!」

場の雰囲気というものもあったのだろう。最終的に二十人近くになった家族やカップル達は、誰もが楽しそうに「おぉ~!」とノリ良くミュウに応えた。

「あはは、それじゃあミュウリーダー。全体の指揮をお願いしますよ?」

「むふふ~! 任せろなの!」

ハジメの畏まった物言いに、ミュウもまた笑いながら元気いっぱいに指示を出し始めた。

それから、本当にミュウの指示のもと、大勢の協力を得て総勢十体の雪だるまが出来上がっていく。

ジト目の雪だるま、ウサミミ生えた雪だるま、ポニテ付き雪だるま等々、どことなく誰かさん達を彷彿とさせる特徴を持った小雪だるま達。

参加者達も、なんとなく誰か分かったのだろう。少し恥ずかしそうにしているユエ達に微笑ましそうな笑みを浮かべている。

そうして最後、支えてもらっている脚立に、ハジメがミュウを抱っこし上がり、リレー形式で特大雪だるまの頭――眼帯付きの魔王様の顔部分が運ばれてくる。

「ミュウ、落ちるなよ。しっかり梯子に足をつけろ」

「はいなの」

ミュウを梯子に降ろし、下から上がってきた頭部を受け取り、それをミュウに持たせる。

ハジメが支えているものの、少しふらつくミュウ。

下から大勢の参加者が固唾を呑んで見守っているのが分かる。

ミュウは、ぷるぷると震える腕を叱咤しつつ、慎重に慎重に最後の雪玉を運び……ポスッと所定の位置に設置した。

そして、そぉ~と手を離せば……

「「「「「「おぉ~~~~~」」」」」

一斉に歓声と拍手喝采が響き渡る!

ミュウが「完成したど~~」とガッツポーズすれば、その楽しげで達成感に満ちた明るい歓声は更に盛り上がり響き渡った。

ユエ達も、見知らぬ参加者達と笑顔を交わし合い、互いに労い合っている。実に楽しそうだ。

ハジメは、再びミュウを抱っこしつつ、ふと何かを思いついたような表情になった。

「おい、ティオ」

「む? ……あぁ、なるほど。それはいいのぅ。任せよ」

阿吽の呼吸で意図を察したティオが、ささっと人の輪から離れていく。

「パパ?」

「ミュウ、みんなにあの言葉を贈ってやれ。プレゼントはあれだ」

疑問顔のミュウに、ティオを視線で差しながらそんなことを言うハジメ。

ミュウは、ハッとしたような表情になると、改めて、今日がなんの日だったのか思い出したようで満面の笑みを浮かべた。

そして、 機具(アーティファクト) を設置し終えたティオがグッとサムズアップするのを確認して、ミュウは両手を振って声を張り上げた。

「みんな~~~~!」

ミュウに再び注目が集まる。彼、彼女達へ、ミュウは胸一杯に息を吸うと……

「メリ~~~~~クリスマ~~~ス!! なの!」

そして、ピッと指を差す。

釣られて参加者達が視線を転じれば、そこには立派なカメラ機材が。

ティオが人目を外れて宝物庫から用意したものだ。

意図を察した参加者達が、あわあわと位置を調整していく。

ハジメとミュウは脚立の上で。ユエ達は魔王雪だるまの直ぐ下に。

参加者達はそれを囲うように。

「ではゆくぞ!」

ポチッとな。ティオがパタパタと駆け戻り、ユエ達の傍に滑り込む。

そして、

――パシャ!

後に、本当に春まで溶けない雪だるまとしてTVに取り上げられたりする巨大雪だるまと南雲一家を中心に、誰とも知らぬ人々との、楽しさがこれでもかと伝わる写真が出来上がった。

もちろん、ポラロイドカメラのようにその場で量産可能なので、参加者にはクリスマスプレゼントとして配布。

参加者達は誰も彼も、写真を手に、心地よい疲労感と楽しさの余韻に浸りながら解散していく。

「たまには、こういうのも悪くない。メリークリスマス」

同じように旅館へ戻る途中、ハジメは穏やかに笑いながらそう言った。

もちろん、ユエ達もみんな、同じように、

「「「「「「「「「メリ~クリスマス!」」」」」」」」」

そう返したのだった。