軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ギルドマスターを名乗る幼女がスカウトをしに来た

それから一週間が経った。

正直三日目くらいまでは長い時間に感じるが四日目からはワープしたようにその日その日が過ぎていく。

だから俺も気が付けばベッドで眠っていることなんてザラだ。というか、まさに今がその状態にある。

あまり帰ってこず、窓近くは苔が生えている部屋。普通は十人一組に与えられるものなのだが、俺だけは唯一専用の小部屋が与えられている。

たしかシーラがお願いしてくれていたんだったか。

『ジードは無理やり働かせられすぎです! せめて彼が一人でくつろげる場所を……』

とかなんとか。

ありがたい話ではあったけれど、ろくに部屋を掃除する時間もないので昔の団体で住んでいた部屋のほうがマシとも思ってしまう。

だってもしも耐性がない人がこの部屋に来てみれば十分ともたないだろう。かび臭さや歩くだけで蔓延するホコリ、生き生き窓際に生えている苔たち。

俺だって嫌だ。けど仕方がない。掃除する時間も気力も俺にはない。

と。

そんな部屋に来客が現れた。

いや、しかし正規の客ではない。

なぜならそれは扉からではなく窓から現れたのだから。

「だれだ?」

「ほう。うつぶせの状態からでも気づくとはやるのぅ。さすがわらわが認めているだけはある」

「うつぶせってだけじゃないぞ。一週間連勤での疲労もある」

「なんと。そこまで過酷な環境であるか」

随分と幼い声から労わるような哀切が聞こえた。

やはり正規の客ではなかったようだ。――この騎士団の環境を知らないのだから。

不思議に思って首を横にやって片目だけで一瞥する。

寝ている時間だが夜というわけではなく、真昼間。

太陽が差し込め後光で眩しく若干ながら目がくしゃりと閉じそうになるのをなんとか開けて慣れさせる。

するとようやく声の主が見えてきた。

窓に腰掛けている小さな影。

膝まである細く長い紫色の髪に、太陽と見まごうほどの黄金色の大きな瞳をした――可愛らしい幼女だった。

「だれだ、おまえ」

「わらわはギルドマスターのリフ。お主をスカウトしに来た!」

「…………そうか」

「なんじゃ、反応が薄いのう」

ギルド。

聞いたことがある。かつて同僚であった団員が勤めていた組織だ。

様々な依頼を冒険者と呼ばれる者たちに斡旋するとかなんとか。それで依頼を達成すると金がもらえるシステムらしい。

多少は興味が湧いたけれど、その同僚も翌日には天に召されたか騎士団から逃走していたので話は聞けなかったが。

「まぁなんでもいいけど騎士団に勝手に入っちゃだめだぞ。親御さんが心配しているかもしれないから早く家に帰りなさい」

「むっ。もしかして信じてないのか?」

「逆にどう信じろというんだ。五歳くらいの子供にギルドマスターさせる組織なんてありえないだろ」

「五歳ではない! 見た目だけで判断するでない!」

ぷりぷりと可愛らしく怒る幼女。

柔らかそうで、もちもちとしていて、皺のない滑らかな肌。穢れを知らなそうな光輝く瞳。……どこをどう見ても幼女だ。

「じゃあそこらの人に聞いてごらん。『私は何歳だと思います?』って。とち狂った連中以外はみんな十歳以下と答えるはずだから」

「それを言われてしまえば……認めざるを得ないが。しかし! わらわは五歳ではない!」

「……そうかい。まぁなんでもいいさ。じゃあ君は立派な大人だ」

ここで子供に張り合う時間さえも惜しい。

瞳を閉じてまた眠る。

相手をしている時間が勿体ない。今は睡眠を取らねば。

「絶対大人だと思っておらんじゃろ。良い、とりあえず話だけ聞いてくれ」

急に真剣な声色になる。

さっきと同じようなテンションだったら全く耳も貸さないつもりだったが、ギャップからつい聞いてしまう。

「さっきも言ったがジード。お主を直接スカウトしに来た」

「……」

「何度も断られておるが、今回で最後にするつもりで顔を合わせに来た。すまないと思っておる。だがお主が羽ばたく場所はここではないと考えているのじゃ」

「……」

「契約金として金貨百枚を用意しておる。もちろん、ギルドに入ればSランクの籍も用意してある」

「……」

「どうじゃ、一つ返事だけでもいいから聞かせてはくれまいか」

窓際から降りてきて俺のほうに来たのだろう。声が近くなった幼女が縋るように聞いてきた。

「一つ、何度も断られているって言ってるけどなんの話だ?」

「騎士団を通じてお主の引き抜きをしたのじゃが……お主が断っていたのではないか? よもや騎士団からなんの話も来ておらなんだか?」

「仕事と残飯と死神しか来たことがない」

「……前々から聞いてはいたが、やはり王国騎士団は腐っておったか」

なんともまあ生々しい話をする幼女だ。

外の労働環境の話は何度も団員から聞いたことがある。思い出補正もあるのだろうが相当良いらしい。そのうえで騎士団はかなり悪辣な環境だとも。

「騎士団を抜けてもいいなら抜けたいよ。けど俺は捕まって団員として残されているんだ。どうしたらいいかも分からん」

つい、そんな弱音と愚痴を吐く。

そんな包容力が幼女にあった……のかもしれない。

「ふふん、安心しろ。手は尽くしている。あとはジードの言質が欲しかっただけじゃからな」

「……?」

自信満々に言う幼女に俺は疑問符を浮かべた。