軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第550話 山積みな課題と心遣い

「俺としてはルカに感謝したいけどな」

俺がそう言うと、クロープは首を傾げる。

「なんでだ?」

「そうじゃなきゃ、クロープはマルトに鍛冶屋を構えたりはしなかったんだろう? そうなると俺は大分困ったことになっていただろうからな……」

まぁ、人間だったときについては他の鍛冶屋の世話になる、でも良かっただろう。

俺の腕は大したものではなかった。

したがって必要とする武器だって標準的な性能のものがあればそれで問題なかった。

しかし今はどうか。

俺の特殊な体質に合う武器を試行錯誤して作ってもらう必要があるし、そもそもの問題として俺のこの状況を受け入れてなお、武器を作ってくれるという鍛冶師が他にいただろうかと思う。

そういう意味で、俺はルカに感謝しなければならない。

もちろん、クロープにもだ。

特に言葉にはしなかったその辺りの事情をクロープは察し、頷いた。

「……なるほどな。まぁ、そういう意味じゃ、俺もルカに感謝しなきゃならねぇだろう。マルトに居着かなきゃ、お前みたいな面白い奴とは知り合えなかったわけだからな」

「お互い様と言うことか」

「そういうことだ」

そう言って、お互い笑い合う。

それから、クロープは話を続けた。

「ま、そんな訳で、今日まで色々あったが、そうして俺はこのマルトで鍛冶屋をやってるってことだ。おっと、マルトで鍛冶屋をする理由を言ってなかったが……」

「そういやそうだな。何でだ? もっと都会でも良かっただろうに」

というか、その方が色々と便利だろう。

クロープはこれに答える。

「確かにそうなんだがな……まぁ、とりあえず、結婚するにあたってどこかに腰を落ち着けなきゃと思ってよ。ただウェルフィアの近くとかは勘弁だったし、かといってあまり都会だと知り合いに会っちまうからな。色んな意味で辺境都市が都合が良さそうだったからここに決めたんだ。辺境都市っていうだけあって魔物はそこらから湧いて出てくる。武器の需要は尽きねぇだろうし、商売繁盛しそうだって言うのもあってちょうど良かったんだ」

そっちは割と即物的な考えによるものらしい。

まぁ、所帯を構えるってそういうことだよな。

好き勝手なことを出来るのは、たとえ命を落とそうとも誰にも迷惑がかからない独り身でいる時だけだ。

誰か連れ合いがいるのなら、先のことを考えていかなければならない。

だからこそ俺には、クロープとルカのような夫婦に憧れはあっても、それを自分が得られる日が来るとは考えることは難しかった。

誰かと……そう誰かとそうなって、ある日突然命を落とすようでは悪いからだ。

だが、ふと考える。

今の俺はそう簡単には死なない。

それこそ即死クラスのダメージを受けてもある程度復活が可能だ。

それを思えば、別に今なら所帯を持っても構わないのでは……?

いや、駄目か。

そもそも、今の体は 不死者(アンデッド) のそれなのだ。

人の身を持たない旦那とか相手の方からお断りだろう。

やはりまずは人間に戻らなければならない……。

そのためにはとにもかくにも《存在進化》であるが、ここのところ芳しくない。

とりあえず強くなるための努力はしているのだが、それだけで出来るというものではないからだ。

強くなり、魔物を多く倒してその力を吸収した上で、なんらかの《きっかけ》が必要なのだ。

骨人(スケルトン) から 屍食鬼(グール) になる、くらいではそこまで大きな《きっかけ》は必要なかったようだが、徐々に要求されるものが難しくなっているような気がする。

人の血肉に、吸血鬼の血液……次は何が必要なのだろうな。

分からない。

それとも、元々必要はなかったが、一足飛びに進化するためにそれらが必要だったのかもしれない。

本来、魔物というのは《存在進化》することはそれほど多くない。

特に上位の魔物になればなるほど。

それなのに、俺はかなり間隔短くそれが出来ているのだ。

それは、本来の魔物よりもずっと《存在進化》しやすい条件が整っていたから、と考えるのが自然だろう。

そしてその条件の一つが、人の血肉や吸血鬼の血液の摂取だった……のかもしれない。

まぁ、何はともあれ、こればかりは手探りで頑張っていくしかないな。

まだまだ、ここで頭打ちだとは思っていない。

これからも俺は《存在進化》を求めていく。

そしていずれは……戻るのだ。

人間に。

さて、クロープとの話に戻ろう。

「それで……そうして紆余曲折を経て、マルトに腰を落ち着けたクロープが今更、鍛冶大会に出なければならない理由は結局なんなんだ?」

「……手紙が来た。ほれ」

かさり、と荒い紙を俺に手渡すクロープ。

それにはこんなことが書かれていた。

◆◇◆◇◆

久しぶりだな、クロープ。

俺のことを覚えているか?

流石に鍛冶の基礎を仕込んでやった恩人のことくらい記憶にあるよな。

そう期待して筆を執っている。

思い返せば、お前がうちの工房から去って、何年経ったか……。

未だに洟垂れのお前が目を輝かせてうちの工房に来た日を、俺はありありと思い出せるぜ。

徐々に腕を上げて、いっぱしの鍛冶師になっていくお前の姿もな。

それだけに、お前がいなくなったときは……。

っと、年を取ると感傷的になってしょうがねぇな。

こんな話をしたかったんじゃねぇんだ。

それより、本題なんだがよ。

お前、今度ウェルフィアで行われる鍛冶大会に出場しちゃくれねぇか?

お前が前に出た、あれだ。

今もお前が鍛冶師をしていることは知ってる。

相当腕を上げていることもな。

だから、今のお前の腕を見てぇんだ。

さっきも言ったが、俺も、年を取った。

もうそろそろ引退だ。

その前にもう一度お前が鍛冶をしている姿を見たい。

年寄りの願い、叶えちゃくれねぇか?

……あぁ、それと、それにはハザラも出場する。

あいつも今や、副工房長だ。

腕はもうずっと前に俺を超えているがな。

今回は、あいつに工房長を譲ってもいいかの最後の見極めも兼ねてる。

色々思い出さすようで悪いが、お前も、ハザラも大人になった今なら、全部ひっくるめて俺の心残りを洗い流してくれそうな気がしてるんだ。

だから頼む。

まぁ、気が乗らなかったなら仕方ねぇけどな。

じゃあ、期待してるぜ。

バルゼル・スターロより

◆◇◆◇◆

「これは……」

「過去に決着をつけろってことだと俺は受け取ったぜ。親方からの心遣いだ。行かないってわけには、いかねぇだろ」