軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第549話 山積みな課題と療養所

「……ある日突然、才能に目覚める奴というのは確かにいる。そのハザラもそうだったのかもしれない。だが、だからと言ってクロープがそこから先も追いつけないと決まったわけでもなかっただろうに……」

少なくとも、その鍛冶大会の時までは同じくらいの実力だったわけだ。

何のきっかけが作用したのかは分からないが、ハザラが一皮も二皮も剥けたことも事実だとして……。

それでも、これから先、クロープにそういうきっかけが降ってこないというわけでもなかったはずだ。

これにクロープは、

「今なら……それが分かる。もしかしたら死ぬまでそういうきっかけを掴める日が来ないのだとしても、それを信じて努力し続けることで、可能性が初めて生じるんだってな。諦めたらそこで終わりだ。鍛冶師を天職と定めてやると決めたんなら……そのまま、ずっと負け続けるのだとしても歩みを止めないことが大事だ」

「だったら……」

「だがそいつは今なら、の話だ。当時の俺には無理だった。負けて……もう落ち込んで捨て鉢になってたっていうのもある。鍛冶大会が終わって、鍛冶に身が入らなくなって……師匠や兄弟子、それこそハザラたちにも色々心配かけて……最後には、俺はウェルフィアから逃げ出したわけだ。もうこの街で鍛冶師なんて出来ねぇってな」

「それで、流れの鍛冶師に……?」

「そうさ……と言っても、最初の方は鍛冶すらやる気にならなかったから、色んな仕事をとっかえひっかえやったけどな。でも……俺はやっぱり根っからの鍛冶師だ。鍛冶が恋しくなって……気づけば鍛冶屋で働いてたよ。空いてる炉を使わせてもらって、鍋や包丁を修理する仕事を手伝ったりしながら、金が貯まったらまた次の街に流れて……なんて繰り返してたがな。どっかに居着くのは出来なかった。色々考えちまうからな……旅だけが全て忘れさせてくれた……」

ウェルフィアを出ようとも、容易には傷は癒えなかったというわけか。

「だけど、今、あんたはこの町でこうして鍛冶師をしている……」

「あぁ、そいつはルカのお陰だ」

「確か……ルカとは幼なじみだったって話だったな」

「あぁ。あいつは覚えてねぇけどな」

「覚えてない?」

「俺とルカが結婚することになったのは……俺が流れの鍛冶師をしている時に出会ったのがきっかけだって話は前にしたよな?」

「あぁ……聞いた気がするな」

「それは嘘じゃねぇ。あいつの家は裕福な商家でな。そこに卸す調理器具類を、そのとき居候してた鍛冶屋が請け負ってて、俺が手伝ったのをきっかけに顔見知りになった。で……まぁ、色々あって、あいつが半ば押しかけ女房みたいになってな……最後にはそれこそ押し切られて、結婚することに……」

「色々端折ったな。まぁ……確かにクロープは、それくらいしなければ結婚なんてしなさそうだが……」

「おい、俺を朴念仁みたいに言うんじゃねぇよ」

「そうは言わないけど……鍛冶が一番で、女なんか興味ねぇ、とか言いそうだからな」

「……そいつは、否定できねぇが……当時はそれ以上に問題があったからな」

「問題?」

「そうだ。俺は結局流れの鍛冶師に過ぎなかった。そんな奴のところに商家の娘が嫁になんて来るはずもねぇし、こっちだって流石にそんなの無理だ、責任が持てねぇってことになるだろうが」

言われてみれば……確かにそうか。

そんな配慮などしなさそうなクロープであるが、それでもそういうことはちゃんと考える常識を持っていたらしい。

「でも最後には結婚してるわけだろ?」

「まぁ、そうなんだが……断り切れなくてよ」

「押しに弱いのか?」

「そんなんじゃねぇ……つもりだが、ルカに言われるとな。昔から駄目だ……それこそ小さい頃の記憶があるからかもしれねぇな。今でこそ俺はこんなだが、昔は割と病弱でな……」

「意外な話だな」

どんな環境でも鍛冶をしてそうなほど屈強な男に見えるのに。

「まぁ、本当に小さい頃だ。そんな体だったからな……年の半分くらいは空気の綺麗な高原で静養してたくらいだ」

「……実はいいところの出なのか?」

「まさか。何もお屋敷みたいなとこに行ってたわけじゃねぇ。診療所が教会と共同でやってた……病弱なガキを集めて静養させる療養所みたいなとこだ。金はそれなりにかかっただろうが、平民にもなんとか出来る程度よ」

確かにそういうところはある。

学校と孤児院と診療所を複合させた施設だな。

空気が綺麗で、魔力的にも安定し、魔物の出現も少ないが、都会から離れた辺鄙な場所なんかにある。

修道院や教会が作られていることが多く、そういうところに併設されていることが多いから、必然的に滞在に高額な金はかからない。

代わりに宗教的生活を強いられたりはするが。

布教施設としての意味合いがあるわけだな。

クロープは続ける。

「……で、そこで療養してたときに知り合ったのが、ルカだ。といっても、あいつは特に体が悪かったわけじゃねぇけどな。夏場の避暑に別荘にやってきてただけで」

「いいとこの出はルカの方だったか……」

「そういうこった。ただ、あんなところにガキなんて普通はいねぇからな。療養所以外には。ルカも同じ年頃の子供と遊びたかったんだろうさ。だからよく療養所に来てたんだ。まぁ、親父さんたちが寄付や祈りを捧げるために教会の方によく来てたから、それにくっついて来てたのが最初だったが、だんだん一人でも来るようになってな。そんでよくちょっかいかけられて……」

「病弱な子供にとっては大変だな」

「まぁ、そうはいっても俺は深刻な病気にかかっていたわけでもなかったからな。ただ少し体が弱いってだけで。街にいるとすぐに伏せっちまうくらいだったが、そこにいたときはむしろ元気だったよ。それをルカも理解して俺に狙いを定めてたんだろうさ。他の奴らはあんまり変に引っ張るとやばそうだが、俺なら問題なさそうだってさ」

「それは、嗅覚が優れていると言えば良いのか……」

「なんだか野性的な勘が強い奴なのは今も変わらねぇけどな。まぁ、そんなわけで、ルカにはかなり振り回された……良い思い出だな」

「でも、ルカはそれを覚えていない?」

「そうだ。もう一度再会したときに俺は気づいたが、そんな話をしてやぶ蛇になっても困ると思って言わなかったからな。だが、結局俺はこうして捕まっちまった訳だ……」