軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第467話 予感

「マルス。来たんじゃない?」

日もどっぷり暮れた頃、キャンプファイヤーの炎に照らされたクラリスが、森の中に浮かぶ火の玉を見つける。

「そうだな。きっとあれはカレンのファイアボールだ」

しかし、俺はこの場から動かない。いや、動けないのだ。胡坐をかいた膝の上でミーシャが気持ちよさそうに寝息をたてているからな。

一角獣(ユニコーン) もアリスの膝の上でずっと寝たまま。まぁこいつは今日色々あったから疲れているのかもしれない。

森の中に浮かぶ火の玉が少しずつ近づいてくると、そこから1つの黒い影が飛び出す。

「マルス!」

思った通り、最初に姿を現したのはエリー。俺の膝の上にいるミーシャを確認すると、後ろから抱きついてくる。

エリーの後にカレン、カストロ公爵、双子、そして姫と続く。

「ほ、本当に…… 一角獣(ユニコーン) に戻って……いったいどうやって?」

アリスの膝の上で横になっていた 一角獣(ユニコーン) を確認すると、安堵の表情を浮かべながらも、未だに信じられないという様子のカストロ公爵。

「いろいろありまして……多大な犠牲を払いましたが……」

「……そう。それは後でしっかりと聞かせてちょうだい。それとマルス君とクラリスのことも」

やっぱりそうなるよな。覚悟はしていたがかなり怖い。双子を助けるため仕方なかったとはいえ、クラリスの神聖魔法は知られたくなかった。

アリスに代わり、カストロ公爵が 一角獣(ユニコーン) を膝枕する。その顔は母親のような表情。この人も穏やかな顔をするんだな。

「カストロ公爵。これからどうしますか?」

ずっとここにいるわけにもいかないしな。

「そうね。もうそろそろ帰りましょう」

膝枕で寝ている 一角獣(ユニコーン) の体を優しく揺すると、 一角獣(ユニコーン) が目を覚ます。

歌や音楽、心地よい香りを使ったりして起こすのかと思ったが、意外にもシンプル。

「また、明日来るから」

まるでカストロ公爵の言葉が分かっているかのように森へ消えていく 一角獣(ユニコーン) 。

若干ふらつきはしているが、昼よりかは力強い足取りだ。

一角獣(ユニコーン) を見届けると、俺とクラリスを先頭にレプリカへ戻る。

――――翌日 10時

「昨日はご苦労様。早速だけど昨日のことを話してちょうだい。なぜ 一角獣(ユニコーン) に戻ったのか。そしてなぜ2人には雷が効かないのか」

カストロ公爵に招かれて、【黎明】、姫、双子、そしてカストロ公爵の計10名で遅い朝食を摂っているときに質問される。

「えーっとですね……」

怒りを吐き出させた後に賢者様を飲み込ませたこと。

雷に関しては説明のしようがないので、なぜか効かないと一点張りで押し通した。

「ふーん……それで? クラリスは神聖魔法使いよね? それも石化を治せるほどの」

やはり追及されるクラリス。

「……申し訳ございませんでした。神聖魔法使いは希少とのことからずっと隠しておりまして……」

素直に謝ると、少し意外な反応をカストロ公爵が見せた。

「良かったわ。あなたが神聖魔法使いで。神聖魔法使いを見破ることだけは得意なのよ。あの女狐よりも」

自慢気な表情を見せると、双子も続く。

「昨日はありがとうございました。私たちのために希少な神聖魔法を使っていただいて」

「私たちもそうじゃないかなとは思っていたのです。18歳の私たちよりもスタイルが良くて、あまりにも大人びていたので」

「実はクラリス様の下着を借りたとき、サイズが合わなかったのはショックだったのです。ですが神聖魔法使いと聞いてホッとしました」

クラリスの下着を借りる? そんなことあったんだ。双子が朝練で気絶したときのことかな?

「で? マルス君。これからはクラリスのことを神聖魔法使いとして扱っていいのよね?」

砕けた表情から一転、真剣なまなざしに変わるカストロ公爵。

言わんとしていることは分かる。きっと泉の浄化を手伝えということだろう。

「はい……でもこの件は内密にお願いできませんか? 1つのパーティに複数人の神聖魔法使いがいると分かれば、僕たちにとってはあまり良くないことが起こりそうなので」

「分かったわ。じゃあ早速だけど働いてもらおうかしら」

どうやら今から幻獣の森に入ろうとしているらしい。言われなくとも行こうとはしていたが、この人かなり働くな。

カストロ公爵の言葉に従い、朝食を摂るとそのまま幻獣の森へ向かう。

しかし俺には賢者様がいない。

「マルス、一緒に行きましょう」

そんな俺に優しく手を差し伸べてくれるクラリス。あれ? もしかして賢者様がいない方が俺にとってもプラスなのでは?

こうやって手を繋ぎながら歩けるのであれば、もっとゆっくりと歩きたい……しかし、そんな思いも叶わず、昨日よりも早く泉に着いてしまう。まぁ魔物がいないとなるとこんなものか。

泉は昨日と同じ色。少し薄くはなったが、まだまだ赤黒い。そんな泉のほとりにカストロ公爵が腰を下ろすと、早速スカートを靡かせる。

するとものの数分もしないうちに 一角獣(ユニコーン) が現れ、何の警戒もなくカストロ公爵の膝の上に頭を置く。

そこに昨日と同じように桶に聖水を注ぐクラリス。

「神聖魔法に加えて水魔法も使えるなんて羨ましいわ。クラリス1人で事足りてしまうわね」

クラリスが注いだ水を美味しそうに飲む 一角獣(ユニコーン) 。それを微笑ましく見つめるカストロ公爵。

「マルス君。悪いんだけど、 一角獣(ユニコーン) が寝たら、クラリスとアリスの2人には別のことをやってもらいたいのだけどいいかしら?」

「ええ。泉の浄化ですね?」

「物分かりが良くて助かるわ」

カストロ公爵が少女のような笑顔を見せる。

「あのー、質問があるのですがよろしいでしょうか?」

俺たちの会話を近くで聞いていたミーシャがカストロ公爵に問う。

「ええ、いいわよ」

「カストロ公爵は 一角獣(ユニコーン) のことを何と呼んでいるのでしょうか? 名前とかあったりしますか?」

「えっ!? 名前!? そういうのはないし、特に呼び方も決めてないけど……」

よほど予想外の質問だったのだろう。目を丸くするカストロ公爵。

「では、勝手に私が呼び方を決めていいですか? 命名とかではなく、あくまでもあだ名みたいな感じで。そうしたほうが親しみやすいかなと」

「ええ。問題ないわよ」

頷くカストロ公爵に笑みを零すミーシャ。

嫌な予感はしたんだ。でもまさかとは思うだろう? 名前1つで性格まで変わるなんて……。