作品タイトル不明
第468話 後悔
エリーがカストロ公爵の膝の上で聖水を飲む 一角獣(ユニコーン) をうらやましそうに見ていると、それにカストロ公爵が気づく。
「エリー? もしかして膝枕したいの?」
カストロ公爵の問いに、何度も頷くエリー。
「いいわよ。じゃあ、クラリスとアリスは泉の浄化を手伝って」
カストロ公爵と膝枕を代わり嬉しそうに撫でるエリー。【黎明】で動物? 好き1位をクラリスと争うエリーにとっては至福の時間だろう。そこにミーシャも加わり、2人で 一角獣(ユニコーン) に触れる。
自由になったカストロ公爵はというと、クラリスとアリスを連れ水際に向かう。
すると、何の躊躇いもなくぬかるみに膝をつき、赤黒く染まった泉の中に手を入れる。
濁った泉の中に入れたカストロ公爵の白い手からは微かに漏れる神聖魔法の光。
クラリスとアリスもカストロ公爵に続く。
2人には濁った泉に触れてほしくはない。本来であればホーリーで済む話なのだが、カストロ公爵には見せたくはない。
だから申し訳ないが、今日だけは2人に我慢してもらう。このことは事前に相談していたので、2人も覚悟の上のはず。
少しでも不快感をなくそうと、ぬかるんだ地面を土魔法で均す。
水際は濡れていて滑りやすく、一歩間違えれば泉の中に転落してしまうからな。もちろんカストロ公爵の足元もだ。
3人が四つん這いになって泉に手を入れる中、俺もアリスの隣に立ち、泉に向けて警戒をする。昨日クラリスの聖なる光が深淵を貫いたが、中にまだ魔物がいるかもしれない。
あと、スカートの3人が四つん這いになっているんだ。それを堂々と後ろから眺める神経が俺には備わっていないというのもある。
神聖魔法で泉を浄化していた3人。意外にも最初にMP枯渇したのはアリスだった。カストロ公爵ってかなりMPあるんだな。鑑定してみたいが、鑑定すると後で色々難癖をつけられてしまうかもしれないからな。迂闊なことはしない。
ラブエールでアリスのMPを回復させるが、再度泉に手を入れることはさせなかった。
一度浄化作業をしたという実績があればいいのだ。カストロ公爵がいないところでホーリーを唱えれば済む。
次に泉から手を引いたのはカストロ公爵。
「やっぱりクラリスは相当なMP量なのね。MPはかなり自信があったのに」
「いえ、私ももうそろそろなくなるので……」
まだまだMPに余裕があるクラリスも泉から手を抜く。
泉は相変わらず濁ったまま。カストロ公爵はこれを地道に浄化しようとしているのか? だとしたら途方もない労力だ。
クラリスがアリスとカストロ公爵の手を綺麗に洗い流すと、3人は、 一角獣(ユニコーン) を膝枕しているエリーの近くに腰を下ろす。
一角獣(ユニコーン) はすでに意識を手放していた。そんな中、近くにいたミーシャが皆に語り掛ける。
「 一角獣(ユニコーン) の名前が決定しました! 強さ、尊敬、優しさ、愛……すべてを含めた名前です! エリリンもこれしかないって言ってくれました! それにカストロ公爵もフラフレの2人も気にいってくれると思います!」
満面の笑みを浮かべるミーシャ。
「ミーシャの付けた名前。なんとなくだけど私も想像がつくわ」
隣に座るクラリスの言葉にアリスも続く。
「私もこれしかないって名前が1つあります!」
え? なんで? 全然思い浮かばないんだけど?
「じゃあ、みんなで、せーので言いましょうか」
カレンまで!? 【黎明】で意思の疎通ができていないのは俺だけか!?
まったく見当がつかない俺、姫、カストロ公爵に双子をよそに、【黎明】女性陣が嬉しそうに顔を見合わせてから、声を合わせる。
「「「せーの! ユニマル!」」」
ユニマルだと!? 一角獣(ユニコーン) の頭2文字に俺の名前……ハチマルと同じ命名の仕方だから皆の意見が揃ったのか!
しかし、 一角獣(ユニコーン) はカストロ公爵が心血を注いだ賜物だ。さすがに却下されるだろう……と思っていたら、
「あら! いいじゃない! マルスと 一角獣(ユニコーン) から取ったのね!」
なんと、かなりお気に入りの様子。
「素敵な名前です!」
「皆に好かれることでしょう!」
双子も手を取り合い喜ぶ。
「そうじゃな! マルスのおかげで助かったようなものじゃからの! ユニマル! いいではないか!」
姫も含め全員がユニマルという名前に太鼓判を押す。
「へへへ……どう? マルス? いい名前でしょ?」
ミーシャが鼻の下を人差し指で撫で、得意気な表情を見せる。
「あ、ああ……みんながいいならそれでいいが……MPを使い切ったことだし今日のところはこれで帰ろうか」
皆が喜んでくれて嬉しいが、照れくさい。それに一度帰ってからまたここに来るつもりだから、早くレプリカに戻りたい。
「そうね。来るのが遅かった分、もう日が落ちる頃ね」
カストロ公爵が 一角獣(ユニコーン) の体を揺さぶり、短い眠りから覚醒させる。
「今日からあなたはユニマルよ。あの金髪の子のようにたくましく強くなるの。明日もまた来るからもう住処に帰りなさい」
ユニマルという名を与えられた 一角獣(ユニコーン) 。
女性陣皆からユニマルと声をかけられると、嬉しいのか前足を蹴り、美しい旋律で鳴く。
「ちょっとマルスに似てきたと思わない?」
どうやらクラリスも俺と同じような感想を抱いたようだ。心なしかどこか聡明な顔つきになった気がする。
「そうだな。じゃあユニマル。俺のようになれよ!」
調子に乗って踵を返し、かっこつけて去る俺。
女性陣もユニマルに一言ずつ声をかけてから俺の後を追ってくる。
最初に俺の隣に来たのはエリー。次にカレン、ミーシャ、アリスと続く。
そして森に足を踏み入れようとしたときだった。
「ちょっ!? えっ!? 待って! ごめん! きゃー!」
背後からクラリスの慌てる声が聞こえたので振り向くと、内股になったクラリスがスカートを両手で覆い、顔を真っ赤にしている。その隣には満足そうに口をもぐもぐと動かすユニマル。
「どうした!? 大丈夫か!?」
すぐに駆け寄ると、
「た、食べたの……ユニマルが……端っこの部分だけど……」
目に涙を浮かべ、腰の辺りを抑えるクラリス。
「あちゃー! 似なくていいところまで似ちゃったかぁ」
額に手を当て、半笑いのミーシャ。
え? まさか? こいつ……クラリスのお宝を!?
この野郎! と思った瞬間、ユニマルが口の中の物を飲み込む音が聞こえた。
すると、ユニマルの体がみるみる大きくなり、あばらの浮いた腹も 二角獣(バイコーン) のように力強く躍動し、螺旋を巻いた角も大きくなる。
「せ、成体に……なった!?」
一部始終を見ていたカストロ公爵の瞳が丸く広がる……が、さらに驚くことが。
ユニマルの角は留まる事を知らずに大きくなり、ポトリと抜け落ちてしまったのだ。
「――――えっ!?」
突然の出来事に口を覆うカストロ公爵。
しかしユニマルの頭の中心からはまた新しい角が生え始めている。
もしかして……こいつ……クラリスのお宝から栄養を!?
どうやらカストロ公爵も俺と同じことを思ったようで、
「クラリス! 一生のお願い! あなたの……」
もう何を言うか分かっていたクラリスは、腰の辺りを抑えながら最後まで聞かずに森へ走る。
絶対に俺の名前を使わせないと心に誓った瞬間だった。