軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第396話 硬質化

ビラキシル侯爵とコンザの2人が狸族の男2人の下へ歩いていくのを鉄砲狭間のような穴から覗いていると、クラリスが俺の隣に来て聞いてくる。

「マルス、私も一緒に見せてもらっていいかしら?」

「ああ。いい……」

俺が返事をするのを待たずに、クラリスの顔が俺の顔のすぐ隣に来たのでドキッとするが、そんな俺の気持ちを知らずにクラリスは鉄砲狭間のような穴から中央広場を覗く。

「ねぇ? なんで狸族の子供がいるのかしら?」

「なんでだろうな……もしかしたらあの子供を盾にして……」

「っ!? そうかもしれないわ! 早く助けに行かなきゃ!」

俺の答えに同意したクラリスが、今にも中央広場へ飛び出しそうな勢いで言うと、それを聞いていた姫が、俺とクラリスの間に割って入り、中央広場を見るとクラリスを宥める。

「クラリス、落ち着くのじゃ。あれがポロンじゃ。ガタイがいいのがポコラスじゃ」

「「っ!?」」

思わず俺まで驚いてしまった。あれがポロン? どこからどう見ても子供じゃないか?

「こんな時に揶揄わないでよ。あんなに可愛い顔で、ずんぐりむっくりした子供がポロンだなんて……」

クラリスも姫の言葉を信じられないようだが、姫は至ってまじめな表情で答える。

「本当じゃ。子供と言っても齢50は超えておるぞ?」

マジか……あれで50歳を超えているのか……

クラリスも姫の言葉がまだ信じられないのか姫を押しのけ、また鉄砲狭間のような穴から中央広場を見つめる。

「あんなに可愛い子供が……ポロン?」

「そうじゃ。あれが狸族の族長のポロンじゃ。あの見た目に騙されてはいかぬぞ? エグい魔法を使うからの。近接戦闘も得意は得意なのじゃが、如何せんリーチが短いからのぅ……」

まぁどう考えても接近戦には向かない体型だよな。

「あっ!? もうそろそろビラキシル侯爵たちが2人の所に着くわよ!?」

クラリスが中央広場を見ながら言うと、エリーが俺の後ろから抱きついてきて激励をしてくれる。

「……マルス……気を付けて……」

それを見たクラリスも正面から抱きついてきて一言。

「ブラやコディたちももうすぐ来るはずだから、危ないと思ったらすぐに戻ってくるのよ。無理はしないでね」

「ああ、2人共心配してくれてありがとう。だがここで失敗したら、アイク兄の顔に泥を塗る事になる。気合を入れて頑張るから2人も援護を頼む」

2人は分かったと言わんばかりに俺を抱きしめる力が強くなる。

「お主らはすぐにそうやって乳繰り合いおって……しかも今度はエリーまでも……これでは妾の入る隙が……ほら、いつまでそうやっておるつもりなのじゃ! もう突入の準備をするのじゃ!」

クラリスとエリーの2人にサンドイッチされている俺を見た姫が、呆れながら言う。

「分かった。姫、何度も言っているが俺が透明化状態になれる時間は少ない。さっきもステルスを使ってしまったからそこらへんも加味してくれると助かる」

後ろ髪を引かれる思いで、世界一幸せな空間から出ながら返事をすると、姫が俺にその病的に白い手を差し出す。

「任せるのじゃ! では行くぞ! マルス!」

姫の手を取ると、切れ長な目を少し緩ませ姫が微笑む。

姫に手を引かれながら内壁を越えると、繋いでいた姫の手を離し、ステルス状態になる。いくら透明になって他の者たちからは見えないといっても、透明になった俺と手を繋いでいる姫が不自然に見えてしまうからな。

そして内壁を越えた途端、コンザの声が聞こえてきた。

「他の者たちも毒に侵されているがここには来られない! まずはビラキシル侯爵に解毒薬を!」

コンザの問いかけにポコラスは嘲笑し、ポロンは表情一つ変えずにただただビラキシル侯爵を見ている。2人共ビラキシル侯爵とコンザを警戒しているのか、俺たちに気付いていないらしい。

ポロンは遠くから見た印象と近くで見た印象が違い、愛くるしい顔には似つかわしくない目つきをしており、目元にはとても深いクマができていた。この目つきはどこかで……

そう思っているとコンザが痺れを切らして怒鳴る。

「おい! 聞いているのか! 解毒薬をよこせ! なぜ我々を襲った!?」

すると今まで嘲笑していたポコラスが、こちらも怒鳴りながら答える。

「当然の事! 姫様の敵討ちだ! グランザムのビートル伯爵と共謀し、姫様を手にかけた罰だ!」

「何を言うか! 姫様は我ら狐族の……いや、ヘルメスの街の宝だ! そんな事するわけないだろう!」

2人は更にヒートアップし怒鳴りあっていると、ビラキシル侯爵は弱弱しい声でポロンに問いかける。

「……ポロンよ。どうしてこんなことをしたのだ?」

「……」

ビラキシル侯爵の問いかけにポロンは何も答えず、ただただビラキシル侯爵を睨みつけているだけだ。

「どうしてそんな顔をする? 私が何かしたか? ポロン、お前の望みはなんだ?」

「……グランザム」

「なに!? グランザムだと!? どうしてグランザムが目的なのだ!?」

ポロンの言葉に驚いたビラキシル侯爵が、毒に侵されている演技を忘れポロンに詰め寄ろうとする。

「おい! お前! さては毒に侵されていた演技をしていたな!? 汚い奴め!」

ビラキシル侯爵の演技に気付いたポコラスが叫ぶと右手を天に掲げ叫ぶ。

「ビラキシル侯爵……いや、フォルス・クラマ! 姫様を殺した罪で処刑する! 皆の者構えよ!」

ポコラスが叫ぶと北東と北西の内壁の向こう側で大勢の者たちが動く音が聞こえる。

そしてポコラスがその天に掲げた手を振り下ろし、何かを叫ぼうとした時だった。

「待てい! 妾はここにおるぞ!」

姫がゆっくりと歩きながら大声で叫ぶと、一斉に皆の視線がこちらに向く。

「「「っ!?」」」

姫の出現に北東と北西の内壁の向こう側が一斉にざわつき始める。

「皆の者! 狼狽えるではない! こいつは偽物だ!」

「何を言っておるか! 妾のこの美貌に化けられる者がおるものか!」

ポコラスが混乱を収めようと怒鳴るが、姫がその声をかき消すように喋る。

「ひ、姫様だ……」

「姫様が生きておったぞ!」

内壁の向こう側からは姫の無事を喜ぶ声が噴出するが、一方でこんな声も上がっている。

「ポコラス様の言うようにあれは偽物だ!」

「姫様に化けるなんて恥知らずが! ポコラス様! 正義の鉄槌を!」

次第に姫の肯定派と否定派が言い争うようになり、北東と北西の内壁の向こうは更に混乱の様相を呈する。

「くっ! こうなったらここで俺が偽物を!」

ポコラスはそう言い放ち、姫がいるこちらに向かって走り出す。

ビラキシル侯爵はポロンと対峙しており、とてもポコラスに構っていられる状況ではない。それに元々姫は俺が守るという約束だったからな。

「姫、少し下がっていてくれ」

ステルス状態のまま姫に話しかけると、姫は芭蕉扇を構えながら少し下がる。

「逃げるな! この偽物め!」

ポコラスが姫まであと僅かという所まで来た時だった。

ステルス状態だった俺は姫の前に立ち、ステルスを解き雷鳴剣を大きく振りかぶる。

「っ!?」

目の前に急に俺が現れ、ポコラスはびっくりしているが、そんな事はお構いなしに、ポンゴを気絶させた時のように、ポコラスの顎を狙い、アッパースイングをする。

ステルス状態を解いたのはステータス半減状態だと気絶させる事が出来ないかもしれないからな。それが功を奏したのか完璧に俺の雷鳴剣の腹はポコラスの顎を捉える……が、ここで予想外の事が起こった。

「っ痛ぇぇぇえええ!!!」

まるで岩を叩いたような感触が手に伝わり、思わず声を上げてしまった。手が痺れて雷鳴剣を握るのがやっとで、振る事は絶対にできない。

ポコラスの方を見ると、俺が急に現れたことに驚いてはいたが、無傷だった。

「誰だ! 貴様は!」

すぐに神聖魔法を使って手の痺れを治そうと思ったが、神聖魔法が使えるというのを姫たちは知らない。できる事であれば知られたくないので、ここは少しでも時間稼ぎをと思いポコラスの質問に答える。

「俺はマルス! リスター連合国のリーガン公爵の命によってグランザムとヘルメスの和解のために来た!」

「リーガン公爵だと!? もしかしてコディの奴か!? まだまだ戻ってくるのは先だと思っていたが……」

俺の答えにポコラスは1人でブツブツ呟き始める。よし、このまま時間を稼げれば……

「俺も答えたんだからお前も答えろ! 今何をした!?」

俺の問いにポコラスはニヤリと笑う。そうだよな。素直に答えてくれるわけ……

「この街で俺の事を知らぬとは! いいだろう! 特別に教えてやろう!」

そう言うとポコラスは筋肉を隆起させ、着ていた服やズボンがビリビリに破け、マッスルポーズを取る。残っているのはアウターのチョッキとビキニパンツ一枚だった。

「我が名はポコラス・マーラー! 今のは俺のオリジナル魔法の 硬質化(ストーンマッスル) ! この筋肉を石のように固くすることができる! 覚えておけ! この世は硬さが全てだ! 硬さは強さ! そして何より男の価値は硬さで決まる!」

いかに時間稼ぎのためとはいえ、聞かなきゃよかったと後悔した瞬間だった。