軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第395話 中央広場へ

気絶している狸族の男を 火精霊の鎖(サラマンダーチェーン) で縛り、コディに担いでもらうとクラリスたちの下へ急ぐ。コディに狸族の男を担がせた理由は、不測の事態に陥った場合、俺が身軽になっていた方がいいからな。

クラリスとエリーがいるから失敗などするわけないとは思うのだが、一抹の不安がよぎる。さっきの俺の例もあるからだ。

1分も経たずにクラリスたちの下へ着くと、すでに狸族の者は気絶し、地面に転がされていた。

「良かった。クラリス、エリー、怪我はないか?」

「ええ。何の抵抗もなく気絶させる事ができたわ」

クラリスが答えるとエリーが補足する。

「……クラリスに見惚れてた……そこを背後から私が……」

あーそういう事ね。まぁいきなり目の前にクラリスが現れたら仕方ないだろう。

「コディ、今担いでいる男をビサン男爵の所へ連れて行ってくれ。ブラッドもここに伸びている男を頼む」

「「おう!」」

2人は気持ちよく返事をしてくれ、コディはブラッドを待たずして先にビサン男爵がいる隠し階段のある家まで向かう。

ブラッドも伸びている男の所に向かい、担ごうとすると姫が少し不貞腐れた感じで俺に聞いてくる。

「マルス、クラリスとエリーの事だけで妾の事は心配せんのか!?」

「え? あ、姫も怪我はありませんか?」

「当然じゃ! 妾を誰だと思っておる!」

先ほどの不貞腐れた態度が一転、満面の笑みを浮かべながら両手を腰に当て、胸を張るポーズを取る。どうやらこれは姫の決めポーズらしいな。

「そ、そうですか……無事で何より……」

愛想笑いをしながら返すと、男を担ごうとしたブラッドからぼそりと呟く。

「姐さんやエリーが胸を張るなら絵になり様にもなるが……」

おいおい……聞こえたらどうするんだ? そう思っていると、姫にもブラッドの声が届いてしまったらしく、姫の怒鳴り声が響く。

「お主! 今なんと言った!?」

「うわっ!? 聞こえやがったのか!?」

「当然じゃ! お主だってよくその顔でクラリスやエリーに近づこうなどと思えたもんじゃ!」

「なんだと!?」

さすがに中央広場まで聞こえる事はないだろうが、2人の言い争いを止めようとすると、この騒がしさにクラリスたちが気絶させてブラッドが担ごうとしていた狸族の男が目を覚ます。

それに気づいたエリーが音もなく体を起こした狸族の男の背後に回り込み、再度気絶させようと手刀を放とうとするが、俺が手でやめろとサインを送ると、エリーの手刀は狸族の男の首までわずか数cmといったところで止まる。

「……うっ……いてててて……何が起きた? 俺は気絶していたのか? とんでもない美女が現れて……あれ? 姫様の声が……って姫様!? 本物!?」

ブラッドと言い争っている姫を見て驚くと、姫が狸族の男に向き直り、再度先ほどと同じポーズを取る。

「当然じゃ! 誰が妾に変化できるというのじゃ!」

「た、確かに姫様だ……良かった……生きていてくれた……それにこうやって話せるなんて……」

ん? 生きていてくれたって……こいつはポンゴが姫を殺そうとした事を知っているのか? 姫も疑問に思ったらしく同じことを質問する。

「なんじゃ? お主はポンゴが妾を襲ったのを知っておったのか?」

「っ!? ポンゴ様が姫様を!? 本当ですか!? 俺は……失礼しました。私はビラキシル侯爵が姫様を謀殺したと聞きましたが!?」

「誰からそのような事を聞いたのじゃ!? なぜ父上が妾を謀る必要があるのじゃ?」

「ぽ、ポコラス様です……あまりにも姫様の人気が高くなりすぎて嫉妬した挙句、グランザムのビートル伯爵と手を組んで姫を謀ったと我々は聞いているのですが……姫様を謀る事で今回のグランザムとの揉め事を帳消しにすると聞いたのですが……違うのですか?」

そういう事か……ビラキシル侯爵が姫を守るためにグランザムへ逃がしたのをポコラスは逆手に取ったのか。

「もしかして姫の弔い合戦とかいう名目でビラキシル侯爵の屋敷を襲ったのか?」

2人の会話の間に入り、俺が質問をすると狸族の男が不審な表情で問いかけてくる。

「お前は誰だ? 姫様との会話の邪魔をするな! それに姫ではなく姫様だろ!?」

俺が答えるよりも先に姫がざっくりと紹介をしてくれる。

「見てわからぬのか!? イケメンじゃ! マルスじゃ! マルスには妾の事を姫と呼んでよいと言っておるから気にするな」

姫の紹介に狸族の男は明らかに不服そうな態度を取り、俺に対して敵意を剥き出しにする。当然俺の質問に答えようとはしてくれない。

強引に吐かせるという手段も頭を過るが、この問題が解決した後の事を考えるとあまり敵を作るのは得策ではない。特にこいつは俺に対して敵意を剥き出しにはしているが、姫に対しては好意的だ。

「姫、どうやら俺がいるとこいつから情報を聞き出せない。俺はビラキシル侯爵の後を追うから任せてもいいか?」

狸族の男に聞こえないように姫の耳元に小声で囁くと、姫は自らの胸を叩いて得意げに答える。

「分かった! 妾に任せるのじゃ!」

姫に最低限これだけは聞いてくれという内容を伝え、ブラッドにもここに残るように指示をし、クラリス、エリーと共にビラキシル侯爵の後を尾ける。

ブラッドと姫が言い争っていた時、ビラキシル侯爵は心配そうにこちらの方をチラチラと見ながら中央広場に向かっていたが、今は毒に侵されている演技をしながらゆっくりと目的地に向かっている。

そのため少し俺たちがトラブってもすぐにビラキシル侯爵の近くまで辿り着くことができた。

「エリー、近くに敵はいるか?」

エリーの雰囲気からして近くに敵はいないのは分かるが念のために聞くと、やはりエリーは首を横に振る。

コンザの肩を借りてゆっくりと歩くビラキシル侯爵の後を尾けていると、狸族の男から情報を聞き出した姫が小走りでやってきて、早口で話し始める。

「マルス、まずはポーロ、先ほどの狸族の男はマルスの指示通りブラッドと一緒にダディの所へ向かってもらったのじゃ。コディが連れて行った男が目を覚ました時にちゃんと真実を伝えるためにマルスが戻ってもらえと言っておったが、ポーロ自身も狐族のみなに直接謝りたいとの事じゃ。怪狸族の者は魔法が使えない者が多いため、直接屋敷の襲撃には関わっておらぬが、襲撃の際は見張りをしておったそうじゃ」

「という事は族長のポコラスも魔法が使えない?」

淡い期待を抱き姫に聞くも、姫は残念そうに首を振る。

「ポコラスは魔法が使える。それも体を強固にする身体強化系の土魔法が得意なのじゃ」

身体強化系の土魔法? 風纏衣(シルフィード) みたいなものか? もしかしてポコラスも魔法を使いながら動くことができるのかもしれない。

予め知れてよかった。ポコラスとの戦いは絶対に避けられそうにないからな。少しでもいいから事前に情報は収集しておきたい。

「マルスが言っておったように狸族の者たちの中で妾は死んでおる事になっており、弔い合戦という名目で屋敷を襲ったらしいのじゃ」

まぁそうだな。俺が頷くとさらに姫が続ける。

「あとここの区画にいるのはポーロたち2人だけじゃ。そして中央広場におるのはポロンとポコラスの2人だけらしいのじゃ」

「っ!? それは本当か!?」

さすがに待ち伏せをしているのだからそれはないだろう。そう思って聞きなおすと姫も聞かれると思ったらしくスラスラと答える。

「恐らく本当じゃな。しかし北西、北東、南東の内壁内に古狸族が張っておるとの事じゃ。内壁というのはもうマルスにも見えていると思うが、区画を分ける壁じゃ。この壁には少し細工がしてあっての。厚さ1mくらいの壁にはところどころ穴が空いており、ここから手を出して魔法を放つことができるのじゃ」

日本の城でいう鉄砲狭間のような物か……厄介だな。

「しかし安心するのじゃ! 妾が生きていると皆が知れば攻撃してくる者は少ないだろうとポーロは言っておった。事実ポーロは此度の戦いには参加しないと、そして騙したポコラスに対しては憎悪の念を抱いておるのじゃ」

「味方はしてくれないの?」

話を聞いていたクラリスが姫に質問すると、少し姫が残念そうな表情で答える。

「うむ……ポーロ自身、どちらが悪いかは明白だと言っておった。しかし同族を討つ事は出来ぬとの事じゃ。ポコラスを除いてと言っておったがな」

まぁ気持ちは分かるな。だが戦いに参加しないというだけでも大きいな。

「やはり俺たちの役割は変わらないな。姫を絶対に守り切る事だ」

「そうね。姫が生きているという事が狸族のみんなにも伝わればこの戦いはそんな難しいものにはならなそうね」

クラリスの言葉に俺と姫が頷くと、姫が先ほどまでの残念そうな表情から少し照れくさそうな表情に変え、今までとは違いゆっくりとした口調で話す。

「うむ。護衛はしっかりと頼むのじゃ。最後にポーロからマルスに伝言じゃ。先ほどはすまなかった。妾をポンゴから救ってくれてありがとうとの事じゃ」

なんだ。ポーロも結構いい奴かもしれないな。改めて強引に口を割らせなくて良かったな。

そう思っているとついにビラキシル侯爵が南西の区画の内壁を越え、街の中心へ足を踏み入れる。

俺もビラキシル侯爵に続き、中央広場に向かおうとすると姫が小声ながら少し怒鳴りながら俺を止める。

「マルス! この先に遮蔽物はないから少しこの内壁から様子を見るのじゃ! 恐らくここからでもポコラスは見えるじゃろうて!」

危ない。勇み足を踏むところだった。

姫に言われたとおり、鉄砲狭間のような小さな穴からビラキシル侯爵が向かう先に視線を向けると、そこには俺くらいの身長でガタイのいい強面の狸族の男と、身長130cmあるかないかくらいの手足の短い愛くるしい狸族の子供が立っていた。