軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第370話 ざわつく胸中

2032年4月28日14時

「やっぱりザルカム王国に入ると魔物の数は増えるわね」

「そうだな。でも去年と違って今年は安心して見ていられる。アリスも強くなったし、カレンがハチマルをテイムしてくれたおかげでエリーの負担も減ったしな。ハチマルの加入はデカかったな」

魔物と戦っているアリス、ハチマルの姿を見ながらクラリスの言葉に答えると、ハチマルの事を褒められたカレンが笑顔を見せる。

ザルカム王国に入国してから魔物とかなり接敵するようになったので、俺が外に出ると、それに合わせて【黎明】女子全員馬車から降りる。

クラリスたちが外に出ると当然ブラッドとコディも外に出てくる。

今日は西リムルガルドから近い東リムルガルドに泊まる予定だからいいが、明日からはかなりの時間移動するからしっかりとローテーションを組まないと、いざ何かあった時にみんな疲れてますでは話にならないから考えないとな。

東リムルガルドに着くと大分街が復興していた。

復興? 何の事? と忘れてしまった者の為にも説明しておくが、ここは一昨年魔物によって落ちたが、去年ヒュージたちが取り戻したのだ。俺が補修した街門や街壁もしっかりとまだ雷の紋章を残している。

西リムルガルドとは違いこの街で俺たちの事を覚えている者はいなかった。結構補修作業を頑張ったんだけど、考えてみれば誰にもバレないように補修作業をしていた気がするから仕方ないといえば仕方ない。

街にも人が戻ってきており、何よりも冒険者らしき者たちをかなり見かけるのだが、ザルカム王国にあまりいい印象がないせいか、冒険者の顔がみんな悪人面に見えてしまう。

まぁそんな悪人面に見えてしまう冒険者たちよりもブラッドの顔の方がよっぽど怖いのだが。

この街ではクラリスたちは馬車の中に入ってもらっている。西リムルガルドと同じように外を歩いてほしいのだが、治安が悪そうだから仕方ない。

宿を取り俺とアイクの2人だけで冒険者ギルドに向かう。アイクが外に出るといつも一緒にお供をするサーシャ、バロン、ミネルバにも念のため宿で待機してもらう。

冒険者ギルドに入ると西リムルガルド以上に冒険者でごった返していた。

強面冒険者たちの好奇な視線を集めながらギルドの職員に聞こうとしたのだが、受付にいるギルド職員は1人でその職員には多数の冒険者が群がっている。まだまだ復興途中という事もあって職員を派遣出来ていないのかもしれない。

さすがにこの状況では職員に聞くことが出来ない。

俺たちのクエストはあくまでもグランザムに行き、人族と魔族の仲介だ。ここで割り込んだりして問題を起こすのも馬鹿馬鹿しい……と思っていたのは俺だけでアイクは違った。

「俺はB級冒険者のアイクだ! 皆に聞きたいことがあるがいいか?」

騒がしかった冒険者ギルドが静まり返り、アイクが右手に掲げたミスリル銀の冒険者カードに釘付けとなる。

この紋所が目に入らぬかクラスの効果だ。

「もう一度聞く! 質問に答えてもらいたいがいいか!?」

「あ、ああ……」

「お、おう」

「マジでB級かよ」

反応は様々だったが皆アイクの言葉に耳を傾ける。

「最近不審なクエストを受けて行方不明になった者が続出しているという話を聞いた! 同じ様な事を知っている者はいないか!?」

「ぼ、冒険者ではねぇですが、ちょっと遠くへ行ってくると言っていなくなった者が何名か……」

道端で会ったら絶対に目をそらして、道を譲ってしまうような強面の冒険者が、アイクに対して恐る恐る答える。

強面の男が答えたのを皮切りに次々と同じような話が寄せられる。

行方不明になる前に依頼人やクエスト内容を聞いたところ、皆口をそろえて、依頼人は言えないと答え、クエスト内容を聞こうものなら決まって「ちょっと遠い所へ行ってくる」とだけしか言わなかったようだ。

これ以上の収穫はもう見込めなかったので、宿に戻って明日に備える。

2032年5月14日13時

東リムルガルドを発ち、グランザムへ向かいながら、通過する街の冒険者ギルドに顔を出し、行方不明者の情報を聞くが一向に手掛かりはない。

アイクもわざわざ遠回りして他の街まで聞こうという気はないらしい。

予定よりもかなり早い時間にバーグッドの街に着いてしまい、次の街を目指そうとしたのだが、ミーシャのたまにはみんなでお酒を飲みたいという強い要望を受けて、今日はこの街に泊まることにした。

ミーシャだけでなく他のみんなも息抜きをしたがっていたし、俺自身もたまにはこうして肩を並べて飲みたい。

「かんぱぁーい!!!」

ミーシャの掛け声とともに真昼間っからレストランで酒宴が始まる。

だがこうやって昼から飲んでいるのは俺たちだけではなく、他の冒険者たちも楽しそうに飲んでいる。

「今日は浴びるほど飲むぞぉ! マルス! クラリス! アリス! 私の介抱は任せた!」

いきなりの酔いつぶれる宣言……ミーシャは自分でどうにかしようという気は一切ないらしい。

だがこのミーシャの大きな声に反応する者がいた。

「も、もしかして剣聖のマルス君と聖女のクラリスちゃんか!?」

俺たちの近くで飲んでいたガタイのいい30台後半くらいの男が俺とクラリスに声をかけてくる。声が聞こえた方に顔を向けると

「やっぱりそうだ! マルス君とクラリスちゃんだ! こんなに大きくなって……しかも2人とも仲睦まじく並んでいる姿を見ると……」

話しかけてきた男が目頭を抑え涙を堪える。

クラリスの事を聖女と呼ぶ者はグランザム出身者しかいない。

「グランザムの方ですよね? 僕たちはこれからグランザムに行こうと思っているのですが……」

「グランザムに!? 行けるのか!? もしも行けるのであれば、俺も一緒に連れて行ってほしい!」

今まで泣いていた男が急に大声を出して同行を求める。行けない理由なんてあるのか? もしかしたら 魔物大行進(スタンビード) でも起こったのか?

「どうしてグランザムに行けないのですか?」

俺の質問に落胆した様子で男が答える。

「知らないのか……1か月前くらいから急にグランザムへ続く道が全て封鎖されてしまってな。俺もグランザムに戻りたいのだが戻れないんだ。その後色々あってここまで戻ってきたのだ」

男の言葉に思わずクラリスを目を見合わせる。

「詳しくお聞かせ願いませんか? 封鎖というのは障害物が出来て封鎖されているのですか? それとも魔物? または人為的な物ですか?」

「人為的な物だ。なんでもグランザムだけでなくビートル伯爵領の治安が著しく悪化しているとの事で封鎖されてしまっ……」

クラリスの質問に男が答えていると、男の視線がある人物を捉える。

「き、貴様は……ダメーズだろ! なぜおまえがここに居る!?」

今まで穏やかに話していた男が急に激昂し大声を出す。大声に驚いた他の客たちが何事かとこちらを注目する。

「そうだ。すまなかった」

ダメーズが席を立ちその場で頭を下げたが、男は構わずダメーズへ罵声を浴びせながら近づく。

男を止めようと席を立とうとすると、サーシャに手で制される。席を立ち上がろうとしたのは俺だけでは無かったが、みんな同じようにサーシャに制された。アイクですらもだ。

男の拳がダメーズの顔を捉えるとダメーズは踏ん張る事が出来ずに後方に倒れ込む。男は更に追撃をしようとマウントポジションを取りにかかるが、それをサーシャが遮る。

「1発は過去を鑑みて静観していたが、これ以上私の奴隷に手を出すことは許さない。これ以上を望むのであれば、まずはB級冒険者で【風王】の私が相手になろう」

サーシャの脅しに男は一瞬たじろいだが、構わずダメーズを殴ろうとしたので

「申し訳ございませんが、ここにいるサーシャもダメーズも僕の大切な仲間です。これ以上手を出すと僕とも拳を交えることになります。僕はあなたと拳を交えたくはないので、どうかお引き取りを願いませんか?」

サーシャの前に俺が立つと、男は項垂れながら

「……すまなかった。昔こいつを慕っていた時期もあってどうしても許せなくて……」

と言い、俺たちや他の客に向かって頭を下げてから店を出る。

「ちょっとダメーズを治療してくるからみんなはまだ飲んでて」

サーシャがダメーズの手を引いて店を出ようとすると

「バロン、ブラッド、悪いが2人を宿まで送り届けてくれないか? その後また戻ってきてくれ」

アイクがバロンとブラッドに言うと2人は急いでサーシャとダメーズの後を追う。

ブラッドとコディにしなかった理由はこの2人だと余計な厄介事を持って帰ってきそうだからと配慮しての事だろう。バロンは一部のモラルが欠如しているが、それ以外は優秀だからな。

「ちょっと変な空気になってしまったが、こうやって飲めるのは今日までかもしれない。気を取り直して飲みなおそう。グランザムの件は明日考える。とにかく今日は心身共にリフレッシュだ」

アイクの音頭で飲みなおすことにした。

2032年5月14日20時

早くから飲んでいた為、すでに皆明日に備えて寝ている。起きているのは俺と隣で横になっているクラリスだけだ。

「ごめんね。なんか私につき合わせちゃって」

何のことかと言うと、昼間クラリスは最初の1杯しかお酒を飲んでなく、それ以降はお酒に似せた飲み物だった。俺もそれに気づき、クラリスと同じものを頼んでいたのだ。

「いや、俺もクラリスとのこの時間が一番好きな時間だから」

「ありがとう。グランザムの事が気になって……」

一瞬微笑んでくれたが、すぐに天使の笑みは物憂さげな表情へと変わっていく。

「ああ、俺もだ。グランザムの治安が本当に悪化しているのか、それとも何者かが意図的にグランザムを隔離しようとしているのか……」

「ビートル伯爵の事だから治安が悪化とは考えにくいの……尤も外的要因で治安が悪化しているのであれば頷けるのだけれども……」

いつもクラリスと考える事は同じだ。

「そうだな。騎士団長のブレアさんも頼りがいがある人だったし、住民含めて皆ビートル伯爵を慕っていた。治安悪化というのは考えられないよな」

「うん……そうだよね……良かった同じ意見で……でもグランザムに行くには人為的に封鎖されているところをなんとかしないといけないのよね……」

そうなのだ……まさか封鎖されているとは考えもしなかった……明日アイクと一緒に考えねばならない。

「ごめんね。なんか弱音ばかり吐いて。そういえばダメーズさんがサーシャ先生に連れられてレストランから出ていく時の顔を見た?」

少し重くなった空気をクラリスが変えようとダメーズの話をする。

「ああ、あれは思わず吹き出しそうになったな。たった今殴られたばかりで痛そうな表情をしていたのに、サーシャ先生が手を繋いだ瞬間、今まで見たことの無い歓喜に満ち溢れた表情をしていたからな。ついにダメーズもバロンのように痛いのが好きになったのかと思ったよ」

「あれだけ嬉しそうな表情を見せられると、不謹慎かもしれないけど叩かれて良かったねって思っちゃった」

クラリスがダメーズの表情を思い出したのかクスリと笑いながら話す。

少しだけいつもの調子を取り戻したクラリスの手を握り

「俺とあの時のダメーズ、どっちが幸せそうな表情をしている?」

クラリスはまじまじと俺の顔を見つめ、どんどん赤くなっていく。おそらく俺も赤くなっているだろう。それはくさいセリフを言ったからだけではない。

「マルス……かな」

そう答えるとクラリスが唇を重ねてくる。不安を払拭するようにクラリスと唇が腫れるほど愛を囁きながら眠りについた。