軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第369話 不吉

2032年4月27日14時

「今回は何にもないといいわね」

西リムルガルドの街が見えてくると、クラリスがぼそりと呟く。毎回毎回この西リムルガルドでは何かあるからな。

「そうだな。じゃあ俺はアイク兄たちと一緒に外に出る……」

【暁】の男性陣全員が外に出たので俺も出ようとすると、俺の両隣に居るエリーとアリスが無言で俺の腕を抱きかかえて、立つのを阻止してくる。

「はぁ……あなたたち、もう十分マルスと一緒に居られたでしょ? リーガンを出てからお風呂とトイレ以外はずっと一緒なんだから。それにこの街ではマルスがアイク様と一緒に外に出ていた方がすんなりと入れるのよ。離してあげなさい」

俺から離れないエリーとアリスを見たサーシャが諭すと、2人は仕方なさそうに俺の両腕を離す。俺も名残惜しいがこの街は俺も外に出たほうがいい。

俺の事を覚えている冒険者も何人かいるだろうしね。

「エリー、アリス、ありがとう。2人の気持ちは嬉しいよ。俺も離れたくはないけど分かってくれ。サーシャ先生もありがとうございます」

エリーとアリスの頭を撫でると、2人も分かってくれたのか笑顔で気持ちよく送り出してくれた。

「今日はいいのか?」

【黎明】の馬車の前を走るもう1つの馬車の前まで行くとアイクが笑いながら聞いてくる。

「はい。今日は笑顔で送り出してくれました」

「そうか。さすがにここだけは聞き分けてくれたか。助かる」

俺とアイクを先頭に西リムルガルドの街の検問を受けると、検問をしていた者が俺たちの事を覚えてくれていた為すんなりと西リムルガルドの街に入る事が出来た。

西リムルガルドの街にこんなにもすんなり入れるのは初めてではないだろうか?

他の街では余計なトラブルを回避するために【黎明】女性陣は宿までずっと馬車の中に籠ってもらっていたが、街に入ったらクラリスたちも馬車から降りてもらい、ダメーズを抜いたメンバーで一緒に歩く。

クラリスたちに西リムルガルドの街を歩いてもらう理由は2つある。

1つはずっと馬車に籠りっぱなしだから少しは歩いたほうが良いという事。まぁバルクス王国内では朝早く起きていつものようにマラソンをみんなでしているから運動不足という事は無いのだろうが、それでも少しは体を動かしたほうが良いからな。

もう1つは将来を見越しての事だ。早いうちからこの街の住民たちにはクラリスたちに慣れてもらわないと俺の夢の為にも都合が悪いしな。

宿に着いたのが15時でまだ夕食を食べるには早かったので、アイク、サーシャ、バロン、ミネルバ、ダメーズと別行動をとり西リムルガルドの冒険者ギルドへ向かう。

アイクはサーシャとバロン、ミネルバを連れて、この町の住民たちと接する。

最近街に着いたらこの4人で出歩いているのだが、必ずサーシャとバロン、ミネルバはアイクの事をメサリウス伯爵と呼び、街の住民たちにアイクがメサリウス伯爵になったことを暗に示す。アイクの事を知らない者もたくさんいるだろうが、そんな事は関係ないようだ。

ダメーズは西リムルガルドに来るまでの街で何度も不審者と見間違えられるので、宿に籠ってもらい荷物番をしてもらう。さっきもダメーズだけワゴンの中に残ってもらったのはそういう事だ。

冒険者ギルドに向かう途中に、俺の事を覚えている者たちから歓迎の声をかけられる。

老若男女問わず沢山の人に声をかけられた。不浄王とコジーラセ男爵から街を守った功績はデカいようだ。

この前も声をかけたかったが、ジオルグたちの接待で忙しかったという者も多数いた。

「西リムルガルドのみんなはもうマルスの事を認めているんだね! なんか私も嬉しくなっちゃう!」

「男の人にも先輩の良さを分かってもらえて嬉しいです!」

「女性も過度なスキンシップをしてこないのも好印象ね」

「そうね。ここではマルスに近づく女性を無下に追い払うというのはやめた方がいいわね。エリーもその辺弁えてね」

ミーシャ、アリス、カレンの言葉にクラリスが続き、エリーに注意を促すとコクリと首を縦に振る。

西リムルガルドの住民たちの歓迎を受けながら、冒険者ギルドに入るとたくさんの冒険者でにぎわっていた。

俺たちの事を知っている者はちょっかいなどかけてこない……むしろ友好的に接してくれるが、よその街から来た冒険者やペーパーの冒険者はクラリスたちを髪の毛の毛先から爪先まで涎を垂らしながら舐めるように視線を這わせる。

そいつらに向かってブラッドとコディが睨みつけると2人の風体にビビり、すぐに不快な視線をクラリスたちから背ける。さすが親衛隊だ。

これを見ていた友好的な雰囲気を醸し出している冒険者が俺に声をかけて来る。

「ブライアント伯爵のご子息のマルス様ですよね? アイク様はいらっしゃらないのですか?」

おそらく俺の事を知らない者たちに警告を与えようとしているのだろう。

「はい。父は辺境伯に陞爵しました。兄のアイクはこの街に来ておりますが、別行動をとっております。それと兄はリスター連合国のメサリウス伯爵家の者と結婚し、メサリウス伯爵位を襲爵しました」

「「「おおおぉぉぉ!!!」」」

ギルド職員にも聞こえるように大きな声で答えると、冒険者から驚きの言葉が上がった。

この会話を聞いていたギルドの受付の女性が先ほどの俺と同じくらい大きな声で

「マルス様。史上最年少A級冒険者昇格おめでとうございます! 本日はどのようなご用件ですか?」

「「「っっっ!!!???」」」

やはり冒険者ギルドにいる者たちは、ジークが辺境伯に陞爵した事やアイクの伯爵位を襲爵よりも俺がA級冒険者昇格の方が圧倒的に驚きが大きい。俺に対し友好的に話しかけてきた冒険者もあまりもの衝撃に言葉を失っている。

「ありがとうございます。滞っているクエストとかあれば受けようと思ったのですが、これだけ頼もしそうな人たちが居れば無いですよね?」

話しかけてきたギルド職員の近くに行ってから聞くと

「そうですね。滞っているクエストはありませんが、報告をしたいことが2点ほど。1つはマルス様たちがご使用なされていたというリムルガルド城下町付近の砦ですが、冒険者ギルドの方で使わせていただいております。リムルガルド城下町に何かあったらすぐに対処できるようになのですが、宜しかったでしょうか?」

「はい。そういうことであれば是非使ってください」

良かった。クラリスたち女性陣の使用したものは徹底的に破壊しておいて。

「もう1つは報告というか注意喚起というか……私たち冒険者ギルドを経由していない個人からのクエストなのですが、冒険者から少し不審な事が報告されておりまして……」

ギルド職員も全てを把握しているわけではないようで慎重に言葉を選びながら丁寧に話してくる。あれ? この話最近聞いたな……

「分かりました。ありがとうございます。それではこの辺で失礼しますね」

宿に戻り、風呂を入り、みんなで食事をしている時に先ほどの事をアイクに報告する。

「アイク兄、先ほど冒険者ギルドに滞っているクエストとかないか探しに行ったら、ギルド職員からある事を聞きまして……」

アイクが俺の話に興味深そうに耳を傾ける。

「どうやらこの街のCランクパーティのD級冒険者3名がクエストを受注してから行方不明になったとの事です」

「危険なクエストを受ければ命を落とす可能性もあるだろう?」

「そうなのですが、少し不審な点がありまして……ギルドを介さないクエストだったらしいので詳しいことは分からないとの事なのですが、破格の報酬だったとか……」

「詳しく頼む」

「他の冒険者が酒場で実際にクエストを受けたパーティから聞いたというのですが、依頼人、クエスト内容は言えないらしく、ちょっと遠くに行ってくるとだけ、前金で金貨20枚、現地に行ったら金貨50枚と言っていたようです」

アイクも不審に思ったようで身を乗り出して話す。

「確かにCランクパーティでその報酬はおかしいな。ちょっと遠くというのがどれくらい遠いのか分からないが、例え1か月くらい拘束されてもその報酬であればBランクパーティでも喜んで飛びつく者たちはいくらでもいるだろう」

「それにこの話、実は少し前にミックさんにも聞いたことがありまして……」

「ミックさん!? あのミックさんだよな!?」

ミックの名前を出すとアイクもテンションが上がる。ミックはあの時ミーシャを不安にさせないように俺だけに伝えたのだが、サーシャが無事だった今みんなに言ってもいいだろう。

「はい。どうやらダメーズさんがなかなかアルメリアから戻ってこないサーシャさんの事が心配だったらしく、それをリーガンにいたミックさんに相談したのですが。その時にダメーズさんが今の事をミックさんに言ったようで……」

ダメーズの方を見ながら言うと

「確かに聞きに行ったが、俺もそれ以上のことは知らない」

優雅に野菜を口に運びながらダメーズが答える。

「分かった。俺たちも今まで以上に気を付けるぞ!」

「「「はい!!!」」」

アイクの言葉に皆が力強く返事をし、明日に備えてそれぞれの部屋に戻った。