軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第363話 願望

2032年3月23日12時

「さぁ2人共入ってください」

闘技場での訓練を終えた後、クラリスと2人で校長室に行きリーガン公爵と合流し、今3人でリーガン公爵の屋敷に着いたところだ。

既に食事は使用人たちが用意しており、早速昼食を食べながらミックの事を話す。

「そうですか。まぁ当然でしょうね。ですがマルス、機会があればミックとの席を設けてくれませんか? バルクス国王の専属A級冒険者がどのような者だったか知りたいので」

ミックの立場や心情を説明したうえでリーガン公爵に仕える気はなさそうと伝えると、やはりリーガン公爵はその辺の事は踏まえていたが、一度は会ってみたいとの事なので今度セッティングすることにした。

「それとダメーズさんが、最近冒険者たちが行方不明になっているとの噂を聞いたらしく、サーシャ先生の事を心配したのですが、サーシャ先生たちからは連絡きていますか?」

「行方不明? まだ私のところまでは報告が上がってきておりませんが……私のほうからギルドに依頼を出しておきましょう。サーシャからは毎日のように早馬が届いていますので大丈夫ですよ。少し戻ってくるのが遅くなりますが」

「何かトラブルでもあったのですか?」

遅くなると聞いてクラリスが不安そうに聞くと

「いえ、アルメリアから帰ってくるのですからメサリウスに寄り、メサリウス伯爵を護衛しながら一緒に来てもらおうと思いまして。メサリウスを出発するのは4月2日の予定です。メサリウス伯爵の護衛に3名のB級冒険者では足りないかもしれませんが」

含みを持たせた顔でリーガン公爵が答える。

「メサリウス伯爵っていうのは……」

「ええ、あなたの兄、メサリウス伯爵家当主のアイク・ブライアントです。私の代わりにグランザムに向かってもらうのですから、それなりの報酬と待遇をせねばなりませんからね」

分かってはいたが敢えて聞いてみると、やはりアイクだった。今まではアイクと呼んでいたが、これからリーガン公爵はメサリウス伯爵と呼ぶのか。

こうやってどんどんみんながアイクをメサリウス伯爵と認識するようになるんだろうな。ということは俺も気軽にアイク兄と呼ばずにメサリウス伯爵と呼んだほうが良いのだろうか?

なぜ4月2日に出発するのかというと、きっとアイクと眼鏡っ子先輩の事を配慮しての事だな。眼鏡っ子先輩の誕生日が4月1日だからせめてそこまでは一緒に居させてあげようと思ったのだろう。

「さて、ちょうどいい機会なのでラースの件を話しましょう。マルスもそのためにエリーを連れてこなかったのでしょう? マルスはまだこの屋敷に入る時に違和感を覚えますか?」

「ありがとうございます。だいぶこの違和感にも慣れましたが、いまだに違和感はあります」

「そうですか。では早速ですが種明かしをしましょう。この違和感の正体というのは天界石という石の効果なのです。この屋敷の周辺の至る所に散りばめられています」

天界石? 初めて聞く名前だな。

「マルスは魔眼ではなく鑑定スキルで鑑定しているとの話なので効かないと思うのですが、この天界石に守られた場所ではいかなる魔眼も発現出来ないのです。魔眼による鑑定すらできません」

ここは結界で魔眼から守られているという事か。試しにクラリスを鑑定してみると普通に鑑定が出来た。やっぱり天眼は相変わらずのチート性能だな。

「ラースたち悪魔族と戦う際、暗黒魔法が厄介だったのはもちろんですが、魔眼も厄介でした。当時の悪魔族は千里眼を持つ者がいたので、こちらの隙を窺って襲ってこられるのが厄介でした」

確かにその点では千里眼ってとても有用だよな。ゴンのおかげで千里眼=覗きというイメージが植え付けられているのだが。

「先日言いましたよね? ラースとの1回目の戦いのときは確かに動きを読まれているようだったと。ですから2回目はこの天界石を散りばめた場所に誘い込んでラースと戦ったのです」

確かに 未来視(ビジョン) 持ちの相手と戦うのは相当キツイはずだよな。俺は使っている方だからそのキツさは分からないが。

「ラースは完全な魔法使いスタイルで遠距離から強力な魔法を撃ち込んできたといいます。なんとか接近できても体捌きは魔族の体術というよりかは、人族の剣術の達人といったような動きと言っておりました」

ん? これはリーガン公爵が実際に見たわけではなく、聞いた話なのか?

「実際に【剣神】とラースの戦いを見たわけではないのですか?」

疑問に思ったことを聞くとリーガン公爵が笑いながら

「マルス、あなたは弱者を傍に置いて全力戦闘ができますか?」

「リーガン公爵が弱者とでも?」

「少なくとも【剣神】はそのように思っていたようです」

確かに全力戦闘をする時は、自分より弱い者が近くにいるとそちらが気になってしまうよな。それが大切な人であればあるほど……きっと俺もそうしただろうし、そうするだろう。

「ラースとの戦いの話はこれくらいです。他の悪魔族との戦いの話になると暗黒魔法の話に繋がる可能性が高いので。少しでも話してマルスが覚えるきっかけを作りたくはないのでその辺は分かってくださいね」

もうちょっと情報が欲しかったのだがこれ以上リーガン公爵から何かを聞き出すというのは俺には無理だな。今日はここまでか……すると隣で俺とリーガン公爵の会話を聞いていたクラリスが

「リーガン公爵、もしもマルスが暗黒魔法を覚えてしまった場合どうすればよろしいですか?」

「その時はすぐに私に知らせてください」

「では暗黒魔法を覚えた時は何か変化とかありますか? 例えば神聖魔法を覚えると成長が早くて老いにくい、傷の回復が早いといったように」

もしかしてクラリスは俺の心を読んでリーガン公爵からなんとか暗黒魔法の事を聞き出そうとしているのか? クラリスの質問にリーガン公爵が少し考えこんでから

「どうしてそんなことを聞くのですか?」

「私がマルスのそばにいる機会が一番多く、変化に気付ける可能性が最も高いからです。マルスが魔法に愛されているのはリーガン公爵もご存じのはずです。すぐに気づければリーガン公爵にも早く報告することができ、対処もできるかと思うのですが……」

リーガン公爵はクラリスの目をじっと見つめ、クラリスもリーガン公爵の圧に負けることなくリーガン公爵の目をずっと見続けている。

「……わかりました。では見分ける方法を教えます。対処法の方はあまり期待しないで下さい。マルス、剣で指を軽く斬り、少しだけ血を流してもらえませんか?」

リーガン公爵の言うとおり、氷紋剣で指の薄皮を斬るとツーっと赤い血が流れる。

「それです。その血が黒ければ暗黒魔法が使えるようになったと思ってもらって構わないでしょう」

「ただ単に悪魔族の血が黒かっただけという事ではないのですか?」

こういう時心を読んでくれるのは頼もしいよな。俺が聞きたいことをそのまま言葉にしてくれるのだから。

「悪魔族でも暗黒魔法が使えない者もいました。その者たちの血の色は我々と同じ赤で暗黒魔法が使えるものだけが黒かったのです」

という事はラースだけでなくヨハンの血も黒いのか。

「もしもマルスが暗黒魔法を覚えてしまったら隔離してから私に報告しに来てください」

隔離か……なんか実質対処法は無いと聞こえるのだが……

「もう時間があまりないのであなた方からの質問はこれまでにしてもらって、私の質問にも答えてもらってもいいですか?」

「はい。何でしょうか?」

「マルス、以前から気にはなっていたのですが私が授けた 水精霊の剣(ウィンディーネソード) はどうしたのですか?」

あっ! そういえば獄炎狼に投げてそのまま消滅してしまったのを報告していなかった。

「申し訳ございません! 水精霊の剣(ウィンディーネソード) につきましてはリムルガルド城下町のボス部屋で消滅してしまいまして……あの剣のおかげで今の僕たちはおります。今僕が持っている剣はリムルガルド城でたまたま手に入れた氷紋剣という物です。価値的には同じくらいなのでもしも返せという事であればこちらでもよろしいでしょうか?」

水精霊の剣(ウィンディーネソード) よりも氷紋剣の方が価値は高いのだが、リーガン公爵から貰った物よりも今俺が持っている物のほうが価値が高いなんて言えないからな。

「いえ、いいのです。 水精霊の剣(ウィンディーネソード) くらいであなたたちの命が救われれば安いものです」

笑顔を見せて話しかけてくれたリーガン公爵の表情は慈愛に満ち溢れていたが

「マルス、今年のリスター祭は期待しておりますよ?」

最後の一言を言い放った時のリーガン公爵の目は 水精霊の剣(ウィンディーネソード) 代を何倍にもして返せと言っていた。

2032年3月23日20時

リーガン公爵との昼食後は闘技場で訓練に励み、学校が終わったらすぐに寮に戻った。

寮で風呂に入ってから【黎明】部屋に向かい、クラリスとアリスの手料理に舌鼓を打った後はみんなで少し談笑してからエリーと約束したとおり一緒にクラリスとエリーの部屋に入る。

今日はエリーを中心にして右側に俺、左側にクラリスと、エリーを挟むようにしてベッドに入るとエリーはいつにもまして幸せそうな表情を浮かべながら寝息を立てる。

「エリー本当に幸せそうよね」

クラリスがエリーの前髪をかき分けながら言うと、あまりにも愛おしかったのかおでこにキスをする。

「そうだな。エリーは俺とクラリスの間にいるのが一番幸せな時間なのかもしれないな」

俺もクラリスがキスしたところに唇を触れる。エリーのおでこを通しての間接キスだ。贅沢極まりないな。

「ねぇ私は絶対にマルスの隣にいるからね。もっと強くなって役に立てるようにするから置いて行ったりしないでよ?」

思い出したかのように突然クラリスが聞いてくる。【剣神】がリーガン公爵を置いて戦ったことを気にしているのだろう。俺も【剣神】と同じ考えだからな。

「ああ、その時次第だな。俺がもっと強くなってどんな相手でも楽勝だったらクラリスも心配しないだろう? 時が来たらまた話し合おう」

クラリスが俺と一緒に戦うために必死なって頑張ってくれているのは十分に伝わってきている。それでも一緒に戦ってはダメな時だってあると思うんだ。

「それにしてもリーガン公爵をあれ程までに警戒させる暗黒魔法ってどんな魔法なんだろうな」

クラリスがあまり納得していない表情だったので、話題を逸らすと

「そうね。見たいけど見たくないわね……」

クラリスもやはり俺と同じ気持ちのようだ。

当然だよな。リーガン公爵が恐れるほどの魔法だから目にしないほうが良いに決まっている。

だがみんなで幸せな未来を過ごすためにはどうしてもラースとヨハンは避けては通れない問題だ。必然的に暗黒魔法の事を知らないといけない。

「マルス、もう21時になるわよ? どうする? 今日はこのまま泊っていく?」

クラリスとの時間はいつもあっという間に過ぎてしまう。

「本当は泊まりたいけど、バロンに悪いから帰るよ。クラリス、また明日な」

俺の言葉にクラリスが切ない表情を見せるが

「うん……また明日ね。おやすみ」

その言葉を発すると同時に目を瞑ったクラリスの唇に触れてから【黎明】部屋を後にする。

暗黒魔法……どうにかして見なくても済まないようにならないものか……そればかりを考えて寮に戻った。

しかし俺の思いは虚しく、暗黒魔法の力をまざまざと見せつけられる日は刻一刻と近づいているのであった。