作品タイトル不明
第328話 スザクの本気
「な、なんか静かよね……それにひんやりしてない? 本当にお化けとか出てこないわよね……」
クラリスが俺に身を寄せながら話しかけてくる。
城内に入った先には巨大なエントランスホールが広がっていた。
エントランスホールの中心より少し左右にずれたところに上の階に続く大きな螺旋状の階段が2つと、エントランスホールの左右に大きな扉、そして左右の螺旋階段を通り抜け、真っすぐ進んだ通路の先の奥には大きな扉がある。
螺旋階段を過ぎたあたりから徐々に幅が狭くなっており、奥の扉付近の幅は10mもないくらいだ。ちょうどコロネの太い方から細い方へ歩いて行くような感じだ。
しかしいくらなんでも広すぎる。奥への扉まで200m以上はあるのではないだろうか? これは迷宮化によって内部が大きくなっているのだろう。
「去年と変わってないか……この広いエントランスホールを奥の扉の騎士の間の方に進むとオーガが1体、2体、3体とどんどん増えて出てくる。20体くらいまで増えたところでいつの間にか後ろから大量のオーガが湧いていてな。どんどん前方のオーガが増えるからどうしても後方への注意が緩んできてしまう。
去年は最後尾にAランクパーティになったばかりの【明星】の5人と【朱雀】と【氷帝】の神聖魔法使いを配置していたのだが、あっという間にみんな死んでしまった。今年は絶対に同じ轍は踏まない!」
これは出発する前にもう聞いていた話だったが、再度確認するようにスザクが力強く決意する。
まずは全員で扉付近を念入りに調べる。スザクが去年後ろから襲われたと言っていたから当然だ。だが入り口付近を警戒してもオーガの姿はなく、天井や地面を注意してみても異常はなかった。
「マルス、本当にマルスの言った隊列でいいのか? マルスが相当危ない位置になると思うが……」
入口周辺が今は安全という事を確認するとスザクが聞いてくる。
「ええ、少なくともこのエントランスホールから騎士の間までは事前に決めていた隊列にしてください」
俺が提案した隊列とは
前衛は左からエリー、アイク、ビャッコ。
その後ろにスザク。
スザクの後ろにクラリス。
最後尾に俺となる。
そしてスザクとクラリスの間には結構な距離を開けてくれと頼んでいる。当然これは俺とクラリスがみんなと離れてイチャイチャする為ではないから誤解しないでくれよ。しっかりと考えがあっての事だ。
一応2人一組というのも意識はしている。エリーとアイク、スザクとビャッコ、そして俺とクラリスだ。もしも孤立した時の為にだが、実際俺はアイクだけに注意を向けている。なぜかというと絶えずクラリスは俺の近くに居るし、エリーはカルンウェナンの効果ですぐに俺の所に戻って来られるからな。
「ではしっかりと警戒しながら進もう。去年は螺旋階段を過ぎたころからオーガが湧き始めたからな。注意してくれ」
前衛の3人がゆっくりと前に進み始めると、それに続いてスザクも歩き始める。
次はクラリスの番だが、怖いのか俺から離れるのに抵抗があるらしくなかなか歩き出せないでいる。
「クラリス大丈夫だ。すぐ後ろには俺がいるから安心してくれ」
本当はクラリスと手を繋いで進みたいのだが、もう既に俺の右手には雷鳴剣、そして左手には氷の刃……ではなくアクアロッドを握っている。
当然前にも言ったようにアクアロッドを武器として使うつもりは全くない。接近戦となったらアクアロッドをクラリスに渡し、背中に背負っている氷の刃を抜くつもりだ。
「信じているからね。絶対に1人にしないでよ……」
クラリスが今にも泣きそうな表情をして足を踏み出す。
俺もクラリスの匂いを追うように後を付いて行く。なんかこうやってクラリスの後ろを歩くのはいつ以来だろうか? 改めて見るとスタイル抜群だよな……クラリス本人も11歳の時点で前世の20歳の時よりもスタイルはいいと言っていたからな……
え? ずっと尻ばっかり見ているなって? いやいや、俺だってやる事はしっかりやっているよ。アクアロッドを後方に向けて絶え間なく水を噴射しているのだから。間違っても前方に水が飛ばないように注意しながらね。
スザクの言う通りアイクたちが螺旋階段の所に差し掛かったところで左右の階段の裏から2体のオーガが出てきた。
話によると最初は1体と言っていたのだが、2体出てきたという事は……去年よりもオーガの数が増えているのかもしれない。
アルメリア迷宮で対オーガ戦に慣れていたアイクはあっさりと1人でオーガを倒す。そしてビャッコも力任せにアダマンクローで引き裂く。その間エリーは奇襲が来ないか警戒している。
2体のオーガを倒すと奥の扉、つまり騎士の間に続く扉が開き、4体のオーガがゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。こうやって注意を前方に向けさせているのか……
アイクとビャッコが4体のオーガと戦っているとエリーが俺の方を振り返り、ジェスチャーである事を伝えてくる。上を指さし、その後両手をいっぱいに広げる。
もう分かるよな。上に敵がいっぱいいるという事だ。どうやらスザクたちが最初にここに来た時に騎士の間から現れるオーガに注意が向いてしまい、階段から降りてくるオーガに気づかなかったのかもしれない。
仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。実際エリーに上にいると言われても俺にはまだ分からないからな。今はまだ下りてきていないのかもしれない。
前衛の3人にはゆっくりと4体のオーガを倒してもらい、その間に螺旋階段付近に入念に水を撒く。
階段付近から俺のいる所まで水浸してからアイクにオーガの止めを刺してもらうと、また扉の奥から8体のオーガが出てくる。
「クラリス、3人の援護を頼む。ホーリーを使わず 魔法の弓矢(マジックアロー) に風魔法のエンチャントだけで済ましてくれ。倒し終わったらまた俺の所へ戻ってきてくれ」
寂しいから戻ってきてと言ったわけじゃないからな。もしも後方からオーガが一斉に迫ってきた時にこのアクアロッドを受け取ってもらわないといけない。
クラリスも先ほどまでは怖がっていたが、いざ魔物が出てくるともうそんなことは言っていられないようだ。俺の言葉に頷きすぐにスザクの近くまで駆け寄り、 魔法の弓矢(マジックアロー) を射ると、隣にいたスザクが
「凄いな……ミリオンダガーを投げても 土砦(アースウォール) で簡単に防がれてしまうが、 魔法の弓矢(マジックアロー) だと 土砦(アースウォール) が発現する前に届くのか……」
スザクが感心しながらクラリスを見る。俺の方も後方にバッチリと水を撒き終えるとアイクのアズライグがオーガの発現させた 土砦(アースウォール) を貫通してオーガを突き刺して屠る。
ここまでは順調だ。順調な理由の1つに俺たちがオーガ戦に慣れている事もあるが、オーガソーサラーが出てきていないというのもあるだろう。正直緑色のオーガが出てくるだけで安心すらできる。青色のオーガ(オーガソーサラー)は絶対に出てくるなよと思っていたら次に出てきたのは2体の赤いオーガだった。
これはオーガバトラーだ! 青はやめてくれと言ったが、だからと言って赤が出てこいなんて言ってないからな? スザクは初めて見たのか驚いているが、別の感情を爆発させているものがいた。
「スザク様! オーガバトラーと1対1でやってみてもよろしいでしょうか!?」
大好物を見るような目でアイクがスザクに訴えると、アイクの圧に押されたスザクが俺の方を向く。
「スザク様、アイク兄はオーガバトラーくらいであれば大丈夫です。何度もアルメリア迷宮で倒しておりますので」
「よし、じゃあやってみてくれ!」
アイクが嬉しそうに頷くとビャッコも1対1で戦ってみたいと言い出し、結局2人が1対1で戦い始めた。俺としてもゆっくり倒してくれた方が都合いいからな。
アイクはもうオーガバトラー戦は相当手慣れたもので、筋力と耐久値以外の能力はまだ互角くらいだが、多少の傷を受けるだけで倒していた。ビャッコも土魔法を使われるとやはりダメージを食らってしまうのだが、接近戦になってしまえばステータスで圧倒しているので難なく倒す。
やはりビャッコは相当強い。獄炎狼がたまたま苦手だっただけで接近さえしてしまえばアイクよりもあっさりとオーガバトラーを葬る事が出来る。
HPが300近いオーガバトラー相手にアイクは1分ちょい、ビャッコは1分弱で倒している。
その後もオーガバトラー2体とオーガ2体、オーガバトラー2体とオーガ4体と出現し、徐々に俺たちも騎士の間の方におびき出されるようにどんどん細くなっていく道をまっすぐ歩いて行く。
さすがにこの状態でクラリスに俺の近くに居てもらう訳にもいかないので、クラリスにも参戦してもらっている。
オーガたちも俺たちをおびき寄せる為になかなか上手い事やってくる。俺たちが近づかないとMPが切れるまで土魔法を連発し、オーガたちからはなかなか近づいて来ないのだ。
だが俺たちも端からそのつもりだ。ゆっくりとだがオーガたちにおびき寄せられたふりをして徐々に細くなっていくコロネの様な通路を進む。
そしてオーガバトラー2体、オーガ8体を倒した時だった。もう20mに迫った騎士の間から少し黒光りしているようなオーガがオーガバトラー2体とオーガ16体を連れて出てきたのは。
すぐに黒光りするオーガを鑑定すると
【名前】-
【称号】-
【種族】オーガスター
【脅威】A-
【状態】良好
【年齢】6歳
【レベル】5
【HP】333/333
【MP】333/333
【筋力】103
【敏捷】85
【魔力】102
【器用】82
【耐久】95
【運】1
【特殊能力】棒術(Lv8/C)
【特殊能力】土魔法(Lv7/D)
【詳細】知能が高い魔物。人の言葉が理解できる。
これは相当ヤバい。いやビャッコであれば1対1で戦えば勝てる相手だろう。しかしその後ろに控えるオーガバトラー2体とオーガ16体は、オーガソーサラーが居ないだけましだが、アルメリアのボス部屋を越えた難易度だ。
俺も参戦したいのだが、あいにく俺たちの後方の螺旋階段の方からも大量のオーガの気配がするようになってしまった。
さすがにこれだけ前方に強敵のオーガが並んだら、後ろから来ると知らない限り警戒なんて出来ないだろう。
「スザク様! 黒光りしているオーガは脅威度A-です! それに後方からも大量の敵が迫ってきていると思われます!」
「分かった! 予定通り前衛3人は俺の後ろに下がれ! 俺の魔法に巻き込まれるなよ! 獄炎狼どころの熱量ではないからな!」
前衛3人は俺とスザクの中間にいたクラリスの所まで避難するとクラリスがすぐに 氷砦(アイスフォートレス) を発現させてスザクの魔法に備える。
「カイザーヴァーミリオン!」
スザクが叫ぶと両翼10mはあるだろう朱色に激しく燃え盛る巨大な炎の鳥が圧倒的な熱量と共に顕現した。その頭には炎の王冠があしらわれており、大きな翼を一度羽搏かせると、火の粉がファイアバードに生まれ変わる。
この熱量は確かに獄炎狼どころではないかもしれない。クラリスの 氷砦(アイスフォートレス) の近くに居ても熱が伝わってきており、 氷砦(アイスフォートレス) もすでに溶け始めている。
これがスザクの言っていた、スザクしか使えないもう1つのオリジナル魔法か。
そしてその威力は想像するのに容易いものであった。