作品タイトル不明
第324話 引退
2032年1月24日15時
激戦を終えた俺たちは疲れた体に鞭を打ち、なんとか砦に戻ってきた。途中でエリーが寝てしまい、俺がおんぶして帰ってきたので余計に疲れたのだが、他の者にエリーをおんぶさせるわけにはいかない。それに嫌な事ばかりじゃないしね。
砦に戻ると早速風呂に入る。突入した男メンバーとアイクとレッカの6人でだ。
女性陣は全員で風呂に入るらしい。残されたバロン、ライナー、ブラム、ブラッド、コディ、クロムは念のため砦の外を警戒してくれている。
「ミックさん、本当にその怪我を治さなくていいのですか?」
風呂に入りながらミックに質問をする。ダンジョンコアを壊した後にブラムからマジックポーションを受け取り徐々にMPを回復させてみんなを回復していたのだが、ミックは左腕の火傷を完全には治さなかった。今でも痛々しい火傷跡が残っている。
「ああ。これは今回の件の戒めとして残そうと思っている。ジオルグ殿下や貴族たちに報告する時もこのくらいの傷があった方がいいと思うしな」
俺の質問に答えたミックが今度はスザクに質問をする。
「スザク、ボス部屋で入手した槍はどうするつもりだ? このパーティのリーダーはスザクだ。当然所有権はスザクにあるが……」
「そうだな……普通であれば俺のコレクションにするのだがな。とても貴重でしかも火属性だからな。だが誰がどう見てもあれはマルスの物だろうからマルスに渡す。まぁマルスの事だからアイクの手に渡るだろう。それはこれからリムルガルド城に突入する俺たちにとってもいい事だからな」
湯船につかっている俺とアイクを見ながら言う。
「ありがとうございます! ありがたく頂きます! そして当然アイク兄に使ってもらいます!」
俺がスザクに頭を下げるとアイクが
「マルス、本当にいいのか? あの槍は凄いってマルスが言っていたじゃないか? 水精霊の剣(ウィンディーネソード) が消滅してしまったのだろう? 代わりにそれを使ってみればいいじゃないか? マルスであれば槍も扱えるようになるかもしれないだろ?」
そうなのだ。 水精霊の剣(ウィンディーネソード) を獄炎狼に投げた時に炎柱の勢いに負けて吹っ飛んだとばかり思ったのだが、どうやら熱さに耐えられなかったのか消滅してしまったのだ。
そして代わりに出てきたのが、アズライグという槍。
【名前】アズライグ
【攻撃】35
【特殊】魔力+3
【価値】A
【詳細】赤竜の鱗と魔石で作られた槍。火属性を吸収し、纏わせることが出来る。槍に火魔法を 付与(エンチャント) すると攻撃力があがる。
今までみた武器の中で一番強い。アイクの言うように俺が装備することも考えた。なんといってもこの槍はハチマルとの相性がとてもいい。ハチマルに火を吐いてもらって槍に火を纏わせて攻撃とか相当強いと思ったのだが、それでも槍といえばアイクだろう。もっといい槍を手に入れた際はこのアズライグを譲ってもらおうと思う。
「僕が持っていても宝の持ち腐れになってしまいますから、アイク兄が使ってください」
俺の言葉に申し訳なさそうにアイクが頷く。
「そうだ。風呂から上がったらリムルガルド城突入について話し合おうと思う。今回のボス部屋で思う所があってな」
本当は風呂から上がったらご飯を食べずにすぐに寝たかったのだが、そう言われては参加するしかないな。
かなり長湯をしたのだが、それでも女性陣はなかなか風呂から上がってこなかった。外にいる男性陣を呼び風呂に入ってもらうとその男性陣が上がるころに女性陣も風呂から上がってきた。
全員が揃ったところでスザクが話し始める。
「まずは今日のボス部屋ご苦労だった。皆のおかげで無事リムルガルド城下町の迷宮化も解消でき、城下町を覆っていたテリトリーもなくなった。火喰い狼はもう湧かなくなっただろう。そこは数日掛けてしっかりと調査するつもりだ」
皆が食事の手を止めスザクの話の続きを聞く。
「リムルガルド城についてだが、今回は間引きだけという事にしようと思う。リムルガルド城下町でこれだけ苦戦したからな。恐らく城の方のボス部屋には想像もつかない奴が待ち構えていると思う。それに最大戦力のマルスの武器が1本無いからな」
このスザクの言葉にミックが
「ああ、俺もその方がいいと思う。バルクス国王には上手く伝えておく。さっきも風呂場で言ったが俺のこの左腕を見せれば納得してくれるだろう」
その後も話し合いが続いたのだが、もう眠気が限界だったので、その旨をスザクに伝えて寝室に行くと【黎明】全員も一緒に寝室に入り、泥のように眠りについた。
2032年1月25日0時
「マルス……マルス……」
俺を呼ぶ声がし目が覚めると、クラリスとエリーが寝言で俺の名前をずっと呼んでいた。2人共夢でもみているのだろう。
2人の寝顔をずっと見ていたかったが、ちょっと試したいことがあり部屋を後にする。
外に出てそれを握りひたすら訓練していると
「なんだマルス、そんなものを握って」
ミックが訓練中に外に出てきて話しかけてきた。
「申し訳ございません。うるさくて起きてしまいましたか? 水精霊の剣(ウィンディーネソード) が消滅してしまった事により何か他の武器をと思っていたのですが、ちょっとこれも気になって……」
土魔法で作った長めの棒切れを見せると
「マルスは棒も使うつもりなのか?」
「今の所はっきりとした事は言えませんが、棒術も練習しようかなとは思っております。理想としては剣と魔法、そして搦め手で鎖を考えておりますが、スザク様やクラリスを見ていると投擲系の装備もいいかなと思っております。何かを投げてそれを目掛けて雷魔法というのも考えております。もちろんミックさんの 双竜棒(ダブルドラゴン) にも憧れはあります」
ミックが手に持っている 双竜棒(ダブルドラゴン) を見ながら言うと
「マルス、マルスにであればこれを譲るが使ってみる気はないか?」
もしかして先ほどの俺の言葉はねだるように聞こえてしまったのかな?
「いいえ……さすがに僕には過ぎたる物です。今の僕がそれを持つと性能を過信しロクに棒術の訓練をしないで魔弾を使ってしまうかもしれないので、ありがたいお言葉ですが……」
「そうか……分かった。さっきのマルスの質問だが、ここに来たのはマルスの訓練の音がうるさかったからではない。マルスにだけはしっかりとお別れを告げに来たんだ」
「別れ……ですか?」
何を言っているのか分からなかったので思わず口に出てしまった。
「今から俺は西リムルガルドに戻り、ジオルグ殿下に昨日までの事を報告する。そしてバルクス王国に戻り国王にも報告したらA級冒険者から退くつもりだ。今から西リムルガルドに戻る事はもうスザクには伝えてある」
「どうしてですか? A級冒険者をなぜやめてしまうのですか?」
あまりにも突然の言葉に驚きを隠せずミックに聞くと
「俺も今年で35だ。A級冒険者になって金もたんまり稼いだしな。サンマリーナに家でも構えてクラリスちゃんやエリーちゃんみたいないい子を探すのもありかなと思っている」
俺の方を見てニヤッと笑うと
「今のは冗談だが、A級冒険者から退くというのは本当だ。獄炎狼と戦っていて全盛期よりも色々鈍っているのは痛感した。獄炎狼に集中しすぎて火喰い狼に気づかないなんてありえないだろう」
やはりあのことを気にしているのか……あれは仕方ないと思う。実際俺が獄炎狼に魔弾を放った時も周囲の事なんて気にする余裕はなかったからな。だが何を言ってもミックはきっと自分を許すことはしないだろう。そのための左腕の火傷跡だ。
「じゃあ俺は西リムルガルドに向かう。マルス無理はするなよ。お前が死ぬと悲しむやつが少なくとも 3(・) 人(・) はいるからな」
ミックがそう言いながら俺の脇をすり抜けて西リムルガルドへ向かう。
「ミックさん! ありがとうございました! ミックさんが居なければ絶対に獄炎狼を倒すことは出来ませんでした! どうかお達者で!」
俺の言葉を背中に受けた棒神は振り返らずにもう大丈夫だと言わんばかりに火傷跡の残る左腕を上げてそのまま暗闇へと消えていった。