作品タイトル不明
第301話 目覚める才能
「エリー、どこか怪我はないか!?」
「……大丈夫……ちょっと……火傷……痛くない……それに 戦乙女軽鎧(ヴァルキリーアーマー) は火耐性」
「駄目だ、跡になったら困る。見せてみろ」
俺の言葉にエリーが素直に火傷の位置を教えてくれるが、すべて下半身だった。まぁ下から火を吐かれれば当然だよな。脹脛や膝、そして内腿、ジオルグたちがいなければマルス先生がしっかりと触診しながら癒してあげられるのに……
「クラリスに処置をしてもらってくれ。処置が終わったらラブ・エールをエリーに唱える」
俺の言葉にエリーが嬉しそうに頷き、エリーがみんなから少し離れた場所にいるクラリスの所へ走っていく。
クラリスにはなるべく貴族や冒険者たちの前には出てこないようにと伝えてあったので、貴族たちからは見えない場所で周囲を警戒しながら待機をしている。なぜクラリスに貴族たちの前に姿を見せないようにしてもらったかはもう分かるよな。
そのクラリスのもとへ向かうエリーの前に、昨日の彫りの深いイケメンが急に出てきて
「私はザフォーレ侯爵家嫡男、そして子爵のモーレス・ヘンタだ! 是非君を我が妻に……」
次の瞬間モーレスは脳震盪を起こし、地面と熱いキスをしていた。
こんな大勢の貴族が見ている前でさすがにやり過ぎかとは思うが、エリーはまるで目の前のごみを払いのけるように、躊躇う事もなく気絶させた。
まぁこんな緊急事態で求婚する方もどうかと思うけどね。
騒ぎが大きくなる前に事態を収拾させないと何人が脳震盪を起こすか分からないので、貴族の中心にいるジオルグの所に行こうとすると、ジオルグの方から俺の所に来てくれていた。
「助かった! できればこのまま俺たちの周囲を警戒してくれないか!?」
「はい! スザク様からもそのように申しつけられております! ここからすぐ近くに僕たちの仲間が守っているエリアがあります。そちらの方に移動して頂けませんか? ここはテントの前が大きく開けている分守りづらいので。またジオルグ殿下はもちろん、貴族の方々も守れるとは思いますが、冒険者や騎士の方々は流石に多すぎて守り切れないと思うので予めご了承を」
ジオルグが少し逡巡するが俺の言葉に頷き
「そうか、確かにここでは守りづらいのかもしれないな。分かった。ここは我らバルクス王国が誇る史上最年少のA級冒険者、マルスの言葉に従おう! もしも先程のモーレスのように警備を邪魔する者がいたら好きにして構わん!」
ジオルグが俺の事を周囲の貴族に紹介するように大げさに言い、先程のエリーの行為も認めてくれると、周りの貴族もどこか納得した様子で俺の指示に従ってくれた。
アイクと周囲を警戒しながらジオルグたちをサーシャたちのいるところまで案内する。クラリスとエリーには俺たちの後方を少し離れたところから警戒をしてもらっている。
重傷の冒険者は後遺症が残らない程度には神聖魔法で治しておいた。しっかり意識を失わせてから回復させているからバレてはいないはずだ。ただ火傷の跡とかは悪いと思ったが治していない。エリーに気絶させられたモーレスと、歩くことが不可能な冒険者は、騎士やほかの冒険者に運ばせている。
先程エリーが火傷したという脹脛や膝、内腿には布が巻かれているが、これはリスター祭で俺がやったように、クラリスがヒールで治した痕跡を隠すためだ。
ジオルグたちを避難させている間も火喰い狼が東側から襲ってきたが、エリーの正確な気配察知でクラリスに火喰い狼の位置を知らせ、 魔法の弓矢(マジックアロー) で火喰い狼が近づく前に倒し、危なげなくサーシャたちがいる場所までジオルグたちを連れて来られた。
「サーシャ先生! こちらの方々もお願いできますか?」
俺の言葉にジオルグが
「バルクス王国第1王子のジオルグ・バルクスだ。よろしく頼む」
と丁寧な言葉でサーシャに手を差し出すと
「初めまして、私はマルスの率いるクラン【暁】に参加しているサーシャ・フェブラントと申します。【風王】の名に懸けてジオルグ殿下を必ずお守り致しますので、どうかこちらにお入り下さい」
サーシャの言葉にジオルグだけではなく、他の貴族たちも驚いた顔をし、安堵の表情を浮かべた。みんな【風王】という言葉に安心したのだろう。何名かはサーシャの顔にうっとりしている者もいる。
「うむ。A級冒険者のクランに【風王】が参加しているとはな。これは心強い限りだ」
「私の他にも【剣王】がこの辺りを警戒しておりますので、どうぞご安心ください」
さらに【剣王】の名も出すと、完全に安心しきったのか、貴族たちからは笑顔がこぼれて軽口を叩く者もいた。
ジオルグと貴族たちはサーシャの案内により土魔法で囲われたテントの中に入っていったのだが、いくら野営地用のテントとは言えこの人数は入らなかったので、急遽もう1つのテントを近くに持ってきて2つのテントを土魔法で覆うことにした。
ちなみに1つ目のテントは 土壁(アースウォール) で囲われていたが、今回2つのテントを囲うにあたり俺が 石壁(ストーンウォール) で囲った。まぁ読んで字のごとく土より石で囲うことにより防御力をアップさせたのだ。
そしてかなり大きめに囲うことによって冒険者や騎士たちも全員ではないがこの 石壁(ストーンウォール) の中で休ませることが出来た。
彼らには念のためにこの辺りを一緒に警備してもらいたいしな。
「サーシャ先生、ここにいない者たちはどこに行ったのですか? ブラム先生とバロン、ミネルバ、それに義姉さんしか見当たらないのですが……」
バロンとミネルバは北側を警戒しており、ブラムは南側を警戒していた。そしてサーシャと一緒にいた眼鏡っ子先輩はアイクの姿を見ると、真っ先に俺の後ろにいるアイクの所へ走ってきていた。
俺の質問にサーシャが少し眉をひそめて
「アリスは今、ブラッドを治療しているのよ。火喰い狼にちょっとやられてしまってね。あっちの物陰にいるわ。2人をコディが警備してくれているの」
そういえば獣人は火に弱いと前に聞いたな。エリーを見る限りはそんなことを感じられないが、まぁエリーは他の獣人と違う所がたくさんあるからな。
「カレンとミーシャはどうしたのですか? あとライナー先生にクロムも」
俺の質問にサーシャが困ったような顔をしながら
「それが……ちょっと……」
サーシャが言いづらそうにしていたので一抹の不安がよぎる。
「どうしたのですか!?」
「えっと……うーん……私も説明できないからマルスが直接見に行ってもらえないかしら? この野営地から出たところでもしかしたらまだ火喰い狼と戦っていると思うわ」
「分かりました! 今から見てきます! エリー来てくれ!」
クラリスと一緒に辺りを警戒していたエリーを呼びラブ・エールを唱えて先ほど風のブーツで減ってしまっているエリーのMPを回復させ
「エリーはこのままクラリスと東側の警戒を頼む! アイク兄! サーシャ先生とここを守ってもらってよろしいですか?」
アイクは素直に頷いてくれたのだが、エリーは不安そうな表情をしており、首を縦には振らない。
「エリー、この程度の敵であれば、マルスは大丈夫だ。俺たちは信じて待とう」
アイクもエリーを説得してくれて、ようやくエリーも首を縦に振り、クラリスの所に戻っていった。
テントの間を抜けて野営地を出るとすぐに4人を見つけることが出来たが様子がおかしかった。
4人の目の前には火喰い狼が3体いるのだが、戦っているのは1体だけで残りの2体は寝っ転がっているのだ。
そして火喰い狼と戦っているのもライナーだけで他の3人はライナーを見ているだけだった。
「カレン! ミーシャ! クロム! どうした? 戦わないのか?」
ライナーの戦いを見守っている3人の所に走り声をかけると
「うん、ライナー先生が火喰い狼の火を剣で斬れるようになったから訓練したいんだって。危なくなったらいつでも助けられるように見守っているの」
ミーシャの言う通り確かにライナーは火喰い狼から吐き出す火柱を剣で楽しそうに斬っている。今まで出来なかった事が出来るようになるとそりゃあ楽しいよな。
俺に気づいたライナーが
「マルス! 俺も少しだが火を斬れるようになったぞ! まぁこの氷の刃とソニックブームの力かもしれないが、これを機に木剣でも斬れるようにしたい! ちょっとこのままこいつと訓練していてもいいか? 必ずこの後役に立つと思う!」
確かにライナーの言う通りだ。火喰い狼との戦いが楽になるのであれば、今のうちに訓練しておいてほしい。またすぐにでも溢れてくるかもしれないしな。
俺が右手を突き上げるとライナーはまた火喰い狼と戯れ始めた。その様子を隣で見ていたクロムが声をかけてくる。
「マルス、どうやら僕の睡眠魔法も相当こいつらには効くらしいです」
だから目の前で2体が横たわっているのか……1体は確実に寝ているのは分かるがもう1体は……腹を見せながら必死に何かを訴えてきているようだった。
俺が腹を見せている火喰い狼を見ているとカレンが
「こいつら、鞭で叩くとたまにこうやってひっくり返って腹を見せてくるのよ。気持ち悪い。魔の森でのダイアウルフ、アルメリアのサーベルウルフでも同じことが起きていたわ。もうこうなったらずっとこのままよ」
腹を見せている火喰い狼にカレンが手加減をして鞭を入れるが、火喰い狼は決して反撃してこようとはしない。もしかしてこれって……鑑定すると
【状態】従魔(主人:カレン)