作品タイトル不明
第280話 ラブラブリング
「マルス! 上手くいったからまだここに居てもいいんだよな!?」
アイクが豊穣のネックレスを大事そうに懐にしまい、明るい表情で言ってくる。
「ええ……MPも相当残っておりますから……」
俺たちのトラウマはなんだったんだろうというくらいアイクのテンションは高かった。
「私もそこまでMPが減っている訳じゃないから、まだまだ戦えるわ。それにこれからはもっと楽な戦いになるわよね?」
そうなのだ。これからはボーナスタイム突入となる。
何故かって? さっき時間をずらしてオーガたちを倒しただろう?
湧き部屋はその敵を倒した30分後に順次湧いてくるから、次に出てくるのはさっき最初に倒したオーガソーサラー5匹なのだ。それから5分後にオーガが1匹ずつ。オーガを10匹倒した後は、5分後にオーガバトラーが出てくる。
よって、最初のオーガソーサラーを倒してしまえば、俺達4人対オーガ1匹という状況が続くのだ。
「よし! 今は10時前だから16時くらいまではここに居られるな!」
どんだけヤル気があるんだよ。
まぁクラリスのMPが枯渇しそうになった時は俺が譲渡すればいいだけの話だから、16時までと言わずもっといられるだろうが……
30分後、オーガバトラーを危なげなく倒した俺たちはまた宝箱を開ける。
「ねぇマルス、たまには私に宝箱を開けさせて」
俺が頷き、クラリスが宝箱を開けると、表情がパッと明るくなり
「マルス! こっち見ちゃダメ! 絶対よ! エリー、マルスにちょっとの間だけこっちを向かないようにしてもらっていい? お義兄さんは私の所に来てもらっていいですか?」
全員クラリスの言葉に従い、エリーは俺を連れて少し離れたところへ、そしてアイクはクラリスの所に行き、宝箱の中身を一緒に見て何やら2人で話している。
まぁ次のオーガソーサラーが出てくるまであと5、6分はあるから大丈夫なのだが、ここがどこかの公園か何かと勘違いしていないか?
宝箱から何かを取り出し嬉しそうに俺の所に来ると
「マルス、目を瞑って、そして右手を出して」
言われるがまま右手を差し出すと俺の右手の薬指に何かが通った。まぁ指に通る物なんて1つしかないよな。
「目を開けて見て」
右手の薬指を見るとどこかで見た指輪が嵌められていた。
鑑定をすると
【名前】守護の指輪
【特殊】-
【価値】C
【詳細】状態異常耐性UP
これはアイクがしている指輪と同じものだ!
「いいのか? クラリス!?」
「マルスが状態異常になってしまうとこのパーティは間違いなく壊滅してしまうから。それにこれはラブリングとしても贈ったの。大切にしてね」
「当然だよ! ありがとう!」
嬉しくてクラリスを抱きしめると
「……次……私開ける! ……指輪マルスにあげる!」
エリーが息巻く。
そして30分後、また最後のオーガソーサラーを倒してエリーが宝箱を開けると……
満面の笑みでエリーが俺の所にやってきて、なんと先ほどと全く同じ守護の指輪を俺の右手薬指に嵌めた。
なんだこの確率!? 価値Cといってもかなり当たりだと思うのだが……
「ありがとう! エリー! エリーからのプレゼントも嬉しいよ!」
エリーを抱きしめるとエリーが俺の方に顔を向けて目を閉じたので、エリーの唇に唇を重ねた。
「同じ指輪を2つ装備するなんてちょっと贅沢だけど、これは2人からの贈り物だから装備させてもらう。アイク兄もいいですか?」
ダメだと言われてもクラリスとエリーからの贈り物、それも指輪を誰かに渡すなんてありえない。
「ああ、当然だ。2人はマルスにとって特別な事は俺も知っているからな」
まぁアイクがダメなんて言う訳ないんだよな。こんな出来た兄貴は世界中のどこに行ってもいないと断言できる。
ただちょっと努力をしすぎることが欠点なんだけどな。
それに眼鏡っ子先輩も守護の指輪を装備していたから、もうアイクにとっては必要がない物なんだろうし。
「よし! もう2、3分後にはオーガソーサラーが復活する! 気を抜かずにしっかりと倒しきるぞ!」
俺の言葉にトロンとした表情のエリーも引き締まりオーガソーサラーに備える。
ちなみに最初オーガソーサラーが5匹纏めてリポップしてきた時、1分毎に1匹ずつ倒していたので、ずっと4対1の戦いだ。
クラリスも 魔法の弓矢(マジックアロー) ではなく、ディフェンダーを装備してMPの節約をしている。
オーガバトラーだけは1番レベルの低いアイクが1対1で倒し、オーガやオーガソーサラーは全員で瞬殺するというパターンを繰り返した。
全滅させる(オーガバトラーを倒す)毎にポップする宝箱からはインゴットやポーションといういつもの湧き部屋と変わりばえしない物しか出てこなくなった。
ポーションはこの世界でかなり高級な物なのだが、俺達には必要ない。
きっといつか宝箱すら出なくなるんだろうな……
16時まできっちりとオーガたちを倒して安全地帯に戻ると20時になっており、ちょうどみんな戻ってきたところだった。
早速風呂に入り、今はみんなでご飯の準備をしながら、クラリスとエリーがお風呂から上がるのを待っている。
ご飯の準備ができるとちょうど2人が風呂から上がってきて、早速ご飯を食べていると
「お義兄さん、4層はどうだったのですか?」
カレンが興味深そうに聞いてきた。他のメンバーもアイクの言葉に注目する。流石の眼鏡っ子先輩ですら隣にいるアイクの言葉を待っている。
「ああ、あれは凶悪だな。今までで見た迷宮でも圧倒的にきつい。マルスとクラリスがいない限り無理な気がするが、2人がいれば何とかなるという気もする」
「あーやっぱり私たちが行くと足手まといになる可能性があるかぁ。1回でも見てみたかったんだけどなぁ。ねぇボス部屋クリアしたんだから宝箱出たんじゃないの?」
ミーシャがなかなか鋭い突っ込みを入れてくる。
「出たわよ。守護の指輪が2個。今マルスが右手に2個装備しているけどこれは2個ともマルスのだからね!?」
「えー1個くらい私にくれてもいいじゃん」
クラリスが答えるとミーシャが駄々をこねる。
「駄目よ。ミーシャ、マルスがまた幻妖花のような効果にかかったらどうするのよ?」
クラリスの質問に答えたのはミーシャではなく俺の左隣にいるエリーだった。
「……嬉しい……」
エリーの言葉にカレン、ミーシャ、アリスの3人も同意する。そして強烈なカウンターが決まる。
「クラリスはどうなの? マルスに襲われたら嫌なの?」
「え!? 襲われたら? それは私だって嬉しいけど……そうじゃなくて!」
ミーシャの切り返しにたじたじになるクラリスも可愛い。
その後もクラリスはみんなに弄られていたが、バロンが真剣な顔して俺に聞いてきた。
「なぁマルス、俺達バロン班は明日から3層に行こうと思うがいいか? みんなからも了承を貰っている」
「ああ、もちろん。バロン班も安全地帯に来るまでに3層の魔物を倒しているだろうからな。ライナー班もちょくちょくバロン班を気にかけておいて欲しい」
俺の言葉にライナーはもちろん、クラリスを弄っていた女性陣も頷く。
食事も終わり、片づけをしながらバロンにさっきみんなの前で聞けなかったことを聞く。
「さっきバロン班みんなも了承しているって言っていたけど、義姉さんも了承したのか?」
最近の眼鏡っ子先輩の様子からして絶対に3層の方が嫌そうな気がするのだが……
「ああ、むしろエーディン先輩から3層に潜りたいと言われたんだ。マルスに聞いてみるけど多分大丈夫と言ったらホッとしている様子だったぞ?」
意外だった。2層は乗り気じゃないのに、3層だったらいいのか?
「分かった。ありがとう」
片付け終わり、眼鏡っ子先輩をマッサージしようと探したのだが、もう部屋に戻ってしまったらしい。
さすがにアイクと一緒の部屋にまで行ってマッサージしますなんて事をしたら、余計に怒られそうだから今日はやめておこう。
そう思って、クラリス、エリーと自室に戻りエリーを寝かしつけると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はーい」
もしかしたらブラッド、コディの可能性があるから俺がドアを開けるとそこは少し沈んだ表情をしている眼鏡っ子先輩がいた。
「ちょっといいかしら?」
「ええ、アイク兄は?」
「今、バロンとミネルバが訪ねてきて少し出ると言って出ているわ」
バロンとミネルバって……嫌な予感しかしないんだが。
「分かりました。ちょうど僕も義姉さんをマッサージしたかったので良かったです」
俺の言葉に眼鏡っ子先輩が
「何のマッサージをするの? もしかして?」
いつもの小悪魔の様な表情になり、スカートの裾をチラッと上げる。
確かに今のは俺の言い方が悪かった方も知れない。いやある意味良かったのか。
「お義姉さん、あまりマルスを揶揄わないで下さい。私が下半身をマッサージするのでこっちに来てください」
クラリスが眼鏡っ子先輩をベッドに誘うが
「ありがとう。マッサージしてもらうのは嬉しいんだけど、それは私の話を聞いてもらってからにしてもらっていい?」
「マッサージしながら聞きますけど?」
「ううん。ちょうどクリティカルな部分だからマッサージは後でお願い」
眼鏡っ子先輩は取っ払っていたミーシャたちとの部屋の間のパーティションを土魔法で作ると、思い悩んだ表情になっていた。