軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第254話 狂人

「マルス君、逃げ出さずによく来たね。パーティメンバーに見捨てられたのかな? どちらにしても今日で君のハーレムは僕の物だ」

アナウンサーが俺たちの紹介をしている中エルシスが妄言を吐いた。

しかも話をしている最中に俺の事を鑑定しようとしたらしく、俺の背中に悪寒が走る。エルシスの蛇のような目はずっと見ていると気持ち悪い。

この前イケメンと言ったがやっぱり取り下げさせてもらいます。

「鑑定するなんて卑怯ですね。でしたら僕も鑑定させてもらいます。あと僕が勝ったら何を貰えるのですか?」

本当はクラリスたちを賭けて戦う事は絶対にしたくないのだがこいつは全く俺の言う事を聞いてくれないからせめて対価を要求すると

「俺の持っている物であればなんでもいいよ? どうせ俺が勝つのだから。あぁレオナなんてどうだい? レオナはまだ手を付けてないからな。まぁ今日この試合に勝てば頂けることになっているから、この試合の後が楽しみなんだけどね」

女性を物扱いするなんて本当に最低なやつだ。

清くて尊くて神聖で、俺達男に生きる活力を与えてくれる最高の存在なんだぞ!?

そう思いながらエルシスを鑑定すると

【名前】エルシス・エルスト

【称号】-

【身分】人族・平民

【状態】良好

【年齢】26

【レベル】54

【HP】202/202

【MP】141/141

【筋力】144

【敏捷】82

【魔力】32

【器用】30

【耐久】102

【運】1

【特殊能力】魔眼(LvMAX)

【特殊能力】剣術(Lv4/E)

【特殊能力】細剣術(Lv3/E)

【特殊能力】棒術(Lv3/D)

【特殊能力】風魔法(Lv2/F)

【装備】ブラッディレイピア

【装備】大蛇の毒鎧

【装備】守護の指輪

なんだこのとんがったステータスは……この細さで筋力値がこんなにあるなんて天性の才能か?

どう考えても努力するような性格では無さそうだしな。だが狂剣と呼ばれているわりに剣術、細剣術のレベルも才能も低い。棒術の方が才能はあるのか……カストロ公爵が言う割にはMPが多いな。

まぁリスター連合国の貴族からすれば低い方なのかもしれないが……そして一番気になる事は装備だ。竜骨棒が無いのだが……

アナウンサーが俺たちの紹介を終えると試合開始のアナウンスをしようとするが

「ちょっと待ってくれ! 俺の武器を投げてもらってもいいか? 俺は武器を持つと豹変してしまうと言われているからこの武器だけは自分で持ち運ぶことができないんだ」

カストロ公爵の手紙を信じるのであれば装備はしていてもいいが、持つとダメな設定なのか。

周りにいる審判団のような者たちが頷くと観客席にいた男たちが3人がかりでコロシアム内に大きな棒を投げ入れた。長さは4mくらいあり、相当太い。

太さは華奢なクラリスのウェストくらいあるだろう。

【名前】竜骨棒

【攻撃】20

【特殊】敏捷-2

【価値】B+

【詳細】MP消費で長くなる。装備者の魔力が大きいほど伸びた部分の強度が上がる。

性能もカストロ公爵の紙に書かれていたものとほぼ変わらない。

「審判! 俺がこの棒を持ったら試合開始でいいか?」

この言葉に審判たちが集まり協議の結果、エルシスが竜骨棒に触れたら試合開始という事になった。これは完全に俺が不利かもしれないが、10mくらい離れているからそんなにナーバスになる事は無いと思う。

エルシスがゆっくりと竜骨棒へ向かうと俺の方を見て蛇のような舌で、舌なめずりをしながら笑った。

そして竜骨棒に触れる直前にエルシスが不審な行動をとった。

左腕の角度を気にしているようなそぶりを見せたのだ。

なぜか左腕の照準を俺に定めているように思える。

これはどこかで見た光景がある。思い出せ……

そしてすぐに俺の脳裏にある一幕が鮮烈によみがえった。

時計塔の上で指輪を取ろうとするふりをしてロケットパンチを放つ摂政のなんとか伯爵の姿を!

すぐに 未来視(ビジョン) を展開するとちょうど一秒後に竜骨棒を右手で触れた瞬間に左腕から毒針が射出される映像が流れた。

俺は何も知らないふりをして平静を装っていると、エルシスが不気味な笑い顔を浮かべながら竜骨棒に右手で触れる。

その瞬間に左腕から毒針が射出されるが、当然俺は雷鳴剣をすぐに抜き毒針を弾く。エルシスは予想外の表情をしたが、4mもある竜骨棒をすぐに持ちその場でぶん回した。

未来視(ビジョン) で竜骨棒の攻撃範囲を予測してみると、俺の1m後ろくらいまでだったので、ジャンプして2m後方まで下がろうとしたがこの判断が失敗だった。

最初から竜骨棒の先端を雷鳴剣で斬ればよかったのだが、いつもの癖で様子見をしてしまったのだ。

ジャンプをしながら 未来視(ビジョン) を展開していると急に竜骨棒の攻撃範囲が伸び、更に俺の1m後ろくらいまでになっていた。

エルシスは俺がジャンプで後方に避けたのを見て、竜骨棒を一段と長くしたのだ。

とっさに 水精霊の剣(ウィンディーネソード) を背中から抜き、雷鳴剣とクロスして竜骨棒の薙ぎ払いを受け止めようとするが、ピンポン玉のように吹っ飛ばされコロシアムの壁に激しくたたきつけられてしまった。

壁に叩きつけられる直前に 風纏衣(シルフィード) を展開し、少しでもダメージを軽減しようとしたのだが、相当なダメージを負ってしまい、壁には俺が叩きつけられた跡が残っており、少しだけヒビが入っていた。

口の中は切れてしまい、血の味がする。幸い骨は折れてなさそうだ。いなそうだというのは、実際に折ったことがないから分からないのだが、どこかが動かないとかはない。ただメチャクチャ痛いだけだ。

しかしここで痛がっているわけにはいかない。審判が試合を止めようとしているのだ。

確かにさっきの攻撃を受けてその勢いのまま壁に打ち付けられたら絶対に試合を止めるよな。

それにエルシスは次の攻撃を繰り出そうとしている。普通さっきみたいに激しく壁に打ち付けたら死んでないだろうか? と思って攻撃を中断しそうなものだがこいつは違った。むしろ嬉々とした表情を浮かべて確実に止めを刺そうとしてくる。やっぱり狂ってるな。

審判に止められないように無事アピールをしながら死地に戻るとすぐにエルシスの竜骨棒が俺の眼の前に迫ってきた。

さっきの攻撃がトラウマになっているのか、恐怖で体が硬直しそうになるが偶然にも俺の視界にはクラリスたちがコロシアムの観客席の最前列まで来て、手を組みながら俺を一生懸命応援してくれている姿が見えた。

相当心配させてしまったようだが、今の攻撃を受けて分かったことがある。とっさに竜骨棒を雷鳴剣で防御した際、竜骨棒の先端部分が少し欠けたのが見えたのだ。これもカストロ公爵の言っていた通り先端部分はそこまでの強度はないらしい。

こんなところで負けるわけにはいかないし、お前にだけは負けられない!

「うおおおぉぉぉ!!!」

大声を出して恐怖ですくむ俺の臆病な心と体を鼓舞し、目の前に迫る竜骨棒に雷魔法をエンチャントした雷鳴剣で迎え撃つ。

雷鳴剣を振りきると乾いた音がして竜骨棒の先端部分が真っ二つに斬れた。

よし! いける!

大声を出したせいか、それとも竜骨棒の先端を斬れた事が原因なのか分からないが、俺のトラウマはすぐに解消された。

エルシスは竜骨棒の先端が斬られたことに驚いてはいたが、竜骨棒にMPを注ぎ込みまた竜骨棒を同じような長さにして俺をぶん殴ろうとしている。

何度も竜骨棒が俺を襲うが、その度に先端を斬りまくってまるで金太郎飴のように斬られた先端部分が増えていく。

もしかしたらこの竜骨棒の先端部分って土魔法で生成されているのかもしれないな。

エルシスのMPがどんどん減っていくが、枯渇する前にエルシスに異変が起きた。

竜骨棒を振り回す力が明らかに落ちてきている。

これだけ雷魔法をエンチャントさせた雷鳴剣で竜骨棒を斬っていたのだ。

当然エルシスの手はもう痺れているだろう。

竜骨棒を持つ手の握力が無くなってきたのか、エルシスも大声で叫びながら竜骨棒を振り回してくる。

「きょえええぇぇぇ!!!!」

なんて叫び声をしやがる! 普通に気持ち悪いぞ!

竜骨棒の先端をまた雷鳴剣で斬るともうエルシスに竜骨棒を握る事は出来ないらしく、地面に竜骨棒を落とした。

エルシスを鑑定すると【状態】感電(小)となっていた。

ようやく待ち望んでいた状況となった。

未来視(ビジョン) と 風纏衣(シルフィード) を同時に展開し、更に雷鳴剣に雷魔法を出来る限りエンチャントし、エルシスの方に向かって走る。

今のエルシスにできる事は1つだけだろう。

手が感電しているのでブラッディレイピアを握る事は出来ないはずだ。

警戒すべきは大蛇の毒鎧から出る毒針だ。

案の定エルシスは感電していてなかなか動かない右腕を持ち上げ、必死になって俺に照準を合わせて毒針を放ってくるが、当然 未来視(ビジョン) で分かっているため、 水精霊の剣(ウィンディーネソード) で毒針を弾き、俺は容赦なく雷鳴剣を振り切った。

縦に真っ二つになったところを今度は輪切りのようにして細かく斬り刻んだ。

エルシスは信じられないというような顔をして斬られているのをただ見ている。

だが、容赦はしない。

試合前から出来ればこうしたいと決めていたのだ。

もしもエルシスとルーザーズで再戦する事になったとしても確実に勝利できるように。

そう、俺が細かく斬ったのは竜骨棒だ。

本当はエルシスに勝った時に竜骨棒が欲しいと言いたかったが、エルシスが本当に約束を守るとは思えなかった。

だって悪役って必ず約束を反故にするだろう?

竜骨棒さえなければ、ルーザーズで再戦した場合、危なくなったら逃げ回って風魔法を使っていれば勝てるだろうからな。

竜骨棒の見る影が無くなった頃、エルシスの感電が解け、ブラッドレイピアを右手に持ち、奇声をあげながら必死の形相で襲い掛かってくる。

「きょえええぇぇぇ!!!」

だからなんなんだその声は!?

力任せに振られたレイピアなど恐れるに足りず、雷鳴剣で剣戟を交わす。

風纏衣(シルフィード) は解いたが 未来視(ビジョン) は展開したままだ。

いつ最後の毒針が飛んでくるか分からないからな。

何合か剣戟を交わすとまたエルシスは感電(小)となり、ブラッドレイピアを地面に落とした。

エルシスは力なく地面に座り込むと不自然な態勢で

「まいっ……」

とまで言うと大蛇の毒鎧の胴体部分から毒針が飛んできた。

当然 未来視(ビジョン) で見えているので雷鳴剣で弾き飛ばす。

俺達が1年生の時の新入生闘技大会のドミニク対セレアンス王立学校を彷彿とさせる汚いやり口だ。

これはお灸をすえてやらないといけない。

俺は万策尽き放心状態のエルシスの下に行き、雷鳴剣をエルシスの首に添える。

本来であればここで審判の判定のコールを待つのだが、俺は雷鳴剣に雷魔法をエンチャントした。

『バチン!』

エルシスはその場で感電し、気を失った。気を失う際に涎を垂らしていた。

「そこまで!」

今までの試合で一度も身内以外からは拍手や歓声など起きたことが無かったが、試合を止められると観戦していた者のほとんどが立って拍手と歓声が沸いた。