軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第253話 カストロ公爵

リーガン公爵が食堂から出て行くと入れ替わるようにスザクが食堂に入ってきた。

「今日は大事な試合前だ。そんなに考え込むな。マルス、今はエルシスの事だけを考えろよ」

確かにスザクの言う通りだ。

あまりもの衝撃にこの後のエルシス戦を忘れる所だった。

この場にいると考え込んでしまうだけかもしれないので、かなり早いが俺たちはコロシアムに向かう事にした。

今日もスザクとビャッコを先頭にコロシアムに向かう。

すると一台の馬車が俺たちの横で止まり、馬車の中からオレンジ色の髪の毛をした非常に綺麗で煌びやかな女性が俺に声をかけてきた。年はビッチ先輩くらいだろうか? 馬車には時計の紋章が刻まれていた。

「君、マルス君だよね? ちょっといいかな?」

馬車の中の女性が手招きして馬車の中に入れと言ってくる。紋章が刻まれているから公爵家の人間だという事は分かる。

どこの公爵家の娘だろうか? そんなことを考えて俺は慎重に返事をしようとすると

「レオナ! お前何しに来た!?」

スザクが俺と馬車の間に割って入る。

え!? この人がカストロ公爵? カストロ公爵家って時計の紋章なのか。カストロ公爵は神聖魔法使いだから若く見えるのか。

「あら? スザク? 今日はスザクには構っていられないのよ」

カストロ公爵はスザクにそう言い、馬車から降りてきて俺の前まで歩いてくる。

突然の事にカストロ公爵を警備する者は誰もいなく、いつも俺の近くに女性が近づこうとすると、必要以上に警戒をするクラリスやエリーもぼーっとしているだけだった。

まだこの2人は朝の事が頭から抜けないのだろう。

「マルス君! 頑張ってね! 応援しているからね!」

カストロ公爵は何故か俺に応援していると言ってきて強引に握手をしてすぐに時計の紋章が刻まれた馬車に戻った。

「ったく、あいつは本当に何を考えているか分からん。マルス、何もされていないよな?」

スザクが俺の身を案じてくれる。

「はい、何もされていないと思います……」

そう、何もされてはいないのだ……何もされてはいないのだが……

「カストロ公爵ってエルシスの推薦人でしょ? 今日戦うマルスに応援していますって軽薄過ぎない? マルスが勝ったら堂々と明日の推薦人にカストロ公爵の名前もあるかもね」

ミーシャが皮肉をたっぷり込めて言うと

「そうよ! マルス大丈夫!? なにもされなかった?」

クラリスがやっと調子を取り戻したかのように心配してくる。

「ああ。なにもされていないから大丈夫だよ」

コロシアムの観客席に着くと、またみんなでエルシスとどう戦うか最終チェックをした。

もう今日で各トーナメントのベスト4が決まるので、初日に比べて観客席に座っている冒険者も少ない。

何故少ないのかって? ルーザーズにも負けた冒険者のパーティはコロシアムの入場も許可されないのだ。

だからビッチ先輩は今日からコロシアムには入れない。

昨日ビッチ先輩がルーザーズのトーナメントの直前で棄権したのは先に棄権してしまうと、コロシアムに入れないからである。

これだけ広いコロシアムで少ない人数だとすぐにエルシスがどこにいるか分かるからありがたい。

逆にエルシス側からも俺たちの事が丸見えで、エルシスが近づいて来ようとすると、スザクをエルシスの下へ向かわせて俺達はあからさまに距離を取る。

そんなことをしているといつの間にか俺たちはカストロ公爵が座っている席の近くに来てしまった。

「あら、マルス君。私の所に来てくれたの?」

「どうしてここに居らっしゃるのですか? 貴賓室で観戦をされないのですか?」

「貴賓室には陰湿で性格が歪んで、腹黒で、いつも何を考えているか分からない女狐がいるでしょ?だから行くのが嫌なのよ」

本当にリーガン公爵と仲が悪いんだな……

当然俺は何も返事をすることが出来ないし回りにいるメンバーも同様だ。

しかしさっきと違って女性陣はいつもの調子を取り戻しているのでクラリスとエリーを筆頭にカストロ公爵に女として最大限の警戒をしている。

「それよりさっきのどうだった? ちゃんと見てくれた?」

「……いいえ、まだです」

「そっか……試合前までには見る事。いいわね?」

俺は黙って頷くとカストロ公爵が俺の顔を見ながら

「絶対にエルシスに負けてはなりません。これは命令です。早く選手控室に行って見なさい」

カストロ公爵の顔は笑っているが、目は笑っていない。

この人も話し方はこんなんだけどやっぱり公爵だな。

腹の中が紫色の着物を着ている人並みに黒いと思われる。尤も紫色の着物を着ている人はキャラだけど、カストロ公爵に関してはキャラではなさそうだ。

カストロ公爵は俺たちに作り笑いをしながら、取り巻きを連れて別の席へと移動した。

「マルス? あなたカストロ公爵に何を言われたの? さっきのどうだった? って何?」

俺の隣で会話を聞いていたクラリスに言及される。

「ああ……実はさっきカストロ公爵と握手をした時に手紙を渡されたんだ。ほら、これなんだけど……見るのがなんか怖くてまだ見ていないんだよ……」

俺はシワシワになった紙をクラリスに見せるとクラリスが

「これはきっと逢引の手紙……な雰囲気ではなかったわね。見るのが怖いのであれば私が先に見てあげましょうか?」

「ああ……そうしてくれると助かる。対戦相手の推薦人の手紙なんて試合前に見たくないからね。それにリーガン公爵に誤解をされたくないからな」

俺の言葉を受けてクラリスが手紙を見ると、クラリスの顔が変わったのが分かった。

「どうした? やっぱりロクでもない事が書かれていたのか?」

「マルス……やっぱりあの人おかしいわよ……これが本当であれば、あの人は……」

クラリスがそう言って手紙を俺に渡すとそこには信じられない事が書いてあった。

「これは……リーガン公爵の所に行った方が良さそうだな。俺達ではカストロ公爵が何をしたいのかが全く分からない……」

俺とクラリスとライナーの3人でリーガン公爵のいる貴賓室へ急ぐ。

エルシスは相変わらずスザクが足止めをしている。

貴賓室に着くとそこにはリーガン公爵とフレスバルド公爵、そしてセレアンス公爵の3人しかいなかった。ちょうどいい。

「どうしたのですか、マルス? もうそろそろ大事な試合ですよ?」

リーガン公爵は俺たちを見ると困惑し、怒気を込めて話しかけてきた。

「リーガン公爵、これは先ほどカストロ公爵から預かった手紙なのですが……」

俺がリーガン公爵に手紙を差し出すと、リーガン公爵は俺の手から手紙を奪い取る様にして急いで目を通した。

「こ、これは……そう言う事ですか……」

手紙を見ただけで瞬時にカストロ公爵が何をしたいか分かったらしい。

「レオナはマルスに何か言っておりませんでしたか?」

「今日の試合は絶対に負けるなと言われましたが……」

俺の言葉にリーガン公爵は声を上げて笑い、

「やっぱり食えない女ですね。レオナは。マルス、その手紙はそのまま信じて大丈夫です。もしもその手紙を信じるとなると今日の戦い方は変わりますか?」

「はい。もともと接近戦で二刀流と魔法で倒そうとしていたので……」

「では、戦い方を変えないといけませんね。まぁ接近戦でもいいと思いますが、今後の事を考えると最初は距離を取って戦った方がいいかもしれませんね。もうそろそろ時間です。マルス、今はエルシス戦の事だけを考えなさい」

「分かりました。では行ってきます」

クラリス、ライナーと一緒にコロシアムの方に戻り、2人が観客席に戻ったことを見届けてから選手控室に向かい、カストロ公爵から貰った手紙を握りしめながら漫画喫茶のような個室に入った。

そして個室の中でもう一度その手紙を読み返す。

『[エルシスの装備]

・竜骨棒:棒に魔力をエンチャントすると伸びる。MPを込めれば込めるほど伸びるが、伸びた部分の耐久値は装備者の魔力に依存する模様。

エルシスはMPが多くないから遠距離で先端を壊し続ければ良い。

もしも君が本当の剣聖で先端を斬れることが前提。

接近戦は非推奨。

理由は次の防具。

・大蛇の毒鎧:装備者の任意のタイミングで鎧から毒針を放つことが出来る

仕込める毒針は3か所で1本ずつのみだと思われる。両腕とお腹、射程は短い。

詳しい鑑定はしていないけどこれが要注意の装備。MPを枯渇付近までもっていけば勝手にエルシスが突っ込んでくるはず。エルシスは武器を持つと性格が変わると言われているけどあれは嘘。そう言う事にしておくと、事後処理がしやすいからクラウン公爵たちがそう触れ回っているだけ。エルシスもそれにただ乗っかっているだけだから気を付けて。武器を持っても持たなくても基本的に狂っている』

「A-7の選手、入場してください」

無機質なアナウンスが流れ、コロシアムに入場するとエルシスが長い舌を出し、涎を垂らしながらクラリスたちがいる観客席を見ていた。