作品タイトル不明
第221話 BEST8
2031年9月20日
「勝者! マルス・ブライアント!」
ライナーの声が闘技場に響く。観客は2年Sクラスの生徒のみだ。今日も女子生徒にあっさり勝つことが出来た。こんな使い道があったとは……ミーシャもなかなか考えたな。
あと1回勝てば来月行われる武神祭のベスト8に出場できる。今までずっと女子生徒としか戦ってこなかったが、次からは男子生徒……というか恐らく【紅蓮】のイーストだ。そして順当に行けばベスト8でガルと当たるだろう。
「マルス……早くそれをしまって」
クラリスが不機嫌そうに俺の右手を指さした。
「私が提案したんだけど流石にこれは無いわ……リーガン公爵も来年からはそれの使用を禁止するって言っていたよ」
ミーシャが顔をしかめながら言うとカレンも
「もうそれを表に出さないで欲しいわ……なんとか私たちは慣れたけど他の女子生徒が見ると……これマルスではなく他の男子が使ったら間違いなく失格扱いよ?」
エリーは俺が右手に持っている物を避けるように左腕に巻き付いている。
もう分かっていると思うが俺が握っているのは賢者の杖(偽)だ。賢者様を買った頃は女性陣からただのボロイ杖と思われていたのだが、徐々に賢者様の風貌がより立派になったように感じ、それに伴い女性陣からの拒否反応も大きくなっていたのだ。
俺の初戦後、アリスにこう言われてしまった。
「姉がそれを見てからマルス先輩の事を見る目が変わりました。私からもお願いです。もうそれを捨ててくれませんか? 姉の審美眼で初めてG判定となったいわくつきの物です。どんな汚物や生物でもC判定しか出なかったのに……それになんか禍々しさが増しているように思えます」
酷い言われようだ……この杖は本当に凄いのに。女子生徒が万歳アタックをしてくるのだが、これを見ると泣き叫びながら逃げ回るのだ。そして近づけると必ず参ったをしてくれる。ミーシャはこれが顔に触れるのであれば死んだほうがマシと言っていた。
リーガン公爵が賢者の杖(偽)を初めて見た時に鑑定しようとしたのだが直視する事が出来ずに諦めた。賢者の杖(偽)に耐性がなく嘔吐いてしまうのだ。
「ご、ごめん。すぐに部屋に置いてくるから」
女性陣の非難を一斉に浴びた賢者様を自室の枕の下に寝かせる。ありがとう賢者様。こんな扱いになってごめん……賢者様に心から謝罪をし、みんながいる闘技場に戻った。
ちなみに俺の戦いは2年Sクラスの者以外は観戦禁止となっている。まぁ基本的にはベスト8までの試合は授業中に行われるので、観戦しようとしてもできないのだが、念のためにリーガン公爵が俺の評判が落ちることを嫌って観戦禁止にしたのだ。
俺が闘技場に戻るとクロムが5年生と戦っていた。なんとか辛勝していたがクロムですらベスト16でやっとだ。ステータスやスキルはクロムの方が高いのだが、相手は上級生という事もあって戦い方が上手い。俺が観戦をしているとクラリスが
「マルス、また一緒に訓練してくれない?」
と言ってきたのでこれから始まるバロンの試合を見ずに、クラリスと2人で近くの体育館で訓練をすることにした。
クラリスはだいぶ10月10日のエキシビジョンマッチに向けて気合が入っている。
バロンの次の試合はミーシャの試合なのだが、エリーもミーシャの試合が終わり次第訓練をするらしい。結局その後の試合を見ずに俺はずっとクラリスと訓練をしていた。
夜になり【暁】で祝勝会をすることになった。
「ここまで誰も負けることなく勝ち進むことができた。25日のベスト16ではカレンとミネルバが当たってしまうが、2人とも悔いのないように頑張って欲しい。では今日の勝利を祝って乾杯!」
俺が音頭を取りみんなで酒を飲む。
「これでクラリスとエリーがトーナメントに参加していたらどうなっていたんだろうね? 来年からはベスト8が【暁】で固定されちゃうのかな?」
ミーシャがふとした疑問を口にするとカレンが
「そうね……武神祭は5年生の活躍を他の貴族の為に見せる場所と言ってもいいと思うのだけれども……来年の5年生が1人もベスト8に入らないという異常事態はリスター帝国学校側も望んでいないだろうから何かしらの対策は講じるでしょうね」
確かに……来年になれば一段と【黎明】6名と【創成】3名は強くなっているはずだ。
「そうなったら何のための武神祭か分からなくなってしまうわね。私は今年だけ自分の実力を示せればいいから来年以降もトーナメントは遠慮したいな。就職先も決まっているから武神祭で活躍する必要ないし……」
「……私も……ただ面倒なだけ……戦うくらいであれば……マルスの隣にいる……」
「じゃあ私もよ。フレスバルド家としても絶対にマルスに嫁がせたいはずだから……」
「えー……私はみんなと盛り上がりたいから出場したいな。でもマルスが出るなと言えば出ないけど?」
「私も自分の実力を測るためにも出たいですが、毎回同じ顔と戦うのであれば武神祭でなくてもいいかなと思います」
クラリス、エリー、カレン、ミーシャ、アリスの順でそれぞれの意見を述べた。クラリスの就職先が決まっているという発言はいつ聞いても嬉しいな。
「なぁカレン? 今年の武神祭ってフレスバルド家の人は見に来るのか?」
俺は少し疑問に思ったことをカレンに聞いた。
「ええ。毎年来るはずよ? 去年も武神祭に来て準優勝者のディバルを見ているはずだから。間違いなく今年の目玉はアイク……お義兄様ね。ガルも相当有望株だとは思うのだけれどもベスト8初戦がマルスだから、そこは気の毒ね」
確かに……俺がガルに大勝してしまうとガルが【紅蓮】から独立した時に、指名クエストが来なくなってしまうかもしれない……勝ち方には要注意だな。
「スザク様も来るのかな? もしも来るのであればそこでクラリスとエリーの戦いを見てもらいたいんだけど……」
俺の言葉にクラリスとエリーの表情が変わる。
「そうね。セレアンス公爵領から帰るついでに来ると思うからスザクお兄様もくるのではないかしら?」
「マルス! 明日からも私と訓練お願いね!」
隣のクラリスが俺の手を握ってお願いしてくる。いや、もう手を握ってくれるのであればなんでもしますよ。すべすべの白い肌を堪能していると左隣から
「……ミーシャ……明日からもお願い……」
エリーも気合が入っていた。
「姐さんとエリー? もしも俺が優勝したらご褒美をくれないか?」
ブラッドが酒を飲みながらクラリスとエリーに絡んできた。
「いいわよ。なんでもいう事を聞いてあげるわ。だけど今年限定だからね。そうじゃなきゃ私たちが卒業した後に優勝して色々言われても困るから」
ブラッドは「う……」と言って黙ってしまった。もしかして本当に俺達が卒業した後の武神祭の事も含んでいたのだろうか? そしてそれを即座に見抜くクラリスも凄いが……
「ブラは絶対に今年は無理だよね? というか次戦も無理でしょ?」
ミーシャがブラッドを煽る。まぁ確かにそうなのだ。ブラッドの次戦は眼鏡っ子先輩なのだ。
「そんなことは無い。アイクの婚約者のエーディンという魔法使いだろう? 確かに魔法使いは苦手だが耐えきれれば俺の勝ちだからな。もしも俺がエーディンに負けたらお前らのいう事なんでも聞いてやる!」
あーあ。ブラッドは眼鏡っ子先輩が束縛眼を使えることを知らないのだろう。楽しい時間はすぐに経ち、みんなの気分が良くなった頃に解散した。
2031年9月25日
今日で全てのベスト8が出そろった。俺、ガル、クロム、バロン、ミーシャ、アリス、眼鏡っ子先輩、カレンの8人だ。
ブラッドは眼鏡っ子先輩の束縛眼に何も抵抗できずにあっさりと負けてしまった。
本当にブラッドは魔眼対策をしないとダメだな。負けたブラッドの往生際はかなり悪かった。
「魔眼を使えるなんて聞いていないぞ! これは卑怯だ!」
と喚くがミーシャが
「男に二言はないよね? それともブラッドは女の子なのかな? それとも女の子になりたいのかなぁ? クラリスに頼んでみようかなぁ?」
ミーシャの脅しにブラッドが震え出す。
「ミーシャ、私をなんだと思っているの? ブラも往生際が悪いわよ。ミーシャはブラに何をして欲しいの? 変な事だったら私が却下するからね」
ミーシャは邪悪な笑みを浮かべながら言うとブラッドとクラリスはキョトンと顔を見合わせた。どうやら2人にとっては大したことではないらしい。
ここから半月間はこれまでの傷を癒すための期間だ。当然と言えば当然か……リスター帝国学校側としても見に来る貴族の前ではできるだけ万全の状態の生徒を見せたいだろうしな。神聖魔法使いがいなければ半月でも傷は癒えないかもしれない。
そして武神祭当日の10月10日になった。