軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第186話 事情

2031年4月16日

8時にビルバンを出発し、セレアンス公爵領都のビースターに向かった。

ビルバンの街を出るまでは俺も馬車の中で過ごす。昨日と同じようにバロンとミネルバの馬車に乗ったのだが、バロンは昨日の3時に寝て6時に起きたため、まだ眠いらしい。

バロンが俺の向かい側の席でウトウトしているとバロンの隣に座っていたミネルバが

「バロン、膝枕してあげるからおいで」

う、羨ましい。バロンは幸せそうにミネルバの膝に頭を乗せた。俺も膝枕されたい……もちろんミネルバのではなく【黎明】女性陣のだが。

すぐにバロンは寝てしまったのだが、馬車の中はかなり揺れる。恐らくこのセレアンス公爵領の道路があまり整備されていないのも原因の1つだろう。

すると何を思ったがミネルバが鞄の中から鎖を取り出し、バロンを縛り始めた。

「え……? ミネルバ……? 何やっているの?」

俺が驚いてミネルバに聞くと

「うん。なんかバロンが膝から落ちそうだから縛るの」

微笑みながらなれた手つきでバロンを縛り始めると、バロンは寝ているというのに縛られ始めると顔がニヤついてきた。

見てはいけないようなものを見ている気がして馬車から降りると、ちょうどビルバンの街を出たところだった。

「よう、マルス。ちょうどビルバンを出たところだ。これからはお前たちを警戒する目がだいぶ和らぐとは思うが一応は警戒しておいてくれ」

ブラッドの言葉に頷きビースターに向かった。ビースターへは順調で、途中で他のメンバーも外に出てきてセレアンス公爵領の豊かな自然を見ながら歩いた。ブラッドの言う様に領都に近づくにつれて俺達への警戒心が薄まっていくようだ。

ビースターの街へ行く途中で他の街にも寄ったのだが、エリーを見ると住民たちが

「金獅子様だ!」

「エリー様だ!」

「エリー様が帰ってきたぞ!」

歓喜の声を上げる者たちもいた。エリーはそう言われるのが恥ずかしいのか頭をペコっと下げてすぐに馬車に戻ってしまう。

「なぁ、ブラッド。聞いていいか?」

俺は少し声のトーンを落としてブラッドに言った。ブラッドも察してくれたのか頷くだけだった。

「エリーって、耳も人間の耳だし、尻尾も生えていない。獣人の特徴がないように見えるのだが、獣人たちは何でエリーが金獅子って分かるのか?」

「なんでだろうな。俺にも分からない。エリーが金獅子というのは間違いないという事だけは分かる。耳どころかエリーは尻尾もなくなったのか? パンツの中にしまっているだけ……お前! なんでそんな事を知っている!? もしかしてもうエリーと!?」

や、やばい……ブラッドにだけは聞いてはいけない事だった。ブラッドは激昂して俺の胸倉をつかむ。

「ち、違う……誤解だ。誓ってまだそう言う関係ではない。新しく入った子がたまたま見たらしく、俺に質問してきたんだ」

力づくで振り解こうと思えば振り解けたのだが、今の質問は俺の配慮に欠ける質問だったからそうはしなかった。

「本当だな?」

ブラッドの質問に俺は必死に首を縦に振る。

「そうか。では信じてやろう」

ようやくブラッドから解放された。馬車の中からは心配そうに女性陣が俺の事を見ている。

「何でもないんだ……安心してくれ」

俺がそう言うと女性陣はまた馬車の中に戻った。エリーの事を聞くときは慎重にならないとな……

16時頃にセレアンス公爵領の領都ビースターに着くとまず俺たちは宿を探した。

ブラッドにはセレアンス公爵家に泊まればいいと言われたが、エリーが嫌そうだったので宿に泊まる事にした。エリーが嫌そうじゃなくても俺が嫌だからどっちにしろ宿なのだが。

その後すぐにセレアンス公爵の屋敷に行こうとしたのだが、ブラッドには俺とエリーだけと言われてしまった。

エリーがせめてクラリスだけでもと言ったのでクラリスの同行も許されたが、他のメンバーはまた明日という事になった。

カレンあたり文句を言うかなと思ったのだが、馬車での移動で疲れているらしく、むしろ良かったと胸をなでおろしていた。

ブラッドに連れられて屋敷に向かったのだが、セレアンス公爵の屋敷はとても大きかった。どう考えてもリーガン公爵の屋敷の2倍はありそうな大きさだ。

セレアンス公爵は何人かと部屋の中で会議をしていた。俺達が部屋の中に入るとブラッドも含め全員下がらせて、セレアンス公爵、俺、クラリス、エリーの4人だけとなった。

「マルスとエリーしか呼んでいないが?」

いきなりセレアンス公爵はクラリスの方を見ながら言った。まずはよく来てくれたとか、息災か、とか労うものだと思うのだが……クラリスがたじろいたので俺がフォローをしようとするとエリーが

「……クラリスも一緒。そうでなきゃ帰る」

「まぁいいだろう。それではお前たちを呼んだ用件を話そう」

エリーが言うとあっさりとクラリスの同席を認めた。セレアンス公爵は神妙な顔つきで話し始めた。

「兄上……バーンズ・レオの事を話しておきたい。なぜ俺がクーデターを起こしたのかを」

意外だった。こんなことを俺に説明するなんて……

「まず俺たちは力こそがすべてだ。それは、兄上も俺も同じ考えだ。兄上と俺が決定的に違う所と言えば、兄上は『どんなことがあっても自分の尻は自分で拭け』という方針だ。例えば今回のような人攫いの被害にあった場合、その被害を受けた者たちだけで奪還しろという方針だ。出来ないのであれば諦めろ、弱い者が悪いとでも言わんばかりにな。

だが俺は違う。俺は助けられる者は獣人であれば誰でも救いたい。何度も俺は兄上に具申した。だが兄上は一切俺の話を聞いてくれなかった。金獅子の兄上には、金獅子ではない俺たちの気持ちが分からないのだろう。

俺以外にも兄上の方針に異論を唱える者が多数いた。いや9割以上が俺と同じ考えだった。だから俺はクーデターを企て、実行した。俺がセレアンス公爵になってからは人攫いの被害が半分以下になった。俺は今でもあの時の選択は間違っていないと思っている」

言っている事は分かるが、獣人だけ良ければそれでいいという考えは納得いかない。だが俺は次に出てくるセレアンス公爵の言葉を待った。

「俺は獣人たちの現状を変えたい。リスター連合国にいれば獣人たちはある程度しっかりとした身分を与えられる。だがザルカム王国では獣人は人扱いされない。

ザルカム王国の獣人奴隷の扱いがどれだけ酷いか知っているか? 日常的に暴力を振るわれ、食料も与えられない。これは聞いた話でまだ確認は取っていないが、何かの実験道具にもされていたらしい。

何度もリスター連合国の円卓会議で獣人の扱いに対して他国にしっかり取り合ってくれと訴えたところで、内政干渉にあたるとか言ってカエサルの奴が猛反発して、未だにこのザマだ。

人攫いもセレアンス公爵領の東、カエサル公爵領との領境が一番多い。だからかなりそこの監視を強くしていたのだが、それでも今回同じところでやられた。それもそのお前たちの制服を着た奴にな」

セレアンス公爵はカエサル公爵を疑っているのだろうか? エリーはミリオルド公爵が人攫いをしたと思っているが……どちらにしてもリーガン公爵が言うにはカエサル公爵もミリオルド公爵も親密な関係と言っていたからな……

「ここまでで何か質問はあるか?」

セレアンス公爵が俺たち向かって聞いてきた。正直色々聞きたいことだらけなのだが、エリーの前ではどうしても質問するのが躊躇われる。

「はい。少々伺いたいことがありますが、今日は長旅で疲れたのでまた後日でもよろしいでしょうか?」

「分かった。俺からもまだ話をしたいことはあるが明日としよう。明日は午前中はマルス1人で来い。そして動ける準備もしてこい」

セレアンス公爵は意外と話が分かるようだ。だが動ける準備というのが気になる……まぁ最初から袋叩きにするつもりだったら事前にそんなことを言わないだろうからそこまで警戒する必要はないだろうが……

宿に戻る最中にエリーに先ほどのセレアンス公爵のクーデターの理由を確認した。

「エリー。さっきセレアンス公爵が言っていたクーデターを起こした理由は本当か?」

「……うん。多分……合ってる。私は……パパが大好き……でも思想は……叔父さんの方が好き……」

ただ単に権力が欲しいからクーデターを起こしたわけではないのか。宿に戻るともう他の5人はみんなお風呂から上がっていた。俺たち3人はご飯を食べてから風呂に入ることにし、みんなで食事をとった。

食事の最中にセレアンス公爵との話をみんなにするとカレンが

「そんな事情を聞いてしまうと少しは同情をしてしまうけど、去年の新入生闘技大会の件は許せないわ」

「そうだな。今思えばマルスがドミニクの右腕を治したのか? たまたま神聖魔法使いのマルスが居て軽傷で済んだが、許される行為ではないな」

バロンもカレンに同意した。俺はバロンの問いに黙ってうなずくとやっぱりという顔をしていた。

だが何故セレアンス公爵がバーンズの事やクーデターの事を俺に話したのだろう。尤も俺からも聞くつもりだったのだが……とにかく明日、セレアンス公爵と2人で話してから考えよう。