軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第185話 震える体

先ほどの街から何時間か馬を走らせ隣町のビルバンに着いた。

その間、ブラッドとクロは外を走って俺たちに獣人たちが絡んでこないか警戒してくれた……こいつらいい奴じゃん。まぁセレアンス公爵の命令かもしれないが。

ビルバンの街を歩くと絡まれることは無かったが、俺を警戒している……いや、敵視しているような視線を感じる。いつもは嫉妬の視線を感じるのだが、それとはまったく違う視線だった。

ちなみに馬車から降りて歩いているのは俺とブラッド、クロの3人だけで他のメンバーはみんな馬車の中にいる。

「まぁ分かると思うがこんな感じだ。領都に近づくほど警戒心、敵対心は薄れていくだろう。何故なら、問題が起きているのは領境ばかりでセレアンス公爵領の中心に近い領都周辺では被害がないからな」

ブラッドが言うと、疑問に思ったことを聞く。

「どこに連れ去られたか見当はついているのか?」

「それは親父から話をすると思う」

珍しくブラッドの顔が神妙だった。ビルバンの宿に着くと、全員馬車から降りて宿に入る。

その際エリーを見た住民たちの視線が、警戒や敵視から尊敬や期待といったポジティブなものになった。

やはりエリーを見る目だけは違うのだな。当の本人は気づいているのか分からないが……

宿に入りいつものように風呂に入ってからご飯を食べた。今日はブラッドとクロも一緒にご飯を食べ、その後ブラッドに2人で話がしたいと言われたので他のメンバーには先に部屋で休んでもらい、俺とブラッドは宿の食堂で、2人で酒を酌み交わしながら話すことにした。

ちなみにクロも部屋に戻ってもらい、休んでもらっている。夜中はクロに宿周辺の警戒をしてもらうらしい。

「どうだった? セレアンス公爵領の料理の味は?」

とブラッドが当たり障りのない話をしてきたので

「ああ、肉料理ばかりだったが、薄味で俺好みの味付けだった」

正直に答えるとブラッドは満足そうな顔をしながら

「で、セレアンス公爵領の雰囲気はどうだ?」

少し真面目な顔をしながら聞いてきた。これが本当は聞きたかったのだろう。

「今のままだともう2度と来たくはないが、誤解が解ければまた来たいかな。今は身の危険を感じているからな。それにうちは女性メンバーが多い。物騒な場所は特に来たくはないな」

俺の答えにブラッドは少し悲しそうな顔をした。だがすぐに表情を戻し

「そういえば、メンバーが入れ替わったのか? ドミニク? と言う奴が居なくなってこの前の新入生闘技大会の副将で出ていた女が入っていたよな?」

「ああ、ドミニクはデアドア神聖王国に残る事になった。今、休学にしてくれとリーガン公爵に申し伝えているところだ。そしてドミニクの代わりに、アリスには 創(・) 成(・) に入ってもらった」

すぐにバレる嘘だと思うがブラッドにはこういうしかなかった。アリスが【黎明】に入ったと言えば6人目のパーティメンバーだから神聖魔法使いという事がバレてしまう。

ブラッド以外に聞かれた場合には素直に【黎明】に入ったと言うつもりだった。可愛いから入ってもらったと言っても信用してもらえるかもしれないが、ブラッドの場合、そう言ったらエリーの事をもっと考えろと言って怒る可能性があるからそう言えなかった。

「そうか。獣人の俺からしても可愛いし、1年生とは思えないスタイルだったから……まぁ気を悪くしないで聞いてくれ。てっきりマルスのことだから顔で【黎明】に入れたんだと思ったんだがな」

おい! 深読みしないで最初から【黎明】に入れたと言っておけば良かった! 酒でのどを潤し、平静を装いながら気になる事をブラッドに質問した。

「さっき隣町でブラッドが獣人の住民に色々言われていただろ? 3日後に領都に来いと言っていたが、何をするんだ?」

「もちろん、力で決めるつもりだ。まぁ親父はそんなことを許さないと思うがな。ああいう連中は暴れさせてスッキリさせてやらねぇと暴走するからな。どこかでガス抜きさせようとは思う」

意外に人の事を見ているんだな。

「じゃあ、俺たちも寝るか。明日は領都まで行くんだろ?」

「そうだな。じゃあマルス。また明日な」

21時前に俺達は食堂を後にしてそれぞれの部屋に戻った。部屋の前ではクロが警備をしてくれていた。聞いていた話だと夜中からだと思ったのだが……

「ありがとう。クロ」

「3時頃までは警備をする」

俺の言葉にクロが頷き3時までの警備を約束してくれた。俺が部屋に戻るとみんなが心配そうな顔をして俺を出迎えた。バロンとミネルバもこの部屋にいた。

「さっき、エリーから聞いたわ。私たちの制服を着た人が獣人の子を攫ったんだって?」

クラリスがみんなを代表して聞いてきた。

「ああ。さっきその話を聞こうと思ったんだが、詳しくはセレアンス公爵から話があるらしい。明日、領都に着くからその時にみんなで聞こう。みんなも心当たりがあるのであれば教えて欲しい」

「心当たりって言ったって……」

カレンが言うとミーシャが

「私たちの制服って他で買えないからもうヨーゼフかヨハンしかいないじゃん?」

あっさり答えを出した。

「だが黒髪で背が高くて、線が細いとなると2人とも違うんだよな……それに明らかに歪んだ性格の顔となると余計に2人ではないと思う」

俺の言葉にみんなが納得する。

「取り敢えず今までの情報を整理すると、新入生闘技大会の前にセレアンス公爵領で俺達の制服を着た黒髪が暴れた。そしてその時、何名か意識不明となった。今回はその黒髪の男が獣人の子供を攫った。だから俺たちはその男の仲間だと思われている。

セレアンス公爵領を歩くときは必ず複数人で歩くことにしよう。そして今夜から寝る時間をずらして警戒するとともに8人で同じ部屋で寝る事にしよう。ベッドはもう一部屋から持ってくるから少し狭くなるかもしれないが、我慢してくれ」

みんなが俺の指示に頷くとさっそくバロンたちが泊まる部屋からベッドを持ってきて寝る順番を決めることにした。すると珍しくエリーが

「今からマルス、クラリス、私。他のみんなは3時から。いい?」

しっかりと自分の意見をみんなに言うと、俺をはじめ、みんなが驚いていた。

「分かったわ。ちょっとお肌に悪いかもしれないけどエリーがそう言うならそうしましょう」

カレンが了承すると他のみんなもそれに従った。エリーの指示に従い3人ですぐに寝た。そして3時間後に俺が起きると、今起きている女性陣達、カレン、ミーシャ、アリス、ミネルバを先に寝かせることにした。

やはりお肌の事を考えると女性陣は早めに寝かせてあげたいからね。バロンもミネルバが早く寝られる事で喜んでいた。

そして3時になりクラリスとエリーが起き、バロンが寝た。3人で周囲を警戒しながらクラリスが

「エリー。私たちに何か話したいことあるの?」

クラリスがエリーに向かって聞くとエリーが頷いた。だが明らかにエリーの様子がおかしい事に気づいた。

「獣人……攫ったの……ミリオルド公爵……だと思う」

蒼ざめてわなわなと震えながらエリーが言った。俺がエリーを横から抱きしめると、反対側をクラリスが抱きしめた。

「どうしてミリオルド公爵だと思う?」

俺がエリーに聞くと

「なんか……昔……行ったことがある……?」

エリーが一生懸命思い出そうとしているが、どんどん顔色が悪くなっていき、ついには過呼吸の症状を引き起こした、

俺は背中からヒールをかけて、クラリスはエリーの胸に手を当てヒールをかけるとエリーの過呼吸はだいぶ収まったが、表情はすぐれない。

「エリー。今日はもうよそう。話してくれてありがとう。また何か思い出したら教えてくれ。だが今は無理に思い出す必要はない。今日は俺とクラリスで警戒に当たるからエリーはもう休もう」

エリーをお姫様抱っこし、ベッドに連れて行き、エリーを寝かせた。エリーを寝かせてクラリスの隣に戻り

「カレン、ミーシャ。起きているんだろ?」

俺がカレンとミーシャが寝ているベッドの方に問いかけると2人はばつの悪そうな顔をして起きてきた。

「やっぱり、バレてた? エリリンの事が気になって」

「ああ。2人ともMPを枯渇していなかったからな。それにバロンがカレンを起こしていたのも見ていたし」

ミーシャの質問に俺が答えると、カレンが

「エリーが自分から話すなんて珍しいからね。でもやっぱりエリーはミリオルド公爵となんかあったのね。あのエリーが凄く怯えていたもの」

「そうだな。くれぐれもエリーの前ではその名前は出さないように」

俺はミリオルド公爵がエリーに何をしたのかなんとなく見当がついていた。だがこれを軽々しく口にするのはやめておいた。

もしも話すのであれば、エリーに確認を取ってからがいいと思ったのだ。もしかしたらクラリスも気づいているのかもしれないが、口にするのが怖いのかもしれない。

「フレスバルド家ではミリオルド公爵の事は調べていないのか?」

俺がカレンに聞くと

「もしかしたら調べているかもしれないけど、私自身ミリオルド公爵と言う名前を聞いたのはつい最近なのよ」

「そうか。今度フレスバルド公爵に会う機会があったら聞いてもらってもいいか?」

俺がカレンに問いかけるとカレンは頷いた。

「ミーシャもサーシャ先生に聞いておいて欲しい。サーシャ先生はザルカム王国にかなり詳しそうだから」

ミーシャも頷いてくれたので最後はクラリスに

「クラリス、恐らく俺は単独行動を取る事が多くなると思う。と言っても街の中を1人で歩くようなことは極力しない。だから俺がいない時はエリーをよろしく頼む。出来ればクラリス、エリー、アリスは一緒に居て欲しい」

クラリスも頷くと、カレンとミーシャには明日に備えて寝てもらい、俺とクラリスは2人で身を寄せ合いながら、部屋の警備をした。