軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

83.悪役令嬢が語る一部と二部 2

「続編で聖なる乙女がウィズ殿下の目を治す予定だったのかもしれません」

アリシアの言葉に私は頷く。

ウィズ殿下の目は呪いのようなものだと言っていた。あの時はまだ目だけだったし、ポーションで治していたと聞いている。

だけどその状態がずーっと続いていたら……

「呪いの原因はよくわからないけど、左目を中心に黒くなっていたから……そのままにしていたらどんどん身体中に広がっていたのかしら?」

「それを聖なる乙女が治せたら……トラット帝国から守ってくれそうですよね」

「そうね」

ウィズ殿下は次の国王だ。彼が長年患っていた呪いから解放されるのであれば、きっと助けてくれるだろう。

それにラステア国は一度懐に入れた人にとても優しい。

「……そうなると、サリュー様はどうなってしまうのかしら?」

「たぶんですが……続編の悪役令嬢がその方なのでは?」

「でももうすでに結婚して子供までいるのよ?」

「それはルティア様のせいですよね?」

私のせいだと言われて思わず首を傾げる。

「ルティア様が、二人の間のわだかまりを解いてしまったから、早々に結婚してお子様も生まれたんだと思います」

「そんなつもりはなかったんだけど……」

アレはまさに偶然の産物だ。あの場にウィズ殿下が来るなんてサリュー様だって思っていなかっただろう。

お互いに思い合っているのになかなか素直になれないサリュー様と、呪いが原因で嫌われてしまったと思っていたウィズ殿下。

あの時、あの場に二人が揃わなかったら……きっと今も気持ちがすれ違っていたかもしれない。

「偶然でも何でも本来思い合ってる人たちがくっつくのは良いことだと思います」

「そうね。ラステア国は一夫一婦制で側妃を置く慣習はないから、もしもヒロインがウィズ殿下を好きになってたら大変だったわ」

「あー私でも処刑ですから、たぶん処刑して新しく妃にするとかそんな可能性もなきにしもあらずですよ……」

「ゲームという割に、簡単に殺してしまうのね」

「うーん……乙女ゲームだからですかね。ヒロインに都合の良いようにできているとしか」

「ヒロインに都合良くねぇ」

そんな世界は御免被りたいが、ゲームだからこそヒロインをいじめた相手が没落したり、命を失うのも容認されるのだろう。

ただ一つ言えるのは、アリシアのゲームの話と私たちが生きている世界。

同じでも異なるはずだ。

シナリオの強制力とアリシアは言うけれど、ゲームのシナリオにこの世界で起こる細かなことまで 書(・) い(・) て(・) あ(・) る(・) わ(・) け(・) が(・) な(・) い(・) 。

ゲームはあくまでゲーム。都合の良いところしか設定されていないはず。

つまり設定にたくさんの穴があいている。

ラステア国のウィズ殿下とサリュー様が良い例だ。彼らはボタンを掛け違っただけ。それを正すには互いが素直になること。

それが直ったからこそ、今は幸せに暮らしている。

「ねえ、アリシア。もしもヒロインが記憶がないとするじゃない?その場合はシナリオ通りにならない可能性の方が高い気がするんだけど」

私の言葉にアリシアはキョトンとした顔をした。

「それは、なぜ?」

「ポーションのおかげで、聖属性がそこまで必要とされてないでしょう?もちろんあれば神殿で乙女や守護者として重宝されるけど」

「そうですね」

「ゲームの始まりは疲弊したファティシア国を救うのが目的なのよね?」

「はい。謎を解きつつ、国を助けて恋愛もして〜というゲームですから」

「今のところ、疫病が流行る兆候はないでしょう?食料自給率も右肩上がりだし……ラステア国とはゲームの始まりと違ってかなり友好関係を結んでいる」

ゲームの開始時と比べて、現状はかなり好転していると告げる。

「今のままなら、聖なる乙女候補としてアカデミーに来てもそこまで重要視されることはないわ」

楽観的に考えるのであれば、今の状態が続くならアリシアのいうシナリオとかけ離れたゲームの開始になるはず。

ゲームのヒロインは聖なる乙女の候補として、疲弊した国を救うために重要視されていた。だからこそ王族であるライルや、彼の側近候補のジル、シャンテ、リーンが周りにいたのだろう。

「そもそも聖なる乙女や守護者って……聖属性を持っていればみんなそうなのよねぇ」

「えっ!?」

「知らなかった?」

「し、知りません。候補ってあったので、聖属性の中でも特別力の強い人がなるのかと……」

「神殿に配属される聖属性はみんな乙女とか守護者って昔は呼ばれていたの。でも流石に歳をとってまでも乙女とか呼ばれると恥ずかしいじゃない?」

だから神官と呼ばれるようになったのだ、というとイメージがガラガラ崩れましたと言われてしまう。

そもそも国を作った時に手を貸してくれた『聖なる乙女』が正しい意味での『聖なる乙女』であって、その後の人たちは乙女に倣ったに過ぎない。

アカデミーに聖なる乙女や守護者の『候補』が通うのは、神官になった時に困らないように配慮されてるからだ。

正しい知識を持たねば、うっかり騙されて神殿から攫われる可能性もある。それを見越して学ばせているのだ。

「でもそれは今の状態だから言えるんだけどね」

「今の状態だから……ということは、もしも国が傾いている時は?」

「聖属性でも特別強い力を持っているのなら国を救った『乙女』の再来と思われるんじゃないかしら?」

「つまり……時と場合による?」

「そう。時と場合によるの」

何もない状態だから、乙女も守護者もなることを選ぶことができる。

だがもしも国が傾いていたら?候補になった子たちは皆、神殿で一生を終えることを強制されたかもしれない。

「魔力過多の畑を発見できて本当に良かったと思うわ」

「国が豊かなのって本当に大事なんですね……」

「そうよ。みんながお腹いっぱい食べられて、夜は屋根のある場所でゆっくり休める。アリシアが元いた世界だと当たり前にあった光景は、この世界ではかなり難しいの」

そう告げると、アリシアは小さく頷く。

「————姫様、アリシア様、調理道具の用意ができましたが」

リーナが私たちを呼びに来てくれる。私とアリシアは収穫したエダマメを持って四阿に向かった。

***

「では!エダマメを調理したいと思います!!」

準備されていたエプロンをつけて、アリシアはとても張り切っている。

と言ってもエダマメを枝から取って、お湯で煮るだけなのでとっても簡単だ。

「枝豆を枝から取るときは、くっついてるサヤの部分を少し切ってください」

三日月のようなエダマメの先っちょを切るのだと言って、ハサミでチョン、チョンと切りだす。

私もアリシアに教わった通りに切っていく。

少しするとザルにいっぱいのエダマメが取れた。

それを洗ってから塩で揉む。揉んだ後はフライパンに沸かしたお湯をコップ一杯分入れ、フライパンにエダマメを広げる。更に塩を足して蓋をした。

「こんなに水分が少なくて平気なの?」

「ええ、蒸し焼きにするので。その方が調理時間が短く済むんですよ」

「へえ……」

コンロにかけられてから十分ほど経っただろうか?アリシアが蓋をあけると、水分はほとんどなくなっていた。

そしてエダマメのサヤがぱっくりと開いてる。

「これは出来上がると開くの?でも開いてないのもあるわ」

「開いてなくても大丈夫ですよ。試しに一つ食べてみて、柔らかくなってれば平気です」

アリシアはトングでエダマメを一つ摘むと、ふーふー息を吹きかけて中から豆を取りだす。

「ああ……枝豆ちゃん……!!」

そう言うと口の中に放り込んだ。

「あー!!美味しい……ビール欲しい……」

「びーる?」

「あ、麦酒です」

「貴女まだ飲んではダメでしょう?」

「気分です。気分」

いくら社交界デビューしたとはいえ、実際にお酒が飲めるようになるのは成人してから。ジトリとアリシアを睨むと、飲んでません。飲んでませんよ!と顔を左右に振った。

「さ!食べましょう!!」

フライパンの中身を一旦、ザルにあけてから器に盛り付ける。

緑色の豆からはふわりと良い香りがした。

「ラステア国ではこうして食べているんでしたっけ?」

「そうみたい。おつまみなのですって」

ベルも興味深そうにエダマメを眺めている。アリシアは美味しいー!と言いながらパクパクとエダマメを食べ進めていた。

私も手のひらに豆を取りだし、口の中に放り込む。

「塩気がちょうど良いわね」

「ああ、これはホクリとしてますね。確かにおつまみかもしれません」

「主食で食べるにはちょっと大変ね」

ザルいっぱいにしないとお腹が膨れないかも、とベルと笑い合う。

するとオモチと言うのがあれば、エダマメを潰して絡めてズンダーモチと言うのになりますよとアリシアが教えてくれる。

「オモチって食べたことあるわ。ラステア国で街を散策した時に屋台で売ってたの」

「どんなのでしたか?」

「えーっと……揚げて甘く味付けしたのとか、中にアンコ?と言って甘い餡が入ってるのとか……デザートが多かったわね」

「どれも美味しそうですね……私も行ってみたいなあ」

「今はラステア国との交流の一環で留学制度もあるから行こうと思ったら行けるんじゃない?」

アリシアの成績は非常に良い。貴族令嬢としてどこにだしても文句のない振る舞いをできるのだから、ファーマン侯爵から許可が出るなら行けるだろう。

「その時までに醤油を完成させます……後きな粉も作らなくちゃ……」

「ショーユーとキナコ?」

「どちらも大豆があればできますよ」

嬉しそうなアリシアの表情にとても美味しいものなのだろうなあと感じる。

しかしそんなに色々作りたいのであれば、今のエダマメの量で足りるのだろうか?サヤから出してしまうと、豆は小指の先ほどのサイズしかないのだ。

「アリシア、エダマメ……足りる?」

「大丈夫です!!足りない時はうちの庭に作ります!!」

「それは……見た目的にどうなのかしら?」

侯爵家の庭園に突如として現れるエダマメ畑。

アリシアに甘い侯爵も渋い顔をしそうだ。

「もうそろそろ、別の畑も収穫できますし……収穫し終わったらまたエダマメを植えますか?」

「そうね。それがいいかも」

ベルの提案に頷くと、アリシアが私の手をガシリと握る。

「ありがとうございます!!!!」

「新しい調理法は気になるもの。安定して作れるなら新しい産業になるから大歓迎よ」

「私の知識で良ければ使ってください!!和食をファティシア国に広めましょう!!」

トラット帝国の皇太子との婚約話が出てから、少し落ち込み気味だったアリシアのテンションが上向きになったようだ。

やることが多ければシナリオの強制力が……と悩むこともないだろうし、彼女の性格を考えればこの方が良いのかもしれない。

「そうね。楽しみにしてるわ」

そう返事をするとアリシアも力強く頷いた。

しかし次の瞬間、彼女の顔色がサッと青ざめる。

「————随分と、面白いことをしているな」

その言葉に振り向くと、いてはいけない人物がそこに立っていた。