軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

82.悪役令嬢が語る一部と二部 1

デビュタントをなんとか無事に終え————

カレッジでの生活に戻った頃、それは突然降って湧いた話。

『トラット帝国の皇太子の目に留まり、姫殿下が婚約をするようだ』と

この話の出所はわかっている。

私とアリシア、そしてシャンテと同じ学年に在籍しているフィルタード侯爵家の長男エスト・フィルタードだ。

まあ、本人に聞いたら否定はするのだろうけど……

他からこの話が出るはずがない。なんせ知っているのはトラット帝国から書簡を受け取ったお父様とリュージュ妃、ハウンド宰相、ヒュース騎士団長、ロックウェル魔術師団長とその子供たちぐらいだからだ。

後はこの噂が出てすぐにカーバニル先生に呼び出され、真相を聞かれたのでその時に教えたけど。

それ以外で知っているのは、お父様の執務室に直接乗り込んできたフィルタード侯爵。

お父様がその場で嫁がせないと宣言したらしいが、それでも噂を流したのはそれなりに理由があるのだろう。

フィルタード派からすれば役に立たない私をトラット帝国へ嫁がせれば、今よりも友好関係を結べる。それなのに断るなんて有り得ない、と言ったところか?

教室内でもチラリチラリと貴族令嬢たちが視線を向けてくる。

堂々と聞いてくれればその場で否定してあげるのに、なぜかみんな聞いてこないのだ!気になるなら聞いてよ!!

「はあ、何だか珍獣にでもなった気分……」

「ルティア様……」

一緒にいたアリシアが困った顔をする。

きっとゲームの強制力が……!!とか思っているに違いない。生憎と、そんな強制力に自分の人生を任せる気はないので、この噂をどう払拭すべきか考えねばいけないだろう。

噂を放置して消えてくれればいいが、あることないこと言われるのは癪に触る。

「ルティア様、そろそろ移動しないと経済学の授業に間に合いませんよ?」

噂なんて気にすることなく話しかけてきたのはシャンテだ。

カレッジは頭の良い順にクラス分けがされるのだけど、私の頭でも一番上のクラスにいられるのはアリシアとシャンテのおかげである。

カレッジに入学する前から、そしてした後も「やればできるんだから!!」と叱咤しながら、二人が一緒になって私の頭に知識を叩き込んでくれたのだ。

そんな私を見たからか、ライルとリーンも今必死に勉強している。

勉強するより、剣術や畑仕事をしていたいけど……

私はパチンと両手で頬を叩くと、経済学の教科書とノートを持って立ち上がった。

「さ、二人とも行きましょう!勉強勉強!これが終われば週末だもの!!」

「予習復習も忘れないでくださいよ?」

「うっ……だ、大丈夫よ!……たぶん」

「週明けは小テストが多いですからね!ルティア様、頑張りましょう?」

「……はい」

大人しく頷き、教室を移動するために廊下にでる。

するとやはりチラチラとこちらを伺う視線があった。

この程度で怒ったりはしないけど、噂が消えるまでずーっと続くのかと思うと気が滅入る。

そんな時、前方からエスト・フィルタードが歩いてきた。

元凶め!と内心で思いつつも、私は素知らぬ顔で通り過ぎようとする。

するとわざわざ呼び止めてきた。

「ごきげんよう、姫殿下。学園での生活はどうですか?」

「ごきげんよう、フィルタード卿。特に変わりはありませんね」

「そうですか?最近、姫殿下のおめでたい話題を耳にしたのですが……」

「あら、一体何かしら?特に何もないけれど……?」

わざとらしいと思いつつ、そう言って何もないと告げるとエストはニコニコと笑いながら婚約されたのでしょう?と言ってきたのだ。

「一体誰に聞かれたのかしら?」

「みんな噂してますよ。大変おめでたいことです」

「そうなの。でも生憎と、私に婚約者はいないしそんな話も出ていないわね」

スッパリと切り捨てると、周りにいた子たちがヒソヒソと話しだす。これでまた噂が広まることだろう。

しかし彼は笑顔を崩さない。

「この間のデビュタントで皇太子殿下と踊られていたので、両国間の友好関係を築くために話が出ていると聞いていたのですが……?」

「あれはたまたまです。たった一度踊っただけでそんな話が出るなんて、皇太子殿下にも失礼ですよ」

まさか皇太子だとは知らず、誘われたので踊っただけだ。

噂をこれ以上広げるのは相手にも失礼だぞ、と意味を込めて言ったのだがエストはなぜか小さくため息を吐く。

まるで私がワガママを言って困らせているかのように。

「……ルティア様、急がないと次の授業に遅れますよ」

「ええ、そうね。急ぎましょう」

アリシアとシャンテと共にエストの横を通り抜ける。その時の彼の目はまるで蛇のような、嫌な目をしていた。

***

授業を終えて、自分の宮に戻る。

そしてすぐさま着替えると、私は自分の畑へ向かった。今日はアリシアも一緒だ。もちろん着替えは私の宮に用意してあるので問題ない。

パジャマパーティーだってできてしまうのだ!

アリシアとリーナと一緒に畑に着くと、ベルがいつものほんわかとした笑顔で迎え入れてくれる。

「ベル、いつもご苦労さま!」

「ルティア様、お待ちしておりました」

「この間、ラステアからもらった苗はどうかしら?」

「スクスクと育っていますよ。エダマメ……でしたか?あれも収穫できそうです」

「枝豆収穫できるんですか!!」

「ええ、実がほどよく詰まってますよ」

ベルの言葉にアリシアがやったーと両手をあげる。

普段の彼女からは見られない所作だが、よほど嬉しいのだろう。何だか元の世界にあった食べ物とラステアの食べ物は似通っているらしい。

『わーしょく』と言うのが食べられる!と最近では率先して畑の世話を手伝ってくれていた。

「これで『わーしょく』と言うのが食べられるの?」

「ルティア様、和食です!わ・しょ・く!」

「わーしょく?」

「和食」

「ワショク?」

「そうです!これは始まりです!!もちろんファティシア王国の食事も大変美味しいのですが、和食……心の友よ!!」

エダマメ畑の中心で万歳をしているアリシアを見て、ベルがぽつりと呟く。

「……アリシア様は、ワショクと言うのがよほど好きなんですねえ」

「そうねえ……ワショクのためならミミーも平気みたい」

アリシアと一緒に収穫してくるわね、とベルに言うと調理器具を用意しておきますね、とベルはリーナと一緒に小屋に向かった。

私はアリシアの元に向かうと彼女に軍手を差し出す。

「ほら、アリシア。手が荒れちゃうわよ」

「ありがとうございます!」

「それで、全部収穫してしまうの?」

「いいえ、今日は三束だけにします」

そう言ってこれとこれとこれです、とエダマメ畑を指さした。

「それだけでいいの?みんな収穫できそうだけど……」

「いいんです。このまま茶色くなるまで置いておくんです」

「実がダメにならない?」

「いいえ。大豆が未成熟な状態で収穫すると枝豆になるんです」

アリシアが言うにはダイズと言うのはエダマメが熟した状態で、緑色の時はまだ未成熟なままらしい。

でも未成熟でも茹でて食べると美味しいのだとか……

ラステアでは未成熟のまま食べるらしく、アリシアのダイズを発酵?させてミーソとかショーユーとかを作ると言う話にコンラッド様も興味津々だった。

そのため、エダマメ畑はいつもよりも広く作られている。

「……ねえ、アリシア」

「なんでしょう?」

「トラット帝国に嫁ぐって話があったじゃない?」

「……はい」

「アレって国力が弱まった時に、向こうがちょっかいをかけてきたから行くことになったのよね?」

「そう、ですね……かなり政治的な意味合いが強かったかと」

「そうよねえ……」

と言うことは、今の時点で私に対してトラット帝国から話が来るのはおかしい。

だって国力は下がるどころか、今の所は上昇傾向だ。

疫病が流行り、国内の情勢が不安定になるなら別だけれど、まだその兆候もない。

一体……どうしてトラット帝国はあんな話を持ってきたのだろう?

デビュタントの時もそうだ。

何があの皇太子の琴線に触れたのか?全くもって謎だらけだ。

「そのーですね……」

「なあに?」

「たぶん、ルティア様の行動が一部と二部の攻略対象が同時に現れるきっかけになったのかもしれません」

「一部と二部……?一部は、ライルの話よね?」

「ええそうです。でも続編があると言いましたよね?」

「そうね。前に言っていたわね」

「続編はラステアですけど……もしかしたらトラット帝国も関係あるのかもしれません」

これは仮定の話だ、と前置きをしてアリシアは話だす。

ファティシア王国の聖なる乙女が誰とも結ばれずに話が終わる。すると続編の攻略対象たちの話になっていく。

攻略対象はラステア国の次期国王であるウィズ殿下を中心に、その周りにいるイケメンであろうとアリシアは語った。

「イケメン?」

「えーっと、とても容姿の整った男性のことです」

「ふーん……で、そのイケメンを攻略すると?」

「ええ、でも普通は聖なる乙女が簡単に他国に赴くことはありませんよね?」

「そうね。疫病がまだ流行っているなら聖なる乙女としてみんなを助ける必要があるもの」

「もしも、ですよ?トラット帝国がファティシアに更にちょっかいをかけてきたらどうなります?」

「私が嫁いでも止まらなかったら、ってことね……?」

私の言葉にアリシアは頷いた。

もし、もしも、トラット帝国が友好の証として嫁がせた私を無視して、ファティシアに侵攻してきたら……トラット帝国と戦って勝ったことのあるラステア国に助けを求めるのではなかろうか?

そう考えた時、なるほどこれが原因で続編になるのか————と納得した。