軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

231.悪役令嬢vs悪役令嬢 2

盛大なドラの音が脳内で鳴り響く。

私はファラの前に立ち、彼らににこりと微笑んだ。

「なにか、問題があって?」

「は、なっ! 三番目のくせに!!」

「私は確かに継承権は三番目だけど……双子たちもいるし、とても低い順位というわけではないわ。それともロイお兄様やライルにもいうの? 二番目、一番目って」

「ち、ちがっ!」

「あら、ならどうして私だけ数字なのかしら?」

普段言い返してこない私が言い返したことで、彼らは何をどう言い返せばいいのか考え倦ねているようだった。

そもそも継承順位で私を三番目と蔑むには、もう無理なのよね。

双子が生まれているし。今後も増える可能性はある。継承順というのなら、五人子供がいるうちの三番目なら低くはない。

もっとも、私も指摘されるまで気がつかなかったのだけど。それだけ三番目、という言葉は私を嫌な気持ちにさせていたのだ。

継承順位が低いという意味ではなく、何もできない、という意味で私は受け取っていたから。

「い、今さら偉ぶりやがったって!」

「今さらというけど……事実として、貴方たちより偉いのよ? それとも王族が偉くない理由があるのかしら?」

「ここは、カレッジは! 平等が、その……」

「そうね。確かにカレッジの理念は平等を掲げているけれど……ここは将来、社交界に出たときの縮図でもあるのよ? それを知らないとはいわせないわ」

ジトリと睨みつければ、彼らはお互いを肘で突っつきあいそのまま図書室から逃げてしまった。その後ろ姿を目で追う。

なんだ、この程度なのか。ちょっとだけ拍子抜けしてしまった。

パチン、と鉄扇を閉じて息を吐く。

それにしても凄い心臓がドキドキしている。言い返すことなんて殆どなかったもの……!

いや、それよりもファラだ。

振り返れば、ファラがちょっとだけ青ざめた顔で立っている。

「ファラ、ファラ……その、大丈夫?」

「あ、は、はい。だいじょ、大丈夫です!」

「ごめんなさいね。あなたまで巻き込んで……」

「いえ、そんな……」

「もしまた何か言ってきたら、私に教えてね。ちゃんと対処するから」

「でも……いいのですか? 私が平民なのは事実ですし……」

「問題ないわよ。それにカレッジの理念は平等なのよ?」

そういって笑った。ファラはキョトンとした表情を浮かべ、そして小さく笑う。

「なるほど。彼らと私たちの社交の場は違いますね」

「そうよ。残念ながらね。でも未来はわからない」

「そう、ですかね?」

「あなたはとても優秀だもの。将来はもっと素敵な女性になってるはずよ?」

そして優秀な生徒は王城の官吏として採用される。

さらにそこで功績をあげれば叙爵されることもあるのだ。家を継げない貴族子弟は、ファラたちに劣る未来があるかもしれない。

貴族だから、という理由だけで偉いわけではないのだ。もちろん王族もだが。

その地位に見あう努力をしなければいけない。ファラたちが努力しているように。

とはいえ、それだけが理由でお友達になるつもりはない。

単純に本の趣味が合う友達ができるのは嬉しいものだ。

アリシアも本好きではあるが、読んでる本のジャンルが違うのよね……だから同じジャンルを読む友達がほしい。

私は内緒話をするように、ファラの耳元に口を寄せる。

「あのね、私……実は冒険小説やロマンス小説も好きなの。ファラは読んだりするかしら?」

「姫殿下もお読みになるんですか?」

「なるわよ。もちろん。王城の図書館に市井で出てる本を入れてもらってるもの」

そういうと今度はファラが私の耳に、何人かの作者の名前を呟く。

私はパッと目を輝かせ、彼女の前に握手をすべく手を差しだした。

「すっっごく面白いですよね!」

「すっっごく面白いわ! 冒険譚のシリーズが特に大好きなの!」

「意外でした。姫殿下もこう、なんというか……普通の? 本をお読みになるんですね」

「本って、いろんな世界に連れて行ってくれるでしょう?」

「確かに。没頭してると時間を忘れてしまいます」

「そうなのよ。だから凄く楽しくて……でも王城の図書館にある本って難しいのが多いの。子供向きではないのばかりだから」

「もしかしてそれで入れてもらえたのですか?」

「少しずつね。私が読める本を入れてくれて、今は私が子供のときよりも本の種類は増えたわね」

ライルが双子たちに読み聞かせをするのに増えたのだ。そういうと、小さい頃からの読み聞かせって大事ですね、とファラも頷く。

「色々な本が読めると、歴史にも興味がわいてくるもの」

「わかります。当時の風俗とか、料理とか……色々気になってきます」

「女流作家の旅行記も面白かったわ」

「あ、あの方ですね。私も読みました! 子供でも読みやすいのが出ていて……図書館にあったので毎日通って読んでました」

ファラの住んでいる地域は大きな図書館があるらしく、たくさんの蔵書が収められているそうだ。どうやら彼女の地域から、王城図書館の司書に就く人が多いらしい。

そして初めて王城司書になった人が、ローズベルタ侯爵家の支援を受けて図書館を作ったのだとか。未来の子供たちのために。

「ローズベルタ侯爵家……私のおばあさまのご実家ね」

「はい。ローズベルタ侯爵家は、学問を中心に才能ある若者の支援をしてらっしゃいますから。ありがたいことです」

「でも努力し続けているのはファラたちだもの。それは凄いことだわ」

「そ、そうでしょうか……? 私たちは頂いたものを返せればと」

「うんん。凄いことよ。だって人って、当たり前に慣れてしまうから。継続するのって本当に大変なの」

そしてファラたちのような人たちのおかげで、国は回っているのだ。努力し続ける人たちがちゃんと報われる……そんな国を王族は維持し続けなければいけない。

とても難しく、大変なこと。

お父様やリュージュ妃様、ハウンド宰相様が日々苦労しているのが想像できる。

「その、実は……」

「どうしたの?」

「実は、姫殿下がこんなにお話ししやすい方だとは知らなくて……」

「あーそうね……私、普段はファーマン侯爵令嬢とロックウェル卿と一緒にいるものね」

「いえ、そうではなく……何といいますか、学園の空気的に?」

「学園の空気?」

「高位貴族全体、というわけではないのです。一部の貴族位の方と平民出身者の間には溝があるので……」

「……さっきみたいな子たちのことね?」

「はい……」

ファラは私にいうことではないのかもしれない、と前置きをしつつ教えてくれた。

フィルタード派の子たちが平民出身の子たちを馬鹿にしたり、意地悪をしていることを。

それを教師陣に訴えても、あまり取り合ってくれないそうだ。

なぜならカレッジの理念は平等、問題が起こったのなら自分たちで解決しなければいけないと。

「自分たちで解決……といっても限度があるわよね?」

「そうですね。下手に言い返して、実家に不利益があってもいけませんし」

「そうね……意地悪をしてくる子たち以外の子はどんな感じなのかしら?」

「遠巻きに見てる感じでしょうか」

「そう……」

学園に派閥があるとしたらフィルタード派ぐらい。

厳密に言えば貴族派、王家派、中立派、とあるのだろうけど。派閥でまとまっているのはフィルタード派の子たちだけ。他は仲のいい家同士でまとまっている。

だからこその傍観。

平等だからこそ、自分たちで問題を解決しろという学園の理念がわからないわけではない。だけど成績で負かしたとて、逆恨みする可能性はある。

「こちらが気にいらないのなら、放っておいてほしいんです」

「そうよね。わざわざちょっかいかけてくる方が面倒臭いわよね」

「だからといって相手が恥をかくような方法は禍根を残しますし……」

「それは、そうね。でも恥をかく方法があるのね?」

「ありますよ~私たちだってやられっぱなしではないですからね」

たくましい! 内心でそう思いつつ、これはちょっと根深い問題なのかも? とも思った。

だって相手に恥をかかせてでも報復したい! って思っていることだし。

「うーん……すぐに解決してあげることは難しいわ。見ての通り、彼らは私を見くびった態度をしているでしょう?」

「普通はあり得ませんよね」

「そうね。残念なことだけど……」

「いっそのこと、彼らが大人しくなる切欠があれば良いんですけどね」

「そうね……」

難しいですね、とファラにもいわれ私は「ごめんなさい」ということしかできない。

彼らに見くびられないようにするには、どうすれば良いのだろうか?

これは私の問題でもある気がする。

ファラとまた会う約束をし、私はこの問題をイザベラ嬢に相談することにした。

たぶん彼女ならこの問題に何かヒントをくれそうな気がするからだ。

でもそれが、あんなことになるなんて―――― 私には想像できなかった。