軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

219.ものいえぬ少女の愛

ステンドグラスから光が降りそそぐ。前世とは違い、そこに飾られているのは苦悶の表情で十字架を背負った男性ではない。

薄いベールをかぶり、手のひらに花を咲かせた女性の像が建っている。

この女性はファティシア王国を建国する際に手を貸した聖なる乙女。私は彼女の像の前で跪き、祈りを捧げていた。

聖なる乙女の像は何も語らない。ゲームのような都合の良いことは起きない。

それに優しいまなざしを浮かべているが、私には責められているように感じる。それも仕方のないこと。

だって私がしているのは悪いこと、だから――――

前世のゲーム知識を使えば、彼を救える。そう驕ったのが間違いだった。

確かに彼は救われたのだろう。今は。

でもこの世界はすでにゲームとは違う道を歩み始めている。

この先、どう動けば彼のためになるのか? それとも全く違う道を辿る?

それすらもわからない。

ただただ幸せにしたかった。寂しい彼を、幸せに……!

「こんなところにいたのか」

カシャン、と金属が擦れる音がする。

ゆっくりと振り返れば、 死(・) ん(・) だ(・) は(・) ず(・) の騎士が立っていた。

「……落ち着くんです」

「聖なる乙女に祈りを捧げるのが?」

「はい。だって、それぐらいしか……できないですもの」

そういって像を見上げる。

聖なる乙女の像は何も語らない。何も。

「そうはいってもあまり屋敷を開けちゃ、文句を言われるんじゃないか?」

「最近は……平気なんです。ほら、薬草を育てないといけないから」

「薬草ね……神官たちがいるだろ?」

「私が一番、魔力量が多いですから……」

「足りなくなったらポーションで補充して、また薬草を育てるってか? 本末転倒だな」

彼は眉間にしわを寄せ、苦々しげに苦言を呈してくる。

だけど私にはどうにもできない。私は私にできることを、その役目を果たさなければ切り捨てられてしまう。

そうなったらもう、彼には会えない。

大切な彼に。私のせいで歪んでしまった彼に、会えない。

「……王都は、他の場所はどうですか?」

「王都も、他の領地も花師や神官たちが協力してポーションを作ってるよ。そもそもこの政策は姫殿下が、貧民街の連中に仕事を与える目的で考えたことだからな」

「すごいですね……そんなことを考えられる方なんですね」

「実際に考えたのは五年前からだ。自分で実践して、魔術式研究機関とも協力してな」

もうその頃から、ゲームとはかなり様相が一変している。

生き残った王様、側妃様。食料自給率の上昇、ポーションの作成。それに……レイラン王国との関係も。

五年前に死んでいたはずの王様が生きている。それだけで国力の低下は免れた。

だけど、生きているだけではないプラスの要素がこの国には働いている。

食糧自給率の上昇が最たるものだろう。

貧民街が減少し、健康で安定した生活者が増えれば病は広がりにくい。

もっとも……この領地でポーションを買えるのは、貴族か富裕層の人間だけだが。

自分たちが病になるのは嫌だが、私から聞いた情報の通りにしようと躍起になっているのだ。私の『予言』の通りに。

そのせいで領民は、他の領地と違ってポーションが買えない。

病になれば教会に行き神官たちに癒やしてもらうしかないのだ。

その、お金があれば……だが。

「この領は、相変わらずか?」

「……はい。他の領では食料自給率が上がっているようですけど、彼らは興味がないようです」

「王都から諸公には通達がいってる」

「魔力過多の、畑……でしたか?」

「ああ。アレがあれば、食料自給率が上がる。それに花師や商工ギルドも知ってるはずだぞ。他の領でやってるんだからな」

「たぶん、彼らはやらないでしょうね」

「ま、それはそうだな。納税負担が増えるだけだろうし」

「増えた物は全部帝国に輸出すれば良いですからね。あちらは……農作物を育てることすら大変そうですし」

「儲かるのは貴族と金のある連中だけ、ってことか」

それなら多少苦しくともやらない方がマシだろう。

奪われるだけ奪われて、手元には少しのお金しか残らない。

そもそも王都のやり方に異を唱える貴族たちが集まっているのだ。たとえどんなに良い方法であっても、右習えなんて誰がやるかと文句を言うに決まっている。

領民たちは皆わかっているのだ。

この愚かな貴族たちは、自分のことしか考えていないと。

「どうにか、できるといいんですけどね」

「お前だけじゃ無理だろうな」

「はい。私に、そんな力はありませんから……」

「――――どうせ、変わらねぇよ」

「それでも信じたいんです。きっと変わってくれるって。信じたいんです」

あの日、あのとき、会いに行かなければ……!

きっと彼は寂しさを抱えたままだった。その寂しさを癒やしたかった。一人じゃないよって、守りたかった。

それは全て私の驕り。

そして死んだはずの騎士も、また世界を変えたいと願う一人だった。

「世界は変わるか?」

「わかりません。私は、私にはもう……先がどうなるかなんてわからない」

「予言は?」

「私の知ってる先と、だいぶ変わってしまいましたから」

「それでも連中は躍起になるだろうな」

「ええ。きっと……私の予言から先回りすれば、自分たちが王になれると信じている」

悪役は、どう足掻いても悪役なのに。

彼らは自分たちが優位に立っていると信じて疑わない。

私の祈りは、きっと届かないだろう。

世界は正しく回り、いつか私は――――されるのだ。

だって私が、この物語のヒロインなのだから。