軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

149.レイドール伯爵 2

「実はものすごーく、お祖父様の掌の上で遊ばれてるのかもしれないって思い始めたんだけど……」

簡単に屋敷の中を案内された後、私達は応接室に通されてお祖父様を待っていた。その時にふと思ったことを口に出すと、ネイトさんはしたり顔で頷く。

「それは仕方ありませんねえ。レイドール伯爵は三代続けて似た性格の女性を相手にされていたわけですし」

「ルーちゃんの情報も仕入れていたみたいだから、義理のお母さん、奥さんに娘さんと、ルーちゃんが同じ性格なら予測もしやすいしね」

「カティア家の血が濃いですよねえ……」

そういってネイトさんはチラリとカティア将軍を見る。その視線をたどり私も将軍を見る。将軍は一瞬、キョトンとした表情を浮かべたあと晴れやかに破顔した。

「いやーん。ルーちゃんうちの養子になっちゃうー?」

「流石に……!それは……!!無理です!!」

「うちは大歓迎よ!!というより、今すぐなってくれても良いのよ??」

将軍はそれはそれはものすごーく嬉しそうに話すけれど、流石に「はい。なります」なんて言えるわけがない。そりゃあ、ファティシアにいるよりもラステアでの生活の方が、ちょっとだけ楽とか思わなくはないけどね。

嫌味をいわれたりするのは、気にしないようにしていても疲れるものだし。色眼鏡的なモノで見てこない、ラステアの人達は私の性格的に付き合いやすいのだ。

「ははは、あまり孫を困らせないでいただけるとありがたいですな」

返答に困っていた時、後ろから急に声をかけられてドキリとする。

振り向けばお祖父様と執事長のテルマさんが立っていた。どうやら途中から聞かれていたようだ。それならそうと早く声をかけてもらいたかった。

私は席を立つと、裾をちょこんと摘む。そしてお祖父様にカーテシーをしてみせた。私は今、ラステアのルーとしているのではない。

ファティシアの第一王女、ルティア・レイル・ファティシアとしているのだから。

「こんにちは、お祖父様。答え合わせをしに参りました」

「いらっしゃい、ルティア姫。待っていたよ」

お祖父様の言葉に私はにこりと笑う。

その答えは、私にとって都合のいいものだ。でも、ラステアに戻る予定だった私に、レイドール領へと来るように仕向けた。それがお祖父様の答えなのだと思う。

お祖父様は私に座るように促す。はやる気持ちを抑えながら、私は小さく頷いた。もし答えが違っていたらどうしよう?と、そう思わないでもない。

答えが違っている、それはつまり……クリフィード侯爵達が亡くなっていることを意味する。

でも亡くなっていることを再確認させにこさせたりはしないと思うのだ。それに、私に関わるもので「良い拾いもの」は他にない。

目の前に置かれたティーカップの中身をじっと見つめ、そこに映る自分の顔を見る。なんとも情けない顔だ。

「さて、では答え合わせをしようか?」

「もう……?」

「知りたいのだろ?」

「それは、そうだけど……心の準備とか、何かこう、遠回しな会話とかあると思っていたんだもの」

「大事な孫相手にそんな面倒なことはしないさ」

そういってお祖父様は笑う。ロビンが、お祖父様が私達のことを大事に思っているって言っていたけど……本当かどうか、確認できるほど私達とお祖父様の間に思い出はない。

私は王都で生まれ育ったし。お祖父様は王都へ来ないし。思わず伺うような目で見てしまったのは仕方ないことだと思う。

視線の意味に気がついたのか、お祖父様は笑みを深めた。

「儂が王都へ出向かない理由が知りたいかい?」

「……はい」

「別に会いたくない、というわけではない。しかし、二人の安全を考えるとあまり儂が王都へ顔を出すのはよろしくなかった」

「それは、フィルタード侯爵が何をするかわからないから?」

「ああ。奴は若い頃から野心家でな」

「お祖父様はフィルタード前侯爵を知っているのね」

「もちろん。元は儂も王都に暮らしていたからな。とはいえ、歳が離れているから、そこまで接点があったわけではないが」

「そうなの……」

確かに頻繁にお祖父様が王都に来ていたらーーーーお父様はお祖父様に配慮しただろう。そして私達とも、普通に会わせたはずだ。離宮に訪ねてくるか、もしくはタウンハウスへ遊びに行くか。

そこで私達は知ることになる。今、置かれた状態が異常だと。そしてそのことをお祖父様に訴えただろう。お祖父様からお父様に話が行き、あの放置された状態はもっと早く改善されていたかもしれない。

でも、そこには危険も伴ったはずだ。

フィルタード侯爵は、離宮にいる私達の生活改善に口を出してきたお祖父様を鬱陶しく思うはず。そしてお父様と頻繁に会うことも向こうにとっては嫌なことだろう。

辺境の一領主。その立場をずっと維持し続けていたからこそ、私とロイ兄様の安全は守られたと言っても過言ではない。

本来すべき主張をしない。それもまた、安全の為には仕方がないと言える。

「まあ、だからといってただ手をこまねいていては二人の身に何かあった時が困る。だから我が領の者達を少しずつ送り込んで周りを固めていたんだがな」

「私と兄様の離宮の人達ってもしかしてみんなレイドール領の人なの?」

「ああ。もちろん、離宮以外にもな」

パチンとウィンクしてみせるお祖父様はなんともお茶目な方だ。きっとお父様も知らないで、コッソリと潜り込んでいるレイドール領の人達はたくさんいるのだろう。

そしてそんな人達に見守られて育ったのだ。私は、私達は確かに愛されている。その事実がストンと胸の中に落ちてきた。

「やっぱり、みんな知っていたのね。どこに行ってもみんな優しかったもの」

「最初は皆驚いていたがね」

「みんなお祖父様やお母様の代わりをしてくれたのね。あ、でもお城に戻った時にその話をしたら拙いかしら?」

「そうだな。できれば今まで通りすごしなさい。儂が人手を送り込んでいるように、フィルタード侯爵も送り込んでいるはずだ」

「わかったわ」

私は頷くと、目の前のティーカップを手に取り口をつける。

ふわりと柔らかなオレンジの香り。私の好きな紅茶の一つだ。なるほど、細かな情報までも共有されているのだな。

コクリと飲み干すと、私は答えを口にした。

***

お祖父様はにこりと笑う。

私もそれに倣うようににこりと笑った。

事の起こりは、やはり私に渡されたアジサイのブローチだったようだ。アッシュからもたらされた情報、そして別口からの情報に、お祖父様は一計を案じた。

「やっぱり、私は狙われているのね?」

「フィルタード侯爵はなんとしてもポーションの手柄をライル王子のものとしたいらしい。そうすることでライル王子の地盤を強固なものにし、さらに本人に王になる意識を促したいんだろう」

「王になる意識?」

「ライル王子は自ら王になる器ではない、といっているようだからね」

それは初耳だ。ライルがやらかしたアレやコレ。そしてトドメの五年前の事件。

ライル自身はだいぶ変わってきたけれど、それでも五年前の事件はライルの心に大きな影響を残しているのだろう。

「……そういえば、彼らはまだ生きているの?」

「もちろん。とはいえ、来た当初と同じ五体満足とはいかんがな」

「えっと、それは……」

もしかしてバクリとどこかが持って行かれてしまったのだろうか?そうであれば、刑を決めた立場上、何とも言えない気持ちになってしまう。

あの時は、あの刑が適切だと思ったし、きっと今だって同じことをする。でもだからといって大怪我してほしいとか、ましてや死んでほしいとか思ったわけではないのだ。

「旦那様、あまり揶揄われては……」

「え?」

テルマさんを見ると、苦笑いを浮かべている。私はお祖父様に視線を戻す。すると、お祖父様はニコニコと笑っているではないか!!

「なーに、顔や腕、足に傷が残ったくらいどうということはない。それにルティアのおかげでポーションが手に入るようになったしな」

「そ、それならそうと!そういってください!!」

「旦那様も浮かれていらっしゃるのですよ。姫様はカロティナ様によく似ておられますからね」

そういわれてしまうと、何だか怒るに怒れない。プクーッと頬を膨らませ無言の抗議をするに止める。

「……ちゃんと、生活できてるんですね?」

「ああ。よく働いてくれているよ」

「それなら良いです」

ふう、と小さくため息をつく。レイドール領に迷惑が掛からず、それでいて彼らがキチンと仕事を全うして生活できているのであれば何もいうことはない。

私が、彼らに会うことは立場上ないわけだし。たぶん。

「さて、話を戻すとしよう。兎も角、ルティアが狙われていることはわかっていた。狙うなら、クリフィード侯爵領の手前であろうこともな」

「それはやっぱり……クリフィード侯爵と私が近いと思われたから?」

「そうだな。フィルタード侯爵が流している噂は、フィルタード派の領地では通用しても、それ以外の土地では通用しない。そしてトラットと手を組むには、クリフィード侯爵はラステアとも近い」

全てをひっくるめても邪魔、その一択なのだそうだ。そこでふと、アリシアを思い出す。彼女もやはり狙われていたのだろうか?追手は私の方に集中したけれど、あの場でカーバニル先生が動けたから大事に至らなかっただけの話。

「お祖父様、ファーマン侯爵家も邪魔扱い?」

「そうだな。序に始末できれば、とは思っていただろう。いくらライル王子の婚約者、ということになっていても他に候補がいないわけではない」

「侯爵家を二つ、潰すつもりだったのね」

「一方は御し易い若者に当主をすげ替え、もう一方は王都から追い出す。それだけでだいぶ楽になるだろう」

楽になる。それはつまり、兄様達の危険を意味する言葉。

思わず背筋がゾッとしてしまった。実は物凄く危機的状態だったのだから。