軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

148.レイドール伯爵 1

カティア将軍の千人斬りをネイトさんと一緒に、ハラハラドキドキしながら観戦している。流石に千人も相手にすると後半疲れてしまうのでは?と思っていたのだが、将軍の動きは最初と全く変わらない。

「後半になると疲れてくるし、それに強い人が多くなるって思ってたんだけど……お姉様は物凄く快調ですね」

「ああ、魔力で身体強化してますからね」

「身体強化……それって余計に疲れたりしないの?」

魔力をずっと使い続けると、魔力が枯渇して倒れる。それは私が五年前に実体験として学んだことだ。それなのに将軍は平然と長時間戦い続けている。

これは一体、どういうことなのか?単純に考えるのなら、私よりも将軍の魔力量が多いということなのだろうけど……

「将軍は確かに魔力量が多いですけど、使い方に違いがあるんですよ」

「使い方……?」

「身体強化の基礎は魔力を体全体に行き渡らせることです」

「そうよね。身体強化、だもの。体全体に行き渡らないとダメだわ」

「ですが達人になると、必ずしも体全体に行き渡らせる必要はない様なのです。もちろん全く行き渡らせない、というわけではないのでしょうけど」

例えば手や足のみに集中して、とかね。とネイトさんは言う。部分的に魔力を使って、本来使う量よりも消費を抑えているということだろうか?でもそれって物凄く繊細な魔力コントロールが必要になる。

チラリと将軍を見る。将軍の体型は鍛えられているとはいえ、女性のものだ。お祖父様やベゼルさんの様に筋骨隆々というわけではない。

ネイトさんの言葉通りなら、将軍は繊細な魔力コントロールをしながら戦っているということ。

「……その魔力コントロールを覚えれば私でも強くなれますか?」

「うーん……その為には、物凄く大変な訓練を受けねばならないかと」

「訓練……」

「カティア将軍だって生まれつき魔力コントロールが上手いわけではないですからね。まあ、カティア家特有の魔力コントロール法がないわけではないでしょうけど」

「つまり、魔力量が多くても簡単に強くなる方法はないのね」

「そのための訓練ですからねえ」

ネイトさんは不貞腐れた私の頭をポンポンと撫でる。そりゃあ、簡単に強くなれるとは思っていないけど。できることなら、自分の身ぐらい自分で守れる様になりたい。

誰かが私の代わりに傷つかなくて済むように。ラステアに行く時の件でそれがすごく身にしみた。ユリアナがあの時すぐに追いかけてくれたから、なんとかなったけどいつもそうとは限らない。

お母様は、魔物を狩りに出かけていたと聞くし。それにカティア家の血が流れているのであれば、私だってきっと素地はあると思うのだ。将軍からだって筋は良いっていわれているし!

でも魔力コントロールだけはまだまだ課題が多い。昔に比べればマシだけど、使いすぎてしまうこともたまにある。

うーんと唸っている私に、ネイトさんはあとで将軍にコツを聞いてみましょう?と提案してくれた。

「でも……カティア家秘伝の方法とかだったら、教えてもらえないんじゃない?」

「いやあ、それはクリアできてるかと」

「私にカティアの血が流れているから?でも……」

私はファティシアの人間だ。しかも王族。秘伝の方法を他国に流出させて良いものなのだろうか?普通はダメじゃなかろうか??

「まあ、ダメもとでも聞いてみましょうよ?」

「お姉様は私に甘いから、スルッと話しちゃったらどうしよう?」

「その辺の線引きは……あーうん。ルー嬢に対してはないかもですねえ」

私達はお互いに顔を見合わせて吹き出す。そんな話をしていたら、ワッ!!と歓声が上がった。将軍がいる舞台を見れば、将軍が元気よく私に向かって手を振っている。どうやら千人斬りは無事に終わったようだ。

「ルーちゃーん!見てたあああ!?」

私はニコリと笑顔を浮かべて大きく手を振りかえす。残念ながら最後の瞬間は見ていない。見ていないが、余計なことは言ってはいけないのだ。知らぬが花、という言葉があるように……拗ねた将軍は、ちょっと面倒臭いのだ。

***

ベゼルさんに連れられて、レイドール伯爵家へと辿り着く。

そこはまるでーーーー要塞。

そびえ立つ城壁に、城壁の周りは堀が囲っている。でもその城壁には鋭い爪痕や、焦げた跡があった。まるで戦があった後のよう……生々しいあとに呆然と見上げてしまう。

「まだ、お嬢さんは小さいから……スタンピードの経験はありませんかな?」

「……ええ。全くないわ」

「ラステアもスタンピードは間々ある土地だからね。そのうちルーちゃんも見ることがあるよ」

将軍のフォローに私は頷く。そしてベゼルさんに質問した。

「これは全部、魔物に襲撃されたあとなんですね?」

「ええ、リリア様とヴィオレット様がお亡くなりになった時のものですな」

お祖母様とひいお祖母様。その二人が亡くなった二十年ちょっと前のスタンピードは、ファティシアの王国史にも残る有名な話だ。

でも当時の王様、つまり私にとってのもう一人のお祖父様は派兵するのに躊躇ったとも聞く。それは大きなスタンピードをレイドール領で抑えられていたから。

領内から魔物が出てこないのであれば、できれば領内で対応してもらいたい。それが王としての判断だったのだろう。

自分達に害がないならば……スタンピードで困っていても見捨てる。そんな判断、間違っていると思う。みんなで力を合わせればもっと早く、魔物を倒すことだってできたはずなのに。

その話を聞いた時、私は物凄く憤った覚えがある。

「その……当時の王様は、この領を助けようとしなかったと聞いています。それって悔しくなかったですか?」

「そうですなあ。あの時はまだワシも若かったので、腹が立ったものです。ですが魔物と人は戦い方が違う。王都の若造達が派兵されてここでまともに戦えたか、と考えると、難しいと今ならわかるのですよ」

「そんなに違うんですか?」

「そもそも連中にとってワシら人間は餌ですからな。全く容赦がない」

ちょっとの油断で上半身持っていかれますよ。といわれてゾッとしてしまう。そんな所に平気で繰り出していたのか……

「徒に人死にを出すくらいなら、レイドール領の者に任せてしまおうってことかしら?」

「そうでしょうな。もちろん王の決定に反発して、王都の騎士を辞めこちらに来た者もおります。残念ながら、生き残った者は多くありませんな」

「そう、なの……」

「ですがスタンピードが終わった後の、復興支援は手厚くしていただきました。食料や、家を建てるための木材。それに税も暫くの間は免除してもらってましたしな」

「私は、みんなで力を合わせれば直ぐにスタンピードが終わるって思ったんだけど……それだけじゃないのね」

私の言葉にベゼルさんは頷く。そして王都から派兵されていたら、指揮系統に問題が生じたとも。領内の問題なら領主が指揮系統の一番上にくる。

でも王都から来た兵達は大人しく領主の言葉に従うだろうか?下手すれば騎士団長の命令の方が優先だ、と文句を言う人もいるかもしれない。

命令系統が崩れれば、その分被害は増えるだろう。そこまで考えると、派兵しない方が良かった、とも言える。

「見方を変えると、違うものが見えてきますねえ」

「そうね。私、すごく意地悪な王様だと思ってしまっていた」

「まあ、それも全てスタンピードがレイドール領だけで済んだから言えることですよ。もしも王都まで魔物が到達したら、王の判断は間違っていたことになる……でしょう?」

ネイトさんの言葉にベゼルさんが苦笑いを浮かべた。確かに、結果としてレイドール領で収まっただけの話でもある。その判断が正しいか、なんて終わってみなければわからないのだ。

「うちだと兵士の数が足りないってなると、そこら中からワラワラ出てきて手伝ってくれるから……気がついたら終わってるってことも少なくないしねえ。みんなで、って考えのうちとはやっぱり違うのよ」

「さすがラステア国ですなあ」

うんうん。と頷きながらベゼルさんは感心したように話を聞いている。皆、戦士って本当に凄いことなんだなって思ったけど、多分、それをファティシアで国全体に行き渡らせるのは難しいと思う。

魔力量の差もあるけど、男女の意識の差とか……男はこうあるべき、女はこうあるべき、って考えが根強いし。その意識を変えるのは簡単ではない。長く続いた考えを変えるのは大変なのだ。その考えが極端に間違っているのなら兎も角、そういうわけでもないし。

ファティシアにはファティシアの、ラステアにはラステアの良いところがある。そして悪いところも。見比べて、導入することは悪いことではないと思うのだ。レイドール領がそうであるように。

「さ、入口で執事長がお待ちですよ」

自分の考えに没頭していると、ベゼルさんにポンと軽く肩を叩かれた。視線を上げれば、初老の男の人が私達に対して頭を下げる。あの人が執事長なのだろう。

少し厳しい顔の執事長にベゼルさんが話しかける。そして話終わると、ではここで、とベゼルさんは帰ってしまった。

「一緒に行くのだと思っていたわ」

「ここから先は私がご案内いたします。私はレイドール伯爵家の執事長を任されております、コーデリック・テルマと申します」

「よろしくお願いするわ」

将軍とネイトさんは慣れているのか、軽く頷くと執事長の後ろをついていく。私もその後をついて館の中に入った。

そこでちょっとした違和感。あれ?テルマ……テルマ……??思わず足を止めると、三人の視線が私に集中した。

執事長のテルマさんの顔をマジマジと見れば、彼は茶目っ気たっぷりに私に片目を瞑ってみせる。もしかしなくても、バレた?私だってバレてる!?そんな私の心情を察してか、テルマさんは笑いを堪えながら恭しく私に対して頭を下げた。

「姫様には私の妻が大変お世話になっております」

「つ、妻……?」

「カフィナ・テルマは私の妻です。そして姫様の侍女長になる前は、このレイドール伯爵家で侍女長をしておりました」

「え、えええええ!!」

はしたない、といわれても凄く驚いてしまったのだから仕方ない。私はポカンと口を開けてテルマさんを見た。先ほどまでの厳しい顔は何処へやら……とても楽しそうに笑っている。

「あらーもしかして、この館の人達みんな知ってるのかしら?」

「髪の色が変わっていようとも、この館に長く働く者でしたら気がつくでしょう。なんせお転婆姫の再来というほど姫様は似ておられる。とはいえ、事前に旦那様から通達がありましたから」

「私、ひいお祖母様にも似てるっていわれたわ」

「ええ。みなさまよく似てらっしゃいます」

そういって壁にかかっていた肖像画を見せてくれた。そこに私によく似た、でも髪色がちょっとずつ違う三世代並んだ女性の肖像画。

これだけ似ていたらお祖父様には直ぐわかったはずだ。そしてベゼルさんは赤い髪色でひいお祖母様を思い浮かべたのだろう。

こっそり、とはなんだったのか……何だか悔しいような、嬉しいような複雑な気持ちになった。