軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139.ただいま!そして行ってきます!! 5

「さてとーーーー我々はそろそろお暇しようか」

コンラッド様の一言で、私達はロイ兄様の離宮を出ることになった。

これから私とカティア将軍、それにネイトさんはファーマン侯爵のタウンハウスに戻り、明日の準備をしてから休むことになるだろう。

また、ファティシアから離れる。

私がファティシアを離れることで、兄様達は大丈夫だろうか?と不安が過ぎった。お父様の様子からして、トラット帝国から何か要求がきている様には見えないけれど……それでも水面下では色々な攻防があるはず。

その攻防を手助けすることは、今の私にはできない。もちろん、ここに残ったって出来ることもないけれど。その時にふと、シュルツ卿の妹がファティシアに来るという話を思い出した。

「ねえ、兄様……トラット帝国から、留学生が来る話は聞いている?」

「留学生?」

「たぶん、カレッジに入ると思うの」

「今のところは聞いてないかな。向こうも、皇太子の誕生日パーティーとか、あとは疫病のこととかで忙しいだろうしね」

「そう……」

パーティーと疫病対策が同列とはどうなのだろうか?と思わなくもないけど、トラット帝国の国内事情を考えれば仕方のないことかもしれない。私だったらパーティー開くお金があるなら、疫病対策にお金を注ぎ込んだ方が良いと思うけど。

「パーティーだって必要なんっすよ」

「ええ……どうして?」

「王侯貴族にも面子ってもんがありますからね。それにパーティー一回開くぐらいの金額じゃあ、疫病対策つっても焼石に水でしょうし」

「面子ってそんなに大事?」

「大事ですよ。あの国では特にそうでしょうね。本来開くものを開かない、となると皇族の力が弱体化してると思われます。そうなると、どんなことが考えられます?」

ロビンにいわれ、私はどんなことがあるだろうか?と考える。

ファティシアで同じことがあったら……まず、フィルタード派の貴族が王家にそっぽを向いて好き放題始めるだろう。そして各領地で税の取り立てが変わってきたり、民を蔑ろにするかもしれない。

それを諌めるのにどれほど時間がかかるだろう?文官や騎士、女官、それに出入りの業者にだってフィルタード侯爵家の肩を持つものはいる。

フィルタード侯爵家が中心となって、王家を倒そう!なんてことになったら……きっと内戦になるだろう。その内戦だって、王家側に付いてくれる騎士がどれほどいるかわからない。

第一から第三はフィルタード派の貴族師弟で半数としよう。残りは半分。第四と第五は一般からの騎士が多いけれど、彼らにだって家族がいる。例え王家に忠誠を誓っていても、その家族にまで害が及ぶとなったら?もしくは打算的な考えで向こうに付く可能性だって否定できない。

だからといって、彼らを責めることはできないのだ。負ければ、明日はない。それと同じことがトラット帝国で起きたら……あそこは多国籍な人々の集まり。

そして、従属化を強いられている国も沢山ある。内戦が勃発すれば、国は割れ、かなり酷い状態になるだろう。

「たぶん……フィルタード派が好き勝手に領地運営したり、本来やるべきことをやらなかったりするわ。それを諌めるのに、人を選ぶのも難しいと思う」

「そうっすね。フィルタード派の貴族は結構多いので……内戦に突入する可能性もあります」

「その時に、騎士達が王家側に付いてくれるとも限らないわ」

「人、ですからね。騎士本人は違っても、家族の中にフィルタード派が懇意にしている業者で働いている者もいるかもしれない。その業者の力が強ければ、クビにして、二度と同じ職種で働けないようにする可能性もある」

「そうね……でも、だからといって、それでも王家に付いてとはいえない」

本来はいっても良いんですけどね、とロビンはいったが、無理強いすればそれは後々彼らの後悔の元となり、禍根を残すことにもなりかねない。

それは、きっとーーーー王家への不信感となって、ずっとずーっと残り続けるだろう。

同じ貴族に倒されるか、それとも民衆に倒されるか、王家は火種を抱えたまま過ごすことになるのだ。その好機を他の国が見逃すかといえば、きっと見逃さない。トラット帝国なら特に。

そこまで考えて、ファティシアでこうなら、トラット帝国はもっと苛烈になるだろうと考えつく。その渦中に、 彼(・) は、レナルド殿下は立つことになるのだ。

「レナルド殿下は自分の領地に関しては、疫病を抑え込む気があるようだよ?」

「コンラッド様……」

「うちもね、こっそりと送り込んでる者はいるんだ」

そういってコンラッド様は人差し指を口元に当てる。内緒だよ、と暗にいわれ、私はコクコクと何度も頷いた。もっともこんな重大なこと、おいそれと話せるわけないけどね!

「……コンラッド様の目からもパーティーって必要だと思うんですね?」

「彼の立場は盤石とはいい難い。他から不審な目を向けられない為にも必要だろうね。それに、誕生パーティーなんだから、民に施しを与えて当然でしょう?という体裁もとれる」

「あ、そうか……」

誕生日って、特別だものね。普通のパーティーとは違う。皇太子殿下の、誕生パーティーなのだ。民に施しをしても不審がられることはない。

そこまでレナルド殿下の性格を知っているわけではないが、ここぞとばかりに振る舞う可能性も十分にある。

「無駄に思えることでも、実はちゃーんと理由があったりするんですよ。もっとも、自分達の権威を示したい。ってだけで開かれるパーティーの方が多いでしょうけどね」

「必要最低限にしようって気は……なさそうだものね」

「フィルタード派の貴族とかそうだったでしょ?」

「うん。しょっちゅうお茶会とかパーティー開いてた。あそこは社交シーズン関係なかったもの」

元々がフィルタード派閥の茶会やパーティーの多さに、無駄だなあと感じていたからレナルド殿下の誕生パーティーもそんな風に思ってしまったけど……無駄ではないパーティーもあるのか。

やり方を変えれば、民の為にもなるということを知った瞬間だ。

「ルティアは誘われるお茶会やパーティーを片っ端から断ってたもんね」

「だって、馬鹿にするために呼ばれてるってわかるのに行く気にはならないわ」

「何回か騙されたこともありましたもんね」

「そうね」

アレはアレで腹が立った!フィルタード派閥ではない、貴族のお茶会やパーティーに行ってみたら、出席者の大半がフィルタード派なのだ。主催を見れば、今にも泣きそうな顔をしながら私を見ているし。それじゃ怒るに怒れない。

きっと脅されたのだな、と。カレッジはいくら通う学生は平等だと謳っていても、派閥を組んで動かれては、派閥に所属していない子に争うのは難しいだろうし。

「安定して、平和な国だなってずっと思ってたけど……こう考えると、ファティシアも盤石なわけではないのね」

「そうだね。その中にトラット帝国から留学生が来るとなると……ちょっと考えものだなあ」

「どうして?」

「向こうの思惑がどっちかわからないから」

「こちらに不利なことをするってこと?」

その問いに兄様は頷く。一応、来る予定の子はレナルド殿下の側近、シュルツ卿の妹だ。彼は私達の為に動いてくれたし……彼の妹が、害を成すとは考えずらい。まあ、本人に会ったことがないからわからないけど。

「一応、向こうから来たら気にはかけておくよ。とはいえ、カレッジとアカデミーでは会う確率も低そうだけど」

「そうね……あ、でも気にかけるのはシュルツ卿の妹さんだけで良いの」

「シュルツ卿?レナルド殿下の側近の?」

「そう」

「シュルツ卿とそんな話をする機会があったの?」

兄様の疑問はもっともだ。私は、あ、しまったな、と背中に冷や汗をかき始める。この話はしても大丈夫なのだろうか?お父様の手紙にも書いてはいない。この辺は直接、クリフィード侯爵に伝えてもらおうと思っていたし。

私の様子がおかしいことに即気がついた兄様は、私の両肩にポンと手を置いた。

「ルティア?」

「えええっと……その……お父様にもまだ話していないことなの」

「父上にも?」

「……クリフィード侯爵から、話がいくはずだったから」

「クリフィード侯爵が?」

コクリと頷くと、兄様は口元に手を当てて考え込む仕草をする。そして「あっ」と小さく、声を上げた。

「ど、どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

「本当に?」

「本当に。それで、シュルツ卿の妹さんにだけ気を配ればいいんだね?」

「うん。もしも、私が戻るより先にカレッジに留学に来たらお願いね?」

「いいよ。今回は、譲ってあげる」

「うっ……」

これ以上は追求しないよ、といわれて私は何度も頷く。兄様に追求されて、何もいわないでいるのは難しい。そしたらレストアに入る前の森での出来事も、色々話さないといけなくなる。

心配事はなるべく少なくしたいし、それにこれ以上兄様の離宮に留まるのもね……コッソリと出て行かなきゃいけないわけだし!!そうよ。コッソリ出ていくんだから、早く戻らなきゃね!!

「姫さん……顔が百面相してますよ」

「そ、ソンナコトナイワヨ?」

「ルティアに腹芸は無理だねえ……」

「ランカナ様に腹芸の仕方習うもの……」

「ランカナ様からも無理だっていわれそう」

ツン、とおでこを突っつかれ、私は頬を膨らませる。やってみないとわからないし!戻ってきた時に目に物見せてやるんだから!!

「さ、姫さん。行ってらっしゃい」

「ルティア、気をつけて行くんだよ?」

「うん。ちゃんと次は、私として戻ってくるわ」

「そうだね。あんまりそっちの姿に慣れて、カティア将軍の家の子にされたら大変だしね」

「大丈夫よ!」

そういうと将軍がしょんぼりした表情になった。いや、本当に大丈夫よね?

私、将軍の家の子にはなれないわ。そりゃあ、ちょっと、かなり?楽しそうだとは思うけどね。

私達は、離宮に来た時と同じように裏口からコッソリと外に出る。そこまで見送りに来てくれた兄様とロビンに小さく手を振った。

「ーーーーそれじゃあ、行ってきます」

そう小さく呟き、私達はまた一路クリフィード侯爵領へ。そしてラステア国へ戻るのだった。