軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

138.ただいま!そして行ってきます!! 4

二ヶ月前と変わらないやり取りをロイ兄様とロビンと繰り広げる。それがなんだか嬉しくて、ちょっとだけホッとした。

私がラステア国に行くことで、フィルタード派の貴族達からの風当たりも強かっただろうし、二ヶ月前の救難信号で物凄く心配もかけたもの。

「それで、ルティアはこれからどうするの?」

「……多分、ファスタさんが明日には王都を立つから一緒に戻るわ」

「これは一応、念の為に聞きますけど、もしかしなくても姫さん……飛龍に乗ってきたんです?」

「もちろんよ!私一人でも乗れるようになったもの!!」

まだ命綱は必要だけどね。と心の中で付け足す。でも私が飛龍に乗れる、といった瞬間、ロビンの顔はカエルが潰れたような苦々しいものになったのだ。

「……姫さん、それってアレっすよね?リーナとユリアナもですよね?」

「そうよ。あとシャンテも練習してるわ。アリシアは高いところが苦手だから、もし乗るとしたらカゴ移動の方が良いかなって思ってるところ」

そういうと、ロビンはチラリと兄様を見る。兄様はニコニコしたまま、コンラッド様に「飛龍はどの程度で乗れるようになるのか?」と質問した。もしかして兄様も飛龍に乗ってみたいのだろうか?

「飛龍に、ですか?そうですね……ルティア姫は飛龍に好かれてるのもあって、一ヶ月半程で乗りこなせてますが、適性のある者でしたら三ヶ月程でしょうか?」

「なるほど。ロビンなら二ヶ月で出来るかな」

兄様はロビンに向かってニコッと笑う。その笑いにロビンは両手を頬に当てて、ヒッと短い悲鳴をあげた。

「いやいやいやいや!!こっちで飛龍に乗る機会なんて早々ないでしょ!!」

「乗れたら何かあった時、便利じゃない?」

「それって殿下が俺に何かやらせるのに便利って意味っすよね!?」

「やだなあ。ロビン。君が乗れたら、ルティアが飛龍に跨って何処かに行っても連れ戻せるでしょう?」

「リーナとユリアナがいるでしょう!?」

「あの二人はルティアに甘いからなあ……」

そんな会話に私はちょっとムッとする。私が何かやらかす前提ではないか!そんな、そんなにやらかしたりは……しな、いと思う。多分。自信はないけど。

私の考えてることがわかったのか、兄様が私を指差すと「ほらね」と笑う。

「姫さんっっ!!俺の仕事を!!増やさない!!」

「た、多分大丈夫よ!!」

「そういって、コッソリ王都まで帰ってきたのはどこの子かな?」

「ーーーーこ、ここにいる……ワタシデス」

「だよね?」

「いやいや、でもですよ?飛龍はラステア国にいるわけで、こっちに戻ってくる時にはいないじゃないですか!!」

どうしても乗りたくないのだろうか?もしやロビンも高いところが苦手??私はロビンの意外な面を見て驚く。基本的にロビンは何をやらせても卒なく熟すのだ。苦手なものなんて見たことがない。

私の苦手なダンスの練習も付き合ってくれるし、難しい本でもちゃんと説明してくれる。兄様の従者ではあるけれど、私の面倒も見てくれるし、リーナやアッシュの面倒だって見ているはずだ。

いつ休んでるんだろ?と不思議なくらいだし、自分で自分のことを「優秀な従者」といっても誰も笑い飛ばせない。それぐらい優秀な人で、でも、いつ訓練や勉強をしているのか……その姿すら悟らせない人でもある。

「ねえ、ロビンも高いところが苦手なの?」

「んなわけないでしょうが!俺は超優秀な従者ですよ?うちの離宮のてっぺんに目隠ししてても登れますよ!!」

「じゃあ、何がダメなの?」

「俺の!仕事が!!増えるからです!!」

まあ、それはそうだ。兄様は私が飛龍でコッソリ出かけたとしても、連れ戻せるようにしたいのだから。アレ?でもラスールは私がラステアにいる時だけ、借りてる飛龍。別にファティシアに来るわけではないような?

コンラッド様に視線を向けると、ニコッと微笑まれた。

「あのーコンラッド様、ラスールは……私がこっちに戻る時は一緒には来れないですよね?」

「ラスールはルティア姫を主と決めたみたいだからね。うちに置いて行っても、多分自分でこっちに来るんじゃないかな。なんせ一回来て、どう来るか理解しただろうし」

「えっと、じゃあラスールは私がずっと面倒を見ても良いんですか?」

「もちろん」

もちろん、とコンラッド様にいわれ私は嬉しくて思わず飛び上がってしまった。ラスールとずっと一緒にいられるということは、私がラステアに行くのに陸路を使わなくても済むのだ。それは誰かに迷惑をかけることも少なくなる。

私一人が行きたい、と決めるだけで何人もの人が一緒にラステアに行くことになるし。長期滞在ともなれば、家族とも離れ離れだ。幸い、空路ならば自然災害以外の危険はない。

魔物だって、飛龍の速度に追いつくのは大変だと聞くし……そもそも飛べる魔物が少ないから、遭遇する率も一生に一度あるかないかだろう。

「ほらほらほら……見てご覧、ロビン。ここにもルティアに甘い人がいるんだよ?多分、リーナとユリアナ、それにシャンテの飛龍もこちらで預かる、という形になるんじゃないですか?」

「察しが良いですね!飛龍も数がいれば、こちらに来る時便利ですし」

「それだけじゃないですよね。もしも、貴族達がトラット帝国と手を組んでルティアを無理矢理嫁がせようとしても、飛龍で出奔できる」

「ええ。その通りです」

出奔、といわれて私はポカンとしてしまった。私が無理矢理嫁がされるようなことがあっても、私は逃げ出したりはしないと思う。そりゃあ、トラット帝国に行きたくないから、先にコンラッド様に話をしてラステアに行ったけど。

でも、どうしても嫁がなければいけないのであれば……それが、お父様の下した決断であるのならば私は従う。逃げたりはしない。

それとも二人の目には私が出奔しそうに見えるのだろうか?そんな風に思われていたのならちょっと悲しい。

「姫さん、別にお二人とも姫さんが逃げ出す、って思ってるわけじゃないんですよ。単純にトラット帝国に行って欲しくないってだけです」

「でも……お父様がそう決めたのなら、私は行くわ。だって行かなきゃいけない理由ができたってことだもの」

「そうでしょうね。でも馬鹿正直に行く必要もないんですよ」

「どうして?国と国との問題よ?」

「姫さんは今までずっと三番目、といわれて蔑ろにされてきたじゃないですか。それなのに病の流行っている国に行けだなんて何てことだ!って怒っても不思議じゃあないんですよ」

「私、別にお父様たちに蔑ろにされてないけど?」

お父様が私と、いや、私達と時間を取れないのはとても忙しいから。一国の主人であるお父様にはやることが山積みで、円滑に進めるには人材が足りない。

人は、いるんだけどね。役に立たない人材を数には入れられないのだ。あのドエクス伯爵達のような人は特に!

「でもフィルタード派の貴族達は蔑ろにしてきたでしょう?そもそも陛下が姫さんをトラット帝国に嫁がせるわけがない。それでも行かなければいけない事態になるなら、フィルタード派が何かやらかしてるわけですよ」

そんな風にいわれて、お父様がコンラッド様に頭を下げたことを思い出す。そうだ。ドエクス伯爵達はラステアの人達を侮辱した。彼らの行動でお父様が頭を下げる事態に発展したのだから、トラット帝国の人と示し合わせて問題行動を起こす可能性がないわけではない。

もしもわざとトラット帝国を怒らせ、開戦だ!となった時に、私を嫁がせるのなら戦争はしないといわれたら……?それでも嫁ぐかもしれないが、でも、悔しい気持ちは持つだろう。

祝福されて嫁ぐのではない。完全に嵌められた上に、人質として嫁ぐのなら人権なんてあってないようなもの。どんな扱いを受けるかわかったものではない。

「ううーん……でも、それでも私が行かないと戦争が始まったりするなら、腹は立つけど行くと思うわ」

「まあ、姫さんならそういうでしょうね」

「だから出奔したりはしないわよ?」

「でも俺達は違うわけですよ。それに飛龍を乗り回せる上に、自分のことは自分で出来る。さらに、今は……それ、ラステア国の侍女服ですよね?ってことは侍女の真似事もできちゃうわけだ」

「ルー嬢はなかなか優秀ですよ」

「と、いわれてるってことは、姫さんはどこでも生活できるだけの力がある。俺達は安心して出奔させられるってわけですよ」

ネイトさんの言葉にロビンは普通のお姫様はそんなことできません、と付け加えた。確かに普通のお姫様はそんなことしないわね。そう思って自分の手をジッと見る。

ユリアナやリーナが手入れをしてくれるけど、それでも私の手は普通の令嬢達に比べて白く細っそりした手とはいい難い。カサついてはいないけど、それなりに使われている手だ。

この手を見て、貴族令嬢の……ましてや王族の姫の手だと誰が気づくだろう?お母様から貰ったこの魔法石を使って、髪と目の色を変えれば商家の子供にしか見えないだろう。それに自衛の為に、護身術も習ってるし。

「ルーちゃん!出奔するなら是非うちに来て!!そして本当に妹になってくれていいのよ!?」

「いや、あげませんよ?ルティアは僕の妹なので」

「そんな……!期待を持たせておきながら酷い!!」

将軍と兄様のいい合いに小さく笑う。

「でも、やっぱり無理だと思うわ」

「ええええ……どうして?私がお姉様じゃイヤ?」

「ではなくて、そんなことしたらトラット帝国が何をしてくるかわからないもの。それに私がラステアに行ったらみんなに迷惑がかかるわ」

「大丈夫よ、ルーちゃん!お姉様が、ちょっとトラット帝国滅ぼしてくるから」

「カティア将軍、せめて向こうから開戦宣言があってからにしてください」

「それもそうね」

まさかネイトさんまでもが悪ノリするとは……思わずコンラッド様を見ると、コンラッド様も「問題ないから出奔しておいで」というのだ。

「そんな、家出しておいで?みたいなノリでいわないでください……」

「いや。まあ、こちらとしてはそんなノリに近いと思うよ?」

「そうだよルティア。もしもの時はコンラッド様が責任取ってくれるだろうし」

「もしもの時って何!?戦争の責任を押し付けちゃダメよ!!」

「うーん……そういう意味じゃないんだけどね?」

そういう意味じゃないなら、どういう意味なんだろ?私が首を傾げると、ロビンが「そのままで良いんですよ」といって頭を撫でてくる。

ますます意味がわからない!

「ま、兎も角、誰も姫さんをトラットにやる気はないってわかっていてくれればいいんです」

「そう、なの?」

「そうですよ」

「そうだよ。ルティア。君は元気に走り回ってるくらいが丁度良いんだから」

「でもそうすると……ロビンは飛龍に乗る練習をしなきゃダメね?」

「そうなるね」

「ダーッッ!!姫さん、丁度良く話を締めようって時に思い出さないでくださいよ!!」

「大丈夫、ラスールは良い子だからきっとロビンも乗せてくれるわ!」

「頑張って!ロビン」

私と兄様の言葉にロビンはガクッと項垂れた。そんなロビンを私達は顔を見合って笑う。でもきっと、ロビンなら直ぐに乗れるようになるはずだ。

だってーーーー私にとっても自慢のロビンだもの!!