軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8話 【side:レイナルト】夜会にてリディアと。

ーー数日後のとある日。

王城の中では、定例開催の夜会が取り行われていた。

その目的は、二十五歳以下の若い貴族で集まって、今後の王国を担っていく者同士、親交を深めようというもの。

そして、その主催者は慣例で次代の王と目されるレイナルト、それからその婚約者・リディアが務めていた。

そのため二人の席だけは前方に用意されていて、開始の音頭も二人で執り行う。

「今日も集まってくれてありがとうございます。では、本日も楽しみましょう」

その最後、レイナルトはグラスを掲げてこう宣言する。

そうして、ざわざわと会話が始まり、会が始まったのを見てから、レイナルトは軽く息をついた。

周りからはなんでもできると思われがちだが、こういうプレッシャーがかかることは、昔から得意じゃないのだ。

「お疲れ様」

それを察してだろう、リディアがこうねぎらってくれる。

当たり前のやりとり。

誰かが見たらそう言うかもしれないが、前まではこんなやり取りもほとんどなかったと思う。

完全な政略的婚約で、会うのはこうした宴やその打ち合わせの時だけ。

一応は敬語を使わずに話していたとはいえ、それは『同級生が敬語で話していたら、周りから仲を疑われるかもしれない』という体面上の理由でしかなかった。

「リディが落ち着いているから、いつも助かってるよ」

「ならよかった。でも、ずっとそんなんじゃあ、アイにまた『パパ』って呼んでもらうのは望み薄かもしれないわね」

「それを言うならリディも、その皮肉っぷりだと嫌われるかもしれないよ」

「あの子には、こんなこと言わないわよ」

こんな軽口なんて、考えられもしなかった。

苦言を呈されたら、言い返せずに苦笑いをしていることがほとんどだったと思う。

それがアイと出会ってから一年と少し、たしかに変わってきている。

そしてそれは、周囲にも伝わっていたらしい。

「お二人、雰囲気が変わりましたね」

リディアと二人での挨拶回りに出た際も、とある伯爵家の男にこう尋ねられた。

「やっぱりあの噂の子どもが理由ですか?」

さらに男はこう続ける。

リディアとレイナルトが謎の子どもの世話をしているという話は、最近どこからか漏れて、にわかに広まっていた。

たぶん、使用人に金でも握らせた者がいたのだろう。

だから、尋ねられることは理解していて、二人は事前に打ち合わせもしていた。

「えぇ。私の遠戚の子ですわ。どうしても面倒が見られないので、私が見ております」

「えっと、俺はそれを手伝っているんですよ」

こういう演技もそこまで得意じゃないから、途中で少し噛んでしまう。

それでも不自然には思われなかったようで、無事に乗り切ることができた。

ちなみに、「拾った子」とはさすがに言うわけにはいかない。

貴族というのは、非常に血筋を気にする。

だから正直に言ってしまうと、アイの将来に関わることになりかねないからだ。

そうしてレイナルトとリディアは、会う人会う人にその設定で説明をして回る。

「これでアイも安泰ね」

それが終わったところで、リディアがこう呟くのに、レイナルトは思わずにやっと笑ってしまう。

その顔はもう、完全に母親のそれだったからだ。

そこからはそれぞれに分かれて、各貴族との交流を図る。

得意ではない時間だが、当たり障りない話をしながら、のらりくらりと過ごしていると、そこに話しかけてきたのは、子爵令嬢だ。

その見目は客観的に見て、かなり美しい。

一部の男性陣の中では、話題になっており、取り合いが発生しているとか聞いたことがあった。

「子どもの話、お聞きました。大変ですねぇ、人の子どもの面倒まで見させられるなんて」

彼女はレイナルトを下から覗き込んで、猫撫で声で言う。

間違った決めつけだ。

レイナルトは少しむっとしながらも、唯一得意な作り笑いを浮かべてみせる。

これだけは、幼い頃からこうした社交の場に出てきたから、いつの間にか身についていた。

「いえ、そんなことはありませんよ。むしろ、いてくれることで励まされています」

「え〜、そんなこと言って。綺麗事ばかり言っていたら疲れますよ。たまには、忘れたいって思いますよね。自分の人生ですよ? 決められた婚約者と、その子どものお世話で終わるなんて最悪です」

その女性はそこで、ぱちりと片目を瞑る。

「もし遊びたくなったら声かけてくださいね。私、二番目でも三番目でも全然いいので。まぁ本当は一番がいいですけど」

彼女はそう残すと、そのまま去っていこうとする。

レイナルトはといえば、それを「待ってくれるかい」とつい引き留めていた。

「もしかして、本当にその気になってくれました? 嬉しい」

と、その子爵令嬢はピンク色の紅のたっぷり乗った唇を軽く吊り上げて、レイナルトの手を取ろうとする。

それを、レイナルトは払いのけた。

「悪いけど、まったくそのつもりはないよ。アイとリディアのせいで疲れたことなんてまったくない。悪いけど、話しかけないでくれるかい?」

そして、こんな言葉を口にする。

言わなくてもいいこと、だったのかもしれない。

王家には代々、側室が設けられている。

だから、その地位を狙って、こうして色仕掛けをされることは珍しくない話だ。

軽く流してあしらうこともできたと思う。

だが、アイやリディアを否定されたことは、どうしても看過できなかった。

アイは目に入れても痛くないくらいには可愛らしいし、そのお世話を必死に頑張るリディアは、地位を狙って身体を差し出すような真似をする女とは比べ物にならないくらい立派だ。

だから、つい口にしてしまった。

「……も、申し訳ありません!!」

レイナルトの怒りに気づいたのか、その子爵令嬢は平謝りをし始めるから、レイナルトはそっぽを向く。

そうして周りの空気を見て、気づいた。

辺りが少し騒然としている。

どうやら、声を出しすぎてしまったらしい。

大事にしないためにもレイナルトは一度、自席に戻る選択をする。

余計な波風を立ててしまったかもしれない。

何事もなく終わらせるべきだったし、父からもそう教えられてきたはずだ。

レイナルトが頭を抱えながらため息をついていたら、リディアが戻ってきて、レイナルトが持ったままだったグラスに、グラスを軽く当ててくる。

それでちらりと目をやれば、リディアは片方の唇だけを軽く緩めている。

「なかなか言えるじゃない。いつもあれなら、威厳も出るんじゃない。それにアイだけじゃなく、私にまでお世辞を言ってくれるなんてね」

「……別にお世辞のつもりはないよ。リディに聞かれてるとも思ってなかったし」

「…………そう。じゃあ、まぁ、ありがとう」

「礼を言われるようなことじゃないよ」

おかげで心は少しだけ軽くなった。