軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52話 知った顔に会っちゃいました!

もう夜中、辺りはしんとしており、ほとんど人も歩いていなかった。

そんななかリディアは、エレン爺に貰ったという地図を手持ちの魔導灯で照らしながら街の門外に出る。

私は手を引かれて、それについていった。

そうして少し街道沿いに歩いたところで、彼女は立ち止まり、その場でしゃがんだ。

「今から山に入るわよ。アイ、乗って」

「重くない?」

「ふふ、ママを甘く見たらだめ。アイ一人くらい、全然大丈夫よ」

ほら、と促されて、私はリディアにおんぶをしてもらう。

そのうえで、持参していたらしい紐を襷掛けにして、私の身体を自分に結びつけた。これなら、手を離されても落ちない。

そうして、険しい森の中へ足を踏み入れていく。

ここまでは一応、魔石を動力とした照明がまばらにあった。が、ここからは頼りになるのは、木々の間から漏れてくる程度のわずかな月明かりと、手持ちの魔道灯だけだ。

すぐ足元だけは見えても、少し先はもうなにも映らない。周囲の草木が揺れるのに、私は過剰に反応してしまう。

なにせ魔物が出るとエレン爺は言っていた。

まだ一度も目にしたことのない私にしてみれば、未知との遭遇だ。

そりゃあゲームをプレイしているときに出てきたことはあるが、実物となれば話はまったく異なる。

「ふふ、ママがついてるわ」

一方、リディアはいっさい怖気づいていなかった。

山に来るための靴でもないのに、急な斜面を難なく超えていきながら、私を振り向いて言う。

大きな蜘蛛の巣が現れても、片手で払いのけて先へと進む。

そしてその先で大きな溝に出くわしたら、例の氷魔法だ。

溝全体を綺麗に凍り付かせて、その上をゆったりと歩く。

「ママ、すごいね」

「ありがと。でも滑らないように気をつけないと」

……どうやら、うちのママは無敵らしい。

これなら、城にもすぐに辿り着く。なんの心配もいらなさそうだ。

そう思った矢先に、その不穏なうめき声は私の耳に届いた。

「魔物ね。ワイルドボアといったところかしら」

要するに猪だ。

猪なら田舎の帰り道で何度か遭遇したこともある。

当然怖いけれど、焦ることはない。

私はそう思うのだけれど、実際に草むらを掻き分けて突進してきた個体は、かなり大きかった。

ゆうに、人の二倍以上の体長がある。

「アイ、大丈夫よ。だから泣かないでね」

リディアは私に声をかけつつ、ワイルドボアの頭を凍り付かせる。

ただ、それだけでは止まってくれず、ワイルドボアは凍り付いた頭のまま、突進してくるから、リディアはさらに強くと氷魔法を打ち放つ。

そのときのことだ。

私は背後、頭上のほうに気配を感じて、後ろを振り向く。

はっきりとは見えなかった。ただ黒い何かがこちらをめがけてかなりのスピードで接近してきている。

そしてリディアはワイルドボアの対処に夢中になって、それに気づいていない。

ただ声をかけてしまったら、今度は前方の対処ができなくなる。

こうなったらもう、私がどうにかするほかなかった。

三歳で魔法を使えるなんて、普通じゃないのは分かっている。だから、変な子だと思われないためにもできれば秘密にしておきたいのが本音だ。

だが、命にだけは代えられない。

私は強く祈りながらに、風魔法を回転させて、竜巻を起こす魔法を使う。

できるだけ大きく、少しでも当たってくれるように。

そんな狙いがあったのだが、それは功を奏してくれた。

私が起こした竜巻は、その大きな黒い塊に直撃して、そのバランスを崩させることに成功する。

そしてこちらに届くすぐ手前のところで、その黒の塊は森の中へと落ちていった。

その際に見えたのは翼だったから、どうやら大きな烏だったらしい。

たぶん普通の大きさじゃないし、あれも魔物の類だろう。

一応、反撃してくるそぶりはなかったから、私はほっと一つ息をつく。

そして、私が無事ということは、リディアの戦闘も無事に終わっていた。

前を見れば、ワイルドボアが綺麗に凍り付いている。その見た目はもはや、冷凍保存されたマンモスである。

「ほら、大丈夫だったでしょう?」

と、リディアは私に投げかける。

その様子からするに、私が後ろで魔法を使っていたことは、どうやら気づかれていない。

私はそれを確認して、ほっと一つ息をついた。

ばれてもしょうがないとは思ったが、明かさないで済むなら今はそのほうがいい。

「さすがだね、ママは」

「ふふ、ありがと。よし、じゃあそろそろ静かにしていましょうか。もうじき、城の壁が見えてくるはずよ」

私はこくりと首を縦に振り、それにリディアは「本当いい子」と頭を撫でてくれてから、再び歩き出す。

ここまでも十分に困難な道だったと思うが、最後の壁はとくに大きい。

なにせ城の塀を越えなくてはいけない。

リディアなら氷魔法で階段とかを作れちゃうのかもしれないけど、その先には衛兵がいるかもしれない。

いずれにせよ私にできるのは、願うくらいだ。

いよいよ、その岸壁が見える。

リディアはそれを見上げる位置まで行くと、まずは氷魔法である程度の段を形成する。

そして、それをゆっくりと登り始めた。

一歩ごと着実に、リディアは城の壁へと近づいていく。

今のところ、誰かに気づかれている様子はなかった。

エレン爺の予測していたとおり、壁があると思って油断してくれているのかもしれない。

そうして、壁のへりまではたどり着く。

リディアはそこで「掴まっていて」と小さく呟く。なにかと思ったら、足もとの氷を一気に隆起させて、壁のへりに手をつくと、まるで小さな塀を乗り越えるようにして、簡単に壁を超える。

そうして着地まで綺麗に決めたのだけれど。

そこにはすでに人が待ち受けていた。

「あなたはたしか」

「……カイルさんだよ、ママ」

それも、知った顔が。