軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話 とりあえず二人きりにしたいです

ピクニックに行く先は、王都から一時間程度、山側に馬車を走らせたところにあるネッシ湖らしかった。

ネッシ湖は、ゲーム内でも訪れる場所だ。

主人公・セナが水難を予知したため、ヒーローたちと調査にくるのだけれど、ついでにデート的な展開が待っていて、かなり甘々だった。

ただ、今回は甘々なんて期待できない五人組。

どうにかならないものかしらと思っていたら、エレン爺もカイルさんも気を遣ってくれた。

私たち三人より少し遅れて、わざわざ後ろを歩いてくれている。

レイナルトは私を腕に抱えており、決して早足ではないから、わざわざ調整してくれているのだ。

私がひっそり二人に感謝をしていると、雑木林を抜けた先で、目の前にいきなり湖が広がった。

「わ」

と、私が声を漏らすのと同時、レイナルトの足が不意に止まる。

それから彼は私を地面に下ろすと、また湖に目をやった。

たしかに、目を奪われるほど雄大な景色だ。

端が見えないくらい広い湖面がきらきらと太陽光を跳ね返すさまは、ついつい見とれてしまう。

「……久しぶりにきたけど、ここはやっぱり綺麗ね」

「あぁ、そうだね」

口ぶりから察するに、どうやら過去にも訪れたことのある場所らしい。

「ママ、パパ、きたことある?」

「そうね。まだ学生の頃よ」

「貴族学校にいたときに、この近くで魔物狩りの実習があったんだよね」

ゲーム内では明かされることのなかったエピソードだ。

湖の周りにある遊歩道をゆったりと歩き出しながら、レイナルトが懐かしそうに、その時のことを話してくれる。

「ここはボートを借りられる場所があるんだけど、アシュレイの奴が大事なお守りを落としたとかで、ボートごとひっくり返したんだ」

「……そそっかしい人だものね。この間の夜会でも、グラスを割っているのを見たわ」

「はは……。あいつらしいね。でも、いい奴ではあるよ」

アシュレイ、その名前は私も知っている。

なぜなら、アシュレイもレイナルト同様、『花の聖女が咲き誇る』のゲームにおけるヒーローの一人だからだ。

レイナルトが評するとおり、せわしないところがあるが、たくさんの弟がいることもあって、とても面倒見がいいキャラだったと記憶している。

……そういえば、他のヒーローや友人キャラたちも、この世界には存在しているんだ。

私が今さら、そんなことを実感していると、

「そういえば、クロウフォード伯爵家の末っ子は、アイと同い年だよ。会ってみたいかい?」

レイナルトが私に問いかけてくる。

それで少し考えた結果、私が導き出した答えは――

「どちでもいい」

これ。元プレイヤーとしてアシュレイには会ってみたい気持ちはあるけど、その弟に会いたいかといえば、どっちでもない。

相手は二歳児なわけだし(私もだけど)。

「はは、アイらしいなぁ」

「ふふ。いい答えね。私でもたぶん、そう答えるわ」

「それはよく知っているよ」

それからも、なんだかんだと会話は途切れずに続く。

そのうち見えてきたのは、さっきレイナルトが話していたボート乗り場だ。

「どう、アイ? 乗りたい?」

そこで、リディアがスカートをひざ下に入れながらしゃがんで、私に目線を合わせると、こう聞いてくる。

「うん!」

こんなもの、即答に決まっている。

なんならむしろ、この展開を期待していたくらいだ。

ボートに乗るというのは、デートの定番中の定番! ここから関係が進展することも十分考えられるしね!

……まぁ間に私がいるのは、ご愛敬だけど。

「よしじゃあ、乗ろうか。エヴァン公爵にも確認してくるよ」

「うん、お願いするわ」

レイナルトが少し話すと、エレン爺はすぐに快諾してくれる。

それで借りてきた大人二人用のボートが二台だ。

「はは、すまないなぁ。カイル君。亡き妻と乗って以来だ。久しぶりに乗って見たくてねぇ」

「いえ、構いませんよ。エヴァン公爵」

……なんと、王子の執事と二人で乗るつもりらしい。

普通の感覚ならば、ここは見学しておくとでも言うところだろうが、肝っ玉が違う。

とんでもない人だね、ほんと。

私はそう、豪快に笑う強面おじを横目に見ながら呆れて少し、一つ思いついたことがあった。

成功すれば、とんでもないアドになる大作戦だ。

「よーし、じゃあ行くよ、アイ」

「気を付けるのよ、レイナルト。落としたら凍らせるから」

「……シャレにならないな。でも任せてくれよ」

私はレイナルトに抱え上げられて、リディアと三人で、一つのボートに乗る。

それから二人がオールを湖に沈めて、いざこぎ出そうというタイミングで、意を決した。

二歳としては精いっぱいの『ちょい跳び』で、私は陸へと戻る。

それで、ちょうど動き出そうとしていたエレン爺とカイルさんのボートへと乗り込んだのだ。

「驚いた。アイ、なにしてるの。そっちがよかったの?」

「びっくりしたよ。落ちなくて本当に良かったけど……」

リディアとレイナルト、二人ともが私のほうを見ながら、こんなふうに尋ねてくるのに、私はその場で理由をひねり出す。

「うん。じいとのってみたい」

そう、たまに会えるだけの祖父と一緒の時間を過ごしたいというのは、別に変なことではあるまい。

なんなら、納得感さえあるだろう。

と、私が思っていたら、思いがけず抱きしめられる。

「おぉ、アイ。そこまで、爺ちゃんのことを……! 爺ちゃんも、アイと一緒にボートに乗りたいと思ってたぞぉ〜」

「じい、ひげ、いたい」

「あぁ、悪い悪い。ついつい嬉しくてなぁ」

わしゃわしゃと、そのゴワゴワした手で頭を撫でられて、帽子の中で髪がくしゃくしゃと乱れる。

でもまぁこれも別に悪い気はしない。

「まぁアイがそう言うなら……。お父様、ゆめゆめ落とさぬようにお気をつけください」

「だね。カイルも頼むよ」

リディアとレイナルトも、受け入れてくれたしね。

あとは、二人に任せるほかない。