軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

優しい思い出 3

五年に一度、ファロン神殿ではアンヘリカの祝祭という、女神へ祈りを捧げる催しがある。

その際に親交のある国の聖女を招くことはあったけれど、あんな形で追い出し、殺そうとした私を招待するなんて裏がないはずがない。

『ティアナはどうしたい?』

『行くわ。罠だとしても、堂々と神殿に行ける機会なんて逃せないもの』

『そうだね、俺も受けるべきだと思う』

もちろんフェリクスだってそれを理解した上で、同じ答えを出していた。

話し合いを重ねた結果、護衛を引き連れて行くものの、私たち二人がファロン王国へ向かい、何かあった際に国を守る要として、ルフィノには帝国へ残ってもらうことになった。

『どうしてですか? 私だってお役に立てます!』

イザベラにも全てを話したところ、彼女も一緒にファロン神殿へ行くと言ってくれた。

けれど私は感謝の言葉をしっかりと伝えた上で、ここから先は私たちに任せてほしいとイザベラに話し、彼女もそれを分かってくれた。

(元々、他国の王女であるイザベラがここまでしてくれたこと自体が奇跡だもの)

華奢なイザベラを抱きしめ、柔らかな金髪を撫でる。

「いつだって会えるし、今度は私がデラルト王国にいくから待っていてね」

「……はい」

「大好きよ、イザベラ」

「わ、私の方が絶対に好きです」

フェリクスと同じことを言う彼女に、やはり二人は似ていると笑みがこぼれる。

涙を流すイザベラの背中を撫でながら、私も彼女が愛おしくて別れが寂しくて、目の奥が熱くなるのを感じていた。

◇◇◇

そして翌朝、私はフェリクスとルフィノと共にイザベラの見送りへとやってきていた。

「フェリクス様ってば、お礼の品が多すぎます。お蔭で荷馬車が破裂しそうです」

「他にも後日、改めて使節団と感謝の品をデラルト王国へ送るつもりだ。それらを合わせたって足りないくらい、君は俺達を救ってくれたんだ。気にしなくていい」

「……はい、ありがとうございます」

フェリクスはイザベラへの大きな感謝を、形としてもしっかり伝えている。

イザベラの聖女としての働きはもちろん、彼女が自ら反対を押し切ってこの国へ来てくれたことが、何よりも嬉しかったのだとフェリクスは以前話していた。

次にイザベラはルフィノに向き直り、ふわりと微笑んだ。

「ルフィノ様も本当にありがとうございました。たくさん助けていただきました」

「こちらこそ、ありがとう。あなたの明るさには、今も昔も救われていましたから」

「本当ですか? 私の初恋、ルフィノ様だったんですよ」

「おや、そうでしたか」

突然の告白に、私とフェリクスの「えっ」という声が重なった。一方、ルフィノだけは普段通りの笑みを浮かべ「ありがとうございます、光栄です」なんて言っている。

まさに告白に慣れている、余裕のある大人の対応だった。

「ふふっ、お恥ずかしいです。これからもどうかお元気で」

「はい。あなたこそ」

そうして二人は笑顔で握手を交わすと、イザベラは私へと視線を向けた。

美しい金髪が、少し冷たい風に揺れる。それからしばらくイザベラは俯き、何も言わなかった。

次に顔を上げた時には先程までの笑顔は消えていて、大きな両目には涙が浮かんでいた。

「……私、立派な聖女になれましたか?」

震える声でそう尋ねる姿に、十七年前の姿が重なる。

帝国に滞在していたイザベラがデラルト王国へ帰る際にも、彼女は「立派な聖女」という言葉を口にしていた。

『わたし、立派な聖女になります! だから、絶対に見ていてくださいね』

あれから十七年経ち、彼女はあの時の宣言通り──それ以上に素晴らしい聖女となっている。私は頬を伝っていくイザベラの涙をそっと指先で拭うと、笑顔を向けた。

「ええ、もちろん。あなたは最高の聖女だわ」

「…………っ」

イザベラの目からはさらに涙がぽろぽろと溢れ出し、ルフィノがハンカチを渡す。

イザベラが涙を拭っている間に、私は控えていたマリエルからとあるものを受け取り、泣き止んだ彼女に差し出した。

「これ……」

「遅くなってしまってごめんなさい」

私の手の上で、イザベラのために用意した魔宝石が輝く。

『わたしが大人になって立派な聖女になったら、エルセ様に魔宝石をいただきたいです!』

『ええ、分かったわ。とびきりのものを用意するわね』

前世では果たせなかった約束を今世ではと思い、大切に時間をかけて選んだものだ。

「……う、うあ……ひっく……」

魔宝石を震える手で受け取ると、まるで宝物のように両手で抱きしめ、イザベラは子どものように泣き出した。

何度も「ありがとう」と「嬉しい」を繰り返す彼女を抱きしめながら、見送るまで絶対に泣かないと決めていた私も泣いてしまった。

──そして最後には「帝国もみなさんも大好き!」とめいっぱいの笑顔を見せてくれたイザベラが乗った馬車を、私達三人は見えなくなるまで、ずっとずっと見つめていた。