作品タイトル不明
聖女と聖女 2
バイロンは一緒に食事をしている私にも気を遣い、丁寧に礼をしてくれる。
(本当、以前とは別人のような態度だわ)
フェリクスに何かを耳打ちする姿を見ながら、数ヶ月前のことを思い出す。
私が帝国に来た頃はいつも睨まれていたというのに、今ではきちんと皇妃、聖女として扱ってくれていた。
とはいえ、元々の扱いもある意味当然で、バイロンを責めるつもりはない。それに今は彼だけでなく、王城で仕える人々や民からも聖女として認められ、心の支えになれているようで良かった。
あとは呪いさえ解ければ、仮初の皇妃としての役割は終わり──と考えたところで、ふと結婚式の日にフェリクスに告げられた言葉を思い出す。
『いずれ全ての呪いを解き国が安定した後も、俺と一緒にいたいと思ってくれた時には、またこの場所へティアナと共に来られたら嬉しい』
その時、自分がどんな選択をするのかまだ分からないけれど、悔いのないようにしたいと思っている。
「ティアナ」
「なあに?」
「すまない、少し用事ができた。先に失礼するよ」
「ええ、行ってらっしゃい」
フェリクスは申し訳ないという顔をして、バイロンと食堂を出ていく。よほど緊急の用ができたのだろうと思いながら、笑顔で見送る。
私も今日も頑張らなきゃと気合を入れつつ、ひとり食事を続けた。
◇◇◇
その後、魔法塔へ移動した私はルフィノと共に、ベルタ村についての資料を確認していた。
「結界を解いてお二人が中へ入った後、すぐに僕と部下達で結界を張り直します。どれほど持つかは分かりませんが、できる限りのことはします」
「ありがとう」
現在の中の状態が分からないものの、周りに被害が出ないようルフィノ達が防いでくれることになっている。
そして村の中には、私とフェリクスだけが向かう手筈になっていた。
「本当にお二人だけで大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思いたいんだけれど……」
本音を言うと、心配な気持ちは大きい。
魔力が増えたと言っても、赤の洞窟のように上手くいくとは限らない。あの時だって、少しでも気を緩めれば二人とも命を落としていた。
フェリクスの実力は確かなものだけれど、浄化に関しては私にかかっているのだから。
(サポートしてくれるような誰か──他にも聖女がいてくれたら良いんだけれど……夢のまた夢ね)
聖女が貴重な存在である今、他国から借りてくるのは間違いなく無理だろうし、想像するだけ無駄だろう。
とにかくしっかりしなければ、と気を引き締めるのと同時に頬をふにっと指先でつつかれた。驚いて視線を向けると、柔らかく目を細めたルフィノが微笑んでいた。
「あまり気負わないでくださいね。少しでも危険を感じたらすぐに戻ってきてください。あなたに何かあれば悲しむ人間が、僕を含めて大勢いますから」
ルフィノの表情や声音からは、心から私を心配してくれているのが伝わってくる。
過去、エルセの死によってルフィノは深く悲しみ、自分を責めていたのだ。もうそんな思いは絶対にさせないという気持ちを込めて、笑顔を向けた。
「ええ、ありがとう。まずいと思ったら、フェリクスを連れてすぐに尻尾を巻いて逃げてくるわ」
「はい」
ルフィノはそう言ってくれたけれど、失敗すれば再び呪いは広がり、多くの人が危険に晒されることになる。
チャンスは一度きりだ。絶対に成功させなければと、私は再び資料を手に取った。
二時間後、私はルフィノと共に王城へ向かっていた。
近いし平気だと言ってもルフィノは送ると言って聞かないため、お願いしている。とても忙しいはずなのに、会うたびにルフィノはこうして送り届けてくれていた。
「私、ルフィノより優しい人を見たことがないわ」
「そんなことはありませんよ。あなたにだけです」
「……え」
そんな言葉に戸惑い隣を見上げても、ルフィノは平然とした様子のまま。
形だけとはいえ私はフェリクスと結婚しているし、その言葉に深い意味はないと分かっている。
(び、びっくりした……)
それでも落ち着かない気持ちになっていると、王城の正面玄関口の辺りが人で溢れていることに気が付いた。