軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖女と聖女 1

ゆっくりと意識が浮上し、瞼を開ける。視界に広がる華やかな天井に慣れてきたのも、つい最近のことだ。

「ふわあ……」

欠伸をひとつして身体を起こすと、私はベッドサイドに置いてある小さなベルをちりんと鳴らした。

「おはようございます、ティアナ様」

「おはよう、マリエル」

すぐに私の侍女であるマリエルやメイド達が部屋へ入ってきて、身支度を整えてくれる。

以前、一人でできるとマリエルに言ったけれど、リーヴィス帝国の皇妃となった今、そういうわけにはいかないと怒られてしまった。

「ティアナ様は今日もとてもお美しいですね。陛下もきっと見惚れてしまいます」

「そうかしら? ありがとう」

無能な空っぽ聖女のティアナ・エヴァレットとしてファロン王国で虐げられていた頃が嘘みたいに、最高の待遇を受けている。

最近ではフェリクスが私が快適に過ごせるようにと、自ら使用人の選定までするものだから、尚更だった。

(その分、私が帝国のためにできることはしないと)

支度を終えたというマリエルの声に顔を上げると、鏡台に映る華やかな姿をした自分と視線が絡む。

「……このドレス、一体いくらするのかしら」

今日はグラデーションが美しいブルーミントカラーのドレスに、長い髪は大粒のブルーサファイアの髪留めで結い上げられていて、どちらもよく私に似合っている。

これらは全てフェリクスが私に贈ってくれたもので、最近はこうして贈り物をされることも増えた。

お蔭で私のクローゼットの中は、青や水色のドレス、アクセサリーでいっぱいになっている。

帝国には昔から、男性は自分の瞳と同じ色のものを愛する女性に贈るという風習がある。

ネックレスやピアスといったアクセサリーが一般的な中、ドレスともなると愛情の大きさや独占欲が強いというのが丸わかりになってしまう。

(そのせいで周りからはいつも微笑ましげなまなざしを向けられるし、落ち着かないのよね……)

夫婦円満アピールかとも思ったけれど、最近はフェリクスが素でやっているのだと気付いてしまった。

色々と考えてはじわじわと顔に熱が集まっていくのを感じた私は、軽く頬を叩くと立ち上がり、マリエルを連れて自室を後にした。

そうして向かった食堂にはすでに、リーヴィス帝国の皇帝であり、私の夫となったフェリクス・フォン・リーヴィスの姿があった。

私の姿を見るなり、フェリクスは柔らかく微笑む。朝から眩しい美貌に目を細めつつ、笑顔を返した。

「おはよう、ティアナ。昨晩はよく眠れた?」

「ええ、お蔭様で」

席に着くと、すぐに朝食が運ばれてくる。帝国に来た頃よりもずっと量を食べられるようになったし、健康的な身体になったように思う。

「今日の予定は?」

「ルフィノと魔法塔で、来週ベルタ村へ行く際の最終確認をするつもりよ」

──リーヴィス帝国には、かつて5つの呪われた地が存在した。

ひとつ目のナイトリー湖は、私が前世──帝国の大聖女、エルセ・リースだった頃の記憶を取り戻し、自らの身体を浄化したのと同時に浄化された。

ふたつ目の赤の洞窟にはフェリクスとルフィノと共に向かい、かなりの危険を伴いながらも、なんとか解呪をすることができた。

そしてそこで、私の失われた魔力が帝国の呪いの元になっているという、恐ろしい事実も知ってしまった。

(けれど赤の洞窟を浄化したことで、失われていた魔力がかなり戻ったのよね)

膨大な魔力を持っていた頃の30%程度くらいまでには戻ったし、これだけあれば大抵のことには対応できるはず。ロッドを磨く程度の魔力しかなかった過去を思い出すと、涙が出そうになる。

「ベルタ村は他の三箇所に比べて、呪いは弱いのよね」

「過去の記録を見る限りはそうだね。だが、十年経った今はどうなっているか分からない。油断は禁物だ」

そして残りの三箇所のうち、ここから一番近いベルタ村は、過去に恐ろしい疫病が流行った地だ。

被害を広げないため村民達の意志で封鎖され、十年以上もの間、完全に隔離されているという。

幾人もの魔法使いが命を懸けて張った結界で、村は覆われており、周囲への被害は抑えられているそうだ。

中へ入るにはその結界を解かなければならないし、必ず浄化をしきらなければ、再び被害が広がってしまう。

(失敗は許されないし、気を引き締めないと)

「俺もついているから、安心して」

「ええ、ありがとう」

そんな緊張が顔に出てしまっていたのか、フェリクスは気遣う言葉をかけてくれる。

当日は剣や魔法に秀でたフェリクスだけでなく、帝国で一番の魔法使いであるルフィノも一緒なのだ。

きっと大丈夫だと自分に言い聞かせた、のだけれど。

「フェリクス様! 失礼いたします!」

そんな中、フェリクスの側近であるバイロンがやけに慌てた様子で駆け込んできた。